2022年03月25日

中国経済:景気指標の総点検(2022年春季号)-1-3月期成長率は前四半期(4.0%)をやや上回る

三尾 幸吉郎

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1. 中国経済の概況

(図表-1)中国の実質成長率(季節調整後) 中国経済はコロナショックのあと世界に先駆けてV字回復したものの、その後は停滞感を強めている(図表-1)。コロナショックが直撃した20年1-3月期には季節調整後の実質で前期比10.5%減(年率35.8%減程度)に落ち込んだが、財政金融政策をフル稼働させたことで、20年4-6月期には同11.6%増(年率55.1%増程度)と一気に持ち直し、20年下半期(7-12月期)も前期比年率で10%を超える高成長を続けた。しかし、21年に入ると財政金融政策が引き締め方向に変化したことを背景に、インフラ投資が鈍化し、不動産金融への規制が厳しくなり、中国恒大集団など不動産業が経営不安に陥って、21年1-3月期の実質成長率は前期比年率で1.2%増程度、4-6月期は同5.3%増程度、7-9月期は同2.8%増程度、そして10-12月期は同6.6%増程度と、中国経済は低水準で一進一退となっている。
他方、インフレ状況を見ると、21年の工業生産者出荷価格(PPI)は国際的な資源エネルギー高を背景に前年比8.1%上昇した。ところが、消費者物価(CPI)は同0.9%上昇と21年の抑制目標(3%前後)を下回る水準で安定していた。その背景には豚肉を中心に食品が急落したことがあり、それが21年のCPIを0.5ポイント押し下げた(図表-2)。現在はその豚肉価格が19年に急騰する前の水準に戻っており更なる下落の余地は小さい。それに加えて、ウクライナ情勢の緊迫化によって世界的に食糧・エネルギーの需給がひっ迫する恐れもあるので、今後のCPIは要注意で上昇傾向を強める可能性が高いだろう。

また、中国には20年春以来となる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の“第2波”が襲来している(図表-3)。習近平主席が「新型コロナによる経済・社会発展への影響を最大限減らさなければならない」と述べるなど、これまでの防疫管理の在り方を、オミクロン株の特性を踏まえて微調整しているようで、都市封鎖(ロックダウン)や工場の操業停止期間も短縮されている。但し、重症者・死亡者が増えれば再び厳しいゼロコロナ政策に戻す可能性も残るだけに、予断を許さない。
(図表-2)中国の消費者物価(品目別)/(図表-3)中国におけるコロナ禍との闘い

2. 供給面の3指標

2. 供給面の3指標

鉱工業生産(実質付加価値ベース)の推移を見ると(図表-4)、21年1-2月期には前年同期にコロナ禍で落ち込んだ反動で前年同期比35.1%増と極めて高い伸びを示したが、その後は反動増の効果が薄れるにつれて伸びが鈍化、21年9月には同3.1%増まで減速した。しかし、その後はやや持ち直し22年1-2月期には同7.5%増とコロナ前(19年)を上回る伸びを示した。半導体不足に直面していた自動車生産を見ると(図表-5)、21年8月にはコロナ前の対19年同月比13.3%減に落ち込んだ。しかし、それをボトムに持ち直し、22年1-2月期には対19年同月比12.2%増となった。商用車は対19年同月比2.4%減と落ち込んだままだが、乗用車が同15.2%増と好調だった。
(図表-4)鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移/(図表-5)自動車生産の推移
他方、PMIの動きを見ると、製造業PMI(製造業購買担当者景気指数)は、21年10月に拡張収縮の境界(50%)を下回ったあと50%をやや上回る水準で停滞していたが、22年2月には新規受注が50.7%と7ヵ月ぶりに50%を上回り、予想指数もコロナ前(19年)の水準を上回るなど「弱気の予想1」には底打ちの兆しが見られていた(図表-6)。非製造業PMI(非製造業商務活動指数)も、21年8月に47.5%まで落ち込んだあと50%をやや上回る水準で停滞していたが、22年2月の予想指数はコロナ前の水準を回復していた(図表-7)。しかし、3月にはCOVID-19の再拡大に加えウクライナ情勢が深刻化したため、PMIは製造業・非製造業ともに悪化する可能性がある。
(図表-6)製造業PMI/(図表-7)非製造業PMI(商務活動指数)
 
1 2021年12月に開催された中央経済工作会議では、国内経済は需要の縮小、供給の打撃、弱気の予想という三重の圧力に直面しているとして危機感を示した

3. 需要面の3指標

3. 需要面の3指標

個人消費の代表指標である小売売上高を見ると(図表-8)、21年1-2月期には前年同期にコロナ禍で落ち込んだ反動で前年同期比33.8%増と極めて高い伸びを示したが、その後は反動増の効果が薄れるにつれて伸びが鈍化し、21年12月には同1.7%増まで減速した。しかし足元の22年1-2月期には同6.7%増とやや持ち直した。また、中国恒大集団の経営不安で注目される不動産市場では、分譲住宅販売が8ヵ月連続で前年割れとなっている。しかし、コロナ前の対19年同月比では9.3%増と7ヵ月ぶりにプラスに転じており、底打ちした可能性もあるので注視したい(図表-9)。
(図表-8)小売売上高の推移/(図表-9)分譲住宅の販売面積の推移
投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、21年1-2月期には前年同期比35.0%増と高い伸びを示したが、財政金融政策が引き締めに転じたためインフラ投資・不動産開投資が鈍化して21年5月には同2.0%減(推定2)とマイナスに転じた。しかし、21年秋に財政金融政策が再び緩和気味になったため、22年1-2月期には同12.2%増と高い伸びを示した(図表-10)。

一方、輸出(ドルベース)の状況を見ると(図表-11)、21年1-2月期には反動増もあって前年同期比60.4%増と極めて高い伸びを示し、その後も2割程度の伸びを維持している。但し、価格転嫁の影響を除いた数量ベースを見ると、21年7月以降は1割前後まで伸びが鈍化してきている。
(図表-10)投資の3大セクターの推移/(図表-11)輸出(ドルベース)の推移
 
2 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
【その他の4指標と景気の総括】
以上で概観した供給面3指標と需要面3指標に、電力消費量、道路貨物輸送量、工業生産者出荷価格、通貨供給量(M2)を加えた10指標に関して、それぞれ3ヵ月前と比べて上向きであれば“○”、下向きであれば“×”、横ばいなら“-”として一覧表にしたのが図表-12である。
(図表-12)景気評価総括表(○×表、3ヵ月前と対比)
現在の景気の方向性を表す評価点(〇の数)を見ると、21年6~8月には3ヵ月連続で景気が急減速していることを示す1点(10点満点)に留まったが、その後は景気が横ばい圏にあることを示す5点前後で一進一退となっている。

需要面の指標は総じて冴えない。消費の代表指標である小売売上高は、1月には一旦“〇”となったものの2月には再び“×”に戻ってしまった。投資の代表指標である固定資産投資も、1月には“〇”となったものの2月には“×”に戻ってしまった。また、輸出も4ヵ月連続で“×”と減速傾向が鮮明となっている。次に供給面の指標を見ると、製造業PMIが3ヵ月連続で“〇”となったものの、鉱工業生産が2ヵ月連続の“×”で、非製造業PMIも3ヵ月連続で“×”であり、生産活動が上向く勢いはまだ弱く、明確なトレンドは確認できない。

最後にその他の景気指標の推移を見ると、電力消費量は21年4月以降“×” が続いたあと22年2月には11ヵ月ぶりに“〇”に転じた。21年夏に各地の工場が操業停止に追い込まれた電力供給不安3は解消したと言えるものの、上向きトレンドに入ったと見るのは時期尚早だろう(図表-13)。また、道路貨物輸送量は21年4月以降“×” が続いたあと22年1月には10ヵ月ぶりに“〇”に転じ2月も“〇”だった。但し、ヒトの動きを示す旅客輸送数の戻りは鈍く、コロナ前(19年)の半分以下のレベルで低迷している(図表-14)。他方、通貨供給量(M2)は中国政府(含む中国人民銀行)が金融を引き締め気味にしていたため21年9月までは“×”が目立っていたが、金融を緩和気味に調整し始めた10月以降は5ヵ月連続で“〇”となっている。21年12月と22年1月にはローンプライムレート(贷款市场报价利率、1年)を2ヵ月連続で引き下げるなど、金融緩和で景気を支えている(図表-15)。なお、工業生産者出荷価格(PPI)は一進一退となっている。
(図表-13)電力消費量の推移/(図表-14)貨物輸送量と旅客輸送数
(図表-15)通貨供給量(M2)と社会融資総量/(図表-16)経済成長率と景気インデックス
最後に、鉱工業生産、サービス業生産、建築業PMIの3つを説明変数として、実質成長率を推計した「景気インデックス」を確認しておこう(図表-16)。コロナショック下にあった20年2月には前年同月比12.8%減に落ち込み、それが峠を越えた20年4月にはプラスに転じ、21年1月には同21.5%増とV字回復を遂げることとなった。しかしその後は減速に転じ21年12月には前年同月比3.4%増まで低下することとなった。そして足元では、22年1月に前年同月比4.4%増、2月には同4.9%増と前四半期の実質成長率(4.0%)を上回ってきた。その後COVID-19が再拡大しウクライナ情勢が深刻化したため3月は伸びが鈍化しそうだが、1~2月の貯金があるので、4月18日に発表される1-3月期成長率は前四半期(4.0%)をやや上回ると予想する。なお、前期比では前四半期(年率6.6%増程度)を大きく下回り年率3%前後と予想している。
 
3 中国における電力の供給不安に関しては、「中国経済の現状と今後の注目点-電力不足、不動産規制、コロナの3点に注目!」Weekly エコノミスト・レター 2021-10-29の4ページを参照ください
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2022年03月25日「Weekly エコノミスト・レター」)

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