2022年05月09日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2021年決算数値等に基づく現状分析-

中村 亮一

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3―欧州大手保険グループ各社の地域別の事業展開状況

ここでは、欧州大手保険グループ各社の生命保険事業について、保険料、営業利益に加えて、資産、EV(Embedded Value)8及び新契約価値等の状況を地域別に報告する。

さらに、各社の地域別の事業展開に関係するトピックについても報告する。これについては、保険年金フォーカス「欧州大手保険グループの2021年末SCR比率の状況について(3)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(資本取引等)-」(2022.4.12)から、地域別の事業展開に関する記述を抜粋している。
 
8 欧州大手保険グループは、これまでEEV(ヨーロピアンEV)とMCEV(市場整合的EV)のいずれかに基づくEV(Embedded Value:エンベデッド・バリュー)を地域別や各国別に公表してきていたが、ソルベンシーII導入後の2017年以降は公表しない会社やグループ全体又は地域別の数値のみの公表に留める会社もある等EVの開示の見直しを行ってきている。
1|AXA
AXAは、世界の50カ国で保険事業と資産管理事業を展開している。

AXAは、中国、インドネシア、フィリピン、タイを「Asia High Potentials」として位置付けていたが、インドネシア、タイ、フィリピンでは既に高いプレゼンスを有している。さらに、メキシコとブラジルを「High Potentials」と位置付けている。

なお、AXAは2018年3月に、XL Groupを153億ドルで買収し、年間保険料総額300億ユーロを有する世界的な損害保険会社を構築することを公表し、この買収について、当時のThomas Bubert CEOは、「L&S(生命及び貯蓄保険)事業中心から、P&C(損害保険)事業中心に、そのビジネスプロファイルを移行していく独特の戦略的機会である。」とし、「将来のAXAのプロファイルは、金融リスクから離れて、保険リスクに向かって大きくリバランスされていくことになる。」と述べていた。

また、XL Groupの買収及びEquitableの売却完了により、このリスクプロファイルの変換が進み、さらに金融市場に対してあまり感応的でない損害保険、医療及び保障事業を加速していく、としていた。

(1)地域別の業績-2021年の結果-
自国のフランスの構成比は、ほぼどの指標でも3割前後となっている。自国以外の欧州では、ドイツ、スイス、ベルギー、イタリア等の位置付けが高くなっているが、スペインや英国&アイルランドも有意な水準となっている。

米州においては、AXA Equitableの売却により、米国の生命保険及び貯蓄市場から撤退しており、AXA XLの損保事業が中心になっている。

どの指標で見ても、日本を含むアジアの位置付けが高くなってきている。特に、新契約価値ベースでみると、アジアの構成比が43%(2020年は40%)となっている。

なお、AXAは、EEVをかつては国別に開示していたが、2017年以降は地域別のみの開示となっている。
保険事業の地域別内訳(2021年)/うち 欧州の主要国別内
Annual Reportによれば、生命保険と損害保険の市場シェア及びボジションについては、以下の通りとなっており、欧州やアジアの国々で高いプレゼンスを確保している。

例えば、日本でのシェア(かんぽ生命除きの2021年9月末までの12か月ベース)は、生命保険は5.1%(前年報告では3.9%、以下同様)で第7位(第11位)、その市場規模から、2021年では、AXAグループ全体の営業利益(生命・貯蓄・医療)の中で21.3%(21.7%)と高い位置付けを有している。
AXAの事業地域におけるランキングと市場シェア
(2)地域別の業績-2020年との比較-
2020年との比較上は、為替の影響に加えて、2020年10月の中東欧事業の売却、2021年9月の湾岸地域事業の売却の影響(保険料で、それぞれ6億ユーロ、3億ユーロ)及び2021年1月1日以降のスイスでの特定の団体生命保険の保険料の貯蓄部分の公助(3億ユーロ)を考慮する必要がある。この比較ベースによると以下の通りとなっている。

生命保険及び貯蓄の総収入は33,306百万ユーロで9%増加したが、ユニットリンクが25%(フランスで31%、香港で62%、スペインで39%等)増加、一般勘定貯蓄が5%(フランスで18%、日本で60%、イタリアで▲27%)増加、保障が5%(香港で13%、日本で9%、フランスで5%)増加した。

医療の総収入は15,222百万ユーロで5%増加したが、団体保険で9%(フランスで12%、AXA Assistanceで14%、メキシコで7%)増加、個人保険で3%(ドイツで4%、メキシコで13%、中国で▲59%)増加した。

営業利益は、2020年にCOVID-19の影響(▲1,547百万ユーロ)と自然災害の影響(▲502百万ユーロ)を大きく受けていた損保事業が大きく改善したことにより、38%増加したが、営業利益(生命・貯蓄・医療)は1%の増加にとどまっている。中東欧とギリシャ事業の売却による影響は▲26百万ユーロとなる。ユニットリンク管理手数料等の増加(+146百万ユーロ)、技術マージンの改善(+87百万ユーロ)のプラス要因と事業費の増加(▲57百万ユーロ)、所得税の増加(▲47百万ユーロ)、投資マージン(▲46百万ユーロ)のマイナス要因を反映している。
保険事業の地域別内訳(2020年から2021年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2020年から2021年に向けての増加額と進展率)
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
AXAは、2021年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

・2021年5月31日に、ギリシャの生命保険事業及び損害保険事業をGeneraliへ総額1億6,700万ユーロの現金で売却することを完了したと発表

・2021年6月22日に、マレーシアでの保険事業をGeneraliに売却する契約を締結したことを発表。これには、AXA Affin General Insurance(「AAGI」)の49.99%の株式保有、及びAXA Affin Life Insurance(「AALI」)の49%の株式保有が含まれる。契約条件に基づき、AXAはAAGI及びAALIの所有権を6億88百万リンギット(又は1億4百万ユーロ)の現金対価で売却。

・2021年8月16日に、AXA Insurance Pte Ltd(「AXA Singapore 」)をHSBC Insurance(Asia-Pacific)Holdings Ltd (「HSBC」)に総額575百万米ドル(又は487百万ユーロ)の現金対価で売却する契約を締結したと発表。この取引については、2022年2月11日に、現金対価総額5.29億米ドル(4.63億ユーロ)での売却を完了したと発表。

・2021年9月7日に、AXA Gulfの50%の株式と、AXA Cooperative Insurance Company(サウジアラビア)の34%の株式を、2億6,400万米ドル(又は2億2,200万ユーロ)の現金でGulf Insurance Groupに売却したと発表。

・2021年9月8日に、インドの損害保険事業であるBharti AXA General Insurance Company Limited(「Bharti AXA GI」)をICICI Lombard General Insurance Company Limited(「ICICI Lombard」)に統合したと発表。

・2021年12月31日に、ベルギーの銀行業務であるAXA Bank BelgiumをCrelan Bank NV/SA(「Crelan」)に691百万ユーロで売却することを完了し、さらに、AXAとCrelanは、2022年1月1日に発効する長期のP&C及び保障保険販売パートナーシップを締結し、AXA Bank BelgiumとAXA Belgiumの間の既存のパートナーシップをCrelanネットワーク全体に拡大すると発表。この取引の完了により、2021年第4四半期のAXAグループのソルベンシーII比率に4%ポイントのプラスの影響が見込まれるとした。
Allianz
Allianzは、世界の70カ国以上で生命保険、損害保険事業、資産管理事業等を展開している。

Allianzは、以前に生命保険事業の主要な市場として、ドイツ、フランス、イタリア及び米国を挙げていたが、これらの市場における保険料や営業利益の構成比が大きなものとなっている。

(1)地域別の業績-2021年の結果-
Allianzの生命保険事業の営業利益は、自国のドイツの構成比が29%(2020年は32%)、フランス、スペイン、イタリア等の主要国からも有意な収益を上げており、欧州全体で64%(2020年は68%)の構成比となっている。

米国の子会社であるAllianz Life Ins Groupは、2021年末の認容資産ベースで、米国の生命保険・健康保険グループで第17位(2020年末は第16位)となっており、その営業利益のグループ全体における構成比は27%(21%)となっている。

アジア・太平洋は、保険料、営業利益、MCEV、新契約価値の各指標で1割程度の構成比となっている。
生命保険事業(Life/Health insurance)の地域別内訳(2021年)/うち 欧州の主要国別内訳
(2)地域別の業績-2020年との比較-
2020年との比較では、生命保険事業の法定保険料は6%増加し、営業利益は15%増加した。

法定保険料は、為替換算のマイナス要素(▲766百万ユーロ)はあったものの、連結によるプラスの影響もあり、5.8%の増加(社内ベースでは6.8%の増加)となった。この社内ベースでは、ドイツの生命保険事業で一時払保険料の低迷により9.0%減少したものの、医療保険事業では保険料調整と完全医療保険の好調な新契約により4.1%増加した。米国では固定インデックス年金商品や非伝統的な変額年金商品の好調により、37.9%増加した。イタリアでは保証無しのユニットリンク保険の販売好調により12.3%増加した。フランスではハイブリッド商品の好調な販売により5.1%増加した。アジア太平洋では、主として、インドネシア、台湾、フィリッピンにおけるユニとリンク商品の好調な販売により15.7%増加した。

営業利益については、高い責任準備金ローディングを有する非伝統的な変額年金商品の好調な販売や投資マージンの改善に加えて、昨年の米国における損失認識の影響がなくなったことを主たる要因として15.0%増加した。その他に、イタリアにおけるユニットリンク管理手数料の増加、フランスにおける置かれる投資マージンの改善、ドイツの生命保険・医療保険事業における技術マージンの改善等のプラス要因とベネルクスにおける管理システムの償却によるマイナス要因があった。繰延新契約費の資産計上により、高い新契約コストの多くは補填された。

MCEVは、経営行動や好調な経済環境と新契約販売の影響で、グループ全体では18.8%増加した。米国では再保険取引の影響もあり27.2%増加し、アジア・太平洋ではモデル変更の影響もあり40.6%増加した。

新契約価値については、商品ミックスの改善と販売拡大により、グループ全体では45%増加した。欧州ではフランス、スペイン、イタリアでの販売拡大等により大幅に増加したことで、地域としても30%の増加、米国では規模、商品ミックス、前提のそれぞれの影響により121%増加と倍増した。
生命保険事業(Life/Health insurance)の地域別内訳(2020年から2021年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2020年から2021年に向けての増加額と進展率)
(参考)地域別のROE
グループ全体のROEは0.2%ポイント増加して13.0%となった。Allianzは、地域別のROEを以下の通り開示している。これによれば、2021年においては、2020年と同様に各地域において10%程度を超える水準を確保している。
生命保険事業のROE(資本収益率)の状況
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Allianzは、2021年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

・2021年1月28日に、Allianz China Insurance Holdingが、中国で最初の完全に外資系の保険資産運用会社を設立するための承認を受け、2021年2月5日には、Allianz China LifeがAllianz China Insurance Holdingの完全子会社となると発表。

・2021年3月4日に、Avivaグループのイタリアの損害保険会社であるAviva Italia S.p.A.を買収することを発表。なお、この取引は約3.3億ユーロ相当の価値があり、2021年10月1日に完了。

・2021年3月26日に、Avivaグループから、ポーランドにおける生命保険及び損害保険事業、年金及び資産管理事業を買収し、SantanderとのAvivaの生命保険及び損害保険の合弁事業の51%の株式を取得することに合意したと発表(これは、25億ユーロに相当する取引)。これによりAllianzは、ポーランドでは、総保険料に基づいて、全体で5番目に大きい保険会社になり、生命保険セグメントで2位に上昇することが見込まれ、また、営業利益の面で中東欧において第2位になることが想定され、中東欧での主導的地位が強化されたと公表。

・2021年4月1日に、AllianzとMonument Reは、ベルギーでのAllianzのクローズド生命保険ポートフォリオの一部の売却を完了したと発表。

・2021年5月4日に、ケニアのJubilee General Insurance Limitedの過半数の株式の取得を完了したと発表。

・2021年7月1日に、Allianz AustraliaがWestpacの損害保険事業を買収する取引を完了し、Westpacの顧客に損害保険商品を販売するための20年間の独占契約を開始したと発表。

・2021年7月30日に、Allianz Insurance Asset Managementが、中国で最初の完全外資系保険資産管理会社になるための承認を受けたと発表。

・2021年9月30日に、Resolution Reが、Allianz Suisse Lifeの個人生命保険商品のレガシーポートフォリオ(準備金で約40億スイスフラン)の市場リスクと保険リスクを引き継ぐ革新的な再保険ソリューションに合意した、と発表。

・2021年10月25日に、Jubilee Insurance Company of Uganda Limitedの過半数の株式の取得を完了したと発表(この取引は、2020年9月にJubilee Holdings Limited (JHL)と締結した契約の一部)。また、ケニアの取引も完了し、タンザニア、ブルンジ、モーリシャスについては、規制当局の承認を条件としてフォローしていくと発表。

・2021年11月17日に、Allianz China Lifeが、合弁会社から発展した中国で最初の100%外資系の生命保険会社になるための規制当局の承認を受けた、と発表。

・2021年11月30日に、2021年3月26日に発表されたポーランドとリトアニアでのAvivaの事業の買収が完了した、と発表。

・2021年12月3日に、米国の固定インデックス年金ポートフォリオ(350億ドルの負債)について、Resolution LifeとSixth Streetの関連会社との再保険契約を締結した、と発表。この取引により、41億ドルの価値が解き放たれて、Allianzの規制資本が解放される。Allianz Lifeの株主資本利益率は、約6%ポイント改善して約18%になり、グループレベルでは、2021年9月末のプロフォーマベースでAllianzのソルベンシーII比率が約9%ポイント向上して216%になる、と予想されている。この取引は、2022年1月7日に完了したと発表された。

・2022年1月4日に、Allianz Franceの貯蓄契約ポートフォリオ(ユニットリンク資産の60%で総額21億ユーロ)をCNP Assurancesに譲渡することを発表。

・2022年2月11日に、European Relianceの72%を2.07億ユーロ相当で取得する株式購入契約を発表。統合された会社はギリシャでナンバーワンの損害保険会社になる、としている。

・2022年3月24日に、Allianz Ayudhya Capital PCL(AYUD)がAetna Thailandを買収し、タイの保険市場でのプレゼンスをさらに拡大すると発表。
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中村 亮一

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