2022年05月09日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2021年決算数値等に基づく現状分析-

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3|Generali
Generaliは、2016年11月26日に開催した「投資家の日(Investor Day)」において、現在事業展開している市場を、(1)既に一定のプレゼンスを有して、規模があり魅力的な市場(6~9市場)、(2)プレゼンスが十分でないが魅力的な市場(16~18市場)、(3)魅力的な市場でもなくプレゼンスも無い市場(13~15市場)、の3つに分類して、(3)については合理化を進めることを計画している、と述べていた。

さらに、2020年11月19日に開催された「投資家の日」のプレゼンテーションにおいて、資本配分の最適化を図るため、保有契約の生命保険ポートフォリオをさらに売却する可能性があることを述べていた。

こうした考え方に基づいて、Generaliは、ここ数年、(1)2018年第1四半期にオランダの事業の売却、(2)2019年第1四半期にベルギー事業の売却、(3)2019年第2四半期にドイツのGenerali Lebenの株式のViridium Groupへの一部売却、(4)2020年第4四半期に英国の生命保険ランオフポートフォリオの売却、等により、保証利率の高い事業の売却を進めてきた。これらを通じて,520億ユーロの準備金を処分し、グループのソルベンシー比率を8%ポイント上昇させた、と述べている。

 (1)地域別の業績-2021年の結果-
Generaliは、欧州を中心に世界の50カ国程度で事業展開をしている。

各種の指標において、自国のイタリアに加えて、ドイツとフランスで高い構成比を有しているが、さらにその他の欧州の国々のいくつかにおいても有意なポジションを確保している。

一方で、他の欧州大手保険グループとは異なり、欧州域外でのプレゼンスは現時点ではあまり高くない。

アジアでは、 中国、香港、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ及びベトナムの8つの国と地域で保険事業を展開している。主要なセグメントは生命保険であり、保険料収入は主に貯蓄、年金、保障契約に集中している。生命保険事業は、中国、インド、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナムで、損害保険事業は、タイ、香港、インド、マレーシアで展開している。
保険事業の地域別内訳(2021年)/うち 欧州の主要国別内訳
Annual Reportによれば、欧州における生命保険と損害保険の市場シェア及びポジションについては、以下の通りとなっている。
Generaliの事業地域におけるランキングと市場シェア
(2)地域別の業績-2020年との比較-
2020年との比較では、グループ全体で、保険料(生保)は6%増加し、営業利益(生保)も7%増加した。

保険料(生保)は、6.0%増加したが、2020年のイタリアにおける約15億ユーロの一時的要因の影響を除くと9.5%の増加となる。このベースでのユニットリンク保険は36.1%(イタリアで51.7%、フランスで54.1%、ドイツで9.8%、スペインで39.9%、アジアで38.8%等)増加した。また、保障商品は6.0%増加(アジアで25.5%、イタリアで20.2%、ACEERで9.5%、フランスで4.7%等)した。一方で、グループのポートフォリオ再配置戦略に基づいて、貯蓄や年金商品は0.4%減少(イタリアで▲9.4%、フランスで25.8%、アジアで20.7%、ドイツで5.2%、スペイン▲8.6%、ACEER▲4.7%)した。

営業利益(生保)は、引受結果や投資結果が改善し、7.2%増加した。投資結果は金融市場のマイナス実績やスイスにおける保険契約者への保証のための準備金による影響を受けた。

一方で、新契約価値は、保険料の増加と収益性の改善の効果により、25%と大幅に増加した。
保険事業の地域別内訳(2020年から2021年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2020年から2021年に向けての増加額と進展率)
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Generaliは、2021年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

・2021年5月31日に、イタリアの保険会社SOCIETÀCATTOLICA DI ASSICURAZIONE SPAの全株式に対して、公開買付けを開始すると公表した。また、CATTOLICA ASSICURAZIONIの全株式に対して現金による公開買付けを開始すると公表。Generaliの保険料は、Cattolicaの購入により、58億ユーロが追加され、約760億ユーロとなり、元受保険料で欧州第3の保険会社になる。

・2021年5月31日に、AXAグループのギリシャ子会社であるAXA Insurance SAの買収を完了し、Alpha Bankとの20年間の独占販売契約を開始すると発表。

・2021年6月22日に、AXA とAffinの合弁事業の過半数の株式を取得する契約をマレーシアで締結し、MPI Generaliの100%の株式を購入する予定であると発表。具体的には、(1)GeneraliがMPI Generaliの現在の49%の株式保有を100%に引き上げ、(2)GeneraliがAXA Affin Life Insurance合弁事業の70%(AXAから49%、Affinから21%)の株式を取得し、AXA Affin General Insurance合弁事業の約53%(AXAから49.99%、Affin及びマイノリティから3%)の株式を取得、(3)AXA Affin General InsuranceとMPI Generaliは買収後に合併され、マレーシアを代表する損害保険事業の1つとなり、Generaliが70%の株式を保有、となる。この取引により、Generaliは、潜在力の高い市場でのリーダーシップの地位を強化するという戦略に沿って、マレーシアで第2位の損害保険会社になる。

・2021年9月17日に、SOCIETÀCATTOLICA DI ASSICURAZIONE SPAの支配権の取得及びCFAの第102条第4項に基づくその他の事前セクター承認について、イタリアの監督当局のIVASSから事前承認を受けたと発表。また、10月21日に、ASSICURAZIONI GENERALI SPA(「買付者」)は、SOCIETÀCATTOLICA DI ASSICURAZIONE SPA(「発行者」)の支配持分の取得について欧州委員会から承認を受けたと発表。11月4日に、公開買付けの最終結果が発表され、取引が完了。

・2021年 11月24日に、GeneraliとCRÉDITAGRICOLEASSURANCESが、Crédit Agricole Assurancesの医療専門家向け保険子会社であるLAMÉDICALEの買収について独占交渉を開始したと発表。なお、この取引に関しては、2022年2月1日に買収契約に署名したと発表された。

・2022年1月27日に、インドの損害保険会社Future Generali India Insurance Company Limited(FGLI) と 生命保険会社Future Generali India Life Insurance Company Limitedの両方で、最初の国際的プレーヤーとして、インドの保険合弁事業の過半数株主になると発表。その後3月30日に、関係者からの必要な全ての承認を受けた後、Industrial Investment Trust Limited(IITL)が保有するFGLIの全株式(約16%)の取得と、FGLIの追加株式の引受を完了し、インドの生命保険会社の過半数株主になったと発表。
4Aviva
2019年3月にAvivaのグループCEOに就任したMaurice Tulloch氏は、複雑な事業体構成を見直し、より強い説明責任と経営の焦点を絞る図る観点から、英国の生命保険と損害保険事業を分割し、アジア事業の戦略的選択肢を検討していくと述べていた。また、これにより最大20億ドルの価値のある取引でアジア事業を売却すると想定していた。その後、2020年7月にAmanda Blanc 氏がCEOに就任し、この戦略を引き継いだ形になっている。

Avivaは、以前は世界の十数カ国で事業展開し、英国、フランス、ポーランド、アイルランド、イタリア、カナダ、シンガポール、Aviva Investorsを8つの主要市場(Major markets)として位置付けていた。ただし、現在はポートフォリオを簡素化するための戦略として、英国、アイルランド、カナダの事業等のグループのコア市場(Core Markets)に焦点を置く「持続可能で耐性力のある」方針を推進している。この戦略に従って、2020年には、セグメントの管理を「英国&アイルランド(生命保険)」、「損害保険(英国&アイルランド&カナダ)、「Aviva Investors」及び「Manage-for-value」に区分し、英国、アイルランド、カナダ以外の事業は「Manage-for-value」で管理され、戦略的な目標を満たさない場合には撤退する方針を掲げていた。この考え方に従って、Avivaは、2020年に、アジアのシンガポールのマジョリティ、インドネシアや香港のジョイントベンチャー、ベトナム事業等の売却を完了し、さらに、2021年に入ってからもフランス、イタリア、ポーランド及びリトアニアの事業の売却を完了している。

(1)地域別の業績-2021年の結果-
英国での生命及び貯蓄市場のシェアは25%(ABIの2021年9月末までの12か月ベース統計による)で、英国で最大の保険会社となっている。また、アイルランドの生命保険市場では第4位となっている。また、英国とアイルランドの損害保険市場におけるリーディング保険会社で、英国では第1位、アイルランドでは第3位となっている。さらに、カナダの損害保険市場では8%のシェア(2020 MSA Research Results)で第3位となっている。

事業の売却を推進してきた結果、Avivaの保険料、営業利益の8割程度は欧州からのものとなっている。欧州では、英国&アイルランド(生保&医療)が保険料では55%だが、営業利益では63%を占めている。それ以外では英国&アイルランド(損保)とカナダがそれぞれ2割弱となっている。なお、営業利益(生保&医療)の殆どが英国&アイルランドからである。
保険事業の地域別内訳(2021年)
(2)地域別の業績-2020年との比較-
先に述べたように、Avivaは2020年に引き続いて、2021年に多くの事業を売却していることから、2020年との比較には注意が必要になっている。

営業利益が28%と大きく減少しているのは、(1)フランス、イタリア等の事業売却の影響により、「その他」の数値が大きく減少(なお、非継続事業の営業利益のうち生保&医療分は未公表のため反映できていない)、(2)英国&アイルランド(生保&医療)が、経営措置やその他の影響により大きく減少(これらの影響を除くと6%の減少)、したことによる。一方で、英国&アイルランド及びカナダの損害保険事業については、保険料が増加し、2020年に比べてCOVID-19の影響も低下したことから、営業利益も大きく増加した。

なお、新契約価値は、非継続事業の影響で15%と大きく減少した。また、英国&アイルランド(生保&医療)の新契約価値は、クレジットスプレッド環境の悪化を反映して若干減少した。
保険事業の地域別内訳(2020年から2021年に向けての増加額と進展率)
(参考)地域別ROEの状況
Avivaは、地域別のROEを開示している。全体では11.3%で、2020年の12.3%からは1%ポイント低下した。
保険事業のSolvency IIROE(資本収益率)の地域別状況
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Avivaは、2021年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

・2021年2月23日に、フランス事業の32億ユーロでの売却を承認したと発表。この取引はUFF(Aviva France)のフランスの生命・損害・資産管理事業と75%の株式をカバーしている。これによるAvivaへの影響は、(1)ソルベンシーII資本剰余金が約8億ポンド増加し、ソルベンシーII比率が約22%ポイント増加、(2)180%のソルベンシーII比率を超える超過資本が約21億ポンド増加、(3)IFRS純資産価値が約5億ポンド減少、となる。この取引は、規制当局の承認を含む協議及び慣習的な条件の対象であり、2021年末までに完了する予定であると発表。

・2021年2月24日に、トルコでの合弁事業であるAviva SA Emeklilik ve Hayat AS(「Aviva SA」)の40%の株式を、1億2,200万ポンドの現金対価で、Ageas Insurance International NVに売却することに合意したと発表。この取引により、AvivaのIFRS純資産価値及びソルベンシーII資本剰余金が約1億ポンド増加すると想定されている。この取引は、規制当局の承認を含む通常の完了条件の対象であり、2021年に完了する予定であると発表。

・2021年3月4日に、イタリアの生命保険及び損害保険事業(「Aviva Italy」)の残りを8億7,300万ユーロの現金で売却(生命保険事業をCNP Assuranceに5億4,300万ユーロで売却、損害保険事業をAllianzに3億3000万ユーロで売却)することを発表。これによる財務への影響は、(1)ソルベンシーII資本剰余金が約2億ポンド増加し、ソルベンシーII比率が約7%ポイント増加、(2)180%のソルベンシーII比率を超える超過資本が約7億ポンド増加、(3)IFRS純資産価値が約2億ポンド減少、となる。この取引は、規制及び独占禁止法の承認を含む慣習的な完了条件の対象であり、2021年後半に完了する予定であると発表。

・2021年3月26日に、ポーランド及びリトアニアの事業であるAviva Poland の全株式を25億ユーロの現金対価でAllianzに売却すると発表。

・2021年4月1日に、イタリアの生命保険合弁会社であるAviva Vita SpAの80%の株式の売却を完了したことを発表。

・2021年9月30日に、フランス事業のAviva FranceのAéma Groupeへの売却が完了し、現金対価で28億ポンド (32億ユーロ)を受け取ったと発表。

・2021年11月30日に、Aviva Polandの全株式をAllianzに売却し、現金対価で25億ユーロを受け取ったと発表。

・2021年12月1日に、イタリアの生命保険事業のCNP Assurancesへの売却が完了し、現金対価で4億6,200万ポンド (5億4,300万ユーロ)を受け取ったと発表。

・2021年12月20日に、持続可能性に焦点を当てたベンチャーキャピタルファンドであるCleanGrowth Fundに5000万ポンドを投資すると発表。

・2021年12月29日に、Aviva Vietnamの全株式のManulifeへの売却を完了したことを発表。この取引は2020年12月14日に公表されていた。
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中村 亮一

研究・専門分野

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