2022年09月09日

わが国の不動産投資市場規模(2022年)~「収益不動産」の資産規模は約275.5兆円(前回比+3.2兆円)。前回調査から「オフィス」・「賃貸住宅」・「物流施設」が拡大する一方、「商業施設」・「ホテル」は縮小

金融研究部 主任研究員 吉田 資

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 事業部長 主任研究員 室 剛朗

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1. はじめに

日本の不動産投資市場は、新型コロナウィルス感染拡大後も、拡大が継続している。REIT等の資産総額は、23.8兆円(2020年3月時点)から27.0兆円(2022年3月時点)に拡大した(図表-1)。政府は、優良な不動産ストックの形成に向けて、2030年頃までにREIT等の資産総額を約40兆円とする目標を設定している1。また、私募ファンドの市場規模も、19.2兆円(2019年12月時点)から24.1兆円(2021年12月時点)に拡大した。

日本の不動産投資市場は、海外投資家からの関心も高い。CBREによれば、2021年の日本の不動産投資額に占める海外投資家の割合は3割に達する。国土交通省「令和2年度 海外投資家アンケート調査」によれば、「日本における不動産投資先として検討可能なエリア」について、「その他の大都市(札幌・仙台・広島・福岡)」との回答は44%(2018年)から80%(2020年)に、「その他の地方都市」との回答は10%(2018年)から50%(2020年)に増加した(図表-2)。投資対象資産の多様化に加えて投資エリアについても広がりをみせている。

不動産投資市場の将来を見通すにあたり、投資対象となる「収益不動産」の資産規模がどれくらいであるのか、また、その内訳を「用途別」や「エリア別」に把握することは引き続き重要だと考えられる。

そこで、ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所は共同で、前回調査2に続いて、わが国の不動産投資市場規模に関する調査を実施した。
図表-1  REIT等の資産総額/図表-2 日本における不動産投資先として検討可能なエリア
 
1 「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ(2022年)」(令和4年6月7日閣議決定)
2 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(1)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021 年3 月12 日)
 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(2)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021 年4 月19日)
 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(3)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021 年5 月20日)

2. 「収益不動産ストック」の推計

2. 「収益不動産ストック」の推計

2-. 推計方法と推計結果
本調査では、事業者や個人に物件を賃貸することで、賃料収入を獲得できる不動産(以下、「収益不動産」)を調査対象とした。また、「収益不動産ストック」の内訳を把握するため、

(1)一定水準以上の面積基準や築年基準を満たす「収益不動産」
(2)機関投資家の投資意欲が特に強いスペックや立地要件を満たす「投資適格不動産」
(3)主要政令指定都市に立地するハイクラスオフィスである「コア投資不動産」

のカテゴリーに分類し、推計を実施した。

推計方法は、前回調査と同様に、収益還元法に基づく「ボトムアップ・アプローチ」を採用した(図表―3)。まず、「着工床面積の積算」と「レンタブル比」のデータをもとに「賃貸可能床面積」を推計した。次に、推計した「賃貸可能床面積」と、「平均賃料」や「平均稼働率」のデータをもとに、「総収入」を推計した。続いて、推計した「総収入」と「平均コスト比率」をもとに、「NOI:営業純収益、Net Operating Income」を推計した。最後に、推計した「NOI」を「キャップレート」で除して、「収益不動産の総額」を求めた。
図表-3 推計手順
今回の調査では、「収益不動産」の資産規模は275.5兆円(前回比+3.2兆円、+1%)、「投資適格不動産」の資産規模は約172.6兆円(前回比+1.3兆円、+1%)と推計された。J-REITの資産総額は約24.8兆円(2022年3月時点)、不動産私募ファンドの市場規模は24.1兆円(2021年12月時点)で、既に証券化された不動産の市場規模は約48.9兆円である。この数値によれば、「収益不動産(275.5兆円)」の約18 %、「投資適格不動産(172.6兆円)」の約28%が既に証券化されていることになる。
2-2. 「用途別」にみた資産規模
(1)「収益不動産」
「収益不動産(275.5兆円)」を用途別にみると、「オフィス」が約103.9兆円と最も大きく、次いで「賃貸住宅」が約72.0兆円、「商業施設」が約62.2 兆円、「物流施設」が約28.1兆円、「ホテル」が約9.4兆円と推計された(図表―4)。

前回調査と比較して、「オフィス(前回比+4%)」、「賃貸住宅(同+11%)」、「物流施設(同+17%)」が増加した一方、「商業施設(同▲13%)」、「ホテル(同▲27%)」は減少した(図表―5)。
図表-4 「収益不動産」の資産規模(用途別)/図表-5 前回調査との比較
年金運用等の資産運用においては、短期の市場見通しによってダイナミックに資産構成割合を変更するのではなく、基本となる資産構成割合(基本ポートフォリオ)を定めて、定期的にリバランスを行い運用するほうが、良いリターンを獲得できるとされる。公的年金等の資産運用では、各アセットクラス(市場ポートフォリオ)のリスク・リターンなどを考慮したうえで、積立金運用の基本ポートフォリオを定めている。そのため、基本ポートフォリオに不動産を組み入れる際には、不動産投資における「市場ポートフォリオ」の特性を把握することが重要である。

国内不動産投資における「市場ポートフォリオ」となる「収益不動産」のセクター比率は、「オフィス」が38%(前回調査37%)、「住宅」が26%(同24%)、「商業施設」が23%(同26%)、「物流施設」が10%(同9%)、「ホテル」が3%(同5%)となる(図表―4)。

投資信託協会によれば、2022年3月時点の「J-REIT」のセクター比率は「オフィス39%」、「物流施設22%」、「商業施設15%」、「賃貸住宅13%」、「ホテル7%」である。また、三井住友トラスト基礎研究所の調査によれば、「不動産私募ファンド」のセクター比率は「オフィス40%」、「物流施設21%」、「賃貸住宅12%」、「商業施設11%」、「ホテル5%」である(図表―6)。したがって、「J-REIT」と「不動産私募ファンド」は、「市場ポートフォリオ」と比較して、「物流施設」の比率が高い一方、「賃貸住宅」と「商業施設」の比率が低いと言えそうだ。
図表-6 「J-REIT」と「不動産私募ファンド」のセクター比率
(2) 「投資適格不動産」
次に、「投資適格不動産(171.7兆円)」を用途別にみると、「オフィス」が約72.9兆円(占率42%)、「商業施設」が約42.4兆円(25%)、「賃貸住宅」が約34.7兆円(20%)、「物流施設」が約14.7兆円(9%)、「ホテル」が約7.0兆円(4%)と推計された(図表―7)。

前回調査と比較して、「オフィス(前回比+3%)」、「賃貸住宅(同+14%)」、「物流施設(同+35%)」が増加した一方、「商業施設(同▲16%)」、「ホテル(同▲16%)」は減少した(図表―8)。
図表-7 「投資適格不動産」の資産規模(用途別)/図表-8 前回調査との比較
2-3. 資産規模推計の基礎データ
続いて、資産規模推計の基礎データとなる(1)建築着工床面積、(2)NOI、(3)キャップレートについて、その動向を確認する。

(1) 建築着工床面積の動向
国土交通省「建築着工統計調査」によれば、2021 年の着工床面積は、コロナ禍前の2019年の水準を100 とした場合、「物流施設(145)」と「オフィス(124)」が大幅に増加した一方、「商業施設(98)」と「住宅(97)」は概ね横ばい、「ホテル(52)」は半分の水準まで落ち込んだ(図表―9)。
図表-9 建築着工床面積の推移(2019年=100)
(2) NOIの動向
図表-10は、各用途の平均賃料と平均稼働率等を基に算出したNOIの推移を示している。2021 年のNOIは、コロナ禍前の2019年の水準を100 とした場合、「物流施設(105)」が増加した一方、「住宅(100)」は横ばい、「オフィス(88)」と「商業施設(77)」、「ホテル(46)」は減少した。新型コロナ感染拡大に伴う行動自粛等の影響で施設売上高や稼働率が悪化した「ホテル」と「商業施設」のNOIが大幅に減少した。
図表-10 NOIの推移(2019年=100)
(3) キャップレートの動向
日本不動産研究所「不動産投資家調査」によれば、2022年4月時点の期待利回り(東京)について、コロナ禍前(2019年10月時点)と比較して、「オフィス(▲0.2%)」と「賃貸住宅(同▲0.2%)」、「物流施設(▲0.5%)」が低下した一方、「商業施設(+0.1%)」と「ホテル(+0.2%)」は上昇した(図表―11)。コロナ禍でのeコマース市場拡大を受けて、「物流施設」の期待利回りが大きく低下した一方、人流抑制の影響を大きく受けた「商業施設」と「ホテル」の期待利回りは上昇に転じた。
図表-11 期待利回り(東京)の推移
この結果、「オフィス」は、NOIの減少を着工床面積の増加とキャップレートの低下が補い資産規模が拡大した。また、「賃貸住宅」は、着工床面積とNOIがコロナ前の水準を維持するなか、キャップレートの低下を受けて資産規模が拡大した。「物流施設」は、着工床面積とNOIが増加し、キャップレートが低下したことを受けて、資産規模の増加率が最大となった。

これに対して、「商業施設」と「ホテル」は、NOIの減少とキャップレートの上昇を受けて、資産規模が縮小した。特に、「ホテル」については、着工床面積が鈍化するなかNOIが大きく減少したことを受けて、資産規模の減少率が最大となった。
図表-12 資産規模への影響
2-4. 「収益不動産」のエリア別比率
「収益不動産」のエリア別比率をみると、「収益不動産(275.5兆円)」の39%が「東京都」に集積している(図表―13)。用途別では、「オフィス(103.9兆円)」の57%、「賃貸住宅(72.0兆円)」の41%が「東京都」に集積している。一方、「商業施設」や「物流施設」、「ホテル」は「東京都」への集積度が相対的に低く、地方都市においても一定の市場規模を有していることが分かる。また、前回調査からの変化を確認すると、「オフィス」については「東京都」の比率が縮小(59%⇒57%)、「物流施設」については「関東(東京都除く)」の比率が拡大(37%⇒40%)したが、それ以外に大きな変化はみられない。
図表-13 「収益不動産」のエリア構成比率
(参考) 前回調査における「収益不動産」のエリア別構成比率
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金融研究部

吉田 資 (よしだ たすく)

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 事業部長 主任研究員 室 剛朗

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【わが国の不動産投資市場規模(2022年)~「収益不動産」の資産規模は約275.5兆円(前回比+3.2兆円)。前回調査から「オフィス」・「賃貸住宅」・「物流施設」が拡大する一方、「商業施設」・「ホテル」は縮小】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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