2022年07月01日

日銀短観(6月調査)~大企業製造業の景況感は2期連続で悪化、記録的なコスト高を受けて価格転嫁が続く見込み

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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4.売上・利益計画:22年度は引き続き増収減益の計画

2021年度収益額(全規模全産業)は、売上高が前年比4.3%増(前回は4.3%増)と前回から横ばいとなった一方、経常利益は同42.7%増(前回は32.0%増)と上昇修正され、増収かつ大幅な増益となった。

従来、経済危機が発生した年を除き、例年、経常利益計画は年度始の段階で保守的に見積もられ、9月調査以降、緩やかに上方修正されていく傾向がある。2021年度についても、コロナ禍の不透明感を受けて、2020年度の大幅な落ち込みの後にしては年度始の利益計画が保守的に設定されていたが、2020年度前半ほど急激な経済活動の落ち込みが避けられたことで収益の推移が予想を上回り、年度実績の上方修正に繋がったとみられる。現に、下期だけを見ても、売上・経常利益ともに上方修正されている。
 
なお、2021年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は111.23円(上期109.33円、下期113.13円)と、前回調査時点(110.00円)からやや円安方向に修正された。前回調査時点で年度実績(112円台前半)よりも円高水準に設定されていたものが、実績を織り込む形で修正された。
 
また、2022年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比4.3%増(前回は2.1%増)、経常利益が同3.6%減(前回は0.9%減)と、前回に続いて前年比で増収・減益の計画となった。なお、既述の通り、比較対象となる前年度の収益が今回上昇修正されたことで、売上・経常利益ともに、水準としては前回調査から上方修正されている。

例年、経常利益計画は初回の3月調査時点で保守的に見積もられ、前年比で小幅なマイナス圏でスタートした後、6月調査では、比較対象となる前年度分の上方修正などを受けて、さらに伸び率がやや下方修正される傾向が強い。今回も同様のパターンとなった。コロナ禍からの経済活動再開が期待されるものの、コロナ再拡大、ウクライナ情勢長期化、世界的なインフレなど下振れリスクも山積しているため、とりあえず保守的な計画のまま様子見している企業も多いと推測される。
 
なお、2022年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は118.96円(上期118.79円、下期119.12円)と、足下の実勢(135円台)よりも大幅な円高水準となっている。企業の想定為替レートは実勢の反映に時間がかかる傾向があるため、修正がまだ追い付いていない状況とみられる。また、輸出企業では、あえて収益に保守的となるように円高水準に据え置いている企業もも多いとみられる。

今後、再び円高が進まなければ、円安方向への修正が入ることで輸出企業にとっては収益計画の上方修正要因になる。一方、輸出割合が低い企業にとっては、円安によって原材料輸入価格の上昇に拍車がかかり、利益計画の下方修正要因になる恐れもある。
(図表6) 売上高計画
(図表7) 経常利益計画
(図表8) 経常利益計画(全規模・全産業)

5.設備・雇用

5.設備・雇用:設備投資計画は強いが不確実性高め、人手不足への警戒感も

生産・営業用設備判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から横ばいの0となった。

また、雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)も、全規模全産業で前回から横ばいの▲24となった。人出の回復を受けて非製造業で不足感が強まる一方、生産の落ち込みを受けて製造業で不足感が緩和され、影響が相殺された。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均DI」(設備・雇用の各DIを加重平均して算出)は前回から横ばいの▲15.2となり、不足超過の高まりは一服した。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断DIが▲3、雇用判断DIが▲28とそれぞれ3ポイント、4ポイントの低下が示されており、不足感が強まることが見込まれている。先行きにかけて、経済活動の正常化が進むことへの期待が反映されているとみられる。

この結果、「短観加重平均DI」も▲18.8と3.6ポイント低下する見込みとなっている。
(図表9) 生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10) 短観加重平均DI
2021年度の設備投資額(全規模全産業)は、前年度比0.8%減(前回調査時点では同4.6%増)と前回調査から下方修正された。

例年、6月調査(実績)では、中小企業で計画が具体化してくることによって上方修正される反面、大企業で大きめの下方修正が入ることで、全体としては下方修正される傾向がある。今回はコロナの感染再拡大や供給制約、原材料高による建設コストの増加などを受けて、設備投資を一旦見合わせたり、先送りしたりする動きがやや強まった結果、例年よりもやや大きめの下方修正が入った。

一方、2022年度の設備投資計画(全規模全産業)は、上記の2021年度実績比で14.1%増(前回調査時点では0.8%増)となった。例年6月調査では計画の具体化や(比較対象である)前年度実績の下方修正に伴って伸び率が上方修正される傾向が極めて強い。今回は、既往の収益回復や経済活動の再開、供給制約緩和への期待を受けて、伸び率の上方修正幅が例年を大きく上回り、伸び率の水準としても非常に高くなっている。既述の通り、2021年度実績の下方修正がやや大きめになり、先送り分が多かったことも22年度計画の伸び率嵩上げに繋がっているが、それを差し引いても強めの投資計画と言える。

このように、2022年度の設備投資計画は勢いのある内容と評価できるものの、資材・部品等の供給制約や原材料高、世界的なコロナ・インフレの行方など先行きの不透明感は強い。これらの動向次第で今後設備投資計画が下方修正されるリスクもあるだけに、計画の実現性については不確実性の高さが否めない。
 
なお、2021年度設備投資額(全規模全産業で前年比0.8%減)は市場予想(QUICK 集計2.9%増、当社予想は1.4%増)を下回る結果であった。一方、2022年度設備投資計画(全規模全産業で前年比14.1%増)は市場予想(QUICK 集計5.4%増、当社予想は6.3%増)を大幅に上回っている。
 
2021年度のソフトウェア投資額(全規模全産業)は7.6%増と前回(8.8%増)からやや下方修正されたが、減少で着地した設備投資額(0.8%減)と比べても強い結果であった。また、2022年度のソフトフェア投資計画(全規模全産業)は2021年度比15.5%増(前回は7.4%増)と大幅に上方修正され、近年と比べても高い伸びが示されている。企業において、DXの推進に向けた積極的な姿勢が続いていることを反映している可能性があり、前向きな動きと言える。
(図表11) 設備投資計画とソフトウェア投資計画
(図表12) 設備投資計画(全規模・全産業)/(図表13) 設備投資計画(大企業・全産業)
(図表14)ソフトウェア投資計画(全規模・全産業)

6.企業金融

6.企業金融:中小企業の資金繰りは3四半期ぶりに改善

企業の資金繰り判断DI(「楽である」-「苦しい」)は大企業が15と前回から横ばい、中小企業が9と前回比3ポイントの上昇となった。中小企業では3四半期ぶりにDIが持ち直し、資金繰りが改善した。業種別の状況は未公表(明日公表の調査全容に掲載)だが、行動制限解除等による人流回復を受けて、宿泊・飲食サービスなど対面サービス業を中心に売上が回復し、資金繰りの改善に繋がったと推測される。ただし、前回3月調査時点における対面サービス業のDIは全体を大きく下回っていた1だけに、今回、どの程度回復したのかが注目される。
 
企業サイドから見た金融機関の貸出態度判断DI(「緩い」-「厳しい」)は、大企業が15と前回から1ポイント低下、中小企業が18と前回から1ポイント上昇した。金融機関の貸出態度には大きな変化はないと受け止められている。
(図表15)資金繰り判断DI(全産業)/(図表16) 金融機関の貸出態度判断DI(全産業)
 
1 大企業が▲25(全業種平均は15)、中小企業が▲40(全業種平均は6)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

(2022年07月01日「Weekly エコノミスト・レター」)

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