2022年12月20日

保険会社の再建と破綻処理の制度構築の動き(欧州)(2)-EIOPAが「よくある質問」に答える。特に銀行との違いを中心に。

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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前回に続き、2022年11月10に公表された、保険会社の再建と破綻処理の仕組みの構築についてのEIOPAの提案文書を紹介していく。

また特に、同時に公表された「銀行と保険の類似点・相違点」についてまとめた文書1について概略を紹介する。

1――保険会社の再建と破綻処理に関する15項目のQ&A(続き 9~15)

1――保険会社の再建と破綻処理に関する15項目のQ&A(続き 9~15)

9破綻処理の評価について

破綻処理を成功させる可能性を高めるため、特定の保険商品や事業部門を廃止すべきとの要請もありうるか。

破綻処理のあと、全ての保険商品が利益を上げ続ける必要はない。また一部の商品は廃止される可能性もある。さらに当局の判断次第で、価格の改定やランオフ事業への移行が最適という結論にいたる場合もあるだろう。
10破綻の認定と公共性のテストについて

経営が悪化した保険会社のうち、破綻処理されるか精算されるかはどうやって決定するのか

指令19条で示された破綻の条件が満たされる必要がある。すなわち
1. 破綻しているか、破綻する可能性があること
2. 破綻を防ぐための民間による合理的な措置が見込めないこと
3. 公共の利益のためには破綻処理がどうしても必要とされる場合であること
11ベイルイン2の適用について

ベイルインも再建と破綻処理の選択肢となりうるのか

現在の案では選択肢に含める方向であるが、相互会社に対してはどうなのかといった議論もあり、今後検討する。
 
2 ベイルインとは、内部の者すなわち株主や債権者に損失の一部を負担させる方策のことで、これと対照的なのは公的資金注入といった「ベイルアウト」である、と理解しておくのが簡単であろう。
12再建と破綻処理のための資金について

再建と破綻処理のための資金はどのように提供されるか

現在のところ、示されておらず、今後の検討が必要である。
 
その際、以下の4種類のコストの発生に留意する必要がある、と考えられる。
1. 破綻処理機関やEIOPAの通常時の運営費
2. 危機状況における破綻処理機関の運営費。
これには通常時のものとは別に、管理者を任命するコスト、資産等を独立して評価するコスト、ポートフォリオ譲渡などのためのデューデリジェンスにかかる費用、などが含まれる。
3. 破綻処理に伴う、保険会社の資産価値の減少分
4. 破綻処理によって、債権者が事業精算よりも多くの損失を被る時は、その分の補償費用
13複数の国にまたがる保険会社グループの取り扱いについて

複数の国をまたぐ保険会社グループはどのように破綻処理するのか

国をまたぐ保険グループ、関係当局、EIOPAの合同組織で検討されることになろう。
14EIOPAの役割について

EIOPAに期待されることはなにか

一次的なタスクとしてガイドラインや技術的な細則の作成がある。また永続的なものとして、フレームワーク自体が適切に機能するかを確認し続けることがある。特に国をまたぐ案件については合同組織を立ち上げる必要がある。
15保険に関する保証基金などについて

保険会社の破綻の際、保険契約者は損失から逃れられるか

現在の一般のEU法によれば、保険契約者は保険会社の破綻に起因する損失を補償されないが、加盟国によっては保証制度を持っているところもある。

EIOPAとしては、現行の法律の枠組みにおいては十分な保険契約者保護は難しいと考え、2020年のソルベンシーIIのレビューにおいては、別途、保険契約者保護スキームの整備が最低限でも必要であろうと提唱している。こうした検討も契約者の損失をできるだけ小さくするのに役立つはずである。

2――(参考)

2――(参考)再建と破綻処理における銀行と保険会社の類似点と相違点

1類似点
大雑把に言えば、再建と破綻処理の法令が対象とする範囲は、銀行全部であったり、保険会社全部であったりするという意味で同じである。ただし事前の再建計画や破綻処理計画を作成しておくように期待される範囲には違いがある。

また債権や補償額の評価には、(どちらもNCWO(No Creditor Worse Off)原則3が適用されることも類似している。(ただし評価方法については将来的には差異を生じるかもしれない。)

その他には国際的な協力、罰則、破綻処理の目的、条件、権限などは似ている部分が多い。
ただし破綻処理開始の条件については、銀行の方が迅速な事態の解決を迫間れるため、早くから公的な措置が開始される点は異なる。
 
3 債権者が少なくとも倒産法制の中で金融機関が精算された場合の受取額を得られない場合、補償を受ける権利がある、という考え方
2相違点
(1) 準備段階において
保険会社と銀行と比べた場合保険会社の性質やシステミックリスクのレベルが異なるので、あらかじめ再生と破綻処理の計画を立てておく必要のある範囲が異なる。また銀行には技術的な規則が細かく定められているが、保険会社はそれほど細かくなくて、各国の破綻処理機関やEIOPAにゆだねられている状況にある。

(2) 破綻処理の手法
保険の性質を反映する、もっとも大きな違いは、「ソルベントランオフ」4の手法が含まれていることが挙げられる。またBRRDの中では、銀行の方は「ベイルイン」を適用後でも事業の再建ができると見込んでいるようだが、保険会社の場合は保険金の減額などをしてしまったあとでは、再建は見込めないと見なされている。

(3) 再建と破綻処理の資金について
ここが最も大きな違いが現れる箇所かもしれない。銀行も保険会社も、破綻処理等に納税者のお金が使われることを極力回避することは共通しているが、そのほかには違いがでてくる。

銀行のほうは、破綻しているかまたは破綻の可能性がある段階にまで至らなくても、予防的資本増強ができることが定められている。さらにシステミックリスクが現実化した場合には、政府が破綻処理のための資金を援助する安定化策を取れることになっている。

しかし保険のほうにはこうしたことは含まれていない。これは、一般には保険会社の破綻処理には、ある程度時間を掛けても大丈夫だが、銀行ははるかに速く事態の収拾を求められるという点に起因している。

また、銀行にはある「保証基金」のような制度が保険にはないので、今後保険についても、欧州全体で統一して整備していくことが、破綻処理の資金という面からみても重要になる。これは既にEIOPAが主張しているところでもある。
 
4 ここでは詳しい説明はないが、まだ支払い能力のあるうちに商品認可を取り消して、既存契約を閉鎖勘定とすること。か?
3類似点と相違点に関するEIOPAのコメント(まとめ)
再建と破綻処理につき、保険側の提案は銀行のものに確かに共通点が多い。これも国際的に共通の基準(IAISあるいはFSB)によって作成されていることを考えると、両者に共通性があることは当然であり、一般的な枠組みは大きく異なる必要はない。

しかし保険特有の事情も考慮されなければならない。

この点で似ているのは、国をまたがる破綻処理や罰則など特段セクター固有の性質を考慮する必要のないものは、整合性を保つため同様なものであることが望ましい。
 
それ以外の保険固有の事情を反映した相違点を、IRRDにいかにして適切に反映するか、ということが今後重要となってくる、とEIOPAはみている。

特にさらなる調整が必要なのは、各国ごとにある保険契約者保護スキームの整合性の構築であり、この点は前述の通り、2020年のソルベンシーIIのレビューの中で提案している。また金融コンゴロマリットの取り扱いについてもさらなる明確化が必要であると認識である。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年12月20日「基礎研レター」)

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