2021年12月07日

新型コロナワクチンを「接種したくない」と思っていた人が 接種を決めた理由

基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.297]

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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本稿では、新型コロナウイルスのワクチンの接種を、7月調査では希望していなかったものの、9月調査では接種または接種予約をしていた人に着目し、当初ワクチンをすぐには接種したくなかった理由、7~9月における感染等不安の変化、最終的にワクチンを接種した理由を紹介し、今後のワクチン接種体制について考えたい。
 
分析に使用したのは、ニッセイ基礎研究所による「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査*1」の第5回調査(2021年7月5~7日実施)と第6回調査(9月22~29日実施)の両方に回答をした人のデータである。

1―7月に接種希望がなかった人の4割弱が接種または予約済

まず、両時点におけるワクチン接種状況・意向を図表1に示す。
ワクチン接種状況・意向
7月に、接種または予約を終えている(「二回目まで接種を完了している」「一回目の接種は終えている」「一回目の接種予約は完了し、接種日を待っている」)割合は37.3%だった。また、予約はしていないが接種意向がある(「すぐにでも接種したい」「しばらく様子を見てから接種したい」)割合は45.0%、接種希望がない(「あまり接種したくない」「絶対に接種したくない」)割合は17.8%だった。
 
それからおよそ3か月後の9月には、接種または予約を終えている割合が81.5%と、接種や接種予約が進んでいた。9月に「まだ予約していないが、すぐにでも接種したい」は2.8%と低く、接種意向のある人はおおむね予約を終えていたと考えられる。
 
7月の接種状況・意向別に9月の状況をみると、7月に接種希望がなかった人の基礎研レポート49.8%は9月にも接種希望がなかったが、36.8%は接種または予約を終えていた[図表2]。
ワクチン接種状況・意向
そこで、以下では、(1)7月に接種または予約を終えていた人(7月に予約・接種済)、(2)7月には接種の希望がなかったが、9月には接種または予約を終えていた人(希望なし→予約・接種済)、(3)9月にも接種希望がなかった人(9月も接種希望なし)の3つのグループで分析を行う。
 

2―接種を希望しなかった理由(7月)~「希望なし→予約・接種済」で、“様子見”、「9月も接種希望なし」で“安全性への不安”“ワクチン不要”

まず、7月時点で、ワクチンをすぐには接種しなかった理由について、「(2)希望なし→予約・接種済」と「(3)9月も接種希望なし」を比較する[図表3]。
ワクチンをすぐには接種したくない理由
(3)は「副反応が心配だから」「将来的な安全性が確認できていない」などの“安全性への不安”を理由とする人が多かったほか、「自分は感染しない、または重症化しないと思うから」「基本的な感染防止対策で十分だと思うから」などの“ワクチン不要”と考える人の割合が高かったのに対し、(2)は「予約券が届いていないから」「身近な人が接触して問題がないことが確認できていないから」などの“様子見”をしている人が多かった。このことから、すぐには接種を希望していなかった点では同様だったが、「(2)希望なし→予約・接種済」は、「(3)9月も接種希望なし」と比べると、接種をまったく検討していなかったわけではなく、周囲の接種状況を見てから検討したかったようだった。

3―感染による健康不安~「希望なし→予約・接種済」は、7~9月に適切な治療が受けられない不安が上昇

次に、7~9月における新型コロナウイルスによる健康不安の変化を図表4に示す。7月における「感染による健康状態の悪化」に関して、不安と感じている(5段階評価の「非常に不安」または「やや不安」)割合は、「(2)希望なし→予約・接種済」が55.2%、「(3)9月も接種希望なし」が43.8%と、(2)は(3)と比べて高かった。この割合は、9月には、(2)が59.1%、( 3)が48.1%と、いずれも約4ポイント上昇した。この間、国内では感染の第5波があったことから、感染の不安を持つ人が増えたと考えられる。
 
一方、「感染しても適切な治療が受けられない」に関して、不安と感じている割合は、7月に「(2)希望なし→予約・接種済」が42.2%、「(3)9月も接種希望なし」が42.8%と、両者に差はなかった。ところが、9月には、(2)が57.1%、(3)が45.2%と、(3)が2.4ポイントの上昇にとどまったのに対し、(2)は15ポイント上昇しており、(2)と(3)に大きな差ができていた。この間、自宅療養中に死亡した例や、救急搬送ができなかった例が多く報じられていた。図表3のとおり、(2)は「自分は重症化しない」と考えている割合が(3)より低く、重症化しても治療が受けられない不安が高まった可能性がある。

4―接種理由(9月)~「7月に予約・接種済」は、自分や周囲のリスク軽減と「打つものだと思っていた」。「希望なし→予約・接種済」は、家族の勧め、不利益をこうむりそう、周囲の接種状況を見て

最後に、ワクチンを接種した理由について、「(1)7月に予約・接種済」と「(2)希望なし→予約・接種済」を比較した[図表5]。
ワクチンを接種した理由
(1)は、自分や周囲の人の感染リスクや重症化・死亡リスクを下げること、国内の感染者数を減らすこと等、ワクチンの効用に期待をした積極的な理由が多かった。次いで、「打つものだと思っていた」が3割を超えて高くなっていた。
 
一方、(2)もワクチンの効用に期待した理由もあったが、(1)と比べて低く、「周囲の人が接種しているから」「家族に勧められたから」「ワクチン接種済み証明(ワクチンパスポート)を活用した行動緩和策において、不利益をこうむりそうだから」が(1)より高かった。

5―おわりに

以上のとおり、7月調査で接種希望がなかった人のおよそ半数が9月調査でも接種希望がなかったが、4割弱は予約または接種を済ませていた。
 
「(2)希望なし→予約・接種済」は「(3)9月も接種希望なし」と比べて、7月調査で感染による健康状態の悪化に不安を感じていた割合が高かったほか、7~9月の間に、感染しても適切な治療が受けられない不安が大幅に上昇していた。7月調査でも、接種をまったく検討していなかったわけではなく、周囲の接種状況や、国内の感染状況、医療ひっ迫の状況等を踏まえて接種を検討したと推測できる。ワクチン接種理由は、ワクチンの効用に期待した回答も上位にあがったが、「(1)7月に接種・予約済」と比べて低く、家族の勧めや周囲の人の接種状況、接種済み証明(ワクチンパスポート)の活用に関する議論を考慮して接種したなどの消極的な理由も一定程度あった。また、(1)は「(ワクチンを)打つものだと思っていた」が3割を超えて高く、ワクチンで感染症を予防しようとする考えには個人差があると考えられた。
 
9月調査で、「まだ予約していないが、すぐにでも接種したい」は2.8%にとどまり、接種意向のある人はおおむね予約を終えたと考えられる。現在、接種意向がない人は、感染不安や適切な治療が受けられないことへの不安、重症化する不安が相対的に低く、ワクチン接種に対する安全性への不安が高い人やワクチン不要との考えが多い。
 
しかし、感染の再拡大や重症化リスクの高い変異株の出現、自分自身や同居家族が転職や体調等によって感染や重症化リスクが高まったとき、副反応の頻度や程度が低いワクチンが開発されたとき等に、接種意向が生じる可能性があろう。そのため、今後は、必要な時に接種できる仕組みを整備しておくことが必要だろう。
 
*1 20~74歳男女個人を対象とするインターネット調査。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

(2021年12月07日「基礎研マンスリー」)

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