2022年09月13日

夏は年々暑くなっているのか?~高まる熱中症のリスクを踏まえた夏の過ごし方の見直しの必要性

山下 大輔

文字サイズ

4――夏の過ごし方の見直しが必要

このように、近年の夏の暑さは熱中症にかかるリスクを高めている。特に、暑さ指数が31以上となる日数が増加していることは、外出や屋外での運動を控える必要性が高まっていることを意味する。そして、年によって夏の暑さは変動するとはいえ、夏の過ごし方や社会活動のあり方は夏の暑さが厳しくなっていることを踏まえて見直していく必要があるだろう。対応が必要な事項は多岐にわたるだろうが、ここではいくつか挙げてみたい。

まず、夏の炎天下の中で開催されるスポーツや音楽等のイベントについてである。たとえば、夏の風物詩の1つといえば、夏の全国高校野球甲子園大会を考えてみよう。甲子園球場の観客席から、又はテレビ・ラジオ等を通じて、連日の熱戦に声援を送った方は多いだろう。選手にとっては、高校生活をかけた一世一代のイベントである。ところで、今年の開催時には、試合中に足がつる選手が相次ぎ、厳しい暑さによる熱中症の症状とみられるとの報道があった4。甲子園大会開催期間中に、兵庫県で熱中症警戒アラートの発表状況を調べると、大半の期間で熱中症警戒アラートが発表されていた。
甲子園大会開催期間中の熱中症警戒アラート発表状況(兵庫県、2022年8月)
上述のとおり、熱中症警戒アラートが発表されるのは暑さ指数が33以上になると予測された場合であり、運動は原則中止すべき状況であるといえる。実際の神戸の1時間ごとの暑さ指数をみても、日中(試合時間を踏まえ8時から18時を想定)に31以上(危険)を記録した日数は9日に及んだ。また、日中の暑さ指数の最低値が28以上(厳重注意)を記録した日数は6日であった。上述のように、暑さ指数が28以上となると、熱中症での救急搬送人数が加速度的に増加するとされている。選手の健康リスクなど考えると、夏の炎天下の中で開催し続けることは難しくなっているのではないか。
甲子園大会開催期間中の暑さ指数の推移(神戸、8時~18時) 大会主催者は将来的に朝と夕方の「2部制」を含む新たな対策を検討するとしているが、早急な対応が求められる状況といえる。
入学前の外遊びの実施状況別現在の運動・スポーツ実施状況(10歳、令和元年度) これは高校野球に限った話ではなく、スポーツや音楽等の屋外イベント全般についてあてはまることである。高校野球にしてもその他のイベントにしても、多くの制約の中で現在の開催日時が選ばれているという事情があることへの理解は必要だが、年々暑くなる夏への対応は喫緊の課題である。
入学前の外遊びの実施状況別新体力テスト合計点(10歳、令和元年度) 対応が必要なのは、屋外イベント開催だけではない。たとえば、子供の夏の過ごし方を考えてみると、今では、熱中症のリスクから、日中に公園や屋外で遊ぶことが難しくなっているだろう。子どもは、汗腺などの体温調節能力が未発達であり、また、体重当たりの体表面積が大人より大きく、高温時や炎天下では深部体温が上がりやすいため、熱中症になりやすいとされている。また、晴天時には地面に近いほど気温が高くなるため、身長の低い幼児は大人よりも更に高温の環境にいることになるため、熱中症のリスクが上がると言われている5。そのため、夏の暑さが厳しくなれば、熱中症を予防する観点から、子どもは屋外で日中に遊ぶことが難しくなる。他方で、従前より、子どもの体力低下が指摘されており、その原因として、学校外の学習活動や室内遊び時間の増加による外遊びやスポーツ活動時間の減少などが挙げられている6。また、就学前に外遊びをしていた頻度が高いほど、小学校入学後の運動・スポーツの実施頻度が多く、体力が高いことを示すデータもある。体力はあらゆる活動の基本となるものであり、心身の健康維持や健全な発達・成長を支える上で大変重要なものであるところ、夏の暑い期間に屋外で日中に遊ぶことが難しくなれば、子どもの発育への影響や体力の低下が更に進む可能性があるのではないだろうか。屋内の遊び場を増やすなどの施設整備の必要性が高まっているといえる。
暑さへの対応は働き方についても必要だろう。仕事の内容により実施可能性は異なるが、炎天下の中での通勤を避けるためには、時差出勤やテレワークの活用は有効だろう。コロナ禍でテレワークの活用は増えたが、ウィズコロナの中で、現在では、テレワークの活用は減少している。もちろん、テレワークが有効でない場合や実施可能でない場合もあるだろうが、たとえば夏の暑い時期に避暑地に移動して、テレワークで勤務を行うなどの働き方があってもいいのかもしれない。

更に言えば、テレワークが難しい仕事をしている人にこそ、暑さ対策は重要だといえる。たとえば、建設業に従事する人の多くは、日中の炎天下の中で建設作業を行っているし、運送業に従事する人は日中の暑い中で商品の配達などを行っている。職場で熱中症への対策が十分に取られている場合も多いと思われるが、熱中症による死傷者は毎年発生しており、また、近年増加している。夏が年々暑くなっていることを踏まえると、企業による従業員の健康リスクを踏まえた対応は更に必要になっていくだろう。
職場における熱中症による死傷者数の推移/熱中症による業種別死傷者数(2017~2021年計)
暑さへの対応の論点は、上述した以外にもたくさんあるだろう。しかし、重要なことは、暑い夏に適応するために、いかにして暮らしや社会のあり方を変えていくかを考えていくことだろう。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とは異なる「暑さ」であるが、やがて、夏は終わり、涼しい季節になると、夏の暑さは忘れてしまうかもしれない。しかし、次の夏が来るまでに、その次の夏が来るまでに、夏が年々暑くなっていることを忘れずに、夏の過ごし方を見直していかなければならないところまできているのではないだろうか。
 
4 「甲子園 暑さも難敵 帽子白に 首元冷やす 足つり続出 各校対策」『読売新聞』(2022.8.17夕刊)
5 環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」
6 子供に体力向上ホームページ、公益財団法人日本レクリエーション協会(2022年9月1日アクセス)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

山下 大輔

研究・専門分野

(2022年09月13日「基礎研レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【夏は年々暑くなっているのか?~高まる熱中症のリスクを踏まえた夏の過ごし方の見直しの必要性】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

夏は年々暑くなっているのか?~高まる熱中症のリスクを踏まえた夏の過ごし方の見直しの必要性のレポート Topへ