2022年10月28日

コロナ禍における外国人の人口動態~外国人が転入超過の都道府県は「47」から「15」に減少。その影響は郊外・外縁部のほか東京23区にも及ぶ。

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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(2)新型コロナウィルス感染拡大前の「2019年」の人口移動
まず、2019年11の人口移動を都道府県毎に確認すると、「転入超過」12の都道府県は「21」であった。外国人は全ての都道府県で「転入超過」13であったのに対して、日本人が「転入超過」14の都道府県は「6」(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県・大阪府・福岡県)であった(図表-11)。

「転入超過」の都道府県「21」のうち、「分類I:総+・日▲・外+」は「15」(宮城県・茨城県・栃木県・群馬県・富山県・岐阜県・静岡県・愛知県・滋賀県・京都府・兵庫県・岡山県・広島県・香川県・沖縄県)であった。コロナ禍以前は、約3割の都道府県が日本人の減少を外国人の増加で補い全体で「転入超過」を維持していたことになる。外国人の集住地域の1つである「地方の工業都市」が多い北関東や中部地方を中心に、人口動態における外国人の影響の大きさを確認できる。

また、日本人と外国人がともに「転入超過」の都道府県「6」のうち、「分類II:総+・日+<外+」は「5」、「分類III:総+・日+>外+」は東京都のみであった。

日本人の流入が外国人を上回る都道府県は東京都のみであり、日本人が転入超過の地域であっても外国人の存在感の大きさを確認できよう。
図表-11 日本人および外国人の転入超過数の分類 (2019年・都道府県別)
次に、市区町村毎にみると、「転入超過」の自治体は約4割(741自治体)を占めた。地域別にみると、「首都圏」では「転入超過」の自治体が74%に達し、このうち、「分類III:総+・日+>外+」が38%を占めた。また、「北関東」でも「転入超過」の自治体が過半数を超え、このうち、日本人の減少を外国人の増加で補い全体で「転入超過」となる「分類I:総+・日▲・外+」が38%であった(図表-12)。
図表-12 日本人および外国人の転入超過数の分類 (2019年・市区町村別)
図表-13に、関東地方(「北関東」と「首都圏」)の分類を地図上に示した。中心部から郊外・外縁部になるにつれて、「分類III:総+・日+>外+」⇒「分類II:総+・日+<外+」⇒「分類I:総+・日▲・外+」⇒「分類Ⅷ:総▲・日▲・外+」が増える傾向を確認することができる。

日本人は中心部ほど流入の傾向が強く、郊外・外縁部になるにつれて流出の傾向が強まり、「都心回帰」の動きが見られる。一方、外国人は、就職先となる工業都市が多く立地している等の要因から、郊外・外縁部で流入の傾向が強い。このように、関東地方では、郊外・外縁部ほど人口動態における外国人の存在感が高くなると推察される。
図表-12 日本人および外国人の転入超過数の分類 (2019年・市区町村別)
 
11 2019年1月1日から12月31日
12 分類「I~IV」に該当
13 分類「I~III及びVIII」に該当
14 分類「II~V」に該当
(3)コロナ禍を経た「2021年」の人口移動
次に、2021年の人口移動を都道府県毎に確認する。「転入超過」15の都道府県は「10」となり、2019年の「21」から減少した(図表-14)。外国人の流入(入国)が停滞したことを受けて、日本人の減少を外国人で補い全体で「転入超過」であった「分類I:総+・日▲・外+」の都道府県が「15」から「2」に減少したことが主因である。

外国人が「転入超過」16の都道府県は「47」から「15」に大きく減少した。一方、日本人が「転入超過」17の都道府県は、山梨県と茨城県が加わり、「6」から「8」に増加した(図表-11)。日本人が「転入超過」に転じたことで、山梨県は「分類Ⅷ:総▲・日▲・外+」に、茨城県は「分類II:総+・日+<外+」にそれぞれ移行した。
図表-14 日本人および外国人の転入超過数の分類  (2021年・都道府県別)
次に、市区町村毎にみると、「転入超過」の自治体は約3割の598自治体(2019年比▲19%)であった(図表-15)。地域別にみると、「首都圏」では「転入超過」の自治体が68%(2019年74%)と高い水準を維持したが、その他の地域では「転出超過」の自治体が6~8割を占めた。

また、外国人より日本人の「転出超過」が大きい「分類VII:総▲・日▲>外▲」の割合が、「北海道・東北(2019年9%⇒2022年47%)」・「中国・四国(2%⇒42%)」・「九州・沖縄(4%⇒34%)」で大幅に増加した(図表-15)。これらの地域では、外国人が「転出超過」に転じ人口流出が加速した自治体が増えたと言える。
図表-15 日本人および外国人の転入超過数の分類 (2021年・市区町村別)
次に、関東地方(「北関東」と「首都圏」)をみると、2019年は中心部に近いほど「分類II:総+・日+<外+)」と「分類III:総+・日+>外+」の比率が高まる傾向がみられたのに対して(図表-13)、2021年は「分類VII:総▲・日▲>外▲」の増加が目立つ(図表-16)。東京23区では、10自治体(千代田区・港区・品川区・目黒区・大田区・世田谷区・渋谷区・杉並区・豊島区・江戸川区)が該当する。

これらの自治体では、(1)外国人は入国制限により留学生が減少したこと、(2)日本人は在宅勤務を取り入れた働き方が浸透し郊外・地方移住が増加したことなどを理由として、転出傾向が強まったと推察される18
図表-16 関東地方における人口移動 (2021年)
 
15 分類「I~IV」に該当
16 分類「I~III及びVIII」に該当
17 分類「II~V」に該当
18 吉田資『コロナ禍における東京23 区の人口移動』(ニッセイ基礎研究所、年金ストラテジー、2022年10月5 日)

4. おわりに

4. おわりに

人口減少時代に入った日本において、コロナ禍以前は約3割の都道府県が日本人の減少を外国人の増加で補い全体で「転入超過」を維持していた。人口動態における外国人の存在感が高まるなか、特に郊外・外縁部においてその傾向が顕著であった。

その後、コロナ禍を経て、水際制限強化による外国人留学生の減少や外国人労働者数の鈍化を受けて外国人が減少に転じ、人口減少がやや加速する結果となった。その影響は地方都市に限らず首都圏の中心部にも及んでいることが確認できる。

ところで、今後については、2022年10月に外国人の入国制限が見直され、外国人留学生についても2027年を目途に再び30万人超を目指す方針を示される19等、外国人の流入回復の機運が高まりつつある。

一方、昨今の円安が外国人労働者の獲得に悪影響を及ぼす可能性がある20。また、外国人の受け入れ環境が十分に整備されていないとの指摘21もある。総務省「地方公共団体における多文化共生の推進に係る指針・計画の策定状況」によれば、各自治体の「多文化共生推進プラン」の策定状況は、「町」では33%、「村」では16%に留まっており、「町」・「村」レベルの自治体の一部では、受け入れ環境がまだ十分とはいえない可能性がある(図表-17)。各自治体の外国人支援策の取組みが外国人人口に寄与しているとの実証研究22もあり、こうした環境整備の促進が今後の外国人増加の鍵となると思われる。

我が国の経済成長や住宅市場、労働需給を見通すにあたり、引き続き外国人の人口動態を注視する必要がありそうだ。
図表-17 多文化共生推進の促進に関わる指針・計画の策定状況(2021年4月1日時点)
 
19 読売新聞 「留学生数、5年後にコロナ前水準の回復目指す…目安は外国人31万人・日本人12万人」(2022年6月21日)
20 日本経済新聞 「進む円安 細る外国労働力 ドル建て賃金4割減、生活環境改善も急務」(2022年10月9日)
21 鈴木 智也『出入国規制と外国人労働者-過去最高も、就労政策には課題も』(ニッセイ基礎研究所、基礎研レター、2021年4月2日)
22 高橋 諒・奥村 蒼・谷口 守・藤井 さやか『市町村に占める外国人人口に関する要因分析』都市計画論文集 2020 年 55 巻 3 号 p. 1113-1120
参考図表-1 日本人および外国人の転入超過数の分類 (2019年・市区町村別)
参考図表-2 日本人および外国人の転入超過数の分類 (2021年・市区町村別)
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2022年10月28日「基礎研レポート」)

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