2022年04月22日

中国経済の現状と当面の注目点-財政・金融・ゼロコロナの3つの政策運営に注目!

三尾 幸吉郎

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1. 中国経済の概況

中国国家統計局は4月18日、22年1-3月期の国内総生産(GDP)を発表した。経済成長率は実質で前年同期比4.8%増と1年ぶりに前四半期を上回った。しかし、需要別・産業別の内訳を見ると先行きに不安を残す内容だった。コロナ危機後の中国経済を振り返ると(図表-1)、コロナ禍が直撃した20年1-3月期には前年同期比6.9%減と大きく落ち込んだ。しかし、中国政府(含む中国人民銀行)がコロナ対策のために財政金融をフル稼働させたため20年4-6月期には同3.1%増とプラス成長に転じ、その後も順調に持ち直して21年1-3月期には同18.3%増の高成長となった。その後、コロナ対策で緩んだ財政規律を引き締めるとインフラ投資が鈍化、コロナ対策で中断していた債務圧縮(デレバレッジ)を再開すると不動産危機が発生し、3四半期連続で減速することとなった。そして、22年1-3月期には前四半期を上回ったものの前期比では再び下回った(図表-2)。
(図表-1)中国の国内総生産(GDP)/(図表-2)中国の国内総生産(GDP、前期比年率)
一方、インフレの状況を見ると、22年1-3月期の工業生産者出荷価格(PPI)は国際的な資源エネルギー高を背景に前年同期比8.7%上昇した。他方、消費者物価(CPI)は同1.1%上昇と低位に留まっている。しかし、その背景には豚肉などの食品の値段が下落したことがあり、PPIの上昇を受けて交通通信費は3月に5.8%上昇、うち輸送用燃料は24.1%上昇した(図表-3)。ウクライナ情勢は予断を許さぬ状況にあり、豚肉はすでに急騰前の水準まだ下がっていることから、今後は押し下げ要因が消えて、押し上げ要因だけが残り、CPIは上昇傾向を強めると見られる。
(図表-3)中国の消費者物価(品目別)

2. 需要面

2. 需要面

前述した1-3月期の実質成長率(4.8%)に対する寄与度を見ると(図表-4)、最終消費が3.3ポイント、総資本形成(≒投資)が1.3ポイント、純輸出が0.2ポイントだった。

最終消費は21年の寄与度が5.3ポイントだったので2.0ポイント悪化したことになる。詳細は不明だが、内訳を推察するため小売売上高(一定規模以上)の統計を見ると(図表-5)、飲食、衣類、化粧品、自動車が不振だったことからコロナ禍の影響が大きかったと推察される。また、家具類が大幅マイナスとなっており不動産規制強化で住宅販売が鈍化している影響もあると見られる。
(図表-4)需要項目別の寄与度/(図表-5)小売売上高(一定規模以上)
投資は21年の寄与度が1.1ポイントだったので0.2ポイント改善したことになる。詳細は不明だが、内訳を推察するため固定資産投資(除く農家の投資)の統計を見ると(図表-6)、引き続き不動産開発投資は前年同期比0.7%増と低迷しているものの、製造業は同15.6%増、インフラ投資は同8.5%増と前年を上回る伸びを示した。不動産規制強化の影響は長引いているものの、地方特別債の前倒し発行でインフラ投資が増え、輸出好調を背景に製造業も盛んに設備投資しているようだ。

純輸出は21年の寄与度が1.7ポイントだったので1.5ポイント悪化したことになる。輸出先別の状況を見ると(図表-7)、ほとんどの国・地域で伸びが鈍化したとは言え底堅い。但し、ウクライナへの輸出は3月に急ブレーキが掛かり、1-2月期に前年比56.8%増だった伸びが急低下した。
(図表-6)固定資産投資(のぞく農家の投資)/(図表-7)相手先別に見た輸出(ドルベース)

3. 供給面

3. 供給面

他方、産業別に見ると(図表-8)、第1次産業は前年同期比6.0%増と前四半期の伸び(6.4%)をやや下回ったものの、全体の成長率を上回っており堅調だと言えるだろう。

また、第2次産業は前年同期比5.8%増と前四半期の伸び(2.5%)を大幅に上回った。内訳では製造業が同6.1%増と3ポイント改善した。鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移を見ると(図表-9)、電力不足に見舞われた昨年9月に前年同月比3.1%増まで低下したあとは持ち直していた。しかし、ウクライナ情勢とコロナ禍の二重苦に襲われた3月には伸びが鈍化しており今後は要注意だ。他方、建築業は前年同期比1.4%増と前四半期までのマイナスからプラスに転じている。建築業の景況感もやや改善しており(図表-10)、底打ちの兆しがあると言えるだろう。

一方、第3次産業は同4.0%増と0.6ポイント悪化した。宿泊飲食業がマイナス成長に転じ、卸小売が鈍化したところを見るとコロナ禍の影響が大きかったようだ。また、交通・運輸・倉庫・郵便業も1.9ポイント鈍化しており、ウクライナ情勢の緊迫化などで輸送用燃料が値上がりしたことによるコスト上昇や、コロナ禍の再発で人流が鈍化した影響がでている。他方、不動産業は同2.0%減と3四半期連続のマイナス成長となった。分譲住宅の新規着工面積を見ても(図表-11)、明るい兆しは確認できず、当面の間は中国経済の足かせとなりそうである。なお、金融業は同5.1%増、情報通信・ソフトウェア・ITは同10.8%増とやや鈍化したものの堅調である。
(図表-8)産業別の実質成長率(前年同期比)/(図表-9)鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移
(図表-10)サービス業と建築業/(図表-11)分譲住宅の新規着工面積の推移

4. 当面の注目点

4. 当面の注目点

景気悪化の懸念が高まる中、当面は財政・金融・ゼロコロナの3つの政策運営に注目したい。
1|財政政策
財政政策に関して中国政府は、今年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)で「積極的な財政政策は、パフォーマンスを向上させるため、さらに精確(精准)に焦点を当て、持続可能なものにする」という基本方針を決め、財政赤字(対GDP比)を「2.8%前後」に引き下げ、地方特別債は3.65兆元を維持し、感染症対策特別国債はゼロのままとした。コロナショックに見舞われた20年には「積極的な財政政策はさらに積極的かつ効果的なものにする」として、財政赤字(対GDP比)を「3.6%以上」としたのに加えて、地方特別債を3.75兆元、感染症対策特別国債を1兆元発行するなどコロナ対策を明確に打ち出した。また、コロナ禍が峠を越えた21年には「積極的な財政政策は質・効率の向上を図り、さらに持続可能なものにする」として、財政赤字(対GDP比)を「3.2%前後」に引き下げたのに加えて、地方特別債を3.65兆元に引き下げ、感染症対策特別国債の発行を止めるなどコロナ対策で緩んだ財政規律を引き締めて、持続可能性を高めた。そして、5年に1度の共産党大会を今秋に控える22年は前述のような方針とし、ここもとの景気悪化を踏まえて地方特別債を維持したものの、持続可能性に一定の配慮を示したと言えるだろう。但し、財政執行を前倒しする程度の措置では今年の成長率目標「5.5%前後」の達成が危ぶまれるため、例年7月に開催される中央政治局会議では、22年下半期の経済政策をいかに手配するかが焦点となる。追加で財政出動を行なうことになるのか、注目される。
(図表-12)金融政策の動き 2|金融政策
他方、金融政策に関して中国政府は、今年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)で「通貨供給量・社会融資総量(企業や個人の資金調達総額)の伸び率が名目GDP成長率とほぼ一致」と前年と同じ基本方針を掲げた上で、「流動性を合理的かつ十分に維持する」と付け加えたことから、今年の金融政策は前年よりも緩和気味な運営になると思われた。実際、1-3月期の通貨供給量・社会融資総量は名目GDP成長率(前年同期比8.9%増)を上回り、前四半期より伸びが加速している。また、中国人民銀行は、金融機関に課す預金準備率を0.25ポイント引き下げることを決定(4月25日実施)、約5300億元の長期資金を解放して、量的な金融緩和を進めている。 
一方、政策金利の引き下げに関して中国政府(含む中国人民銀行)は、住宅バブルの再膨張や人民元安の加速を警戒して、いまのところ消極的なスタンスを保ち、小幅な利下げに留めている(図表-12)。今秋には5年に1度の共産党大会を控えているだけに、前述した中央政治局会議に際しては金利政策に関する議論にも注目したい。
3|ゼロコロナ政策
中国では20年1月~2月に武漢(湖北省)を発火点に全土にCOVID-19が拡散し経済が大混乱に陥った。しかしその後の20年3月以降はゼロコロナ政策が奏功し、新規感染は多くても3百人を超えない時期が2年近く続いた。ところが、オミクロン株に切り替わった今年3月には、新規感染が急増して一気に3千人(無症状を含めると約3万人)を超え、武漢で感染爆発が発生した水準に迫る第2波が襲来している(図表-13)。

そして、今年3月末には上海市が事実上のロックダウン(都市封鎖)に踏み切り、それが隣接する蘇州市(江蘇省)に飛び火してきた。上海と蘇州はともに長江デルタの中核都市なだけにその影響は大きく、日系企業も取引先の工場停止で部品が調達できなくなったり、現地の店舗が休業・時短営業に追い込まれたりしている。

このまま感染拡大が収まらないようだと、2022年の成長率目標「5.5%前後」の達成は難しくなる。中国政府は地方特別債を前倒しで発行しインフラ投資で景気を支えしようとしているが、高齢化の進展で財政支出が増えるため裁量余地は限られ、大盤振る舞いはできない。金融政策で景気を支えるにしても、過剰債務問題を抱えており、ようやく落ち着き始めた住宅バブルを再膨張させかねないため、大幅な利下げには踏み込めない。このまま小幅な財政出動、小幅な金融緩和だけで対処していたのでは、今年の成長率は5%を割り込む恐れもある。

一方、財政金融に頼らずに成長率を高める道がある。ウィズコロナ政策に転換することだ。経済と防疫の両立に苦闘した諸外国の成功例・失敗例を参考に、適切に経済と防疫の両立を図ることができれば、長らくコロナ禍で蓄積したペントアップ需要が顕在化して、“リベンジ消費”が景気を刺激し、成長率目標の達成が見えてくるだろう。

その前提条件はすでに整いつつある。ワクチン接種は33億回を超え、飲み薬の供給にもメドが立ってきた。あとは実践あるのみだ。武漢の第1波から約2年の間、中国では目立った感染拡大が無かったため、ワクチンの効果を見極めるにしても、治験をするにしても、経済と防疫の両立を試すにしても、幸か不幸かその機会が無かった。ここもと中国政府は“ダイナミック・ゼロコロナ(动态清零)”という表現を多用、ゼロコロナ政策の微修正に動きだした。その行方に注目したい。
(図表-13)中国におけるコロナ禍との闘い
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2022年04月22日「Weekly エコノミスト・レター」)

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