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外国人就労政策の行方-特定技能の受入れ拡大を巡る議論
総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也
5――見直しを巡る論点
なお、今般の見直しの方向性については、過去の経緯からみれば、驚きは少ない。例えば、1993年に創設された技能実習制度は、在留期間が研修と技能実習を合わせて最長2年とされていたが、1997年に最長3年に延長され、2017年の技能実習法4の改正を経て、最長5年まで延長されている。また、対象職種についても、17職種(1993年)から55職種(1999年)へ拡大し、累次の追加を経て、現在では85職種156作業5まで拡大している。特定技能の創設目的が、人手不足分野における即戦力たる外国人材の受入れにあり、人口減少で働き手の減少が進む現状を踏まえれば、対象業種の拡大が検討されること自体は、ある程度予想された展開と言える。
ただ、今般の業種拡大は、永住権の獲得にもつながる特定技能「2号」だという点が、これまでとは異なる。技能実習は、建前はどうあれ、短期的に労働者を受入れる制度であったが、特定技能「2号」は、長期的に外国人材を受入れる制度である点は、意識しておく必要があるだろう。
一方で、永住権の取得は、長期滞在するだけで認められるものではない。例えば、永住権の取得には、(1)素行が善良であること(入管法違反や犯罪行為のほか、軽微な道路交通法違反も繰り返すと素行不良と判断される場合もある)、(2)独立生計要件を満たすこと(保有資産や年収などから安定した生活が営めることを証明すること)、(3)国益適合要件を満たすこと(10年以上の在留かつ5年以上の就労、納税や出入国管理など届け出義務の履行、最長の在留資格の保有、公衆衛生上の観点から有害となる恐れがないこと、生活の基盤が日本にあること)などの要件を、すべて満たすことが求められる。特定技能「2号」では、これらのうち技能実習や特定技能「1号」では、算入の認められていない、5年以上の就労という要件を満たせることから、永住権の取得につながると考えられる。
なお、永住権を取得すると、日本における無期限の滞在や、配偶者や子の帯同、職業選択の自由などが認められる(ただし、議論はあるものの、参政権は認められていない)。さらに、永住権の取得後に誕生した子には、永住者の配偶者等の資格が与えられ、特定技能「2号」取得者本人と同じく、職業選択の自由が認められる。特定技能「2号」の対象業種の拡大は、長期的に国の在り方にも影響を及ぼし得ることから、これまで以上に慎重な検討が必要とされる。
4 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律
5 2021年3月時点。
6――今後のポイント
なお、特定技能「2号」の受入れ対象の拡大については、少子高齢化が進む日本の現状や、外国人材の獲得競争が激しくなる国際的な情勢を踏まえれば、妥当性が高い措置だと考えられる。
足元では、コロナ禍で需要が低迷しているとは言え、新型コロナの感染収束後には、宿泊や外食、航空サービスなどでも、需要の回復が期待される。特定技能「1号」の対象業種は、人手不足が深刻であった業種であり、需要が戻れば外国人材に対する需要も回復していくと見られる。また、国内の生産年齢人口は、少子高齢化で長期的に減少していくことは避けられず、今後も一定程度、外国人労働者に頼ることは必要になるだろう。
ただ、世界的な高齢化の進展により、人手不足の深刻化は、外国人材の主な出身国でも懸念され始めており、アジア周辺国の経済力も向上し、日本と諸外国の所得環境に差も、以前ほどには見られなくなっている。そのような中、将来に渡って外国人材を日本に惹きつけていくには、外国人材にとって魅力的な制度として、日本で長く働ける環境の整備が必要になると思われる。さらに、日本に長期滞在し、何の問題もなく経済や社会に貢献してきた人材は、日本にとって有用な存在だと言える。そのような人材の貢献に報い、さらなる活躍を期待する意味においても、受入れ対象を拡大することは、意義のあることだと言える。
しかし一方で、永住権の取得にもつながる特定技能「2号」の拡大は、長期的に国の在り方にも影響を及ぼし得る点で、国内にも異論がある。その懸念を和らげ、国民の理解や納得感を高めていくためにも、その制度設計や運営方法について、しっかりと検討していくことは必要だろう。
例えば、特定技能「2号」の技能レベルは、比較的要件の緩い「1号」と異なり、現行の「専門的・技術的分野」の在留資格と同等か、それ以上に高い水準が求められる。これは、一般的なイメージとは若干異なる可能性があり、その点については国民の間に誤解が生じないよう、十分丁寧に説明していく必要はあると思われる。ただ、特定技能「2号」の移行試験については、2021年12月1日時点で、まだ「建設分野」「造船・舶用工業分野」のいずれでも実施されていない。実際に、どの程度の技術水準が求められるかは、今後の運営次第の面もあり、十分注意してみていく必要はあるだろう。
なお、特定技能「2号」への現実的な移行資格である特定技能「1号」については、少なくとも現状を振り返る必要はあると思われる。2019年からの5年間で、最大34.5万人を受け入れるとした数値は、コロナ禍以前の前提に基づいており、足元の経済や雇用状況を反映していない。また、労働力不足見込み数の内訳である、生産性や国内人材の確保状況についても確認が必要だろう。生産性の状況については、景気動向に左右される面もあり、短期的な変化に着目することにあまり意味はないが、分野別に置かれた前提に、妥当性があるかは検証していくべきだろう[図表4]。さらに、今般の見直しで、特定技能「1号」の対象分野が、そのまま特定技能「2号」の対象分野となり得ることが示された。その受入れの必要性や規模については、より精緻に検討していくことが求められる。
最後になるが、特定技能「2号」の受入れが拡大すれば、日本に長期滞在する外国人材は、今よりも増えて、共生社会の実現に向けた環境整備は、ますます重要になると考えられる。現状でも、外国人子女への教育が行き届かない面があり、十分に対応ができているとは言い難い。今後、日本で結婚し、国内で子育てを考える外国人が増えていけば、日本語指導が必要な子どもの数が増え、教員の不足はさらに深刻化する可能性が高く、自治体等の負担も増えることが予想される。今般の見直しでは、そのような共生政策の在り方についても、議論が深められることが期待される。
6 外国人の雇用・労働等に係る統計整備に関する研究会
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(2021年12月23日「基礎研レター」)
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03-3512-1790
- 【職歴】
2011年 日本生命保険相互会社入社
2017年 日本経済研究センター派遣
2018年 ニッセイ基礎研究所へ
2021年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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