2022年01月31日

2021年10-12月期の実質GDP~前期比1.4%(年率5.6%)を予測~

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●10-12月期は年率5.6%を予測~2四半期ぶりのプラス成長

2021年10-12月期の実質GDPは、前期比1.4%(前期比年率5.6%)と2四半期ぶりのマイナス成長になったと推計される1

外需寄与度が前期比0.4%(年率1.4%)のプラスとなる中、緊急事態宣言の解除を受けて、外食、宿泊などの対面型サービスを中心に民間消費が前期比2.3%の高い伸びとなったことが、成長率を大きく押し上げた。一方、公的需要は、医療費の持ち直しを反映し政府消費が前期比0.3%の増加となったが、公的固定資本形成が同▲3.3%の減少となったため、3四半期ぶりに減少した。

実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が1.0%(うち民需1.1%、公需▲0.1%)、外需が0.4%と予測する。
 
名目GDPは前期比0.8%(前期比年率3.1%)と2四半期ぶりに増加するが、実質の伸びは下回るだろう。GDPデフレーターは前期比▲0.6%(7-9月期:同▲0.1%)、前年比▲1.3%(7-9月期:同▲1.2%)と予測する。国内需要デフレーターは前期比0.3%の上昇となったが、国際商品市況高騰の影響で輸入デフレーターが前期比6.9%の高い伸びとなり、輸出デフレーターの伸び(前期比2.2%)を上回ったことがGDPデフレーターを押し下げた。
交易利得の推移 なお、輸出入デフレーターの差によって生じる所得の実質額を表す交易利得(損失)は、2021年1-3月期が前期差▲3.2兆円、4-6月期が同▲2.4兆円、7-9月期が同▲3.4兆円となった後、10-12月期は同▲5.5兆円と減少幅の拡大が予想される。

2021年入り後、原油をはじめとした資源価格高騰に伴う交易条件の悪化によって、海外への所得流出が続いている。2021年の交易利得は▲3.8兆円となり、前年から▲6.9兆円の悪化が見込まれる。
 
2/15に内閣府から2021年10-12月期のGDP速報が発表される際には、基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから、成長率が過去に遡って改定される。当研究所では、2021年7-9月期の実質GDP成長率は外需の上方修正などから、前期比年率▲3.6%から同▲3.3%へ上方修正されると予測している。

この結果、2021年(暦年)の実質GDP成長率は1.6%(2020年は▲4.5%)、名目GDP成長率は0.7%(2020年は▲3.6%)となることが見込まれる。
 
2021年10-12月期の実質GDPは、コロナ前(2019年10-12月期)比で▲0.3%まで回復したが、直近のピーク(2019年4-6月期)に比べれば▲3.0%低い。2022年入り後、新型コロナウイルスの感染再拡大を受けて、34都道府県でまん延防止等重点措置が適用されている。2021年1-3月期は10-12月期の成長を牽引した民間消費が減少に転じる可能性が高く、成長率の急低下は避けられないだろう。現時点では、2021年1-3月期の実質GDPは、民間消費の減少を輸出や輸出の増加がカバーすることにより、前期比年率1%程度の成長を予想しており、実質GDPがコロナ前の水準を回復するのは2022年4-6月期までずれ込む公算が大きい。緊急事態宣言の発令などにより行動制限をさらに強化すれば、マイナス成長に陥る可能性が高まるだろう。
 
1 1/31までに公表された経済指標をもとに予測している。今後公表される経済指標の結果によって予測値を修正する可能性がある。

主な需要項目の動向

●主な需要項目の動向

・民間消費~財、対面型サービスを中心に高い伸び~
 民間消費は前期比2.3%と2四半期ぶりの増加を予測する。緊急事態宣言の解除を受けて、外食、宿泊などの対面型サービス消費が高い伸びとなったことに加え、供給制約の緩和に伴う自動車販売の増加などから、財消費も堅調な動きとなった。

足もとの消費関連指標を確認すると、「商業動態統計」の実質小売業販売額指数(小売業販売額指数を消費者物価指数(財)で実質化)は2021年7-9月期の前期比0.3%の後、10-12月期は同1.3%と伸びを高めた。
消費関連指標の推移 7-9月期に前期比▲15.1%(当研究所による季節調整値)と急速落ち込んだ自動車販売台数は10-12月期も同0.9%の低い伸びにとどまったが、月次では10月から12月までの3ヵ月で41.8%の高い伸びとなった。

また、低迷が続いていた外食産業売上高、延べ宿泊者数は、緊急事態宣言の解除を受けて、10-12月期はそれぞれ前期比9.1%、同28.9%と急回復した。
・住宅投資~木材価格の高騰が下押し要因に~
住宅投資は前期比▲0.4%と2四半期連続の減少を予測する。
新設住宅着工戸数の推移 新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2019年10月の消費税率引き上げ後に90万戸を割り込んだ後、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化した2020年度入り後に80万戸程度へと水準を大きく切り下げた。2021年度入り後は80万戸台半ばまで持ち直しているが、木材価格の高騰が住宅投資の下押し要因となっている。

 
・民間設備投資~2四半期連続の減少~ 
民間設備投資は前期比▲0.8%と2四半期連続の減少を予測する。

設備投資の一致指標である投資財出荷指数(除く輸送機械)は2021年7-9月期の前期比▲2.2%の後、10-12月期は同▲4.0%と2四半期連続で減少した。一方、機械投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は2021年7-9月期に前期比0.7%と2四半期連続で増加した後、10、11月の平均は7-9月期を4.7%上回っている。

日銀短観2021年12月調査では、2021年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が前年度比9.6%となり、前年同期時の同▲3.2%(2020年12月調査の2020年度計画)を大きく上回っている。

設備投資は、企業収益の回復を背景に基調としては持ち直しているが、部品不足などの供給制約の影響が残っていることが、設備投資の抑制要因になっていると考えられる。
設備投資関連指標の推移/設備投資計画(全規模・全産業)
・公的固定資本形成~4四半期連続の減少~
公的固定資本形成は前期比▲3.3%と4四半期連続の減少を予測する。
公共工事請負金額、出来高の推 公共工事の先行指標である公共工事請負金額は2020年10-12月期から5四半期連続で減少し、2021年10-12月期は前年比▲15.0%となり、7-9月期の同▲12.0%から減少幅がさらに拡大した。また、公共工事の進捗を反映する公共工事出来高(建設総合統計)は、2019年7-9月期に前年比▲3.8%と10四半期ぶりに減少した後、10、11月の平均は同▲8.9%と減少幅が拡大している。

公的固定資本形成は、災害復旧や国土強靭化関連工事の進捗を反映し増加傾向が続いてきたが、2020年末頃をピークに減少している。
・外需~輸出が増加に転じ、成長率の押し上げ要因に~
外需寄与度は前期比0.4%(前期比年率1.4%)と予測する。供給制約の緩和に伴う自動車輸出の回復を主因として、財貨・サービスの輸出が前期比1.2%となる一方、ワクチン購入の一巡などから、財貨・サービスの輸入が同▲0.7%の減少となったため、外需は成長率の押し上げ要因となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 2021年10-12月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比▲1.5%(7-9月期:同▲9.2%)、EU向けが前期比0.8%(7-9月期:同5.9%)、アジア向けが前期比▲4.3%(7-9月期:同▲3.3%)、うち中国向けが前期比▲5.5%(7-9月期:同▲4.7%)、全体では前期比▲0.6%(7-9月期:同▲2.4%)となった。

EU向けは堅調を維持しているが、米国向け、アジア向けは弱い動きとなっている。ただし、米国向けは自動車輸出の回復を主因に、10月から3ヵ月連続で上昇しており、基調としては持ち直している。


 
日本・月次GDP 予測結果
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2022年01月31日「Weekly エコノミスト・レター」)

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