2022年10月18日

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1――はじめに

定年を迎える直前の人々が考える定年後の働き方の予定と、実際に定年を迎えた直後の人々の働き方にはどのような違いがあるだろうのか。本稿では、ニッセイ基礎研究所が57歳~61歳の公務員(元公務員)と正社員(元正社員)を対象に行った調査の結果を紹介する。結果を先取りしてお伝えすれば、60歳の定年を迎える直前の57歳~60歳の公務員/正社員の間で、定年後にフルタイムで同じ企業/団体で働くことを予定している人の割合よりも、実際に60歳で定年を迎えた60歳~61歳で元公務員/元正社員の人の間で、フルタイムで同じ企業/団体で働く人の割合の方が大きい傾向が見られた。そして、定年前の人の間でも、定年後の人の間でも、定年後に働き続ける最も大きな理由は、「老後資金が十分でないから」であった。ただ、定年を迎えた人の方が、定年を迎えていない人よりも、老後資金のみを理由として挙げている人の割合は小さく、定年を迎えた人が実際に定年後に働く理由としては、老後資金の充足に、やりがい等の理由が加わっている人の割合が大きい傾向が見られた。

2――調査概要

2――調査概要

本調査は、2022 年3 月に WEB アンケートによって実施した。回答は、全国の 57歳~61歳の公務員/正社員もしくは、2年以内に定年を迎えた元公務員/元正社員1を対象に、公務員と会社員それぞれについて、表1の列1に示した回答数になるように収集した(サンプルサイズ3,700)2 。分析ではまず、全回答者のうち所属している企業/団体(所属していた企業/団体)の定年年齢と、自身が定年退職したかどうかの回答が一貫している回答のみを抽出した。当てはまる回答者の数は、表1の列3の通りである(サンプルサイズ3,632)。
表1. 回答数の分布
所属している企業/団体(所属していた企業/団体)の定年年齢と、自身が定年退職したかどうかの回答が一貫している回答者について、その回答者が、2022年3月の調査回答時点で既に定年を迎えたかどうかの分布を示したのが、図1である。59歳以下で定年を迎えた回答者は含まれていない。会社員については、60歳の回答者は約35%、61歳の回答者は約49%が定年を迎えている。一方で、公務員については、60歳の回答者は約17%、61歳の回答者は約93%が定年を迎えている。61歳以上を定年とする企業がある一方で、公務員はほとんどの場合、60歳の年度末が定年であることを反映していると考えられる。
図1. 回答日時点で定年を迎えた人/迎えていない人
実際に回答者が働いていた/働いている企業/団体の定年年齢を確認すると(図2)、会社員の回答者の方が、公務員の回答者に比べて、65歳定年や定年無しの割合が大きく、60歳定年である人の割合が小さいことが確認できる。また、公務員の中でも国家公務員は、定年の段階的な引き上げが決定している3ことを反映して、57歳と58歳の公務員の間では、それぞれ62歳定年の人と61歳定年の人の割合が大きいと考えられる。
図2. 回答者の働いていた/働いている企業/団体の定年年齢の分布
本稿で紹介する分析は、定年直前の人の考える定年後の働き方の予定と、定年直後の人の実際の働き方の違いを確認することを目的としている。定年年齢が異なれば、年齢が同じであっても定年を迎えるまでの年数や定年を迎えてからの年数が異なる。そして、定年を迎えるまでの年数と年齢の両方によって、定年後の働き方の予定は異なることが考えられる。そこで、できるだけ厳密に定年前の人の働き方の予定と定年直後の人の働き方の違いを捉えるため、本稿では、回答者の中で最も該当者の多い、60歳で定年を迎える/迎えた人に注目する。

60歳で定年を迎える/迎えた回答者数の分布は、表1の列4の通りである。また、60歳で定年を迎える/迎えた回答者について、本調査回答日時点で、既に定年を迎えたかどうかの分布を確認したのが、図3である。60歳定年の人に限定しているため、会社員についても公務員についても、59歳以下で既に定年を迎えた回答者は含まれておらず、61歳の回答者はすべて定年を迎えている。60歳の回答者の間では、会社員に比べて、公務員は定年をまだ迎えていない人が多くなっているが、これは、公務員は60歳を迎えた年度末に定年を迎えることが原則である一方4、会社員では、60歳を迎える誕生日月で定年を迎えるケースもあることが影響しているものと考えられる。
図3. 回答日時点で定年を迎えた人/迎えていない人の分布(60歳定年の回答者)
 
1 株式会社クロスマーケティングのモニター会員
2 図2で紹介するように、会社員と公務員では、定年年齢の分布等が異なるため、別々に割付を行って回収した。また、公務員の割付数を会社員の割付数より多くしているのは、本稿で紹介する分析とは別途実施予定の分析のためである。
3 人事院 (https://www.jinji.go.jp/shogai-sekkei/teinen-motarasu/1-1.html#:~:text=国家公務員の定年は,退職日になります。2022/9/30アクセス)
4 人事院 (https://www.jinji.go.jp/shogai-sekkei/teinen-motarasu/1-1.html#:~:text=国家公務員の定年は,退職日になります。2022/9/30アクセス)

3――定年直前の人が考える定年後の働き方の予定

3――定年直前の人が考える定年後の働き方の予定と、定年直後の人の働き方

それでは、所属する(所属していた)企業/団体の定年年齢が60歳の人たちについて、定年直前の回答者の定年後の働き方の予定と、定年直後の回答者の実際の働き方にはどのような違いがあるのだろうか。これを確認するために、57歳~61歳の年齢ごとに、定年後の働き方の予定(定年前の人)と定年後の実際の働き方(定年後の人)の分布をしめしたのが、図4である。図4からは、会社員の回答者の間でも公務員の回答者の間でも、定年後の人々(60歳定年後と61歳)の方が、定年前の人々(57歳、58歳、59歳、60歳定年前)に比べて、「再雇用で同じ企業/団体でフルタイムで働く」人の割合が大きくなっている。一方で、「働いていない/働かない」という人の割合は、定年後の人々の方が定年前の人々に比べて小さい。
図4. 定年後の働き方
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

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【定年後の働き方-定年前の予定とのギャップ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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