2022年08月25日

計量テキスト分析で振り返る住宅事業者の事業方針~「戸建て」はエコ住宅、「マンション」は用地価格等の上昇対応に注力。コロナ後はニューノーマルへの対応を模索

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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(2)単語の出現パターンによる分類
次に、各単語がどの単語と結びつきが強いか、すなわち、アンケート回答内でどの単語と同時に出現(共起)していたかを確認する。図表-12(戸建て)と図表-14(「マンション」)の円の大きさは各単語の出現回数を示し、同一回答内で使われる回数が多い単語同士ほど、太い線で結ばれている。また、単語の色付けは、結びつきの強い単語のグループを示す。

単語の出現パターンにより、「戸建て」の事業方針を「I~IXの9つのグループに分類した(図表-13)。

「I:デザイン性や、断熱・耐震性能の訴求」に関して、注文住宅の購入理由として「住宅の断熱性能やデザインが重視」されるなか(図表-10)、これらの消費者ニーズに対応した商品開発・提供を行う企業が増加していると考えられる。

「II:省エネ性能に優れたエコ住宅および環境配慮型住宅の提案」に関して、「戸建て」では住宅の環境性能に関する単語が多く、エコ住宅や環境配慮型住宅への関心が高いようだ。

また、「VII:営業エリア拡大およびリフォーム事業の推進」に関して、戸建てを望む理由として、「補修や建替えの際の手続きが簡易で、自由度が高い」との回答が増えるなか(図表-6)、住宅リフォームの重要性に対する意識が高まっており、これらの需要の取り込みを意図する方針がうかがえる。
図表-12 戸建て 単語どうしの関係(共起ネットワーク)
図表-13 「戸建て」 事業方針の分類(9つのグループ)
同様に、単語の出現パターンにより、「マンション」の事業方針を「A~G」の7つのグループに分類した(図表-15)。「A:顧客ニーズに対応した高付加価値な商品・サービスの提供」(戸建て「IV:顧客ニーズに対応した商品の強化および(求めやすい)販売価格での提供」)、「E:厳選した開発用地の取得(仕入れ)」(「VIII:良質な分譲地・土地の取得(仕入れ)」)、「F:他社との差別化を図るエリア展開」(「V:他社との差別化」)、「G:企業ブランドの向上を意識した開発」(「VI:企業ブランドの向上」)等、「戸建て」と共通する内容も多い。

一方、「C:建築コストおよび土地価格高騰に対応した価格設定および販売・供給戦略」は、「戸建て」では言及の少ない項目であり、「マンション」では、建築コストおよび土地価格高騰への対応が強く意識されていることがうかがえる。
図表-14 マンション 単語どうしの関係(共起ネットワーク)
図表-15 「マンション」 事業方針のグループ分け
(3)単語と回答時期の結びつき
続いて、単語と回答時期(年)の関係の強さを図表-16(戸建て)と図表-17(マンション)に示す。

「戸建て」では、「商品」(2007年、2010年、2012~2014年)、「住宅」(2007~2012年、2014年、2016年)、「価格」(2007年、2009~2010年、2012年、2015年)、「強化」(2014年~2015年、2017年、2019年)など出現頻度の高い単語は、複数年にわたり多く使用されている。

これら以外の、各年に特有の単語をみると、2007~2008年は「販売」と「顧客」が多く、顧客ニーズに対応した販売戦略の策定に注力していたことがうかがえる。

また、2008~2010年は「エコ」が、2009年と2011~2012年は「省エネ」が多い。2005年の京都議定書6の発効に伴う環境問題に対する社会的関心の高まりや、2009年の省エネ法改正で「トップランナー基準」(「住宅事業建築主の判断の基準7」)が定められたこと等を受けて、省エネ性能に優れたエコ住宅への関心が特に高まっていたと考えられる。

2021年は、他の時期と共通する単語が少なく、これまでの事業方針に変化が生じた可能性がある。「対応」が多く使われており、コロナ禍において、在宅勤務の普及等に伴い生じたライフスタイルの変化(ニューノーマル)への対応が課題となっているようだ。ただし、ニューノーマルへの対応について、具体的な方針を示した回答はあまり見られず、今後の対応策を模索している状況がうかがえる。
図表-16 戸建て 単語と回答時期の結びつき
「マンション」では、「物件」(2007年、2009~2010年、2013年、2017年)、「マンション」(2007年、2010~2012年、2019年)、「販売」(2007~2008年、2014~2015年)、「価格」(2007~2009年、2014年)など出現頻度の高い単語は、複数年にわたり多く使用されている(図表-17)。

これら以外の、各年に特有の単語をみると、2015~2016年と2018年は「立地」が、2018年~2019年は「土地」が多い。土地価格が高騰するなか、駅近等の好立地の用地を獲得すべく、開発用地の仕入れが課題となっていたことがうかがえる。

また、2021年は、戸建てと同様、他の時期と共通する単語が少なく、これまでの事業方針に変化が生じた可能性がある。「対応」と「ニーズ」が多く使われており、コロナ禍におけるライフスタイルの変化(ニューノーマル)に伴う顧客ニーズへの対応が課題となっているようだ。一部の企業では、「在宅勤務を意識した間取り・広さ」等の方針が確認されるが、ニューノーマルへの対応について具体的な言及は少なく、「戸建て」と同様、今後の対応策を模索している状況がうかがえる。
図表-17 マンション 単語と回答時期の結びつき
 
6 2008年から2012年までの5年間に、先進国全体の温室効果ガスの合計排出量を1990年比で 5%の削減を目指す。
7 建売住宅事業者のうち、年間150戸以上を供給する企業、は一次エネルギー消費量の基準達成率平均が100%を下回らないように努力することを求められる。
(4)単語と企業属性の結びつき
最後に、単語と企業属性の結びつきについて考察する。

「戸建て」では、回答企業を、(1)「ハウスメーカー」、(2)「パワービルダー8」、(3)「財閥・金融」、(4)「電鉄・インフラ」、(5)「ゼネコン」、(6)「商社・製造業」、(7)「地域建設・不動産」に分類し、単語と企業属性の関係の強さを、図表-18に示した。
戸建住宅の主な供給主体である「パワービルダー」と「ハウスメーカー」は、「販売」や「エリア」、「拡大」等の単語が共通して多く、事業方針の近さがうかがえる。

一方、「パワービルダー」は「価格」と「エコ」、「ハウスメーカー」は「付加」と「提案」の単語が多い。「パワービルダー」は手の届きやすい価格設定やエコ住宅の供給に、「ハウスメーカー」は高付加価値商品や顧客への提案力に重点を置き、他社との差別化を図っていると考えられる。

また、「パワービルダー」と「地域建設・不動産」は、「商品」や「価格」、「エコ」等の単語が共通して多い。こうしたなか、「地域建設・不動産」は、「省エネ」や「顧客」の単語が多く、省エネ性能の優れた住宅供給とともに、顧客対応の充実や関係強化に注力し、競合する「パワービルダー」との差別化を図っているようだ。
図表-18 戸建 単語と企業属性の結びつき
「マンション」に関しても、回答企業を、(1)「ハウスメーカー」、(2)「財閥・金融」、(3)「電鉄」、(4)「インフラ」、(5)「ゼネコン」、(6)「商社」、(7)「独立系」に分類し、単語と企業属性の関係の強さを図表-19に示した。

「財閥・金融」と「電鉄」は、「ブランド」や「顧客」、「商品」等の単語が共通して多く、企業ブランドの向上を意識した商品開発等、事業方針の近さがうかがえる。

また、「ゼネコン」と「独立系」は、「価格」や「立地」等の単語が共通して多く、価格設定や立地選定等に軸足を置いて、他社との差別化を図っていると考えられる。

「商社」は、共通する単語が少なく、それぞれ独自の方針を掲げている可能性がある。「厳選」と「行う」の使用が多く、開発エリアを厳選した事業を行っているようだ。
図表-19 マンション 単語と企業属性の結びつき
 
8 都市部を中心に30坪前後の土地に,木造軸組み工法の住宅を供給。価格帯は,3,000万円~4,000万円程度で、第1次取得層が顧客ターゲット(山本 篤民「パワービルダーの台頭と工務店の経営課題」企業環境研究年報 No.14, Dec. 2009)。

5.おわりに

5.おわりに

本稿では、計量テキスト分析の手法を用いて、住宅事業者の「戸建て」および「マンション」の事業方針の特徴を確認した。

(1)顧客ニーズに対応した商品提供、(2)厳選した開発用地の取得、(3)他社との差別化、(4)企業ブランドの向上は、「戸建て」と「マンション」に共通した事業方針となっている。一方、「戸建て」では省エネ性能に優れたエコ住宅、「マンション」では建設コストや土地価格高騰への対応を強く意識していることがうかがえる。

時系列でみると、コロナ禍を経た2021年は、「戸建て」・「マンション」ともに、他の時期と共通する単語が少なく、これまでの事業方針に変化が生じた可能性がある。在宅勤務の普及に伴うライフスタイルの変化(ニューノーマル)への対応が課題となっているが、具体的な方針を示した企業は少なく、今後の対応策を模索している状況がうかがえる。

企業属性に着目すると、戸建住宅の主な供給主体である「パワービルダー」と「ハウスメーカー」の事業方針が近いなか、「パワービルダー」は手の届きやすい価格設定やエコ住宅の供給に、「ハウスメーカー」は高付加価値商品やサービスの提供や顧客への提案力に重点を置き、他社との差別化を図る方針がうかがえる。また、「マンション」では、「財閥・金融」と「電鉄」は企業ブランドの向上を意識した商品開発、「ゼネコン」と「独立系」は、価格設定や立地選定に軸足を置いて、差別化を図っていると考えられる。

アフターコロナ・ウィズコロナの時代を本格的に迎えるにあたり、住宅事業者は変化するライフスタイルに対応した具体的な事業方針を示すことが求められている。経済活動に大きな影響を及ぼす住宅市場の分析・将来見通しをたてる上でも、住宅価格や新規供給の動向とともに、住宅事業者の事業方針にも注目する必要がありそうだ。
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2022年08月25日「不動産投資レポート」)

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