2022年02月01日

EIOPAによる2021年保険ストレステストの結果について(3)-流動性コンポーネントへの影響と保険業界団体の反応-

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3|ストック-資産負債ポートフォリオの流動性
図表5は、技術的仕様書に記載されているヘアカットの考え方に基づいて、ストックの流動性ポジションンの評価を行っている。

流動資産比率」(総資産に対する流動資産(ヘアカット後)の比率)は、2020年12月のベースラインの52.1%から、2021年3月時点で、FBSでは50.7%へ、CBSでは50.9%へとわずかに低下し、ストレス・シナリオにおいて全体として安定している。12月のベースライン時の状況と3月のストレス時の状況(FBS、CBS)の比較は、(1)技術仕様書に規定された市場ショックの適用による変化と、(2)予測の時間軸における動き(売却と購入)による変化の両方の要素を含んでいる。

流動資産比率を分子・分母で分解すると、12月のベースラインから3月のストレス状況(FBS、CBS)にかけて、総資産は16.3%減少する。これは、(1)市場ショックによる11.2%の減少(即ち、12月のベースラインとストレス後の12月との比較)と、(2)予測期間中の資産再配分によるFBSとCBSの両方での5.7%の減少(即ち、ストレス後の3月とストレス後の12月との比較)、に分割される。

ヘアカットの適用後、流動資産は全体で18.5%減少する。これは、(1)市場ショックによる10.9%の減少(即ち、12月ベースラインとストレス後の12月との比較)と、(2)予測期間中の売却及び購入による8.6%のさらなる減少(即ち、ストレス後の3月とストレス後の12月との比較)、に分割される。
図表5 ベースライン、FBS、CBSにおける総資産、ヘアカットの有無別の流動資産、流動資産比率
生命保険事業、UL/IL事業、MA事業の流動負債比率(ヘアカット後)は、UL/IL事業が安定的に推移したことにより、ベースラインの35.8%からFBSでは33.5%へと2.3ポイント低下する。FBSの流動負債は14.6%減少するが、総負債は8.9%減少する。流動性比率は、ベースラインの22.0%からFBSでは21.4%と0.6ポイント低下する。
図表6 ベースライン及びFBSにおけるヘアカットの有無別の負債合計、流動負債及び流動性比率(損保を除く)
4|リアクティブな経営行動
一元的な流動性管理システムの場合、グループ内の流動性取引は全て経営行動として組み込まれ、FBSに計上される。その他の全ての場合、流動性関連のグループ内取引は、CBSに含まれる。さらに、適切かつ現実的であり、かつ演習の期間(3ヶ月)内に実施可能であれば、他のリアクティブな経営行動も認められる。

6つのグループに属する合計15の単独会社がリアクティブな経営行動を適用しており、そのうち2つは複数の措置を適用している。12社は、不利なシナリオの下で観察されたネット流出の影響を緩和するために、流動性の高い資産を売却し、3社はコミットメント・バンク・ラインを通じて流動性を調達した。さらに、1社は、債券の買戻契約(レポ)をリアクティブな経営行動として使用した。レポ契約は基準日時点で既に設定されており、取引はグループの境界内で行われていたため、演習の文脈において適切であると考えられる。別の参加者は資本増強と劣後債の発行を通じて資本を調達する。
図表7 適用されたリアクティブな経営行動
15の単独会社のサブサンプルの合計ネット流動性ポジションの推移(図表8)は、FBSでは、全体で観察されたのと同じフロー(即ち、投資の流入によって補填されない生命保険事業の大きな技術的流出)により引き起こされ、84億ユーロの不足を示している。

CBSで適用された資産の売却により、投資からの流入が大幅(99億ユーロ)に増加し、さらに「その他」のカテゴリーで示されたレポ契約に関連した流動性注入(63億ユーロのうち61億ユーロ)が貢献した。これらのリアクティブな経営行動の全体的な効果により、ネット流動性ポジションは131億ユーロに増加する。
図表8 流動性ポジションの推移(リアクティブな経営行動を行ったサブサンプルの合計)
サブサンプルの分析はまた、これらの15の単体会社が、FBSの117の単体会社のフルサンプルのマイナスのネット流動性ポジションの83.2%(101億ユーロのうちの84億ユーロ)にどのように寄与するかを示している。これにより、潜在的な脆弱性を少数のプレーヤーに限定することができる。
 
図表9で報告されているFBSとCBSの資産配分の変化を比較すると、流動性ショックに対処するために単独会社によって適用されたリアクティブな経営行動は、資産配分に変化をもたらさないことが示されている。つまり、会社は同じ投資ミックスを維持しながら資産を売却する傾向がある。
図表9 リアクティブな経営行動による資産配分の変化
5|定性的情報
この種の初めての試みである流動性コンポーネントは、単独会社が流動性リスクをどのように管理しているかについての定性的情報も収集している。結果は以下の通りとなっている。
図表10 流動性に関する定性的質問

4―Insurance Europe(保険ヨーロッパ)の反応

4―Insurance Europe(保険ヨーロッパ)の反応

欧州の保険業界団体であるInsurance Europe(保険ヨーロッパ)は、2021年12月16日に声明を公表3して、「EIOPAストレステストの結果は、1000年に1回の極端なイベントでも、顧客への約束を果たす欧州保険業界の能力を裏付けている」と述べた。

具体的には、「極端なシナリオでは、ユーロ圏の市場金利は約20年間で▲1%とはるかに低くなり、同時に殆どの主要な資産クラスが大きな損失を被ると想定している。伝統的に「安全な避難所」の資産と見なされてきたソブリン債でさえ、価値を失うと予測されている。さらに、シナリオでは、関連する保険契約者の20%が保険契約を解約し、保険会社は保険金のインフレ率が上昇する可能性があると想定している。」とし、また「テストされた全ての保険会社が、このような極端なシナリオ(全て同時に発生)の下で顧客に対する全ての義務を引き続き果たすことができるという事実は、業界のバランスシートとリスク管理の強さを鮮明に示している。」と述べた。

具体的な声明は、以下の通りである。

2021年12月16日
EIOPAストレステストの結果は、1000年に1回の極端なイベントでも、顧客への約束を果たす欧州保険業界の能力を裏付けている

欧州保険・企業年金局(EIOPA)が実施した2021年のソルベンシーIIストレステストの結果が発表された後、保険ヨーロッパ副局長のOlav Jones氏は次のように述べている。

「この演習の結果は、特に欧州システミックリスク理事会が1000年に1回のイベントと推定したものを含むストレステストシナリオの極端な性質を考えると、業界の並外れた回復力を明確に示している。この結果はまた、流動性リスクは、保険会社によって監視及び管理されているものの、実際には重要な問題ではないことを確認している。」

「極端なシナリオでは、ユーロ圏の市場金利は約20年間で▲1%とはるかに低くなり、同時に殆どの主要な資産クラスが大きな損失を被ると想定している。伝統的に「安全な避難所」の資産と見なされてきたソブリン債でさえ、価値を失うと予測されている。さらに、シナリオでは、関連する保険契約者の20%が保険契約を解約し、保険会社は保険金のインフレ率が上昇する可能性があると想定している。」 

「テストされた全ての保険会社が、このような極端なシナリオ(全て同時に発生)の下で顧客に対する全ての義務を引き続き果たすことができるという事実は、業界のバランスシートとリスク管理の強さを鮮明に示している。また、超低金利とパンデミックが顧客保護の観点から保険会社のビジネス上の課題として認識されることもあるが、現在の資本レベルはソルベンシーIIの目標をはるかに超える保護を提供するのに十分すぎることも示している。」

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回のレポートでは、報告書の第3章のストレステストの結果の中から、流動性コンポーネントへの影響の抜粋及び今回の報告書に対する保険業界団体からの反応について報告した。

今回のストレステストの結果報告を受けての今後のステップについては、前々回のレポートで報告した通りである。EIOPAと各国監督当局は、セクターのリスクと脆弱性をより深く理解するために、結果をさらに分析し、EIOPAは、演習で特定された関連する懸念事項に関する推奨事項を発行する必要性を評価していくことになる。

EIOPAのストレステストを巡る動向については、日本においても関心の高い事項であることから、今後とも引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2022年02月01日「保険・年金フォーカス」)

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