2022年01月28日

米GDP(21年10-12月期)-前期比年率+6.9%と前期(同+2.3%)から上昇、市場予想(同+5.5%)も上回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:成長率は前期から大幅に上昇、市場予想も上回る

1月27日、米商務省の経済分析局(BEA)は21年10-12月期のGDP統計(1次速報値)を公表した。10-12月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、季節調整済の前期比年率1 で+6.9%(前期:+2.3%)と前期から大幅に上昇した(図表1・2)。また、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+5.5%も上回った。

一方、21年通年の成長率は前年比+5.7%と1984年(+7.2%)以来の高成長となった。
(図表1)米国の実質GDP成長率(寄与度)/(図表2)米国のGDP(項目別)
10-12月期の成長率を需要項目別にみると、政府支出が前期比年率▲2.9%(前期:+0.9%)と前期からマイナスに転じたほか、住宅投資が▲0.8%(前期:▲7.7%)とマイナス幅は縮小したものの、3期連続のマイナスとなった(図表2)。

一方、外需の成長率寄与度が横這い(前期:▲1.26%ポイント)と前期の大幅なマイナスから回復したほか、個人消費が前期比年率+3.3%(前期:+2.0%)、設備投資が+2.0%(前期:+1.7%)と前期から伸びが加速した。

さらに、在庫投資の成長率寄与度が+4.90%ポイント(前期:+2.20%ポイント)と前期から大幅に伸びが加速して成長率を押し上げた。これで在庫投資のプラス寄与は2期連続となり、新型コロナで落ち込んだ在庫の積み上げが継続している状況が確認された。

このように、当期の成長率が前期から大幅に上昇したのは、個人消費や設備投資の回復に加えて、在庫投資が成長率を大幅に押し上げたことが大きい。もっとも、22年に入ってからオミクロン株の感染拡大に伴い対面型サービス消費には鈍化がみられており、このままオミクロン株の感染拡大が続けば、22年1-3月の個人消費は再び鈍化する可能性が高い。
 
1 以降、本稿では特に断りの無い限り季節調整済の実質値を指すこととする。

2.結果の詳細:

(個人消費・個人所得)耐久財を中心に財消費が増加
10-12月期の個人消費は、財消費が前期比年率+0.5%(前期:▲8.8%)と前期の大幅なマイナスから小幅なプラスに転じた一方、サービス消費が+4.7%(前期:+8.2%)と堅調を維持したものの、伸びが鈍化した(図表3)。財消費では、耐久財が+1.6%(前期:▲24.6%)とプラスに転じた一方、非耐久財は▲0.1%(前期:+2.0%)と小幅ながらマイナスに転じた。

耐久財では、自動車・自動車部品が▲6.6%(前期:▲50.3%)、家具・家電が▲5.6%(前期:▲11.0%)と前期からマイナス幅が縮小したほか、娯楽・スポーツカーが+11.7%(前期:▲6.2%)とプラスに転じて全体を押し上げた。

非耐久財は、ガソリン・エネルギーが+0.4%(前期:+11.3%)と前期からは大幅に伸びが鈍化したほか、食料・飲料が▲1.3%(前期:▲0.3%)、衣料・靴が▲2.4%(前期:▲0.7%)と前期からマイナス幅が拡大した。

サービス消費は、医療サービスが+7.3%(前期:+4.9%)、金融サービスが+6.6%(前期:+4.1%)と前期から伸びが加速したほか、輸送サービスが+20.2%(前期:+49.4%)、娯楽サービスが+20.1%(前期:+26.2%)と前期から鈍化したものの、堅調な伸びを維持した。一方、住宅・公共料金が+0.2%(前期:+1.6%)と小幅に鈍化したほか、飲食・宿泊サービスが+1.6%(前期:+12.8%)と大幅に伸びが鈍化した。
(図表3)米国の実質個人消費支出(寄与度)/(図表4)米国の実質可処分所得伸び率と貯蓄率
実質可処分所得は前期比年率▲5.8%(前期:▲4.3%)と3期連続のマイナスとなった(前掲図表4)。可処分所得は、直接給付や失業保険の追加給付などの経済対策の政策効果が剥落した影響が残っている。

一方、可処分所得が減少したことから貯蓄率は7.4%(前期:9.5%)と前期から▲2.1%ポイント低下して、新型コロナ流行前の19年10-12月期(7.4%)以来の水準となった。
(民間投資)知的財産投資が好調を維持
10-12月期の民間設備投資の内訳は建設投資が前期比年率▲11.4%(前期:▲4.1%)と前期からマイナス幅が拡大した一方、設備機器投資が+0.8%(前期:▲2.3%)と前期から小幅ながらプラスに転じたほか、知的財産投資が+10.6%(前期:+9.1%)と好調を維持して設備投資全体を押し上げた(図表5)。
(図表5)米国の実質設備投資(寄与度)と実質住宅投資 建設投資では、資源関連が+31.2%(前期:+8.3%)と前期から伸びが加速したものの、商業・医療が▲25.6%(前期:▲0.1%)、製造業が▲20.3%(前期:▲9.2%)、電力・通信が▲13.3%(前期:▲9.4%)といずれも前期からマイナス幅が拡大した。

設備機器投資は、輸送機器が▲38.2%(前期:▲16.3%)と前期からマイナス幅が拡大したものの、情報処理関連が+24.7%(前期:▲1.4%)とプラスに転じたほか、産業機器が+15.2%(前期:+6.6%)と伸びが加速した。

知的財産投資では、研究・開発が+6.7%(前期:+7.2%)と小幅ながら伸びが鈍化した一方、ソフトウエアが+12.7%(前期:+9.3%)、娯楽・文学等が+24.2%(前期:+21.0%)と伸びが加速した。

最後に住宅投資は、戸建てが前期比年率▲10.4%(前期:▲6.4%)、集合住宅が▲2.6%(前期:▲1.8%)、といずれも前期からマイナス幅が拡大した。
(図表6)米国の実質政府支出(寄与度) (政府支出)連邦政府および地方・州政府支出ともに減少
10-12月期の政府支出の内訳は、連邦政府が前期比年率▲4.0%(前期:▲5.1%)と前期からマイナス幅が縮小した一方、州・地方政府が▲2.2%(前期:+4.9%)とマイナスに転じて全体を押し下げた(図表6)。

連邦政府支出では、国防関連支出が▲5.7%(前期:▲1.7%)とマイナス幅が拡大した一方、非国防支出が▲1.6%(前期:▲9.5%)とマイナス幅が縮小した。
(貿易)輸出入ともに前期から伸びが大幅に加速
10-12月期の輸出入は輸出が前期比年率+24.5%(前期:▲5.3%)と前期から大幅なプラスに転じたほか、輸入も+17.7%(前期:+4.7%)と伸びが加速した。外需の成長率寄与度は前期から大幅にマイナス幅が縮小したが、輸出が回復したことが大きい。

輸出を仔細にみると、財輸出が前期比年率+24.4%(前期:▲5.0%)、サービス輸出が+24.7%(前期:▲5.9%)といずれも前期から大幅なプラスに転じた(図表7)。

財輸出では、食料・飲料が+75.8%(前期:▲34.0%)、工業用原料が+15.4%(前期:▲8.3%)、資本財(自動車関連除く)が+8.0%(前期:▲5.8%)、自動車関連が+44.5%(前期:▲7.1%)と、いずれも前期からプラスに転じたほか、消費財(食料、自動車関連除く)が+52.7%(前期:+41.7%)と伸びが加速した。

サービス輸出では、輸送が+47.8%(前期:▲8.2%)、旅行が+241.7%(前期:▲2.1%)といずれも前期から大幅なプラスに転じた。

一方、輸入はサービス輸入が前期比年率+14.8%(前期:+35.0%)と前期から伸びが鈍化したものの、財輸入が+18.3%(前期:▲0.3%)と大幅なプラスに転じて全体を押し上げた(図表8)。

財輸入では、工業用原料が+2.8%(前期:+20.0%)と前期から伸びが鈍化したものの、資本財(自動車関連除く)が+12.0%(前期:+1.9%)と伸びが加速したほか、食料・飲料が+0.3%(前期:▲0.2%)、自動車関連が+14.7%(前期:▲18.8%)、消費財(食料、自動車関連除く)が+38.8%(前期:▲10.2%)とプラスに転じた。

サービス輸入は、輸送が+41.1%(前期:+46.8%)、旅行が+77.0%(前期:+390.8%)と堅調を維持したものの、前期から伸びが鈍化した。
(図表7)米国の実質輸出(寄与度)/(図表8)米国の実質輸入(寄与度)
(物価・名目値)PCE価格指数は前年同期比で総合、コアともに上昇基調が持続
10-12月期のGDP価格指数は前期比年率+6.9%(前期:+6.0%)と前期から上昇し、市場予想(同+6.0%)も上回った。この結果、名目GDP成長率は前期比年率+14.3%(前期:+8.4%)となった(図表9)。

一方、FRBが物価の指標として注目するPCE価格指数2 は、前期比年率+6.5%、前年同期比+5.5%(前期:+5.3%、+4.3%)と前期比、前年同期比ともに前期から上昇した(図表10)。また、物価の基調を示す食料品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数も、前期比年率+4.9%、前年同期比+4.6%(前期:+4.6%、+3.6%)となり、総合指数同様に前期比、前年同期比ともに前期から上昇しており、物価上昇圧力が持続していることを確認する結果となった。
(図表9)米国の名目と実質の成長率/(図表10)米国のPCE価格指数伸び率
 
2 現在、FOMCのメンバーは四半期に一度物価見通しを公表しており、そこで物価の指標として採用されている指数がPCE価格指数とコアPCE価格指数である。見通しは年単位で、各年の10-12月期における前年同期比が公表されている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年01月28日「経済・金融フラッシュ」)

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