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デイサービス車両は高齢者の移動を支える「第三の交通網」を形成できるか(上)~群馬県発「福祉ムーバー」の取組から~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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供給が追い付いていない原因として私が考えているものとして、一つは高齢者のニーズが供給側に理解されていない点があると思います。もう一つは、供給側に人手不足という構造的な問題がある。そのような問題にどう対応し、これから益々高齢化と人口減少が進む中で、どのように持続可能な社会を構築していくことができるかについて、この企画で探っていきたいと思っています。
先に私の考えを申し上げると、これらに対応していくためには、まずもって事業者が高齢者のニーズが何なのかを理解することが重要だと思いますし、人手不足を解決するためには、DX(デジタルフォーメーション)やAIなど、高度技術の活用が必要でしょう。また、人やモノなど、有限な資源を有効活用するため、シェアするという方法もあると思います。さらに必要に応じて、法制度の見直しも視野に入ると思います。
今日のテーマの「福祉ムーバー」は、福祉と交通にまたがるトピックですが、いま申し上げた論点を全て含んでいると思いますので、皆さんで幅広くディスカッションできればと思います。
デイサービスへの送迎車両が、走行中に、利用者を別の目的地にも送迎。追加コストを抑えて新たな移動サービスを行う。
まず簡単に、福祉ムーバーについて紹介します。デイサービスの利用者さんは、スマートフォンの専用アプリを使ったり、コールセンターに電話したりして、送迎の予約をします。予約に合わせて、システムが、いちばん近くを通る車両を選び、配車指示を出します。これによって、最も効率的な配車と運行ができます。送迎車両に搭載された専用タブレットには、利用者さんの自宅位置や走行ルート、送迎順序などが表示されます(写真1)。
利用者さんによって、様々な注意事項があるので、その情報もタブレットに表示されます。例えば「お宅を出る時に2階の長女に声を掛けて」、「玄関の押し車を持ってきてください」と言う具合です。これによって、送迎時のヒューマンエラーが起きにくくなります。これが第一フェーズです。
システムの管理画面では、エリアの地図を表示すると、走行中の車両の位置がすべて表示され、誰を迎えに行っているか、空きシートがあるかどうかなどが分かります。福祉ムーバーには現在、高崎市内だけでも350人ぐらいが登録しています。
北嶋氏: 一つのデイサービス施設の車両台数が少なくても、地域の介護事業者がみんなで協力して実施すれば、地域全体で200台、300台という台数になります。数が増えれば増えるほど効率が上がり、依頼通りに、いろんなところへ送迎できるようになります(図表3)。ただし、朝はまんべんなく車両が走っていますが、デイサービスへの送迎が終了する昼間は走行台数が減るので、工夫しないといけないと思っています。
僕は福祉ムーバーを「パソコンを使った高齢者のヒッチハイク」だと言っています。デイサービス施設の利用者向けサービスとしてやるので、法人の垣根を越えてやりたい。例えば、一つの地域に異なる介護事業の法人があるので、利用者の自宅の位置によっては、別の法人の車両が迎えに行った方が早い、ということもあるのです。そうするとお互い様で、福祉業界の人達は、地域に貢献する活動をしたいと思っているところが多いので、これまでの実証実験でも反対は少なかったです。地域の高齢者の皆さんも、非通所日にもそのようなサービスをしてくれるところと、してくれないところがあったら、してくれるデイサービス施設を選ぶでしょう。
今後、福祉ムーバーのプラットフォームに参加するデイサービス施設には、非通所日に送迎をすれば、お金が落ちる仕組みにしたいと思っています。ソーシャルアクション機構とデイサービス施設で対価を折半できるような仕組みを構築するために、今、案を練っているところです。
事業所の業務効率化の必要性と、利用者の生活の質を上げるために構想をスタート
このように、福祉ムーバーは元々、自分たちの送迎業務の効率化から始まったのですが、どうせシートが空いているなら、デイサービス施設以外の送迎にも使っていただけたら、地域の高齢者の皆さんにとっても良いのではないかと思いました。それで移動支援をやっていこうと、実際に社内で開発をスタートしたのが6年前です。構想を入れると7年ぐらい前になります。
昨年2月までは、経済産業省の実証実験に採択されて、新潟、栃木、群馬の3エリアで、17事業所が参加し、計222車両を使って、第二フェーズである非通所日の送迎も行いました。前橋市のスーパーシティ構想にも入っていますし、直近では、岸田総理肝入りの「デジタル田園都市国家構想」にも、前橋市の提案の内容に取り入れられました。このように、国の実証実験の公募には、県や市町村から申請するので、市町村から、福祉ムーバーを中核の取組に使いたいとオファーを頂いてやってきています。
坊: 今、ご紹介して頂いたのは、事業運営としての側面です。同じ法人の送迎車両が同じ時間帯に、同じエリアをバラバラに走行していて、交差点で会って「ああ」と挨拶をすると、互いのシートが空いていると(笑)。そういったことから、もっと業務を効率化していこうという話でした。
それに加えて、北嶋さんは、利用者さんの視点で構想を始めたとお聞きました。利用者さんは、デイサ-ビス施設に来る時は一生懸命リハビリをやっているけど、そうじゃない日はどうしているのかというところから、外出を促して介護予防を進めるために、移動サービスが必要だと考えられたということでしたね。
(2022年04月27日「ジェロントロジーレポート」)
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- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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