2022年10月17日

“プレコンセプションケア”とは? (1)-起源はCDC、10歳代の望まない妊娠や早産・乳幼児死亡率などが背景に-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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2| 米国の高い早産発生数
次に、米国の出生数と(青棒)と早産率9(♦赤)について、図表6へ示した。1981年時点における出生数は3,747,540件、早産率は9.4%であり352,268人が早産と推定できる。また、2000年には、出生数は4,058,814件、早産率は11.6%であることから、早産数は470,822人へ増加したものと推定される。さらに、2010年には、出生数は4,158,212件、早産率は10.0%であり、415,821人が早産と推察され、急激な減少傾向が認められる。その後2020年には、出生数は3,612,258件、早産率は10.1%と、早産数も364,838人へ減少したものと推定される。

この米国における2010年の早産の発生数は1980年代後半の水準にまで回復しているかのようにみえるが、WHOは2010年時点における世界的な早産の現状について、先進国の中では米国の早産の発生率が一番高く10、米国における早産の発生数が全世界で6位に位置していることを指摘している11

回復傾向が認められた米国でさえ、国際的にみると、いまだ早産の発生は周産期医療における課題としてあげられているのである。
図表6.米国における早産数と早産率(1980年-2020年)
 
9 早産とは、在胎週数37週未満での出産を示し、在胎週数22週0日から在胎週数36週6日までに出産した場合に早産となる。ちなみに、本米国のデータは、在胎週数28週未満の超早産児、在胎週数28週から31週6日までの極早産児、在胎週数32週から33週6日までの中等度早産児、在胎週数34週から36週6日までの後期早産児全てを含む早産率である。
10 Hannah Blencowe, et.al.(2012)” National, regional, and worldwide estimates of preterm birth rates in the year 2010 with time trends since 1990 for selected countries: a systematic analysis and implications.” Lancet 2012; 379: 2162–72.  https://core.ac.uk/download/13114607.pdf
11 WHO(2018) ,Newsroom,Preterm Birth,  https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/preterm-birth
3| 米国の高い乳幼児死亡率
最後に、米国の高い乳幼児死亡率についても図表7へ示した。1960年時点における乳幼児死亡率(千分率)は、米国が26.0‰(千人あたり26人)、日本が30.7‰(同30.7人)、OECD平均37.2‰(同37.2人)と、米国は日本やOECD加盟国の中でも最も低い割合を占めていた。

その後、全体的に下降しているが、1963年には米国の乳幼児死亡率が日本を逆転上昇し、2000年の乳幼児死亡率は、米国6.9‰(同6.9人)、日本3.2‰(同3.2人)、OECD平均6.9‰(同6.9人)と、米国はOECD平均に追いつかれ、日本とは3.7‰ptの差が生じている。

更に、2020年直近のデータでは、米国5.4‰(同5.4人)、日本1.8‰(同1.8人)、OECD平均4.1‰(同4.1人)と、米国は国際的な水準にも逆転され、日本とは3.6‰ptの差が生じている。
 
乳幼児死亡は、主に発展途上国に特異的なデータであることを考慮すると、先進国である米国において、国際水準よりも高い乳幼児死亡率が発生していることは、米国の周産期課題の中でも最優先課題であると言えよう。
図表7.米国における乳幼児死亡率(1960-2020年日米比較)千分率
在胎週数1237週未満での早産は、呼吸機能や消化管機能が未熟な状態で生まれるリスクが高くなり、乳幼児死亡や重篤な障がいを残して出生する可能性が高くなることが知られている。CDCは、これらの早産や乳幼児死亡において、非ヒスパニック系黒人女性の割合が高く、また喫煙や薬物乱用、18か月未満の妊娠間隔などが危険因子となっていることから13、これらの周産期における課題を回避するために、公衆衛生上の最優先事項として位置づけたものと推察される。
 
12 在胎週数とは、妊娠前の最後の月経開始日から、分娩日までの週数と定義されている医学的専門用語であり、受胎日が起点となる在胎期間や妊娠期間とは異なることに留意。
13 CDC, Reproductive Health, Premature Birth. https://www.cdc.gov/reproductivehealth/features/premature-birth/

4――まとめ

4――まとめ

本稿では、プレコンセプションケア提唱の起源となったCDCの プレコンセプションヘルス と プレコンセプション・ヘルスケア について概説した結果、子どもを産むことができる生殖年齢にある男女の健康に注目し、将来の自分の子どもの健康を守るために対策を講じる必要性を訴えていることが特徴的であることが明らかとなった。

また、それらを提唱するに至る背景としては、10歳代(15-19歳)の意図しない妊娠率や早産・乳幼児死亡率の高さなどの周産期課題があることが推察された。

次回は、これらCDCの特徴と比較しながら、WHOのプレコンセプションケアの対象内容の特徴と、背景要因について検証する。
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

(2022年10月17日「基礎研レター」)

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