2022年10月03日

日銀短観(9月調査)~大企業製造業の景況感は3期連続の悪化で停滞感強い、設備投資計画は堅調も下振れリスク大

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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4. 売上・利益計画: 22年度収益計画は上方修正、増益計画へ転換

2022年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比6.0%増(前回は4.3%増)、経常利益が同1.1%増(前回は3.6%減)と、ともに上方修正され、前年比で減益計画から増益計画へと転じた。

例年、経常利益計画は初回の3月調査時点で保守的に見積もられ、前年比で小幅なマイナス圏でスタートした後、6月調査で前年度分の上方修正などを受けて伸び率がさらに下方修正され、以降は実績が判明するにつれて上方修正される傾向が強い。今回も同様のパターンとなった。

原材料価格上昇や内外経済下振れへの警戒は続いているものの、前回調査以降、供給制約がやや緩和し、国内の経済活動再開の流れも継続したことを受け、もともとの保守的な想定より収益が上振れたことを反映したとみられる。実際、経常利益計画の上方修正は上期が中心となっている。
 
なお、2022年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は125.71円(上期124.98円、下期126.43円)と、前回調査時点(118.96円)からは明確に円安方向へ修正されたものの、足下の実勢(144円台)や上期の実績(134円台)と比べて大幅に円高の水準に留まっている。企業の想定為替レートは実勢の反映に時間がかかる傾向があるため、修正がまだ追い付いていない状況とみられる。また、輸出企業では、あえて収益に保守的となるように円高ぎみに据え置いている企業もも多いとみられる。

今後、円高が急激に進まなければ、想定為替レートに円安方向への修正が入ることで輸出企業では収益計画の上方修正要因になる。一方、輸出割合が低い企業にとっては、円安によって原材料輸入価格の上昇に拍車がかかり、利益計画の下方修正要因になる恐れもある。
(図表6)売上高計画
(図表7)経常利益計画
(図表8)経常利益計画(全規模・全産業)

5. 設備・雇用

5. 設備・雇用:設備投資計画は堅調だが楽観できず、人手不足感が強まる

生産・営業用設備判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から1ポイント低下の▲1となった。

また、雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)も、全規模全産業で前回から4ポイント低下の▲28となった。供給制約の緩和や経済活動再開の流れが継続したことを受けて、製造業・非製造業ともに設備・人出の不足感が強まっている。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均DI」(設備・雇用の各DIを加重平均して算出)は前回から2.9ポイント低下の▲18.1となり、不足超過の度合いが高まった。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断DIが▲3、雇用判断DIが▲31とそれぞれ2ポイント、3ポイントの低下が示されており、不足感が強まることが見込まれている。先行きにかけて、経済活動の正常化が進むことへの期待が反映されているとみられる。

この結果、「短観加重平均DI」も▲20.7とさらに2.6ポイント低下する見込みとなっている。
(図表9)生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10) 短観加重平均DI
2022年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比16.4%増と前回(同14.1%増)から上方修正され、前年から大幅に持ち直すとの計画が維持された。16.4%という伸び率は調査開始以来、9月調査としては過去最高に当たる。また、前回調査からの伸び率の修正幅(2.3%ポイント)も例年3の9月調査をやや上回っている。

例年、9月調査では中小企業において計画の具体化に伴って若干上方修正される傾向が強いうえ、企業収益の回復を受けた投資余力の回復、昨年度から今年度へ先送りされた計画の存在、脱炭素やDX・省力化に向けた需要の存在が堅調な設備投資計画の背後にあると考えられる。

このように、2022年度の設備投資計画は今のところ堅調な内容が維持されていると評価できるものの、内外経済を巡る下振れリスクは最近さらに高まっていると考えられる。従って、今後設備投資計画が下方修正されるリスクも相応に高いとみられるだけに、計画の実現性については楽観視できない。
 
なお、2022年度設備投資計画(全規模全産業で前年比16.4%増)は市場予想(QUICK 集計14.5%増、当社予想は14.0%増)を上回る結果だった。
 
2022年度のソフトフェア投資計画(全規模全産業)は前年度比17.8%増(前回は15.5%増)と上方修正され、近年と比べても高い伸びが維持されている。企業において、DXの推進や省力化などに向けた積極的な投資姿勢が続いていることを反映している可能性が高く、前向きな動きと言える。
(図表11)設備投資計画とソフトウェア投(資前計年度画比・%)
(図表12)設備投資計画(全規模・全産業)/(図表13)設備投資計画(大企業・全産業)
(図表14)ソフトウェア投資計画(全規模・全産業)
 
3 2012~21年度における9月調査での修正幅は平均で+1.1%ポイント

6. 企業金融

6. 企業金融:原材料コスト高、借入返済が資金繰りの逆風に

企業の資金繰り判断DI(「楽である」-「苦しい」)は大企業が13と前回から2ポイントの低下、中小企業が8と前回比1ポイントの低下となった。ともに前回から大きな変化はみられないが、前回からは若干資金繰りが悪化している。経済活動正常化の流れが続いたことは、キャッシュフローの回復を通じて資金繰りを支えたと考えられる。一方で、ゼロゼロ融資などコロナ禍で膨らんだ借入の返済や、原材料コストの上昇に伴う運転資金の増加が資金繰りの悪化要因になっているとみられる。
 
企業サイドから見た金融機関の貸出態度判断DI(「緩い」-「厳しい」)は、大企業が15と前回から不変、中小企業が17と前回から1ポイント低下した。金融機関の貸出態度には大きな変化はないと受け止められているが、中小企業は若干厳格化との受け止めがみられる。
(図表15)資金繰り判断DI(全産業)/(図表16) 金融機関の貸出態度判断DI(全産業)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2022年10月03日「Weekly エコノミスト・レター」)

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