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- 英国金融政策(5月MPC)-4会合連続の利上げを決定、成長率見通しは大幅下方修正
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1.結果の概要:4会合連続での利上げを決定
【金融政策決定内容】
・政策金利を1.00%に引き上げ(0.25%の利上げ、6対3で3人は1.25%への引き上げを支持)
【議事要旨(趣旨)】
・成長率見通しは、22年3.75%、23年▲0.25%、24年0.25%(23年以降を大幅下方修正)
・CPI上昇率は、22年10.25%、23年3.5%、24年1.5%(10-12月期の前年比、22年を大幅上方修正)
・委員会の大半の委員(most members)は今後数か月での幾分かの引き締め(some degree of further tightening)が適切かもしれない(may be)と判断した。一方、何人かの委員(some members)は、政策期間における経済活動とインフレ率のリスクバランスはより均衡しているとして、ガイダンスが適切ではないと判断した
2.金融政策の評価:成長率見通しを大幅下方修正
決定に関しては、6対3で3人は政策金利の0.50%ポイントの引き上げを支持したため、タカ派の意見もあった。一方、議事要旨によれば、今後の金融姿勢に関するガイダンスについては、「幾分かの引き締めが適切かもしれない」と記載されたものの、よりリスクバランスが均衡しているとしてこのガイダンスが適切でないとの意見も出ている(2名の委員)。利上げ積極派と慎重派の意見の開きが大きくなっていると見られる。
今回は会合に合わせてMPR(金融政策報告書)が公表され、市場予想の政策金利経路を前提とした成長率とインフレ率の見通しが公表された。この見通しの前提は、市場予想の政策金利経路は政策金利を23年に2.5%まで引き上げるもので、その結果、GDP成長率見通しは23年にはマイナスに転じることになりインフレ率は22年に10%を超えたのち、24年には1%台半ばに低下する。
報告書では代替シナリオとして政策金利を1%に維持した場合の見通しも示されている。このシナリオではGDP成長率がマイナスに転じることはないものの、今年後半から1%前後の成長率となることが想定されており、この場合も停滞感は強い。またインフレ率については見通し期間を通じて2%を超えた状況となる。
金融政策としては、利上げを進めるなかで景気を冷やしすぎない政策金利の到達地点が注目されるが、今回のMPRでは供給ショックによる高インフレと、その家計部門への影響が大きくなっており、金融政策いかんにかかわらず一定の成長鈍化は避けられないことが示されたと言える。
現時点での委員の見方にはバラツキがあるが、今後、成長率の鈍化が顕在化すれば、(むしろ将来の供給超過を招くため)利上げペースを落とすべき、という判断に傾く可能性がある。英国では報告書でも想定されている通り、公共料金の引き上げにより年後半にさらなるインフレ率の上昇が見込まれているだけに、市場との対話をはじめ金融政策の舵取りが難しくなる場面が続くと見られる。
3.金融政策の方針
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、経済成長と雇用を支援する
- 委員会は政策金利(バンクレート)を1.00%に引き上げる(6対3で決定1、0.25%ポイントの引き上げ)、3名は0.50%ポイント引き上げ、1.25%にすることを主張した
1 今回の反対票はハスケル委員、マン委員、ソーンダース委員。なお、前回は1名が反対票を投じており、カンリフ委員(副総裁)で0.50%に維持することを主張した。
- 世界的なインフレ圧力は、ロシアのウクライナ侵攻後に急激に高まっている
- これにより、世界および英国の成長率見通しも大幅に悪化している
- これらは英国やその他の国が直面している深刻な供給制約を悪化させている
- ロシアのウクライナ侵攻と中国でのコロナ禍によって、さらなる供給網の混乱懸念が高まっている
- 英国の22年1-3月期のGDPは0.9%ほど上昇したと推計され、これは2月のMPR(金融政策報告書)の見通しよりも強い
- 失業率は、21年12-22年2月に3.8%まで低下し、労働市場のひっ迫が続いていること、現時点で経済が超過需要であることから、今後数か月でさらに低下すると見られる
- 経済活動に関するサーベイ調査は引き続き強い
- しかしながら、小売売上高や消費者信頼感からの指標には、実質の可処分所得の縮小が家計部門の重しになり始めているという兆しがみられる
- 4-6月期のGDP水準はほぼ横ばいになると見られる
- CPI前年比上昇率は2月の報告書より、1%ポイントほど高く、3月には7.0%に達した
- 2%目標と比較して強いインフレ率は、これまでの世界的なエネルギー価格の上昇や、耐久財需要へのシフトや供給網の混乱によって生じた貿易財価格の上昇を反映している
- 委員会は、更新した経済活動とインフレ率の中央見通しを5月のMPRで公表した
- 見通しは市場の政策金利予測に基づき、23年半ばまでに2.5%程度まで上昇し、その後見通し期間にかけて2%まで低下することを前提としている
- 財政政策は、政府の公表された政策に従うことを前提としている
- 卸売エネルギー価格は、6か月先までは先物価格に連動して、それ以降は横ばいとしており、先物価格の今後数年にわたって低下する動きとは異なっている
- これらの前提には大きな不確実性がある
- 5月の報告書の中央見通しでは、CPIインフレ率が今年、さらに上昇、22年4-6月期に9%を超え、10-12月期のピークには10%を超えると予想されている
- さらなる上昇の主因として、ガス電力市場監督局(Ofgem)が4月に公共料金の上限を大幅に引き上げ、また10月にも引き上げるため、家計のエネルギー価格が上昇することが反映されている
- 上限価格引き上げの仕組みは、卸売ガスやエネルギー価格、先物価格上昇のしばらく後に家計のエネルギー価格上昇に反映されるということを意味している
- 上限価格の引き上げにより、英国のCPI上昇率は他の多くの国より遅れる形でピークに達し、その後に低下するという可能性が高い
- CPIインフレ率の上昇見通しはまた、食料品やコア財・サービスの価格上昇の影響も反映されている
- 名目の基調的な賃金上昇率は、2月の報告書で予想されていたよりも強く、また、労働市場のひっ迫とインフレ圧力の強まりを受けて、今後数か月でさらに強まると見られる
- 企業は一般的に見て、短期的には、費用は急激に上昇しているが、販売価格を引き上げることで、収益をある程度確保することができると報告されている
- それにも関わらず、5月の中央見通しでは、英国の成長率は見通し前半に急激に鈍化することが想定されている
- これは主に、世界的なエネルギーと貿易財の価格の高騰による、多くの英国家計の実質所得と企業収益への大きな負の影響が反映されている
- 失業率は短期的にはさらに低下すると見られるが、3年間で需要が鈍化することで5.5%まで上昇すると予想している
- 供給超過は見通し期間で2.25%まで増加する
- 金融政策は、CPIインフレ率の上昇圧力が、時間が経過するにつれて解消されていくと見られるなかで、長期のインフレ期待を2%の目標に固定することである
- 中央見通しでは、世界的な商品価格は上昇しないとの前提が置かれており、供給制約が緩和され、需要の伸びが弱まり供給超過が増加するなかで、インフレ圧力が解消されるとしている
- 市場の政策金利予測と将来のMPCによるエネルギー価格前提の慣例のもとで、CPIインフレ率は、主に外部要因の影響が解消されることで、2年間で2%目標をやや上回る水準となり、主に国内のインフレ圧力が弱まることで、3年間で1.3%と目標を下回る水準に下落すると予想されている
- インフレ見通しへのリスクは、名目賃金上昇の持続や国内の物価設定が想定より強いといった要因により、上方に傾いていると判断された
- MPCの責務は、英国の金融政策枠踏みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
- この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
- 経済はかなり大きなショックを繰り返し経験してきた
- ロシアのウクライナ侵攻もこうしたショックである
- 特に、最近の動向は、中央見通しで仮定されているように持続的であり、世界的なエネルギー価格と貿易財の高騰は、純輸入国である英国にとって、家計の実質所得や企業収益の重しになると見られる
- これは金融政策では防ぐことができない類のものである
- 金融政策の役割は、実体経済の調整が発生した際に、生産量の望ましくない変動を最小限に抑え、2%目標の中期的な持続を達成するよう一貫した行動をすることである
- 最近の状況は、CPIインフレ率の短期的なピークと中期的なインフレ圧力への負の影響の双方を悪化させている
- 現在の労働市場のひっ迫と、国内の費用価格や物価上昇が持続する兆しが続いていること、これらが継続するリスクのため、委員会は今回の会合で政策金利の0.25%ポイントの引き上げを決定した
- 更新された経済見通しの評価に基づいて、委員会の大半の委員(most members)は今後数か月での幾分かの引き締め(some degree of further tightening)が適切かもしれない(may be)と判断した
- この判断へのリスクは上下双方にあり、また委員におけるリスクバランスの見方は幅広い
- 委員会は、金融政策姿勢の調節としては、多くの状況下で政策金利を政策手段として能動的に利用することを志向することを再確認した
- 政策金利は1%まで引き上げられたことを受け、MPCが以前公表したガイダンスに従い、資産購入策で保有している英国債の売却を開始することの検討を始める
- 委員会は売却の開始決定は、その時点の市場環境を含む経済の状況に依存し、また売却は段階的(gradual)かつ予測可能(predictable)な方法で実施することで、金融市場の機能を損ねないことを再確認した
- 委員会は、潜在的な売却策に関する明快な枠組みが市場参加者の利益になることを認識している
- そのため、委員会は、スタッフに対して英国債売却に関する戦略作成と、8月会合での更新情報の提供を依頼した
- これにより、委員会がその後の会合で売却開始を行うかどうかの決定が可能になるだろう
(2022年05月06日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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