2022年12月16日

IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について-欧州大手保険グループの対応状況(その2)-

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5|NN
NNは、2022年11月17日に投資家向けのイベント「Investor Update」におけるプレゼンテーション資料7の中の「IFRS第9号及びIFRS第17号 更新」において、以下の情報を開示している。
(1) 重要なポイント
・戦略や目標に影響なし
・現在の市場環境では、IFRS第9号/第17号による財務面での影響は限定的
・2023年1月1日の実施に向けて順調

(2) IFRS第17号による影響
戦略・目標に影響なし
・ソルベンシーIIと営業資本形成(OCG)へのフォーカスは変わらず
・戦略・目標・配当・資本利益に影響なし

2023年1月1日実施に向けて順調
・IFRS第9号/第17号の実施と監査人との協議は2023年の実施に向けて順調に進んでいる。
・2022年度決算における移行時影響の開示
・2023年第2四半期における2022年比較対象の開示

IFRS第9号/第17号による財務影響は限定的
・IFRS第9号/第17号による資本はより安定:ソルベンシーIIと現在の調整後資本(再評価除き)に近い。
・金利に依存する公表自己資本への影響
 ・IFRS第9号/第17号による資本は、2022年1月1日現在の自己資本を下回る。
・IFRS第9号/第17号による資本は、2022年6月30日現在の自己資本に類似
・再評価を含む自己資本とCSMに基づくレバレッジ比率は、現在のレバレッジ比率を若干上回ると予想される。
・営業利益は現在の営業利益を若干上回ると予想される。
(3) 会計方針の選択
基礎となる経済性を反映し、最も安定的な収益をもたらす会計オプションを選択している。

IFRS第9号及びIFRS第17号におけるOCIの使用
・IFRS第9号及びIFRS第17号では、金融前提の変更(主に市場金利及びスプレッドの変更)をP&L又はOCI (自己資本) に反映することができる。
・NNグループは資産・負債にOCIオプションを適用
・金利とスプレッドのネット影響はOCIに反映
・資産が分離されている保険ポートフォリオ(例えば、ユニットリンク)では、資産・負債ともにOCIオプションは使用されない(現在と同じ)。
・資産(IFRS第9号)と負債(IFRS第17号)の間で最大限可能な整合性を図り、市場金利やスプレッドによるボラティリティをOCIで吸収する。

IFRS第17号の3つの会計モデル
・NNグループはIFRS第17号の3つの会計モデルをそれぞれ適用
・伝統的生命保険のための一般測定モデル(GMM)
・許容されないのでなければ、ユニットリンクの変動手数料アプローチ(VFA)
・損害保険の保険料配分アプローチ(PAA)

3つの移行アプローチ
・過去のデータには制限があるため、NNグループは公正価値移行アプローチを広く使用する。
・可能であれば完全遡及(例えば、国際部門)
・必要に応じて、修正遡及(例えば、国際部門)
・過去の情報が不十分な場合、公正価値(オランダの殆どのポートフォリオ)
(4) IFRS第17号の方法論と前提
IFRS第17号の方法論と前提は、ソルベンシーIIに近いものを選択したが、経済的パラメータはより多い。

予想キャッシュフローの最良推定値
・IFRS第17号の下での予想キャッシュフローの最良推定は、IFRS第17号が異なることを要求している場合を除き、ソルベンシーIIと同様

割引
・割引曲線の方法論はソルベンシーIIに類似している。
・IFRS第17号で使用するパラメータ
 ・最終流動性点:30年(ソルベンシーIIでは20年)
 ・長期フォワード:3.35%(2023年のソルベンシーIIでは3.45%)
 ・非流動性プレミアム:自己資産に由来

リスク調整
・リスク調整の方法はソルベンシーIIと同様
・他のNNグループの慣行に沿った、より多くの経済的パラメータ
 ・資本コスト率:4%(ソルベンシーII:6%)
 ・リスク間及び事業体間の分散
・その結果、IFRS第17号のリスク調整額はソルベンシーIIのリスクマージンを下回っている。

CSM
・CSMは未償却前利益を表す
・移行時のCSMは公正価値移行に大きく依存 
(5) 営業成績及び利益率の分析
マージン分析のプレゼンテーション
・保険結果には以下が含まれる。
 ・CSMリリースを反映した利益率
 ・リスク調整リリースを反映した技術結果
 ・PAA結果
・運用実績には負債の巻き戻しによる投資収益を差し引いたものが含まれる。
・その他の実績には保険外事業費及び非帰属持分費用が含まれる。
・銀行やその他のセグメントは、現在のIFRSの営業成績と類似している。
・IFRS第9号の減損及びIFRS第17号の不利な契約の影響を調整した非営業項目は概ね変更なし

IFRS第9号/第17号 営業利益
・営業利益は、現在の営業利益を若干上回ると見込まれる。
 ・主に、投資マージンの増加を反映してNN生命の業績が上昇することによるもの
 ・他のセグメントはほぼ同様の貢献
・OCGとの以下のような多くの違いがある。
 ・OCGは税引き後
 ・SCRリリースはIFRS第17号には含まれない。
 ・IFRSでの超過収益は主に固定金利、配当、賃貸料収入によってもたらされるが、OCGでは現在の市場に基づく期待収益が含まれる
 ・異なる収益認識時期

なお、主にCSMや積極的な割引の導入による影響により、IFRS第9号/第17号の資本がより安定する。
6|Legal General
Legal & Generalは、2022年11月29日のIFRS第17号に関する投資家及びアナリスト向けのイベントにおけるプレゼンテーション資料「IFRS第17号の適用(An introduction to IFRS 17)」8において、以下の情報を開示している 。
(1) 全体-FRS第17号は戦略、資本創出、ソルベンシー、配当を変更しない
IFRS第17号は、
・会計上の変更であり、保険契約の基礎となる経済性は変わらない。
・保険収益の量ではなく計上時期を変更する。
・当社の保険商品による収益をより安定的かつ予測可能なものにする。
・当社の年金・生命保険事業(即ち、LGRI、リテール)の財務報告に影響を与える。
・当社の非保険・資産運用事業(即ち、LGIM、LGC)への影響はない。
・以下には、影響を与えない。
 ・キャッシュと資本を創出する能力
 ・将来の成長への投資能力
 ・ソルベンシー・ポジション(現在220~225%の範囲と推定)
 ・信用力(Fitch AA-、Moody’s AA 3、S&P AA-、AM Best  A+)
 ・配当支払能力

(2) 会社の目標
2020年~2024年の資本創出と配当に関する以下の野心を実現するというコミットメントに変わりはない。
・累計資本創出額は90億ポンド
・累積キャッシュ創出額は80~90億ポンド
・EPS(一株当たり利益)はDPS(一株当たり配当)を上回るペースで成長
・当期のNSG(純剰余金の創出額)が配当を上回る。
・年3~6%の増配を目指す。
(3) タイムラインと計画されたコミュニケーション手法
IFRS第17号は、IFRS第4号に代わる新たな保険会計基準であり、保険契約期間中に利益が徐々に実現するように、収益認識の時期を遅らせるものである。

IFRS第9号(2018年に他の全てのセクターで既に実施)は、IAS第39号に代わる金融商品の会計基準であり、特定の資産の分類、測定及び減損モデルを扱っている。

L&GはIFRS第9号をIFRS第17号と同時に適用する。


IFRS第17号及び第9号は、2023年1月1日から適用される。

・2022年実績(2023年3月)は従来のIFRS第4号/IAS第39号ベースで報告
・2023年上半期の結果(2023年8月)は、新しいIFRS第17号/第9号の報告基準を採用し、2022年の比較対照表を修正再表示する。

さらなる教育セッションは2023年5月に開催され、以下を提供する予定である。

・IFRS第17号及び第9号に基づいて再計算された2022年上半期の結果
・IFRS第17号に基づくアナリスト予測のサポートに関する詳細
(4) IFRS第17号の意味するところ-具体的な影響
・IFRS第17号は株主資本に影響を与え、当社の年金・保障事業の利益計上時期に影響を与える。
 ・IFRS第17号は、移行時の株主の資本ポジションと適用時の利益の構成に影響を与える。
 ・(IFRS第4号に基づく)2021年の部門別営業利益の約65%に貢献した契約に影響を与える。
 ・2021年の部門別営業利益の残りの約35%の会計処理は影響を受けない。

・FRS第17号は、CSMの概念を導入している。貸借対照表上に保持されている将来の利益が時間の経過とともにリリースされる。

・IFRS第17号は、「移行日」に、利益に巻き戻される将来価値である、130億~140億ポンドのCSMとRA(リスク調整額)の残高を創出する。CSMの設定により、2022年1月1日時点での株主資本が105億ポンドから50億ポンドに、55億ポンド減少する。

・CSMは、評価の観点からは、IFRS第17号の資本に追加できる将来価値の割引残高を表している。

2021年末において、ソルベンシーII Tier1自己資本133億ポンドに対して、IFRS第17号株主資本+CSM(税引後)は135億~145億ポンドとなる。

(注)ここに示されていない潜在的価値源として、投資マージン、リスク調整、フランチャイズ価値や非保険事業がある。

・CSM は、将来の保険事業の会計上の利益の主要な原動力(ドライバー)となる。

CSM残高の増加は、将来のCSMリリースの増加、したがって将来の営業利益につながる。

・CSM + RAの「移行時の」残高は、時間の経過とともに利益に転じる。
 ・CSMの年次リリース、RAのリリース、及び想定投資マージンは、IFRS第17号の下での営業利益の主な要因となる。
 ・年金の各コホートについて、年次リリース率(概ね、毎年の利益に貢献する CSM/RA残高の割合)は時間の経過とともに増加する。
 ・これにより、(新契約による成長を含む前に)CSMとRAが着実に利益に還元される。

・CSM は収益性の高い契約を引き受け続けることで成長し、将来の利益の成長を生み出す。

・投資収益率は引き続き利益の重要な原動力である。
 ・サープラス資産の期待投資収益率及び3億ポンドを超える負債を裏付ける資産の投資マージン (つまり、割引率の保守性)は 、営業利益を通じて記録される。
(5) IFRS第17号の下での財務指標
・新契約利益の繰延べと前提見直しの影響により、営業利益は当初(20%~25%)減少する。
・IFRS第17号によりROEが上昇する(ROEは、移行時の株主資本の初期削減と、時間の経過に伴う、より緩やかな利益のリリースにより増加する)。

(6) 収益への影響
・IFRS第17号の収益はボラティリティが低く、より予測可能になる。

保険収益の最大の源泉は、CSM及びRAのリリースと、割引率以上の資産収益率の期待値から発生するが、新契約の影響及び非金融リスク又は最良推定値の前提の変更は、毎年の収益に大きな影響を与えない。いくつかの主要構成要素でボラティリティの低下が予想される。
収益への影響
・IFRS第17号により、保険営業利益プロファイルがより安定的かつ予測可能になる。
 IFRS第17号は契約期間中の新契約利益を繰り延べており、IFRS第4号ではそれらを事前に認識している。前提条件の変更による影響は、契約の残存期間にも波及する。

・P&L会計の選択が収益の変動領域を減少させている。
自己資産(注)(976億ポンド)の約74億ポンドが、(CSMによる)償却原価又はOCIを通じた公正価値に再分類されている。

(注)株主が直接さらされている投資の合計から、2021 年時点のデリバティブ資産、ローン、現金及び現金同等物を差し引いたもの
 
(7) 会計方針とアプローチ等の選択
会計方針とアプローチ等の選択

3―まとめ

3―まとめ

以上、今回のレポートでは、欧州大手保険グループが、11月から12月にかけて、2022年第3四半期報告時や投資家やアナリスト向けの説明会等において、IFRS第17号及びIFRS第9号の適用による影響度等を開示してきているので、この概要について報告してきた。

前回のレポートで報告したように、IFRS第17号の考えられる影響については、今回報告したような会社においては、2022年の後半という11月から12月の時点において、一定程度の情報を開示してきている。ただし、それでも全ての会社というわけではなく、2023年に入ってからの報告を想定している会社も多い。今回、一定程度の数値の開示等がなされた会社にあっても、今回の数値はあくまでも例示的な暫定数値である、とのガード文言等を付したものとなっている。これは、IFRS第17号の適用により、特に大きな影響を受ける生命保険事業を一定程度有する保険グループ等を中心に、影響評価については、適切なレベルでのガバナンスや保証、さらには説明を伴った数値を提供する必要があることから、拙速ではなく、慎重な対応が求められていることを反映している。

ただし、投資家やアナリスト等が今後のスケジュール等を一定想定できるタイムラインも提示されてきており、前回のレポートの報告時からは、欧州の大手保険グループの開示も大きく進展している状況にある。

欧州大手保険グループにおけるIFRS第17号の実際の適用方針、さらには適用に伴う影響評価等の数値の開示・説明手法等については、将来的にIFRS第17号の適用の是非を検討している日本の生命保険会社等にとっても極めて関心の高い事項であることから、今後ともその動向を引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2022年12月16日「基礎研レポート」)

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【IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について-欧州大手保険グループの対応状況(その2)-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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