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コラム
        2017年11月02日
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                                            安倍首相が掲げる「ニッポン一億総活躍プラン」の下、あらゆる場で、誰もが活躍できる、全員参加型の一億総活躍社会を実現しようとしている。その背景にあるのが少子高齢化による生産年齢人口の減少だ。労働需要の高まりもあいまって、有効求人倍率は今年の7月には1.52倍と43年5ヶ月ぶりの高水準となり、人手不足が深刻化している。そのような中、限りある人材を最大限活用することは日本経済にとって重要である。
また、人手不足は新卒の採用競争を激化させている。いかに優秀な人材を確保するのかということは民間企業にとって大きな課題だ。一部の企業では、社員を雇うことができないことによる倒産も出ている。
政府は労働力人口確保に向け、働き方改革や子育て環境の整備を通じての女性の社会進出、高齢者の就労促進など様々な取組みを進めている。女性や高齢者ほどの数のインパクトはないが、高い専門性を備えている博士課程の人材活用について考えたい。
 
筆者は理系学部出身で、ほとんどの人が修士課程に進む。しかし、修士課程に進学しても、博士課程へのハードルは高かった。私が所属していた研究室にも博士課程の先輩がいたが、研究者になる相当の覚悟がなければ、博士課程進学に対して前向きではなかった。研究者のポストが少なく競争が激しいこと、博士課程に進学すると民間企業に就職することも困難になるとのことだった。
科学技術・学術政策研究所「日本の理工系修士学生による進路決定に関する意識調査」によると、「博士課程に進学すると修了後の就職が心配である」という設問に対し「そう思う」と答えた就職学生は約8割にのぼる。進学の検討に重要な項目としては、博士課程修了後の雇用の改善に関する回答が上位2番目から5番目を占めている。
博士課程修了者の約6割の進路がアカデミアであるが、そのうち6割は任期制であり、任期が終ればまた就職先を確保しなければならいという状況だ。
            また、人手不足は新卒の採用競争を激化させている。いかに優秀な人材を確保するのかということは民間企業にとって大きな課題だ。一部の企業では、社員を雇うことができないことによる倒産も出ている。
政府は労働力人口確保に向け、働き方改革や子育て環境の整備を通じての女性の社会進出、高齢者の就労促進など様々な取組みを進めている。女性や高齢者ほどの数のインパクトはないが、高い専門性を備えている博士課程の人材活用について考えたい。
筆者は理系学部出身で、ほとんどの人が修士課程に進む。しかし、修士課程に進学しても、博士課程へのハードルは高かった。私が所属していた研究室にも博士課程の先輩がいたが、研究者になる相当の覚悟がなければ、博士課程進学に対して前向きではなかった。研究者のポストが少なく競争が激しいこと、博士課程に進学すると民間企業に就職することも困難になるとのことだった。
科学技術・学術政策研究所「日本の理工系修士学生による進路決定に関する意識調査」によると、「博士課程に進学すると修了後の就職が心配である」という設問に対し「そう思う」と答えた就職学生は約8割にのぼる。進学の検討に重要な項目としては、博士課程修了後の雇用の改善に関する回答が上位2番目から5番目を占めている。
博士課程修了者の約6割の進路がアカデミアであるが、そのうち6割は任期制であり、任期が終ればまた就職先を確保しなければならいという状況だ。
 修了後の雇用が安定していなければ、博士課程に進学する人も少なくなる。実際、主要国における博士課程進学率をみると、日本(1.2%)はドイツ(5.5%)の4分の1以下であり、OECD平均(2.5%)の半分にも満たない低進学率だ。(図表2)
                                                        修了後の雇用が安定していなければ、博士課程に進学する人も少なくなる。実際、主要国における博士課程進学率をみると、日本(1.2%)はドイツ(5.5%)の4分の1以下であり、OECD平均(2.5%)の半分にも満たない低進学率だ。(図表2)研究開発のためには応用研究が重要で、応用研究の土台は基礎研究である。基礎研究の主体は大学だ。研究者としての入口である大学の博士課程への進学率が低いことは、長い目でみれば日本の産業界の競争力低下にも繋がる可能性がある。
博士課程修了者を採用しない民間企業があげた理由としては、「特定分野の専門的知識を持つが、企業ですぐには活用できないから」、「社内の研究者の能力を高めるほうが効果的だから」という回答が上位2項目を占め、即戦力として期待できないと考えていることがうかがえる。ただ「専門分野外での研究」や「研究開発以外での分野」といった畑の違いに起因する不安を理由に挙げている企業は少なかった3。また、博士課程修了者は、学士、修士課程修了者よりも期待が高いことも示されており、一定の評価はされている4。以上は博士課程修了者を採用していない企業からの回答である。
次に、研究開発者として博士課程修了者を採用した企業へのアンケート調査5によると、「期待を上回る」・「ほぼ期待通り」との回答は9割以上であり、「期待を上回る」に限れば修士課程修了者、学士課程修了者のそれを上回っている。また、2001年度から2006年度まで毎年採用している企業は4.9%であるのに対し、2007年度から2011年度では5.3%と伸びている。資本金が100億円以上企業に限れば、11.0%から19.7%へと大きく上昇している。
前述の通り、現状、多くの企業では未だ博士課程修了者の採用に対し消極的だ。しかし、博士課程修了者を採用した企業に絞ってみれば博士課程修了者への評価は高く、大企業を中心に毎年採用している数は増えている。一度、採用に踏み切ることで、博士課程修了者への見方が変わり、採用へのハードルは下がるようだ。
一方で、学生の能力にも問題があることがうかがえる。企業で働くにあたっては、専門性以外のスキルも必要だ。博士課程修了者を採用していない企業でも、その専門性の高さは評価しているが、それ以外のスキルの不足から、活用の場を見出せていない。日本の終身雇用制度を考えると、一度採用すると基本的に解雇することはできない。特に中小企業にとっては、一人雇うことは大きなリスクにもなりうる。
筆者はこれらの問題を解決するために、学生と企業の接点を増やすことが必要だと考える。その上で、現状の新卒一括採用だけでなく、採用直結型のインターンシップを通じた採用方法も取り入れてみてはどうだろうか。採用直結型のインターンシップとは、米国などで取り入れられているものだ。主に採用を目的とし、6~12週間、実際に仕事に従事する。インターンシップ中にある程度評価されれば、そのまま正社員になれることも多い。米国ではインターン生の半数以上に正社員へのオファーを出す企業が56.7%あり、6積極的に学生を登用しようとしていることがわかる。また、インターンシップ経験がない学生は新卒として採用しないという企業もあり、就職に際して必要不可欠なステップといえるだろう。
一方で日本の現在のインターンシップは、学生に就業体験をさせるという企業の社会貢献の一環であり、採用とは一線を画するものである。期間も1日~2週間程度と短い。経団連「採用選考に関する指針」によると採用活動とは一切関係ないことを明確にし、人材育成の観点から提供するものだと示されている。あくまで日本は新卒一括採用が基本だ。
もちろん、就職機会の均等や学業への影響などの観点から新卒一括採用が否定されるものではない。しかし、新卒一括採用のため、企業はリスクを避け、博士課程のような少数派を活用することができていない可能性がある。
採用直結型のインターンシップを取り入れることで、企業は比較的気軽に学生と接することができる。今まで敬遠してきた層に対してアプローチし、活用の場を見出すことができる。学生にとってもインターンシップを通じて自身のスキルをアピールすること、企業で働く上でのスキルを身につけることができる。また、実際に仕事を経験することにより、就職のミスマッチを軽減することも期待されるだろう。厚生労働省によると日本の新卒の3年以内の離職率は3割を超えている。企業と学生のミスマッチが原因の離職は、両者にとって大きな損失だ。
最も懸念されるであろう学業への支障に関しては、米国などでは3ヶ月ほどある夏休みを活用し、長期にわたるインターンを可能にしている。日本の大学生の学習時間は米国と比較しても短い7。普段は学業に専念し、長期間にわたるインターンは夏休みを利用することで、影響を最小限にすることもできるだろう。
冒頭にも述べたように、生産年齢人口が減少している日本にとって、人材を最大限活用することは重要なことである。今後、AIなどの導入により、より高度な専門性をもった人材が必要になってくる。数が少なく無視されてきた博士課程のような人材を活用するために、今までの新卒一括採用という形式にこだわらず、採用の窓を広げる必要があるのではないだろうか。
1 科学技術・学術政策研究所「科学技術イノベーションを担う人材及び社会との関わり」
2 注:複数回答、教育機関と民間企業の合計は111.5%
3 民間企業の研究活動に関する調査報告2012
4 民間企業における博士課程の採用と活用 2014
5 民間企業の研究活動に関する調査報告2016
6 株式会社リクルートホールディングス「2015 Internships USA」
7 文部科学省「大学分科会(第108回)・大学教育部会(第20回)合同会議 配付資料」
(2017年11月02日「研究員の眼」)
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