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- ECB政策理事会-0.50%ポイント利上げでマイナス金利から脱却
2022年07月22日
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4.記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
(冒頭説明)
(経済活動)
(インフレ)
(リスク評価)
(金融・通貨環境)
(結論)
(冒頭説明)
- (声明文冒頭に記載の利上げとTPIへの言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- 経済活動は鈍化している
- ロシアのウクライナに対する不当な侵攻が成長率の重しとなっている
- 高インフレによる購買力への影響、長期化する供給制約、高い不確実性が経済に悪影響を及ぼしている
- 企業は、一部の供給制約が緩和されているという暫定的な兆しはあるものの、供給網の高コストや混乱に直面している
- 総じて、これらの要因は22年後半以降の見通しを大きく曇らせている
- 同時に、経済活動は経済再開、労働市場の強さ、財政支援策の恩恵を引き続き受けている
- 特に経済の完全再開がサービス部門の支出を支えている
- 人々は再び旅行をはじめ、観光は今年7-9月期の経済成長の助けになると期待される
- 消費はコロナ禍期間中に積みあがった貯蓄と労働環境の強さにより支えられている
- 財政政策は高いエネルギー価格の影響を被っている人々にとって、ウクライナでの戦争の影響を緩和する助けになる
- 的を絞った一時的な財政手段が、さらなるインフレ圧力を助長するリスクを避けるために実施されるべきである
- 全ての国の財政政策は、債務の持続可能性を維持し、回復を促進するために持続可能な方法で潜在成長率を引き上げることを目的とすべきである
(インフレ)
- インフレ率は6月に8.6%となった
- エネルギー価格の高騰が再び全体のインフレ率で最も重要な要素となった
- 市場の指標は世界的なエネルギー価格が短期的には高止まりすることを示唆している
- 食料品価格もまた上昇し、6月には8.9%に達し、一部はウクライナ・ロシアの農作物生産者としての重要性を反映したものとなっている
- 財に関する供給制約の長期化と、特にサービス部門での回復需要も高インフレに貢献している
- 物価上昇圧力は多くの部門に広がっており、一部はエネルギー価格の上昇が経済全体に間接的な影響を及ぼしている
- そのため、多くの基調的なインフレ指標もさらに上昇している
- エネルギーと食料品価格から生じる圧力と、価格設定チェーン(pricing chain)におけるパイプライン圧力が続くために、我々はしばらくの間、インフレ率の望ましくない高さが続くと予想している
- 高インフレ圧力はユーロ安にも起因している
- しかしながら、将来的には新たな混乱がない場合は、エネルギー価格は安定化し、供給制約が緩和され、政策の正常化進展とともにインフレが目標に戻ることを支えるだろう
- 労働市場は引き続き強い
- 5月の失業率は歴史的な6.6%という低さに低下した
- 求人率は、多くの部門で労働需要が強いことを示している
- 賃金上昇率はフォワードルッキングな指標によれば過去数か月、徐々に上昇しているが、全体的には抑制された状況が続いている
- 時間が経過し、経済が強くなることやキャッチアップ効果(catch-up effects)により賃金上昇が支えられるだろう
- 多くの長期のインフレ期待の様々な指標が現在は2%付近にあるが、いくつかの指標で目標を上回る修正がされており、引き続き注視が必要である
(リスク評価)
- ウクライナでの戦争が長期化していること、特にロシアからのエネルギー供給が企業や家計への配給が必要なほど混乱することは、引き続き成長への大きな下方リスクである
- 戦争は景況感のさらなる悪化や供給制約の深刻化をもたらし、エネルギーと食料品価格を想定以上に高止まりさせる可能性ある
- 世界的な成長鈍化もまた、ユーロ圏見通しへのリスクをもたらしている
- インフレ見通しをとりまくリスクは、引き続き上方にあり、特に短期では強まっている
- 中期的なインフレ見通しのリスクには、持続的な経済供給力の悪化、エネルギーと食料価格の高止まり、期待インフレ率の目標を上回る上昇、予想以上の賃金上昇がある
- しかしながら、中期的な需要が低迷すれば価格上昇圧力も抑制されるだろう
(金融・通貨環境)
- 市場金利は、経済的・地政学的な不確実性の結果、変動が激しくなっている
- 銀行の資金調達費用はここ数か月上昇しており、特に家計の貸出金利として転嫁されている
- 銀行の家計への貸出量は引き続き強いが、需要の低下から減速すると見込まれている
- 企業への貸出は、生産コストの上昇、在庫の積み増し、市場調達の依存度低下によって銀行信用への需要が引き続きあるため、堅調である
- 同時に、投資資金の調達需要は低下している
- 通貨量の伸び率は流動性需要の低下やユーロシステムの資産購入の減速におって、鈍化が続いている
- 銀行貸出調査では、不確実な環境下で、銀行がより顧客の直面するリスクを懸念していることから、すべての貸出カテゴリーにおいて、4-6月期は貸出態度が厳格化したと報告されている
- 銀行は7-9月期も引き続き厳格化を続けると見込まれている
(結論)
- 要約すれば、インフレ率は引き続き望ましくない高さであり、しばらくの間我々の目標を上回り続けると見られる
- 最新のデータは成長鈍化を示しており、22年後半以降の見通しを曇らせている
- 同時に、この鈍化はいくつかの支援材料で軽減されている
- 理事会は本日、政策金利の引き上げを決定し、TPIを承認した
- 今後の会合では、政策金利のさらなる正常化が適切になるだろう
- 将来の政策金利経路は引き続きデータ依存で、中期的なインフレ率の2%目標達成を助けるものになるだろう
- 我々はインフレ率が2%の中期目標に向け推移するよう、すべての手段を調整する準備がある
- 理事会の新しいTPIによって、我々が高インフレに対処する姿勢の調整を続けることで、ユーロ圏全体への金融政策姿勢の円滑な伝達を保護するだろう
(質疑応答(趣旨))
- フォワードガイダンスと前倒し利上げが9月会合に対して意味することについて、以前、インフレ率が低下する兆しがなければ0.50%ポイントの利上げをするとしていたが、どうなるのか
- (明確な回答なし)
- 7月の0.25%ポイントの利上げに固執するかどうかのメリットとデメリットを議論し、マイナス金利からの脱却に向けた大きな段階に進むことが適切であると判断した
- イタリアについて、政治的不確実性により利回りが上昇しているが、市場に対するメッセージはあるか。TPIは潜在的な状況悪化(escalation)を防ぐのに十分なのか
- TPIの下ではすべてのユーロ圏加盟国が適格となる可能性がある
- 理事会は、適格基準に基づき、市場変動が不当で無秩序なものかに基づき、その国が適格なのか、TPIを発動するのかを決定する
- イタリアについて、市場の反応には明確な理由があるなかで、TPIの条件であるように市場の反応は不当であるとして、イタリアの債権を購入する方法はあるのか
- 市場の変動が不当であるか否かを評価するために、理事会は複数の指標を考慮し、不当なのか無秩序なのかについて決定する
- 9月の決定について、9月に0.25%を超える利上げを目論んでいるか
- 6月の会合での0.25%ポイントの利上げガイダンスは9月のガイダンスと結びついている
- 7月に0.50%ポイントの利上げを実施したため、9月のガイダンスも適用されなくなる
- 声明に明記したように、今後の金融政策決定は毎月(month by month)、段階的に(step by step)、データに基づいて(data-dependent basis)行われる
- 9月の決定は、その時点のデータと経済見通しに基づいて実施される
- ECBの金利決定は中長期的に、個人投資家にどのような影響を及ぼすのか。より具体的には市場にいる一般人にどのような影響があり、その人達のお金がどうなるのかを知りたい
- 明らかに、銀行からの借入費用は増加する
- 小売部門、消費者、すべての経済主体にとって有益であるのは、物価安定が提供されるためである
- TPIで購入は実施されるときには公表されるのか、また不胎化されるのか、されるとすればどのようにされるのか
- 私たちの適用する公表原則や規則に準じて公表される
- TPIを発動する時は、適切な金融政策姿勢に干渉しないようにし、ユーロシステムの金融政策の債券ポートフォリオ、超過流動性の額に影響を及ぼさないように行う
- より具体的な方法の詳細、不胎化やその他の方法については説明するつもりはない
- 20年3月にあなたは、スプレッドを縮小することは役割でないと述べたが、TPIはスプレッドを縮小することを意味するのではないか、それは政治的な不確実性の結果としてイタリアで見られる借入コストの上昇に対処するために使われるのではないか
- TPIは不当な市場変動がユーロ圏の金融政策の伝達に深刻な脅威をもたらす場合に発動される
- また、既存手段として、PEPPの償還再投資はコロナ禍の結果生じた分断化リスクに対処するために利用される
- OMTはリデノミネーションリスクや国固有の問題で生じる伝達障害に対処するために利用される
- ロシアからのガスが冬までに完全に遮断される可能性がより高まっている、あなたは下方リスクに言及したが、いくつかの研究ではこれは不況とエネルギー価格のさらなる上昇を引き起こす。この場合、金融政策は再び緩和されるのか、EUCの反応はどうなるのか
- ノルドストリーム1を通じたガス供給に関する状況は明らかに考慮される要因となっている
- 欧州委員会が決定したエネルギー計画に関する節約、連帯、在庫に関する声明もまたインフレ率、成長率と関係するため考慮される
- これらには非常に注意を払っている
- 不況に関しては、我々の6月の見通しでも、欧州委員会の先週の見通しでもベースラインのシナリオは今年も来年も不況にはならない、ただし見通しは曇っている
- ドラギ政権の崩壊についてどの程度心配しているか、イタリアは次世代EUの大部分を占め、ユーロ圏の成長をけん引しているが、政治危機よって中断される可能性があるが、ユーロ圏全体の見通しを脅かすことになるか
- ECBは政治問題に対しては特定の立場を示さない
- 少なくともここ10年では国債利回りの上昇が政治危機を引き起こしてきた。イタリアの自傷的な政府危機、政治的な理由で発生する利回りの上昇について、不当な国債利回りの上昇だと見なすことができるのか
- 各地方の資金調達環境の違いは合法的に生じる可能性があり、国固有のマクロ経済情勢の違いによってこうしたことは過去に発生したことがある
- そのため、理事会は、決定を行う際に国が適格基準を満たしているかを評価する
- まず、市場と伝達指標を包括的に評価し、次に適格基準の評価を行い、そしてTPIがECBの主目的に対して比例性を有するかを判断する
- 14年前のあなたの前任者は利上げが周辺国を痛めつけるという議論に対して、「その議論はしない(don’t buy that argument)」と述べたが、いまはその議論をしているのだろうか
- 通貨同盟には内在する(inherent)リスクがあり、特にユーロ圏では大きなショックが分断化リスクをもたらし、市場において不当な自己実現的変動が発生する可能性がある
- この障害は様々な原因で発生するため、いくつかの手段を持っている
- スペイン政府が、銀行に対する臨時利益(windfall profit)に課税することを発表した。彼らは金利が上昇したために実施したと説明しているが、何か意見はあるか
- 税金に関する詳細が分からないと意見を述べるのは難しい
- 我々の銀行課税に対する過去の意見は、税金により信用拡大や信用成長が毀損されるべきではないということ、また家計や企業に対する資金調達環境の厳格化は回避されるようにすべきということ
- 5週間前のフォワードガイダンスに対し、今回の利上げは予想されたものより大きかった、ユーロ圏の通貨環境はそれほど早く悪化したのか、それともTPIの合意が予想を上回る行動を可能にさせたのか
- フォワードガイダンスから逸脱した理由は2つある
- 1点目はインフレの上振れリスクが顕在化したこと
- 2点目は金融政策の伝達に関する懸念が、PEPPの償還再投資の柔軟性適用と理事会が全会一致で強力なTPIの支援を決めたことで、対処されていること
- 正常化に向かって進んでいるとのことだが、ECBにとって正常な金利水準は何か
- 0.25%ポイントから0.50%ポイントになったことは、ターミナルレートの変更を意味しない
- また、それが正常化に速く到達することを意味するかについては、会合毎のデータに依存して調整される
- 中立水準については、現時点では分からない
- 歴史的な瞬間だと思うか、個人的にマイナス金利の時代が終わって良かったと思うか
- 2つの点で歴史的な瞬間だと思う
- 1点目は、理事会の25人全員が連携してTPIを支援したこと
- スタッフが膨大な量の作業を行い、各国中央銀行における専門知識が結集した委員会のすべてのメンバーが懸命に働き、留保なしで同じ見解に到達したことは、少なくともECB総裁の観点からは非常に満足できる瞬間だと思う。
- 2点目は、マイナス金利から脱却することは、インフレ率を低下させ物価安定のために我々がしようとしていることを説明する上で、理解してもらう助けになること
- 市場では盾(shield)と呼ばれているTPIについて、盾はすべての国を守ることができるが、複雑でもあると見ている。国が盾を必要とした際にどれだけ早く、起動させる(trigger)ことができるか、また、軌道すればその国は必要なだけ守られるのか
- それほど複雑ではない
- TPIについてプレスリリースが公表されるが、すべての詳細が提示されているわけではなく、発動の有無や適格条件の評価については理事会の裁量、判断が含まれる
- これは、我々のチームによって記録的な速さで開発されており、適格基準、発動、草案などいつでも迅速に行動することができる
- TLTROについて、銀行はTLTROが修正される可能性を懸念しているが、そういったことは議論されたか
- 声明文に「金融政策正常化の文脈において、理事会は超過流動性に対する付利の選択肢について評価する」という文を載せている
- 我々は正常化の過程にあり、ある方向で上手くいったことを特定し、分析し、他の方向に向かう際には適切に対処される必要がある
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年07月22日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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