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2022年10月18日
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4――定年後も働き続ける理由
定年後の回答者が、現在の定年前の回答者と同じような定年後の予定であったと仮定した場合、図4からは、同じ企業/団体でフルタイムで働くつもりがなかった人も、実際に定年を迎えると、フルタイムで働くことになっている可能性が示唆される。これはどうしてなのだろうか。例えば、実際に定年を迎えると、予想以上に老後資金が必要だったという理由などがあるのだろうか。これを確認するために、定年後に働く理由の分布を確認したのが、図5である。図5からは、定年後も働き続ける理由として、最も多くの人が選択したのは、どの年齢でも「老後資金が十分でないから」であることが分かる。年齢ごとの分布を確認すると、会社員でも公務員でも、定年後の61歳の人の間では、60歳以下の年齢の人に比べて「老後資金が十分でないから」という選択をした人の割合は小さい一方で、「老後資金は既に十分あるが、さらに老後資金にゆとりを持たせるため」という選択をした人の割合が大きくなっている。つまり、老後資金を蓄えるという理由は定年前も定年後も変わらずに、多くの人にとって定年後も働き続ける理由であることが分かる。
一方で、老後資金以外の目的としては、61歳の人の間では、会社員でも公務員でも、「仕事内容が好きだから/仕事を通して社会貢献したいから/人と関わりを持つため」や「家族/会社に頼まれたから」という理由を選択した人の割合がその他の年齢の人に比べて大きい傾向が見られる。これらからは、定年を迎えた人が実際に定年後に働く理由には、老後資金の充足という目的の他にやりがい等が加わっていることが示唆される。このことを確認したのが図6である。図6からは、会社員の間でも公務員の間でも、61歳の人の間では、その他の年齢の人に比べて、老後資金とその他の目的の両方を定年後も働き続ける理由として挙げた人の割合が大きい。しかし、老後資金の充足のみを目的とした人と足し合わせた割合は、その他の年齢の人と大きく異ならない。定年後の回答者が現在の定年前の回答者と同じような定年後の予定であったと仮定した場合、定年後の回答者の方が定年前の回答者が予定するよりも「再雇用で同じ企業/団体でフルタイムで働く」人の割合が大きいことから、定年後には、老後資金の目的を持つ人とやりがい等老後資金以外の目的を持つ人が増加すること(特にその両方を持つ人が増加すること)が、「再雇用で同じ企業/団体でフルタイムで働く」人の割合の増加につながっている可能性が示唆される。
5――おわりに
本稿では、ニッセイ基礎研究所が独自に行った調査を元に、定年を迎える直前の公務員/正社員の間で、定年後にフルタイムで同じ会社で働くことを予定している人の割合よりも、実際に60歳で定年を迎えた60歳~61歳の元公務員/元正社員の人の間で、フルタイムで同じ企業/団体で働く人の割合の方が大きい傾向を確認した結果を紹介した。定年前の人の間でも、定年後の人の間でも、定年後に働き続ける最も大きな理由は、「老後資金が十分でないから」であったが、定年を迎えた人の方が、定年を迎えていない人よりも、老後資金のみを理由として挙げている人の割合は小さく、定年を迎えた人が実際に定年後に働く理由には、老後資金の充足に、やりがい等の理由が加わっている人の割合が大きい傾向が見られた。
今回分析に利用したデータはクロスセクションデータであり、定年を迎えた直後の人が数年前に考えていた定年後の働き方の予定は、現在定年を迎える直前の人と同じであったとは限らない。さらに、現在定年を迎えた直後の人はコロナ禍で本来の予定とは異なる働き方を選ぶ決断をした可能性も考えられる。加えて、本調査は調査会社のモニター会員に協力頂いたもので、定年を迎えた回答者は定年を迎える前の回答者に比べて特に働くことへの意識が強いなど、一般的な日本全体の分布とは異なる可能性がある。こうした状況から、今後は本調査の結果についてさらなる厳密な分析が必要とされるが、もし定年を迎えた直後の回答者が数年前に考えていた定年後の予定が現在定年を迎える直前の回答者と同じで、新型コロナ等による特異な影響が見られなかったと仮定した場合、本稿で紹介した分析結果からは、人々は定年を迎えると、老後資金を充実させる目的の強まりとやりがいなどの老後資金以外の理由の強まりの両方によって、定年前の予定よりも多くの人がフルタイムで勤務を継続している可能性が示唆される5。
今回分析に利用したデータはクロスセクションデータであり、定年を迎えた直後の人が数年前に考えていた定年後の働き方の予定は、現在定年を迎える直前の人と同じであったとは限らない。さらに、現在定年を迎えた直後の人はコロナ禍で本来の予定とは異なる働き方を選ぶ決断をした可能性も考えられる。加えて、本調査は調査会社のモニター会員に協力頂いたもので、定年を迎えた回答者は定年を迎える前の回答者に比べて特に働くことへの意識が強いなど、一般的な日本全体の分布とは異なる可能性がある。こうした状況から、今後は本調査の結果についてさらなる厳密な分析が必要とされるが、もし定年を迎えた直後の回答者が数年前に考えていた定年後の予定が現在定年を迎える直前の回答者と同じで、新型コロナ等による特異な影響が見られなかったと仮定した場合、本稿で紹介した分析結果からは、人々は定年を迎えると、老後資金を充実させる目的の強まりとやりがいなどの老後資金以外の理由の強まりの両方によって、定年前の予定よりも多くの人がフルタイムで勤務を継続している可能性が示唆される5。
5 定年を既に迎えた回答者の定年前の状況と、定年前の回答者の同質性を確認するため、定年を迎えるまでの勤続年数を図7に、定年を迎える直前の年収を図8に示した。図7からは、会社員の61歳の回答者について、他の会社員の回答者に比べて数年勤続年数が長い傾向が見られる。公務員については、年齢が1年延びるごとに勤続年数の平均値は約1年延びており、定年前後で定年時の勤続年数に違いは見られないことが確認できる。また、図8からも、公務員については、定年直前の年収について定年前の世代と定年後の世代で大きな違いが見られない。一方で、会社員については、年齢層ごとに年収にばらつきが見られる。今後はこうした影響等にも考慮した分析が必要と考えられる。また、図8の年収は、調査票ではカテゴリーで尋ねている(例130万円未満、130万円~300万円未満等)。図8では、分かりやすく記載するため、それぞれのカテゴリーの真ん中の値を回答者の年収として当てはめて、平均値を求めている(例、130万円~300万円の人は、215万円としている)。
(2022年10月18日「基礎研レポート」)
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経歴
- 【職歴】
2010年 株式会社 三井住友銀行
2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
2021年7月より現職
【加入団体等】
日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
博士(国際貢献、東京大学)
2022年 東北学院大学非常勤講師
2020年 茨城大学非常勤講師
岩﨑 敬子のレポート
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