2021年12月23日

外国人就労政策の行方-特定技能の受入れ拡大を巡る議論

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也

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1――はじめに

2019年4月の「出入国管理及び難民認定法」(以降、改正入管法)施行から2年が経過した今年は、新たに創設された在留資格である、特定技能の見直しを行う時期にあたる。

今般の見直しで特に注目されるのは、特定技能「2号」の扱いだ。現在、その対象業種拡大についての検討が進められている。ただ、永住権の取得や家族帯同も可能となる、特定技能「2号」の受入れ拡大は、移民政策や治安などへの懸念から異論もあり、どのような形で決着するか見通しづらい。

本稿では、対象業種拡大の検討が進む特定技能について、制度創設後の状況を整理し、今後のポイントについて考えてみたい。

2――特定技能の制度概要

2――特定技能の制度概要

特定技能制度は、2018年12月8日の改正入管法の成立に伴い、2019年4月から創設された制度だ。同制度の意義は、「中小・小規模事業者をはじめとした深刻化する人手不足に対応」するため、「生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある」産業分野において、「一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人」を受け入れていくことだとされる1

その特徴としては、日本人従業員と同等以上の待遇にすることが、受入れ企業に義務付けられたほか、同一の業務区分内であれば、転職も認められることなどが挙げられる。なお、混同されることも多い、技能実習制度との比較では、受入れ職種や在留期間などのほか、制度創設の目的や対象とする人材などにも違いがある。例えば、制度創設の目的については、技能実習制度が技術移転を通じた、発展途上国への国際貢献にある一方、特定技能制度は人手不足分野における、労働力の確保を目的としている。また、在留資格の取得要件においても、技能実習制度が介護職種を除いて、日本語能力試験などを課していないのに対して、特定技能制度は、日本語能力試験と技能試験の両方を要件としている。このことは、特定技能制度が、際立った専門性を有しているとまでは言えないまでも、相対的に高いスキルを有した人材を、受入れるための制度であることを示している。

なお、特定技能には、技能水準に応じて、特定技能「1号」「2号」という2種類の在留資格がある。

特定技能「1号」については、「特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」であり、「特段の育成・訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる」人材に認められる。在留期間は、通算で上限5年。家族帯同は基本的に認められず、受入れ機関又は登録支援機関による支援が必要となる。

特定技能「2号」については、「特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」であり、「現行の専門的・技術的分野の在留資格を有する外国人と同等又はそれ以上の高い専門性・技能を要する」レベルの人材に認められる。在留期間は、更新の必要はあるが上限はない。要件を満たせば家族帯同も可能であり、登録支援機関などによる支援も義務ではなくなる。

2021年12月時点における特定技能「1号」の対象業種は、「介護分野」「ビルクリーニング分野」「素形材産業分野」「産業機械製造業分野」「電気・電子情報関連産業分野」「建設分野」「造船・舶用工業分野」「自動車整備分野」「航空分野」「宿泊分野」「農業分野」「漁業分野」「飲食料品製造業分野」「外食業分野」の14分野。このうち特定技能「2号」への移行が可能なのは、「建設分野」「造船・舶用工業分野」の2分野だけである。今般の議論でとりわけ注目されるのは、この部分にあたる。
 
1 「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針について」(2018年12月25日閣議決定)

3――国論を二分した制度

3――国論を二分した制度

特定技能を巡っては、2018年の入管法改正時において、国論を大きく二分してきた。当時の世論調査結果を並べてみると、外国人労働者の受入れ拡大の賛否は拮抗し、新制度が移民政策にあたるかの認識も、分かれていたことがよく分かる[図表1]。
[図表1]入管法改正(前後)の主要各紙・世論調査
改正入管法の審議は、2018年を通して行われた。2018年2月の経済財政諮問会議において、外国人の就労拡大に向けた新制度の検討が始まると、6月の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」に、新たな在留資格創設が明記され、12月の臨時国会で成立するというスピード感で進められている。

新制度を巡っては、対象分野を巡る線引きが1つの焦点となった。6月の当初想定時には、介護、宿泊、農業、造船、建設の5分野が挙げられていたが、人手不足が深刻化する業界からの要望を受けて、最終的には上記14分野まで拡大している。

また、法案の審議過程では、現行の外国人技能実習制度の就労問題、社会保障や年金給付に係る問題、治安や国内労働市場への悪影響など、様々な論点が浮上し、激論が交わされている。特に保守層からは、事実上の移民政策だとの批判が根強く、与党内にも異論があった。これに対して政府は、新制度による外国人材の受入れを、単なる労働力の受入れと定義することで、何とか法案の成立にこぎつけた経緯がある。

これまでの経緯を振り返ると、改正入管法は、始めて単純労働分野に外国人材を受入れる、歴史的な政策転換と言われた割には、切迫する人手不足への対応を優先し、早期決着が図られた結果、議論が生煮えのまま終わった感は否めないだろう。

4――創設後2年の現状

4――創設後2年の現状

2020年10月時点で、日本で就労している外国人労働者は172.4万人。2013年以降8年連続して過去最高を記録し、コロナ禍にあっても前年比+6.5万人増加している。このうち、特定技能は7,262人と全体の0.42%を占めるに過ぎなかったが、最新の統計資料2によると、2021年9月末には38,337人まで拡大している。

なお、特定技能の受入れは、2019年度から2024年度までの5年間に、最大約34.5万人とする方針が示されている。2021年9月末時点の受入れ充足率(受入れ実績/最大受入れ予定数)は、特定技能全体で11.1%であり、予定期間の半分が経過した状況としては、低い水準にあると言える[図表2]。その要因としては、コロナ禍で厳しい入国制限が課されたことに加えて、制度創設までの準備期間が短く、二国間の覚書締結の遅れや、技能試験の開始の遅れなどが影響したことが考えられる。
[図表2]特定技能の受入れ状況
実際、分野別の受入れ状況をみると、コロナ禍の影響の大きかった「ビルクリーニング分野」「航空分野」「宿泊分野」「外食業分野」などでは、受入れ充足率がとりわけ低く、最大見込み数の5%にも達していない[図表3]。また、コロナ禍の影響が相対的に小さかったと考えられる「介護分野」や「漁業分野」などでも、入国規制の厳格化や試験実施の遅れから、思うような受入れはできていない。
[図表3]特定技能人材の充足率
一方、製造3分野と言われる「素形材産業分野」「産業機械製造業分野」「電気・電子情報関連産業分野」では、特定技能に移行可能な技能実習生の数が多く、コロナ禍においても移行者が増えたと考えられる。全体の36.1%(13.8万人)を占め、最大の受入れ分野となった「飲食料品製造業分野」では、技能実習から特定技能に移行することによって、業務範囲や対象となる事業所範囲が広がることから、他の分野よりも移行が積極的に進んだとみられる。

国籍別には、ベトナム(23.9千人、構成比362.5%)、フィリピン(3.6千人、同9.4%)、中国(8.3千人、同8.3%)、インドネシア(3.1千人、同8.0%)からの受入れが多く、その顔ぶれは制度設立当初から、ほぼ変わっていない。特定技能への主な移行資格である技能実習(2020年10月時点)と比較すると、受入れ上位国の顔ぶれは一致しているものの、その構成比には若干の違いがあり、ベトナムの比率(技能実習の構成比は54.3%)は高まる一方、中国の構成比(同19.1%)は小さくなっている。これは、ベトナムの技能実習生における、特定技能への移行比率が、中国よりも高いことを示めしており、特定技能に移行しやすい業種にベトナム出身者が多いことを示唆している。実際、ベトナム出身者は、特定技能の受入れが進む「飲食料品製造業分野」で多く、その7割以上を占めている。

分野別には、「飲食料品製造業分野」「建設分野」でベトナムの存在感が大きく、「造船・舶用工業分野」「自動車整備分野」はフィリピン、「漁業分野」はインドネシアの存在感が大きいなど、国ごとに特徴が見られる。なお、中国については、分野別の構成比でみると、「ビルクリーニング分野」「自動車整備分野」が少ないこと以外、あまり偏りはみられない。

地域別には、「飲食料品製造業分野」に加えて、製造3分野の受入れが多い、愛知県(3.3千人)が最多であり、「介護分野」「建設分野」で受入れの多い、千葉県(2.6千人)、埼玉県(2.3千人)などが続く。受入れの総数では、3大都市圏の周辺が多いものの、人手不足が増しつつある地方部でも、受入れ拡大は続いているようだ。
 
2 出入国管理庁「特定技能1号在留外国人数」
3 特定技能1号在留外国人数に占める割合
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総合政策研究部   准主任研究員

鈴木 智也 (すずき ともや)

研究・専門分野
経済産業政策、金融

経歴
  • 【職歴】
     2011年 日本生命保険相互会社入社
     2017年 日本経済研究センター派遣
     2018年 ニッセイ基礎研究所へ
     2021年より現職
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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