2021年10月29日

中国経済の現状と今後の注目点-電力不足、不動産規制、コロナの3点に注目!

三尾 幸吉郎

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1. 中国経済の概況

(図表-1)中国の国内総生産(GDP) 中国国家統計局は10月18日、2021年7-9月期の国内総生産(GDP)を発表した。経済成長率は実質で前年同期比4.9%増と前四半期の同7.9%増を下回り、2四半期連続で減速した。

新型コロナウイルスが猛威を振るった後の中国経済を振り返ると、昨年1-3月期にはコロナ禍で同6.8%減に落ち込んだものの、昨年4-6月期には同3.2%増とプラスに転じ、今年1-3月期には前年同期に落ち込んだ反動も手伝って同18.3%増の高成長となった。しかし、4-6月期以降は電力供給不足、不動産規制強化、コロナ禍の再発を背景に内需(投資・消費)の伸びが鈍化し経済成長の勢いが鈍ってきている。見方換えると、昨年1-3月期にはコロナ禍で前期比年率32.9%減(季節調整済、推定1)に落ち込んだが、財政金融政策をフル稼働させたことで、昨年4-6月期には同50.2%増と一気にコロナ前(19年10-12月)の水準を回復し、下半期も同10%増を超える高成長を続けた。しかし、21年に入ると財政金融政策が引き締め方向に変化したこと背景に、国有企業の投資が鈍り、不動産業の資金繰りが苦しくなって中国恒大集団は経営不安に陥り、1-3月期の実質成長率は同0.8%増、4-6月期は同4.9%増、そして7-9月期は同0.8%増と、中国経済は低い水準で一進一退の動きとなっている(図表-1)。
一方、消費者物価(CPI)は21年1-9月期に前年比0.6%上昇(9月単月では同0.7%上昇)と落ち着いており、21年の抑制目標(3%前後)を下回る水準で推移している。しかし、ここもとの採掘資源高や原材料高を背景に、工業生産者出荷価格(PPI)が急上昇している(図表-2)。そして、それが実質成長率を押し下げる要因となってきており、21年7-9月期には4.9ポイント押し下げた(図表-3)。さらに、CPIを押し下げる要因となっていた豚肉も、19年に急騰する前の価格にほぼ戻ってきたことから更なる下落は期待しづらく、今後はCPIが上昇傾向を強める可能性がある。
(図表-2)工業生産者出荷価格(PPI)/(図表-3)名目成長率と実質成長率
 
1 中国では季節調整後の前期比は公表されているが、前期比年率は公表されていないので、筆者が計算した推計値を表示している

2. 産業別・需要項目別の分析

2. 産業別・需要項目別の分析

産業別に経済状況を分析すると、21年7-9月期の実質成長率(4.9%)に対する寄与度は、第1次産業が0.6ポイント、第2次産業が1.3ポイント、第3次産業が2.9ポイントだった(図表-4)。昨年コロナ禍から持ち直す過程では、第2次産業が先に回復したが、ここもと4四半期連続で第3次産業のプラス寄与が最大となっている。中国経済は第3次産業が牽引するコロナ前の正常な状態に戻ってきたといえるだろう。但し、足元では不動産業の落ち込みが顕著である(図表-5)。
(図表-4)産業別の寄与度/(図表-5)中国不動産の実質成長率
他方、需要項目別に経済状況を分析すると、21年7-9月期の実質成長率(4.9%)に対する寄与度は、最終消費が3.8ポイント、総資本形成(≒投資)が±0ポイント、純輸出が1.1ポイントだった(図表-6)。昨年コロナ禍から持ち直す過程では、財政金融両面から実施されたコロナ対策を背景に投資が先に回復したが、ここもと4四半期連続で最終消費が最大のプラス寄与となっている。中国経済は最終消費が牽引するコロナ前の正常な状態に戻ってきたといえるだろう。

なお、昨年のコロナ禍からV字回復する上で多大な貢献をした輸出には変化の兆しでてきている。昨年は防疫関連(医療機器やマスクなど)や巣ごもり関連(PCや家電など)が輸出を牽引したが、今年は巣ごもり関連が引き続き好調なのに加えて、伝統的輸出品(服装、靴、帽子など)も増加に転じた。但し、足元では防疫関連に陰りがでてきている(図表-7)。
(図表-6)需要項目別の寄与度/(図表-7)主要輸出品目の増加率

3. 電力不足

3. 電力不足

ひとつの注目点は電力供給不安がいつごろ解消に向かうかである。ここもとの電力不足を背景に操業停止に追い込まれる工場が相次いだため、中国経済の先行きに対する不安が高まっている。昨年来の電力需給の推移を見ると、20年上半期には需要と供給が同じように増減していたが、20年下半期以降は需要の伸びが供給を上回る状況が続いている(図表-8)。その背景には、世界でパンデミックが続いた一方、中国ではコロナ禍が沈静化して工場が操業可能になったことがある。中国は「世界の工場」の本領を発揮して輸出を増やしたため電力需要が高まり、電力供給が追い付かなくなった。それに追い打ちを掛けたのが水力発電の不振である。図表-9に示したように21年6月から4ヵ月連続で前年割れとなっている。その不足を火力発電のフル稼働で補ってきたものの、それが長期化すると原料炭が高騰し始め、採算が悪化した電力会社は発電を渋るようになってきた。さらに、中国国家発展改革委員会が21年8月に公表した「2021年上半期 各地区エネルギー消費の双控目標達成状況に関する晴雨表」が追い打ちを掛けた。“双控目標”とはエネルギー消費効率とエネルギー消費総量の2つを抑制する目標のことで、晴雨表とは目標の達成状況に応じて悪い方からレッド、オレンジ、ミドリと格付けした表のことである。この晴雨表で評価が悪かった地区が石炭火力を抑えにかかった。以上のように電力供給不安が発生した背景には、(1)電力需要の高まり、(2)水力発電の不振、(3)石炭高による火力発電の採算悪化、(4)晴雨表を発表したことによる地方政府の過剰反応の4つの要因があると考えられる。

こうした状況に危機感を強めた中国政府は、李克強首相が10月8日に国務院常務会議を開いて、石炭生産の拡大、石炭火力発電企業の支援、電力価格の上下許容範囲の拡大、風力発電・太陽光発電基地建設の加速などの具体策を打ち出すとともに、地方政府に向けては「実事求是(事実に基づいて真理を求めること)」を強調した上で、「各地は属地管理責任を厳格に実施し、電力の秩序ある使用管理に取り組み、一部の「画一的」生産停止・制限や「キャンペーン式」炭素排出削減を是正し、無作為や勝手な行為に反対する。主要石炭生産省と重点石炭生産企業は要求に従って生産・供給拡大任務を実行しなければならない」と発破をかけた。したがって、前述の(3)と(4)に関しては近々解消に向かうだろう。但し、(1)と(2)は世界経済や天候に左右される面があるため予断を許さない。
(図表-8)電力需給/(図表-9)電力生産の動き

4. 不動産規制

4. 不動産規制

もうひとつの注目点は厳しい不動産規制を中国政府(含む中国人民銀行)はいつまで続けるのかである。中国恒大集団が経営不安に陥り、債権者が押し寄せて取り付け騒ぎが起きたことなどから、厳しい不動産規制を続けると中国経済は失速するのではないかとの懸念が高まっている。
(図表-10)住宅価格とその年間所得の倍率の推移(上海市) 中国政府が不動産規制を強化した背景には、一般庶民の手に届かないレベルまで住宅価格が高騰してしまったことがある。日本がバブル期にあった1989年にも住宅価格が高騰し、東京都区部の分譲マンション(75平米)の値段は1億円を超え平均年収の15.8倍に達し、一般庶民の手には届かないものとなっていたが、筆者が試算したところ北京市では18.0倍、上海市では17.2倍と日本のバブル期を上回るようなレベルまで高騰している(図表-10)。
そこで、中国政府は「住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない」と繰り返し主張するとともに、20年8月には不動産会社に対して守るべき「三道紅線」と呼ばれる財務指針を示した。具体的には(1)総資産に対する負債の比率が70%以下、(2)自己資本に対する負債の比率が100%以下、(3)現金の短期債務に対する比率が1倍以上の3つの財務指針である。さらに20年12月には、中国工商銀行や国家開発銀行など地場系大型銀行に対して、不動産向け融資が全体の40%、個人向け住宅ローンが全体の32.5%を上限とするなどの「総量規制」を導入すると表明することとなった。そして、21年に入って両措置が実施されると、不動産向け融資の伸びが急減速し前述のような事態となった(図表-11)。

しかし、中国政府は「住宅消費者の合法的な権益を守る」と表明したり、銀行に対して過剰な貸し渋りを慎むよう指導したりはしているが、「住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない」と繰り返し、不動産規制を緩和する兆しは見られない。但し、住宅価格が大幅に下落すれば、中国経済が失速する恐れが現実味を帯びる。住宅価格が下落し始めたので(図表-12)、不動産規制を緩和する時期を見極める段階には入ってきたが、直ぐに解除されるとは考えにくい。
(図表-11)貸出金利と不動産向け融資/(図表-12)新築商品住宅(除く保障性住宅)価格の変動状況

5. 新型コロナウイルス感染症

5. 新型コロナウイルス感染症

さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が再流行する可能性もまだ残っている。
世界のCOVID-19信号票(百万人当たりの新規感染確認が30人未満=ブルー、30人以上3000人未満=イエロー、3000人以上=レッド)を見ると(図表-13)、中国は昨年3月以降19ヵ月連続でブルーとほぼ収束した状態にある。しかし、世界ではパンデミックがまだ続いており、レッドやイエローの国がほとんどだ。こうした状況下、中国では来22年2月4日から2月20日にかけてと北京冬季五輪が開催される。それに先立って北京、延慶、張家口の3競技エリアの8つの会場ではテスト大会が始まり、海外から選手・関係者約2000人が参加すると見られている。したがって、北京冬季五輪が終わるまでは、海外からの流入を起点にして国内で再流行する恐れが残っている。

一方、“ウィズコロナ”で臨む日本とは違って、“ゼロコロナ”を目指す中国では小振りな感染増に対しても厳しい防疫対策が実施される。実際、昨年3月以降の新規確認症例は多くても150人ほどだが(図表-14)、感染が増えた今年1~2月や8月には国内航空旅客が半減したり(図表-15)、サービス業が打撃を受けたりして(図表-16)、経済への影響が大きい。“ウィズコロナ”で臨む日本から見れば、虫メガネで見ないと分からないような小振りな感染でも、注視する必要がある。
(図表-13)世界COVID-19の信号表/(図表-14)COVID-19の新規確認症例
(図表-15)国内航空旅客の推移/(図表-16)PMI(製造業とサービス業)
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2021年10月29日「Weekly エコノミスト・レター」)

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