2022年09月15日

物価高と消費者の暮らし向き(2)-物価高でも消費機会減少や収入増で約1割の消費者はゆとりあり

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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3年代やライフステージ別の状況~子育て世帯は金融資産や自動車購入等の家庭生活上の大きな出費
年代別やライフステージ別に見ても、いずれも「そのまま貯蓄として手元に残している」や「特に何もしていない」との回答が目立つが、「そのまま貯蓄として手元に残している」は20歳代や未婚・独身で、「特に何もしていない」は60~74歳や未婚・独身、第一子独立~孫誕生で多い。

一方、30歳代や第一子誕生~大学入学では「株式や債券などの金融資産の購入」(どちらも約2割)が「そのまま貯蓄として手元に残している」を上回り、40歳代では両者は26.0%で同率を占める。

また、40歳代や結婚では「国内旅行の費用や頻度・回数を増やした」(どちらも2割台)が、50歳代や第一子誕生~大学入学では「お取り寄せグルメなど食生活の充実」(どちらも2割弱)が多い。また、30歳代では「不動産の購入・買い替え」(9.4%)が、第一子誕生~大学入学では「自家用車の購入・買い替え」や「家具や家電の購入・買い替え」(どちらも15.0%)が多い。なお、「不動産の購入・買い替え」はライフステージ別には第一子誕生~大学入学を中心に、「自家用車の購入・買い替え」や「家具や家電の購入・買い替え」は年代別には30歳代を中心に多い傾向がある。

つまり、暮らし向きにゆとりが出ると、日頃から教育費等の出費のかさむ子育て世帯では金融資産や自家用車、家具、不動産などのまとまった予算を必要とする家族の日常生活に関係する消費へ向ける傾向が強い様子がうかがえる。
4職業別や個人年収別、世帯年収別の状況~高収入世帯は旅行など趣味・嗜好性の高い消費に積極的
職業別に見ても、いずれも「そのまま貯蓄として手元に残している」や「特に何もしていない」との回答が目立つが、「そのまま貯蓄として手元に残している」は正規雇用者で、「特に何もしていない」は無職・その他で多い傾向がある(図表7(a))。

個人年収別や世帯年収別には、どちらも600万円未満では「そのまま貯蓄として手元に残している」、あるいは「特に何もしていない」が約4割を占めて目立つ(図表7(b))。

一方、個人年収および世帯年収600万円以上では「株式や債券などの金融資産の購入」や「自家用車の購入・買い替え」、「家具や家電の購入・買い替え」などのまとまった予算を必要とする家族の日常生活に関係する消費のほか、「国内旅行の費用や頻度・回数を増やした」や「お取り寄せグルメなど食生活の充実」、「高級店での外食や、外食機会の増加など食生活の充実」、「宝飾品や時計などの高額製品の購入」などの娯楽や高額商品などの趣味・嗜好性の高い選択的消費へ向ける様子がうかがえる。また、600万円以上では、これらの選択割合のいずれかが「そのまま貯蓄として手元に残している」を上回る。特に、高年収世帯では多くの項目で上回る傾向があり、世帯年収1,000万円以上では「そのまま貯蓄として手元に残している」(13.3%)を、「株式や債券などの金融資産の購入」(26.7%で+13.4%pt)や「国内旅行の費用や頻度・回数を増やした」(23.3%で+10.0%pt)、「お取り寄せグルメなど食生活の充実」(20.0%で+6.7%pt)、「自家用車の購入・買い替え」(16.7%で+3.4%pt)が上回る。
図表7 職業別および個人年収別、世帯年収別に見た暮らし向きのゆとりが出てきたことで取った行動(複数選択)
5|暮らし向きにゆとりが出た理由別の状況~収入増でゆとりが出た層では多方面に渡る消費へ
暮らし向きにゆとりが出た理由別には、いずれも「そのまま貯蓄として手元に残している」との回答が目立つが、特に『新型コロナ禍で、お金を使う機会が減ったから』や『自分の給与や事業などの収入が増えたから』で約4割を占めて多い(図表7(c))。

このほか『自分の給与や事業などの収入が増えたから』や『家族の給与や事業などの収入が増えたから』では「株式や債券などの金融資産の購入」が、『家族の給与や事業などの収入が増えたから』では「国内旅行の費用や頻度・回数を増やした」や「お取り寄せグルメなど食生活の充実」、「自家用車の購入・買い替え」、「自宅のリフォームや修繕」、「不動産の購入・買い替え」が、『自分の給与や事業などの収入が増えたから』では「全体的に生活に関わる支出を増加」が、『新型コロナ禍関連の助成金や給付金を得たから』や『家族の給与や事業などの収入が増えたから』では「家具や家電の購入・買い替え」や「高級店での外食や、外食機会の増加など食生活の充実」が、『新型コロナ禍関連の助成金や給付金を得たから』では「保険への加入」が多い。

つまり、収入が増加したことで暮らし向きにゆとりが出た層では増えた可処分所得を多方面に渡って消費へ向ける一方、コロナ禍で消費機会が減少したことで暮らし向きにゆとりが出た層では消費というよりも貯蓄にとどめている様子がうかがえる。

4――おわりに

4――おわりに~物価高の更なる進行で格差拡大の懸念、また、高まるサステナブル意識との関係は?

本稿では、ニッセイ基礎研究所の調査にて、コロナ禍前と比べて暮らし向きにゆとりが出てきたと回答した20~74歳の約1割を占める消費者について注目し、ゆとりが出てきた理由やゆとりが出てきたことで取った行動を属性別に分析した。

その結果、ゆとりが出てきた理由は、約半数を占めて圧倒的にコロナ禍による消費機会の減少が多く、外出自粛傾向の強い高年齢層でやや多い傾向があった。次いで、コロナ禍にもかかわらず、収入の増加があがり、正規雇用者を中心に約3割を占めた。一方で、コロナ禍による助成金や給付金の受給が、無職や自営業・自由業(参考値)を中心に約15%を占めて比較的多い傾向があった。つまり、同じように、暮らし向きにゆとりが出たと回答しながらも、職業や業種などの雇用環境によって、ポジティブな理由によるものか、失業や経営難などネガティブな理由によるものか、状況は大きく違う様子がうかがえた。

ゆとりが出てきたことで取った行動では、約6割が使わずに貯蓄等として手元に残していた。また、金融資産の購入を除けば、具体的な消費行動として最も多かったのは国内旅行だが約16%にとどまり、ゆとりが出たからといって消費へ向ける消費者は少数派であった。一方で、高収入層や収入増によって暮らし向きにゆとりが出た層では、国内旅行やグルメをはじめ多方面に渡って消費意欲が旺盛な傾向があり、暮らし向きにゆとりが出た消費者でも温度差がある様子が見て取れた。

現在のところ、ニッセイ基礎研究所では、消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は2022年10-12月期(前年同期比2.9%)をピークに低下し、2023年度には2%を下回る見通しを立てている3。ただし、これは、円安の状況は今年度半ば、原油価格は今年度上半期がピークであるとの想定に基づいたものであり、例えば、見通し以上に円安が進行すれば消費者物価の見通しは上振れする可能性もあるだろう。

今後、輸入原材料の多い食料品や日用品などの生活必需性の高い品目を中心に、消費者物価が想定以上に上昇した場合、消費支出に占める生活必需品の割合が高い低所得世帯を中心に多くの世帯で家計負担が増すことになる。一方で、本稿で見た通り、一部の高所得世帯やコロナ禍の逆風の中でも収入が増えた世帯では、物価上昇の影響を吸収できるだけでなく、消費意欲も比較的旺盛な傾向が見て取れた。よって、今後、物価高が更に進行することで、一部の余裕のある世帯と、その他の大半の世帯間で格差が拡大する可能性がある。

家計負担が増すと言うと、単純に消費者の低価格志向が高まるようにとらえられがちだ。しかし、前稿で見た通り、暮らし向きのゆとりがなくなった消費者が取った行動では「食料や日用品などの生活必需品は価格の安い製品へ乗り換える」は38.5%にとどまり、はるかに多かったのは「できるだけ不要なものは買わない」で67.6%を占めた。この「できるだけ不要なものは買わない」が圧倒的に多い背景には、現在、消費者に高いサステナブル意識が醸成されつつあることも無関係ではないだろう。

以前の分析4で見た通り、現在、20~74歳で「地球環境や社会問題は他人事ではない」と思う割合が60.8%、「サステナビリティについてすぐに取り組まないと手遅れになる」は46.4%にのぼる。一方で、例えば再生素材等を使った商品やサプライチェーンの再構築など、サステナビリティを意識した商品の開発や製造はコストがかかり、高価格になりがちな傾向もある。

今後、消費者は物価高への対応とサステナブル意識との両立をどのように図るのだろうか。あるいは、物価高の進行は消費者のサステナビリティに関わる取り組みの足かせとなるのだろうか。ニッセイ基礎研究所では定期的に「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」を実施し、分析を行っていく予定である。
 
3 斎藤 太郎「2022・2023年度経済見通し-22年4-6月期GDP2次速報後改定」、ニッセイ基礎研究所、Weekly エコノミスト・レター(2022/9/8)
4 久我尚子「サステナビリティに関する意識と消費行動」、ニッセイ基礎研レポート(2022/5/31)など。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2022年09月15日「基礎研レポート」)

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【物価高と消費者の暮らし向き(2)-物価高でも消費機会減少や収入増で約1割の消費者はゆとりあり】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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