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東京一極集中で激変した「出生地図」-都道府県4半世紀出生数減少率ランキングは何を示すのか

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
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1――はじめに-合計特殊出生率に翻弄される地域少子化政策からの早期脱却を
そもそも少子化対策とは、人口の減少に直結する「出生減を食い止め、出生増を狙う」諸々の政策をいう。しかし、現行の地方自治体における少子化戦略においては、TFR上昇を最終ゴールとしてしまう傾向が強い。しかし、単純にTFR上昇を地域少子化対策の「最終ゴール」に掲げた場合、自治体消滅リスクが高まるケースさえある。
2――TFRとは何なのか
日本は極めて移民比率が低い(2%程度)、すなわち「TFRが日本国外との人流の影響をほとんど受けない国」だからである。TFRは日本全体の少子化対策(全体出生数向上)指標としては、経年推移比較において有効(TFR低下=少子化の加速・TFR上昇=少子化の減速)であるが、自治体の経年推移・自治体間比較においては、使用してもあまり意味をなさない状況にある。なぜだろうか。以下で可視化して解説したい。
TFRは単純な(出生数)/(出産した女性数)、つまり出産した女性1人あたりの平均出生数の値ではない。
先ずX年におけるYエリアの15歳の未婚女性と既婚女性の人数を分母として、15歳の女性の出生した赤ちゃんの人数を分子とする。この計算を15歳から49歳まで各年齢で算出し、それをすべて合算すると、「X年におけるYエリアに居住する女性の生涯の出生動向」(地域TFR)が推計される(図表1)。
3――四半世紀で東京都の出生数は増加、「多子化」へ
約5割も減少した5つのエリアは全て東北エリアとなった。特に福島県と山形県は1970年から2020年の50年間減少率と比べると大きくランキングを上げる結果となっており、特にこの25年で出生数激減が発生したことがみてとれる。福島県は2011年に発生した東日本大震災・原発事故を端緒に、より多くの女性が県外へ転出超過するようになった。その後も10年以上にわたり女性の転出超過数が常に全国トップクラスであり、出生数減少に拍車がかかる形となった。山形県は1992年に山形新幹線が開通し、仙台の先の東京へのアクセスが格段によくなった。東京での就業への検討の高まりが女性流出に影響している様子が2020年に実施された東北活性化研究センターの意識調査結果からもうかがえる。
四半世紀で出生数を半減させるエリアが出てきたその一方で、出生数の減少率の全国平均を29%水準にまで抑制することに貢献したのは12エリアで、中でも東京都は50年間の出生数減少率では約6割減であったが、この四半世紀では出生減どころか103%の出生数増加エリアに転じ、唯一少子化を免れ多子化エリアに変貌した。
それほどまでに東京都に若い女性人口が集中したのである。コロナ禍中も東京都は20代前半の就職期の未婚女性を中心に転入超過させ続けた。9割超が未婚者の20代前半の若い女性が地方から横滑りで東京都に転入することによって、東京都のTFRは、計算上は何もしなくても引き下げられる。東京都の出生数の増加に加え、低TFR、高未婚率、待機児童の多さ等は、地方からの未婚女性の流入数の多さに起因していることに気付かねばならない。
4――地元を去り行く女性を顧みない政策に人口の未来なし
現行の少子化対策に大きな変化が伴うことへの拒否感の強さからか「女性の転出減がテーマならば、少子化対策課担当業務外である」との現場の声も仄聞する。あえて有効なエビデンスへの対応を無視したかのような「域内に残っている女性かつ既婚者への支援」政策への固執の背景には、若い女性の県外流出に対する極端なまでの危機感のなさ・鈍感さがある。
妊活・子育て支援等の既婚者(離死別者を含む)政策は、全て「地元に残る女性を対象」とした政策である。若年未婚女性の流出による出生数減少の大きさを軽視する政策のベースには「エリアの持つ古い家族・労働価値観を頑なに変えない」「地元に残らない人は視野にいれない」社会風土が感じられる。
統計的に見れば若い女性が去り行くトレンドのエリアに人口増加の未来はない。四半世紀で激変した「出生地図」は、若い女性人口を集める東京都の人口の未来が明るい結果となったことを我々に示しつつ、現行の地域少子化対策に欠けている「人流の視点」の重要性を強く訴えかけているといえよう。
(2022年07月15日「ニッセイ基礎研所報」)

03-3512-1878
- プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向
・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】内閣府特命担当大臣主宰「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024~2025年度)
・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
※都道府県委員職は年度最新順
・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
・【高知県】高知県「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度~)
・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度~)
・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
・【愛媛県法人会連合会】えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)
日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
日本労務学会 会員
日本性差医学・医療学会 会員
日本保険学会 会員
性差医療情報ネットワーク 会員
JADPメンタル心理カウンセラー
JADP上級心理カウンセラー
天野 馨南子のレポート
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