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(欧州)保険監督におけるユニットリンク保険の評価方法-EIOPAの報告書の紹介

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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この方法論は、コストパフォーマンスが低いかあるいはまったく価値がないと思われるユニットリンク商品を、いかにして特定するかという一般的な方針を概説するものである。リスクが充分に特定されて常時監視され、または何らかの方法でリスクが軽減されていることを確認するためには、各国の保険監督当局による、綿密な監視を継続することが必要である。
このレポートでは、そのための3つの「階層(レイヤー)」から成る評価方法の概要を提示している。
最初に、保険市場あるいは保険商品そのものの評価、
次に、各国の監督当局による更なる分析
最後に、法令等の規定通りに、当該商品のパフォーマンス等が開示され、募集時に文書による説明がなされているか、などのガバナンスとその継続である。
以下、その概要を紹介する。
1 Methodology to assess value for money in the unit-linked market(2022.10.31 EIPOA)
https://www.eiopa.europa.eu/sites/default/files/publications/other_documents/methodology_to_assess_value_for_money_in_the_unit-linked_market.pdf
1――3つの階層
ツール1 運用目的の保険商品(PRIIPs2)とその重要情報文書(KID3)に基づくアプローチ
従来、特に資産運用目的の保険商品については、その募集にあたって、基本的な仕組みはもちろんのこと、過去の利回りなどの運用実績に関する詳細なデータを記載するよう義務付けられている。まずは、それを利用して、パフォーマンスやコストを分析することができる。
ツール2 保険商品の国別の報告に基づくアプローチ
各国において定期的に、例えば過去5年間などのパフォーマンスとコストに関する情報を収集しているので、そのデータを利用することができる。
ツール3 ソルベンシーIIの詳細なリスク内訳に基づくアプローチ
個々の契約者に対する情報とは別に、会社全体の財務データとして、ソルベンシーIIの仕組みと制度の中で報告・開示される会社データを利用できる。
ツール4 ユニットリンク商品の原資となるファンドの質に基づくアプローチ
これもツール3同様、会社全体の状況に属する情報である。ユニットリンク保険の保険料として入ってきた資金を運用するファンドの状況をみることで、ファンド間のパフォーマンスの優劣やコストの状況をみることができる。
こうした標準的な手法に加えて、より正確な情報を得て明晰な分析ができるようにするため、各国ごとに、市場の大きさやリスクに応じた分類により、独自に分析を精緻化することは大いに奨励される。また上記ツール1,2は契約者の視点による分析であり、ツール3,4は会社の業績情報ということになるが、これらを何らかの方法で組み合わせて分析するのが有効なこともあるだろう。
2 Package Retail and Insurance-based Investment Product
3 Key Information Document
主に、保険を解約した場合に契約者の得る利回りやコストの分析(解約シナリオ)と、死亡保障など保険本来の機能の発揮による利回り(の低下効果)やコストの実績の分析(バイオメトリックシナリオ)による。
ツール1 保険商品の収益性テスト
本来想定されている保険加入期間内における、例えば1年後、半分経過時、全期間経過時における解約返戻金・保険金の金額や、その保険料に対する割合や、コストによる利回り低下分を比較する。死亡保障についても同様である。
それら基本的な情報に加えて、さらに様々な経過年数時点の利回りやコスト、払込保険料との比較におけるブレイクイーブンポイント(保障コストを考慮するある場合としない場合がある。)なども重要である。
ツール2 運用目的の保険の重要情報とその文書によるさらに詳細な分析
保険募集時に提示された保険商品の説明文書は、EU内で検討された各国共通の内容が含まれているので、上記ツール1の収益性テストのなかで挙げた標準的な分析にはこれをもちいてもよい。しかし最後に挙げた追加的な情報は標準的ではないので、全ての分析に適用できるとは限らない。
最後に保険会社が従うPOG4の観点からの収集データをどう解釈して利用するかということである。
一般にEIOPAのPOGは以下のサイクルで評価・運営される。
1)保険会社の経営システムとコントロール
2)保険商品のターゲットとなる市場の決定
3)保険商品のテスト
4)販売戦略の適切性の評価
5)保険商品のモニタリングとレビュー(そして1)に戻るサイクル)
特にこのプロセスは保険監督者が最終的に金銭の価値に関する以下のような評価と指導を決するのに用いられることになる。
・POGの文書化とテストに基づく保険商品の評価(価格決定プロセスと複雑さの分析を含む)
金銭の価値を評価するプロセスが、保険会社におけるユニットリンク商品のPOGポリシーで明確に認識されているかどうか
・コストとそれに見合う料金などがPOG文書で適切に認識され定量化されているか
・保険商品がその保険期間全般を通じてターゲットとする市場での金銭価値を提供できるかどうかにつき適切かつ十分なテストがおこなわれていること
・コスト、料金、利回り、保証、保険の適用範囲、その他のサービスが定期的に検討され、金銭価値の問題点が十分に特定されているかどうか随時チェックされているかどうか
・保険商品の複雑さとターゲットとなる市場の分類の細かさは明示的に関連づけられているか
・保険商品が「誤販売」されないように、適切なシステムと管理が実施されているか
4 Product oversight and Governance
2――今後の進展
また、保険会社や保険販売店が、保険監督者がどういう見方で何を期待しているのかを明確にすることができる。さらに、欧州市場内で整合的な消費者への運用成果を達成するために、インフレの進行などエマージングリスクを特定したり、各市場の特殊性を考慮したりといったような柔軟性を取り入れることもできる。
現在の高いインフレなど、ユニットリンク商品に対して影響を与えるリスクと課題を特定する調査を今後も続け、最終的には監督上の経験を取り入れてさらに方法を洗練させていく予定、とされている。
(2022年12月06日「基礎研レター」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
安井 義浩のレポート
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