2022年05月27日

中国経済の見通し-岐路に立つコロナ政策、22年は4.2%と予想も、下方リスクが燻ぶり、ポジティブ・サプライズもあり得て、目が離せない

三尾 幸吉郎

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1. 岐路に立つコロナ政策

(図表-1)人民元レート(対米ドル) 中国では株価が下落し人民元が売られた。まず1月には上海総合が下落し始めた。西安(陝西省)で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が広がり、事実上の都市封鎖(ロックダウン)に踏み切ったことで下落し始め、それにロシアによるウクライナ侵攻が拍車をかけ、上海総合は年初来で8%下落することとなった。そして4月には人民元が下落し始めた(図表-1)。その背景には米国FRBが利上げを加速し始めたこともあるが、中国が成長率目標「5.5%前後」を達成すべく利下げに動くとの見方が浮上したこともあり、米中長期金利差は逆転し、年初来の下落率は約6%に達した。
こうした中国売りの背景には、ダイナミック・ゼロコロナ政策(dynamic zero-COVID strategy)を維持するのか、それともゼロコロナ政策に逆戻りするのか見通せないという不安感がある。中国政府は21年8月に新型コロナ変異株(SARS-CoV-2 variants)に対応すべくダイナミック・ゼロコロナ政策に舵を切ったが、今回の上海での対応を見るとゼロコロナ対策とほとんど変わらないからだ。COVID-19の第1波(20年1月~2月)では、名も無い「未知のウイルス」であったことを踏まえれば厳格なゼロコロナ政策の採用が正しかったと言えるだろう。実際、欧米よりも死亡者を極めて少なく抑えた上で、経済回復も早かった(図表-2)。しかし、ここもとの第2波では、新規感染数は第1波より多いものの、9割近くは無症状で(図表-3)、死亡率も0.2%に留まりその大半はワクチン接種率の低い高齢者という状況である。復旦大学などの研究チームは、高齢者(60歳以上)のワクチン接種率を引き上げ、抗ウイルス療法を推進し、マスク着用など厳格な非医療介入(non-pharmaceutical intervention)を行なえば、死亡者を平年のインフルエンザで発生する8.8万人程度に抑えられると指摘している。ダイナミック・ゼロコロナ政策を維持しつつ徐々にウィズコロナ政策に移行する道を選ぶのか、それとも死亡者ゼロを目指して厳格なゼロコロナ政策に逆戻りし、経済成長率の低下を許容するのか、中国政府は重大な岐路に立たされている。
(図表-2)COVID-19の死亡者数(22年4月30日時点)/(図表-3)COVID-19の新規感染確認

2. 中国経済の現状

2. 中国経済の現状

22年1-3月期の国内総生産(GDP)は実質で前年同期比4.8%増と1年ぶりに前四半期(同4.0%増)を上回り、中国経済には持ち直しの兆しが見られた(図表-4)。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第2波が襲来し、上海市が事実上の都市封鎖(ロックダウン)を実施したため、4月には失速することとなった。4月の製造業PMI(購買担当者景気指数)は47.4%、非製造業PMI(商務活動指数)も40.0%と、拡張収縮の境界(50%)を大きく下回り、COVID-19の第1波が襲来した20年2月以来の水準に落ち込んだ。鉱工業生産も、4月は前年同月比2.9%減となり、コロナ前(19年12月)を100とした指数は112.8まで落ち込んだ(図表-5)。そして、4月の景気インデックス1は前年同月比2.1%減と、中国経済がマイナス成長に陥ったことを示唆した(図表-6)。

他方、インフレの状況を見ると、1-4月期の工業生産者出荷価格(PPI)が前年同期比8.5%上昇したものの、消費者物価(CPI)は同1.4%上昇と低位に留まった(図表-7)。但し、今後のCPIは上昇傾向を強める可能性が高い。ウクライナ情勢の緊迫化を背景に、食糧・エネルギーに上昇圧力が掛かるのに加えて、これまでCPI上昇を抑制する要因だった豚肉が下げ止まりつつあるからだ。
(図表-4)中国の国内総生産(GDP、前年同期比)/(図表-5)鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移
(図表-6)経済成長率と景気インデックス/(図表-7)消費者物価(CPI)と工業生産者出荷価格(PPI)
 
1 景気インデックスとは、鉱工業生産、サービス業生産、建築業PMIを合成加工して、毎月の実質成長率を筆者が推計したもの

3. 需要動向

3. 需要動向

個人消費は3月以降に急ブレーキが掛かった。個人消費の代表指標となる小売売上高を見ると(図表-8)、1-2月期には前年比6.7%増と底打ちしたかに見えたが、3月には同3.5%減、4月には同11.1%減と急減速することとなった。特に飲食が3月に同16.4%減、4月に同22.7%減と失速しており、コロナ再発の影響が主因と見られる。

投資もほぼ同様に3月以降に急ブレーキが掛かった。投資の3大セクターの推移を見ると(図表-9)、不動産開発投資は1-2月期に前年比3.7%増とプラスに転じたものの、3月以降は再び水面下に沈んでしまった。インフラ投資は1-3月期に前年比8.5%増と持ち直したものの、4月には同0.5%増(推定2)とブレーキが掛かった。製造業は1-2月期に前年比20.9%増と絶好調だったが、3月には同5.0%増(推定)、4月には同2.0%増(推定)と減速している。
(図表-8)小売売上高の推移/(図表-9)投資の3大セクターの推移
輸出も1-2月期には前年比16.4%増と好調を維持し、3月も同14.7%増と堅調だったが、4月には同3.9%増に減速した(図表-10)。輸入も1-2月期には前年比15.6%増と好調だったが、3月には同0.1%減、4月には同0.0%と減速することとなった。輸出の減速にはウクライナ情勢緊迫化の影響もあるが、輸入の減速はコロナ再発で上海港の機能が低下したことが大きい(図表-11)。
(図表-10)輸出入(ドルベース)の推移/(図表-11)上海港の国際標準コンテナの処理量
 
2 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。

4. 財政金融政策

4. 財政金融政策

財政政策に関しては、3月に開催された全国人民代表大会(全人代)で「積極的な財政政策は、パフォーマンスを向上させるため、さらに精確(精准)に焦点を当て、持続可能なものにする」という基本方針を決め、財政赤字(対GDP比)を「2.8%前後」に引き下げ、地方特別債は3.65兆元を維持し、感染症対策特別国債はゼロのままとした。また、足もとの景気悪化を食い止めるべく、地方特別債を前倒し発行してインフラ投資の促進に乗り出した(図表-12)。しかし、不動産規制強化の影響もあって地方財政を支える土地譲渡収入の伸びは鈍く(図表-13)、財政執行を前倒しする程度の措置だけでは成長率目標「5.5%前後」の達成が危ぶまれる。したがって、例年7月に開催される中央政治局会議では、下半期の財政政策をいかに手配するか注目される。
(図表-12)地方特別債残高の増加ピッチ/(図表-13)土地譲渡収入(推定値)の増加ピッチ
他方、金融政策に関して前述の全人代では、「通貨供給量・社会融資総量(企業や個人の資金調達総額)の伸び率が名目GDP成長率とほぼ一致」と前年と同じ基本方針を掲げた上で、「流動性を合理的かつ十分に維持する」と付け加え、景気を支える姿勢を打ち出した。そして、預金準備率を引き下げるなど量的な金融緩和を実施、1-3月期の通貨供給量・社会融資総量は名目GDP成長率(前年同期比8.9%増)を上回り、4月も高い伸びを維持した(図表-14)。しかし、事実上の政策金利とされるLPR(贷款市场报价利率)に関しては、22年に入り1年を0.1ポイント、5年以上を0.2ポイント引き下げただけに留まる(図表-15)。住宅バブルの再膨張を警戒してのことだろうが、景気が失速している時だけに、前述した中央政治局会議では金利政策に関する議論もあるだろう。
(図表-14)通貨供給量(M2)と社会融資総量/(図表-15)中国の金利の推移

5. 中国経済の見通し

5. 中国経済の見通し

1|メインシナリオ
以上を踏まえて、22年の経済成長率は実質で前年比4.2%増、23年は同6.6%増と予想している(図表-16)。COVID-19に関しては上海での爆発的感染が収束したあとも、全国各地で散発的な感染拡大が起きるものの、カギを握る上海のような中核都市での都市封鎖(ロックダウン)は回避できると想定した上で、現行のダイナミック・ゼロコロナ政策と全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で打ち出した財政金融政策の基本方針を堅持し、景気テコ入れ策は地方特別債の前倒し発行や住宅バブルを再膨張させない程度の利下げに留めると前提している。

22年1-3月期の実質成長率は前年比4.8%増と持ち直したものの、4月には上海ロックダウンで失速し景気インデックスは同2.1%減に落ち込んだ(3ページの図表-6)。5月には「復工復産(職場復帰・生産再開)」の動きが始まり、6月にはさらに正常化が進む見込みであることから、実質成長率はそれぞれ同2%前後、同6%前後と緩やかに持ち直し、4-6月期の実質成長率は同2%前後と見ている。その後も全国各地で散発的に感染拡大が起きるものの、カギを握る上海のような中核都市でのロックダウンは回避できると前提していることから、「復工復産」の本格化で製造業が回復し、それに「リベンジ消費」が加わってサービス産業も持ち直し、7-9月期は同4.3%増、10-12月期は同5.9%増と予想している(図表-17)。そして、23年以降は5%台の巡行速度(=大規模な政策支援なしで無理なく成長できる水準)での経済成長に戻ると予想する。
2|リスク要因
メインシナリオを崩す下方リスクとしては、(1)上海のような中核都市でのロックダウン再発、(2)ロシアに対する経済制裁が中国にも波及、(3)党大会に向けた権力闘争の激化が挙げられる。一方、ポジティブ・サプライズとしては、(1)地方特別債の追加発行、(2)COVID-19を季節性インフルエンザと同じように扱うと宣言、(3)不動産規制緩和とそれに伴う大幅利下げが挙げられる。
(図表-16)経済予測表/(図表-17)中国の国内総生産(GDP、前年同期比)
 
 

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三尾 幸吉郎

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(2022年05月27日「Weekly エコノミスト・レター」)

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