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中国経済の見通し-当面は下振れの恐れも今年中にはリベンジ消費で持ち直す展開
基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.299]

三尾 幸吉郎
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1―中国経済の概況
中国経済はコロナショックから持ち直したあと停滞している。最近の流れを振り返ると、コロナショックに直面した20年1-3月期には前年比6.9%減と大きく落ち込んだ。しかし、中国政府(含む中国人民銀行)が財政金融政策をフル稼働させたことで20年4-6月期には同3.1%増とプラス成長に転じ、その後も順調に持ち直して、21年1-3月期には前年同期に落ち込んだ反動もあって同18.3%増の高成長となった。ところがコロナ対策で緩んだ財政規律を引き締めるとインフラ投資が鈍化した。さらに「住宅は住むためのもので投機するためのものではない」との考えの下、コロナ対策で一時中断していた債務圧縮(デレバレッジ)を再開して不動産規制を強化すると、中国恒大集団が経営不安に陥るなど、不動産業が国内総生産(GDP)を押し下げた[図表1]。そして、21年10-12月期の成長率は実質で前年比4.0%増と3四半期連続で減速することとなった。
21年の工業生産者出荷価格(PPI)は国際的な資源エネルギー高を背景に前年比8.1%上昇した。他方、消費者物価(CPI)は同0.9%上昇と低位で安定しているが、その背景には19年に急騰した豚肉価格が急落したことがある。豚肉はすでに急騰前の水準に下がっていることから、今後は押し下げ要因が消えて、押し上げ要因だけが残るため、CPIは上昇傾向を強めそうだ。そして、インフレが経済成長を実質的に蝕み始めている。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況を見ると、海外からの輸入症例を発火点に国内感染に波及するケースが中国全土で発生している。但し、(1)最近の新規確認症例は無症状を含めても極めて少ないこと、(2)ワクチンの完全接種率が8割を超えてきたこと*1、(3)死亡者が21年1月26日以降ゼロで重症症例も趨勢的に減少傾向にあること、(4)親密な関係にあるシンガポールが“ゼロコロナ”から“ウィズコロナ”に政策転換したこと、(5)観光地で“ゼロコロナ”に反対するデモが起きるなど国民の不満が蓄積してきたことを勘案すると、北京冬季五輪(含むパラリンピック)が終われば、中国も“ウィズコロナ”へ政策転換する条件が整ってくると考えられる。
*1 中国国家衛生健康委員会の米鋒報道官が21年1月8日の記者会見で明らかにしたところによると、1月7日現在、中国全国で28億8千万回余りの新型コロナウイルスワクチン接種が報告されており、12億1千万人余りがワクチン接種の全過程を完了している。
2―需要別の現状と見通し
個人消費は冴えない動きを示している。個人消費の代表指標である小売売上高の推移を見ると、21年1-2月期に前年比33.8%増の高成長となったあと、8月には同2.5%増まで低下し、その後はやや持ち直したものの1桁台前半で低迷している。
個人消費が冴えない背景には2つの要因がある。ひとつはコロナ禍が断続的に再発するため“リベンジ消費”が完全燃焼しないことである。北京冬季五輪の成功に万全を期す中国では小振りな感染に対しても厳格な防疫管理を行なう“ゼロコロナ”政策を続けており、モノの動き(物流)はコロナショック前(19年)の水準にほぼ戻ったものの、ヒトの動き(人流)が半分前後のレベルで低迷している[図表2]。
他方、個人消費を取り巻く環境を見ると、21年の全国住民一人当たり可処分所得は実質で前年比8.1%増と堅調な伸びを示し、調査失業率はコロナショック前の水準(5.2%)を下回るなど消費環境は悪くない。したがって、これから約2年を見渡すと、長らく続いた“ゼロコロナ”政策で溜まったペントアップ需要が一気に顕在化し、“リベンジ消費” が本格化する可能性を秘めている。そして、その到来は北京冬季五輪後になるだろう。
一方、インフラ投資には底打ちの兆しがでてきた。21年の地方債残高増加額は前年比11.9%増となり、陝西省、広西チワン族自治区、湖北省などで大型建設事業が着工したと伝えられるなど「両新一重(新型インフラ、新型都市化、交通・水利などの大型建設工事)」が動き出している。
また、製造業の投資は引き続き底堅いだろう。輸出の好調に支えられた投資はこれから鈍化しそうだが、“リベンジ消費”で国内消費が盛り上がればそれをあてにした投資が増えるだろう。したがって、これから約2年を見渡すと、不動産開発投資が引き続き足かせとなるものの、インフラ投資が底打ちして、製造業の投資が堅調を保つことで、投資全体では低位ながらも底堅い伸びを維持すると予想している。
*2 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局 などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
輸出金額(ドルベース)は高い伸びを維持しており、21年は前年比29.9%増だった。しかし、輸出単価の上昇が金額を押し上げている面があり、数量ベースで見ると1桁台に鈍化してきている。さらに、新型コロナが世界でインフルエンザ並みの取り扱い(エンデミック)となり経済活動が本格的に回復し始めると、世界に先駆けて生産体制を正常化させた中国の優位性が薄れてくる。したがって、中国に吹いていた追い風は弱まり、コロナショック前の状態に回帰して、輸出のプラス寄与は減少していくだろう。
3―中国経済の見通し
22年の経済成長率は実質で前年比5.3%増、23年は同5.4%増と予想している[図表4]。中国の経済政策は、コロナ対策で肥大化した財政赤字を縮小して持続可能性を高め、コロナ対策で緩んだ金融規律を引き締めて債務圧縮(デレバレッジ)を進めるステージにあるため、経済成長率は巡航速度(=大規模な政策支援なしで無理なく成長できる水準、筆者は5%前後と想定)に回帰していくと見ている。
需要別に見ると、個人消費は低位で一進一退と冴えない動きだが、消費を取り巻く環境は悪くないため、北京冬季五輪が終わったあとには“ゼロコロナ”政策で溜まったペントアップ需要が一気に顕在化し“リベンジ消費”が本格化すると見ている。投資はここもと底が見えない状況にあり、不動産開発投資は底割れする恐れも残るが、前述した「両新一重」などインフラ投資が底打ちし、製造業も消費向けの投資を増やすと見込むことから、投資全体では低位ながらも底堅い伸びと予想している。なお、輸出は中国に吹いていた追い風が弱まることからプラス寄与はゼロと想定している。
メインシナリオを崩す主なリスク要因としては、(1)新型コロナ(変異株)の海外からの流入と市中感染、(2)債務圧縮(デレバレッジ)に伴う住宅バブルの崩壊(不動産税の立法化がトリガーとなる恐れも)、(3)インフレによる経済成長の押し下げ、(4)共同富裕に伴う統制強化(自由経済の制限)などが挙げられる。
(2022年02月08日「基礎研マンスリー」)
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