2022年07月05日

将来推計人口では、中長期仮定を見直しつつ、コロナ禍の影響を加味~年金改革ウォッチ 2022年7月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金事業管理部会は、日本年金機構の2021年度の業務実績について、納付率等の実績を反映した報告を受けて意見を交換した。人口部会は、2023年に公表予定の将来推計人口に向けて、今後の進め方等を確認した。年金広報検討会は、今後の年金広報のあり方について意見交換した。
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
6月23日(第62回) 日本年金機構の令和3年度業務実績、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo62_00001.html (資料)
 
○社会保障審議会 人口部会
6月23日(第21回) 人口部会の今後の進め方、報告聴取、将来人口推計とは
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26401.html (資料)
 
○年金広報検討会
6月29日(第16回) 年金広報のあり方、公的年金シミュレーターの運用状況、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00030.html (資料)

2 ―― ポイント解説:出生率や死亡率の動向(少子化や長寿化の動向)

2 ―― ポイント解説:出生率や死亡率の動向(少子化や長寿化の動向)

6月23日に、人口部会が約1年ぶりに開催された*1。本稿では、次の将来推計人口に向けたスケジュールを確認した上で、近年の出生率や死亡率の動向(少子化や長寿化の動向)を確認する。
 
*1 2021年6月に招集されたが、作業が1年遅れとなること等を確認したのみで、以後は開催されていなかった。
図表1 将来推計人口公表までのスケジュール 1|次の将来推計人口に向けたスケジュール:通常より約1年遅れ、2023年の早い時点に公表予定
将来推計人口は、現在の人口を起点に、これまでの人口動向を将来に向けて投影して作成される。人口を把握するための国勢調査はコロナ禍でも予定通り実施されたが、出生動向基本調査は1年先送りされたため、人口部会での議論や将来推計人口の公表は通常よりも約1年遅れとなる見通しである。なお、公的年金の将来見通しは、法律の規定どおり2024年に公表される予定となっている*2
 
*2 週刊年金実務2021年12月13日号(p.8)に掲載された厚生労働省年金局長の講演要旨抜粋による。
図表2 期間合計特殊出生率の推移 2|出生率の動向:コロナ禍の影響は大きくないが、若年層の低下傾向が懸念材料
先月は2021年の出生数が過去最少を更新したことが注目され、コロナ禍の影響かと話題になった。しかし、期間合計特殊出生率*3は、コロナ禍前の2019年に-0.06と大きく低下し、コロナ禍下の2020年と2021年は-0.03ずつの低下にとどまっている。
図表3 累積出生率の世代別の推移 2020年と2021年の低下は小幅ではあるが、足下の期間合計特殊出生率(全国平均)は1.30に低下しており、2017年の将来推計人口の低位推計に近い水準となっている。次期推計では出生率の仮定が全体的に引き下げられる可能性が高く、低位推計も注目を集めそうである。東京は足下で1.08に達しており、次の低位推計の出生率は、この辺りに設定される可能性がある。低い水準だが、過去にはより低い設定もあったため、冷静に受け止めるべきだろう。
図表4 65歳の平均余命の推移 世代別に見ると、40歳前後の累積出生率*4は近年上昇傾向にあり、低下が憂慮されるのは20代後半(1990年前後生まれ)などの若年層である。この傾向が今後も継続するのかについて、出生動向基本調査の結果や人口部会での議論に注目したい。
 
*3 期間合計特殊出生率は、ある年の年齢別出生率を合計したもの。ひのえうまの年の産み控えなど一時的な変動を現わしやすい。単に合計特殊出生率と言えば、これを指す場合が多い。
*4 世代別の累積出生率(コーホート合計特殊出生率)は、ある生まれ年の世代の年齢別出生率を合計したもの。期間合計特殊出生率に比べて安定して推移する傾向がある。
図表5 年齢階層別死亡率の推移 3|死亡率の動向:70歳以上で2020年より若干上昇
高齢者の死亡率の動向として65歳の平均余命*5を見ると、引き続き延びており、2017年の将来推計人口の中位推計を若干上回っている。

年齢階層別の死亡率を見ると、長期的に低下傾向(長寿化傾向)が続いていたが、2021年(概数)は70歳以上で前年よりも上昇した*6。この上昇を一時的な動きとみるのか、人口部会での議論に注目したい。
 
*5 国勢調査に基づいて作成された(完全)生命表による。最新は2020年の値。2021年分の簡易生命表は今月末に公表予定。
*6 新型コロナウイルス感染症を死因とする死亡率は、年齢階層別には確認できなかったが、全年齢計では2020年が0.0028%、2021年(概数)が0.0136%であった。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2022年07月05日「保険・年金フォーカス」)

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