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共同富裕に舵を切った中国-文化大革命に逆戻りし経済発展が止まるのか?
基礎研REPORT(冊子版)1月号[vol.298]
三尾 幸吉郎
1―問題の所在
*1 中国建国(1949年)前の新民主主義革命期においては、庶民を苦しめる帝国主義、封建主義、官僚資本主義の3つを三座大山と呼んだ
2―習近平政権が誕生する前の共同富裕
3―習近平政権が目指す共同富裕
4―文化大革命に逆戻りするのか?
5―共同富裕が中国経済に与える影響
第一は共同富裕に向かうスピードの問題である。急ぎ過ぎれば経済発展を止める可能性が高まり、ゆっくりならその可能性は低くなる。習近平政権は21世紀半ばの実現を目標とし、それに先立って浙江省を共同富裕モデル区に設定して実証実験から始めることとしているため、約30年かけて浙江省から全国へと広げていくこととなる。したがって、共同富裕に向けた措置が、経済発展を止めるような急スピードで進むとは考えづらい。
第二は貧富の格差をどの程度まで縮めるかである。国際連合開発計画の報告によれば、中国では上位1%の富裕層が得ている所得が全体の13.9%に達した。それを一気に縮小するとなれば、リスクを伴う企業家精神(アントレプレナーシップ)が委縮して経済への打撃が大きくなる。習近平政権は「中間が大きく両端が小さいオリーブ型の分配構造」を目指すとしている。現在の所得分布は富裕層が少なく貧困層の多い三角形と見られるが、これを中間層の多いオリーブ型にするには、富裕層の財産を減らすとともに、その資金を貧困層の救済や教育に投入することにより、経済的に自立した中間層を増やすことになる。但し、現時点では目指すオリーブの姿は明確でない。浙江省での実証実験を待つしかないだろう。
第三は「第1次分配、再分配、第3次分配」に関する具体的な制度設計である。第1次分配で生産性の改善ペースを上回るような労働分配率の引上げを行なえば企業は疲弊するし、再分配で不動産税(日本の固定資産税に相当)の全国展開を急ぎ過ぎれば不動産バブルが崩壊する恐れも排除できない。一方、労働分配率を適切に引上げ、個人所得税の累進性を適切に強めることができれば、中間層が育ち個人消費を盛り上げる可能性もある。さらに第3次分配で先に成功した企業家が、その潤沢な資金をスタートアップ企業の支援や育成に向けるように導くことができれば、企業活動の生態系(エコシステム)を大きく発展させる起爆剤となる可能性もある。
6―経済成長率の見通し
一方、経済発展を止めてしまうようなことにもならないだろう。習近平政権は今後、前述した制度設計を具体化する段階に入るため経済が失速するリスクは高まる。しかし、鄧小平以来の歴代政権が尊重してきた科学的分析に基づく“実事求是”や“摸着石頭過河*2(踏み石を探って川を渡る)”の心構えを失わない限り、共同富裕モデル区における実証実験などで試行錯誤を繰り返しつつも、経済発展と共同富裕の最適バランスを探ることとなり、盲目的に共同富裕に邁進するとは考えにくい。したがって、共同富裕に向かうことで経済成長率は下がるだろうが、それは身の丈に合った経済成長率に戻るだけに過ぎないと筆者は考えている。
*2 摸着石頭過河とは必ず突破しなければならないことだが、確証がないものについては、しばらくは実践を重んじ、創造を重んじ、大胆に模索し、勇気をもって切り開くよう励まし、経験を得て見定めてから、再び押し開くように前進すること
三尾 幸吉郎
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(2022年01月11日「基礎研マンスリー」)
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