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- 高齢化の企業利益への影響-産業別マクロ統計を用いた推計
2022年03月22日
期間前半の生産性、賃金、利益を表す一般労働者男性の労働投入シェアの各係数は、全期間での推計とおおむね同様に、生産性、利益については30歳代をピークとする逆U字型のカーブが確認できる。具体的には、男性の生産性を表す係数は、20歳代が▲4.8、40歳代が▲8.4、50歳代が▲1.3、60歳代が▲5.1(ただし、50歳代は有意ではない)と、すべての年齢区分でマイナスの結果となっている。利益の係数についても、20歳代が▲3.5、40歳代が▲6.6、50歳代が▲0.3、60歳代が▲2.2(ただし、50歳代は有意ではない)と、すべての年齢区分でマイナスの結果となっている。
期間前半から期間後半にかけての生産性の変化を表す、労働投入シェアとダミー変数の交差項の係数は、20歳代と40歳代がそれぞれ2.3と4.3でプラスである一方、30歳代と50歳代がそれぞれ▲2.4と▲4.9でマイナスである。各係数の絶対値は20歳代よりも30歳代、40歳代よりも50歳代の方が大きく、期間後半にかけて、より高年齢者の生産性が大きく落ちている結果となっている。
賃金の変化については、20歳代が1.1と上昇しているものの、そのほかの年齢では、有意な結果は得られていない。
生産性と賃金のギャップである利益の変化については、40歳代で3.7と上昇している一方で、50歳代は▲4.0と40歳代の上昇分以上に低下している。
全体としてみれば、期間前半から期間後半にかけて、より高年齢労働者の生産性が低下することで、利益を押し下げる結果となっており、おおむね第二の仮説である高年齢労働者の生産性低下を通じて利益が押し下げられることが支持された。
生産性は、経験の蓄積により上昇する一方で、加齢による体力や気力の衰えにより低下する結果、中年齢をピークとする生産性カーブが描かれる。しかし、グローバル化が進み、情報の伝達スピードが速くなる中、スキルは陳腐化しやすい環境になっており、経験の蓄積によりこれまでと同程度の生産性の上昇が達成困難になっていると考えられる。特に、ITスキル等の新しいスキルの習得が生産性の維持に重要であるが、そうした変化に対応できない高年齢者の生産性はかつてと比べて相対的に低下している可能性がある。
全期間での推計結果と合わせると、労働者の高齢化により賃金が生産性と比べて割高な高年齢労働者の割合が増えることで企業の利益を押し下げることに加えて、近年ではより高年齢の労働者の生産性が下がっていることが、さらなる利益の押し下げ要因となっている可能性があると解釈できる。
一方、個別の年齢区分における生産性の変化は、全期間での推計結果同様、線形とはなっていない。
特に、期間前半での生産性が高い30歳代は、期間後半にかけて生産性が低下(▲2.4)している一方で、期間前半での生産性が低い40歳代(▲8.4)では、期間後半にかけて生産性が上昇(4.3)している。また、期間前半で比較的生産性が高い50歳代(▲1.3)では、後半にかけて低下(▲4.9)し、期間前半の生産性が低い60歳代(▲9.3)では期間後半にかけて生産性が上昇(2.2)している。
これらのことから、年齢といった目に見える属性だけではなく、特定の要因として観察が難しいコーホートの影響が指摘できるだろう。つまり、経済社会情勢等により生まれた年代がある程度生産性の水準に影響を与えており、5年ずらした期間後半では、生産性が高い一部の30歳代が40歳代になることで40歳代の生産性が上昇し、生産性が低い一部の40歳代が50歳代になることで、50歳代の生産性が低下する。また、生産性の高い50歳代が60歳代になることで生産性が上昇したと考えることもできる。
また、第三の仮説で述べたように、近年では、少子高齢化が進み若年層の人数が減る中、優秀な人材を獲得するために、各企業が賃上げに動いている。その結果、マンアワーを労働投入とした20歳代の男女の賃金の変化(労働投入シェアとダミー変数の交差項の係数)はそれぞれ1.1と4.5と、両者ともにプラスの結果となっている。
期間前半から期間後半にかけての生産性の変化を表す、労働投入シェアとダミー変数の交差項の係数は、20歳代と40歳代がそれぞれ2.3と4.3でプラスである一方、30歳代と50歳代がそれぞれ▲2.4と▲4.9でマイナスである。各係数の絶対値は20歳代よりも30歳代、40歳代よりも50歳代の方が大きく、期間後半にかけて、より高年齢者の生産性が大きく落ちている結果となっている。
賃金の変化については、20歳代が1.1と上昇しているものの、そのほかの年齢では、有意な結果は得られていない。
生産性と賃金のギャップである利益の変化については、40歳代で3.7と上昇している一方で、50歳代は▲4.0と40歳代の上昇分以上に低下している。
全体としてみれば、期間前半から期間後半にかけて、より高年齢労働者の生産性が低下することで、利益を押し下げる結果となっており、おおむね第二の仮説である高年齢労働者の生産性低下を通じて利益が押し下げられることが支持された。
生産性は、経験の蓄積により上昇する一方で、加齢による体力や気力の衰えにより低下する結果、中年齢をピークとする生産性カーブが描かれる。しかし、グローバル化が進み、情報の伝達スピードが速くなる中、スキルは陳腐化しやすい環境になっており、経験の蓄積によりこれまでと同程度の生産性の上昇が達成困難になっていると考えられる。特に、ITスキル等の新しいスキルの習得が生産性の維持に重要であるが、そうした変化に対応できない高年齢者の生産性はかつてと比べて相対的に低下している可能性がある。
全期間での推計結果と合わせると、労働者の高齢化により賃金が生産性と比べて割高な高年齢労働者の割合が増えることで企業の利益を押し下げることに加えて、近年ではより高年齢の労働者の生産性が下がっていることが、さらなる利益の押し下げ要因となっている可能性があると解釈できる。
一方、個別の年齢区分における生産性の変化は、全期間での推計結果同様、線形とはなっていない。
特に、期間前半での生産性が高い30歳代は、期間後半にかけて生産性が低下(▲2.4)している一方で、期間前半での生産性が低い40歳代(▲8.4)では、期間後半にかけて生産性が上昇(4.3)している。また、期間前半で比較的生産性が高い50歳代(▲1.3)では、後半にかけて低下(▲4.9)し、期間前半の生産性が低い60歳代(▲9.3)では期間後半にかけて生産性が上昇(2.2)している。
これらのことから、年齢といった目に見える属性だけではなく、特定の要因として観察が難しいコーホートの影響が指摘できるだろう。つまり、経済社会情勢等により生まれた年代がある程度生産性の水準に影響を与えており、5年ずらした期間後半では、生産性が高い一部の30歳代が40歳代になることで40歳代の生産性が上昇し、生産性が低い一部の40歳代が50歳代になることで、50歳代の生産性が低下する。また、生産性の高い50歳代が60歳代になることで生産性が上昇したと考えることもできる。
また、第三の仮説で述べたように、近年では、少子高齢化が進み若年層の人数が減る中、優秀な人材を獲得するために、各企業が賃上げに動いている。その結果、マンアワーを労働投入とした20歳代の男女の賃金の変化(労働投入シェアとダミー変数の交差項の係数)はそれぞれ1.1と4.5と、両者ともにプラスの結果となっている。
7――まとめ
本稿では、日本の伝統的な雇用慣行である終身雇用、年功賃金が近年見直されつつある背景について、年齢別の生産性と賃金、ならびに利益を推計することにより分析を行った。日本の先行研究では、年齢別の生産性と賃金を別々で推計し、それらを比較することで年功賃金の存在を確認しているが、本稿では、生産性と賃金のギャップを定義することで、年齢別の利益についても直接推計した。
その結果、産業別のマクロデータを用いた本分析は、事業所や企業別のミクロデータを用いた先行研究同様、生産性が中年齢でピークとなる逆U字型のカーブであることを確認し、同時に直接的に利益についても推計することで、第一の仮説である労働者の高齢化によって利益が押し下げられることが支持される結果を示した。これは、高年齢者は相対的に賃金が割高になっているというLazearの理論を支持する内容である。
また、第二の仮説である高年齢労働者の生産性低下を通じて利益が押し下げられるということが支持され、産業構造の複雑化や、デジタル化の進展などにより、現在にかけてより高年齢層の生産性が低下していることが、さらに企業利益を押し下げる要因となっている可能性があることを示した。
以上の2点により、企業は従来の年功賃金、終身雇用の見直しに踏み切らざるを得ない状況である可能性があり、また、今後の労働者の高齢化により、この傾向が加速する可能性があるとの結論を得た。
政策的観点からは、いかに高年齢労働者の生産性の低下を止め、さらには上昇に転じさせるかが重要であると言える。人口の高齢化は止めることはできないため、今後も賃金が割高の高年齢労働者の割合は高くなっていく。また、生産年齢人口が減少する中、日本全体の労働力確保のため今後も定年延長等により高年齢者の労働参加を促すことが求められる。相対的に生産性が低いそれらの層の生産性を向上させるために、人的資本投資の拡大などの対策が欠かせない。
その結果、産業別のマクロデータを用いた本分析は、事業所や企業別のミクロデータを用いた先行研究同様、生産性が中年齢でピークとなる逆U字型のカーブであることを確認し、同時に直接的に利益についても推計することで、第一の仮説である労働者の高齢化によって利益が押し下げられることが支持される結果を示した。これは、高年齢者は相対的に賃金が割高になっているというLazearの理論を支持する内容である。
また、第二の仮説である高年齢労働者の生産性低下を通じて利益が押し下げられるということが支持され、産業構造の複雑化や、デジタル化の進展などにより、現在にかけてより高年齢層の生産性が低下していることが、さらに企業利益を押し下げる要因となっている可能性があることを示した。
以上の2点により、企業は従来の年功賃金、終身雇用の見直しに踏み切らざるを得ない状況である可能性があり、また、今後の労働者の高齢化により、この傾向が加速する可能性があるとの結論を得た。
政策的観点からは、いかに高年齢労働者の生産性の低下を止め、さらには上昇に転じさせるかが重要であると言える。人口の高齢化は止めることはできないため、今後も賃金が割高の高年齢労働者の割合は高くなっていく。また、生産年齢人口が減少する中、日本全体の労働力確保のため今後も定年延長等により高年齢者の労働参加を促すことが求められる。相対的に生産性が低いそれらの層の生産性を向上させるために、人的資本投資の拡大などの対策が欠かせない。
ただし、D=B-C、φk=νk-τk。
(2022年03月22日「基礎研レポート」)
清水 仁志
研究・専門分野
清水 仁志のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2022/03/22 | 高齢化の企業利益への影響-産業別マクロ統計を用いた推計 | 清水 仁志 | 基礎研レポート |
2021/10/25 | 公定価格の見直しによる給料引き上げは適切か、その財源は | 清水 仁志 | 基礎研レター |
2021/09/07 | 成果主義としてのジョブ型雇用転換への課題-年功賃金・終身雇用の合理性と限界 | 清水 仁志 | 基礎研マンスリー |
2021/07/02 | 成果主義としてのジョブ型雇用転換への課題-年功賃金・終身雇用の合理性と限界 | 清水 仁志 | 研究員の眼 |
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