2021年10月15日

欧州委員会がソルベンシーIIのレビューに関する提案を公表-提案の全体概要と関係団体等からの反応-

中村 亮一

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4―Insurance Europeによる意見

ここでは、Insurance Europeによる意見5表明の内容を報告する。

ソルベンシーIIのレビューに関するECの提案の公表に続いて、Insurance Europeの副事務局長のOlav Jones氏は、ソルベンシーIIのレビューは、「自己資本要件の恒久的な削減のみが、保険会社が欧州経済にさらに貢献することを可能にする」と述べた。

Olav Jones氏は、さらに「保険会社の自己資本要件を全体的に削減する必要があるというECの承認を歓迎する。」と述べたが、一方で「大幅かつ恒久的な資本の減少のみが、保険会社が回復への資金提供とEUのグリーンディール及び資本市場連合の支援への貢献を増やすことを可能にする。」と述べている。

また「新しい報告とグループ要件に関するECの提案には、コストと複雑さが不必要に増加する要素が含まれていることが懸念される。」とし、「これらの提案が必要であり、国際的に合意された基準に沿っているかどうかを評価するために、これらを注意深く検討する。」と述べた。

そして、最後に「全体的な影響は、ECがレベル2の計画を明確にしたときにのみ明らかになる。」と付け加えた。

2021年9月22
自己資本要件の恒久的な削減のみが、保険会社が欧州経済にさらに貢献することを可能にする
ソルベンシーIIのレビューに関する欧州委員会の提案が発表された後、Insurance Europeの副事務局長であるOlav Jones氏は次のように述べている。

「保険会社の自己資本要件を全体的に削減する必要があるというECの承認を歓迎する。ただし、大幅かつ恒久的な資本の減少のみが、保険会社が回復への資金提供とEUのグリーンディール及び資本市場連合の支援への貢献を増やすことを可能にする。これは、保険会社が戦略と投資決定において長期的な見方をしなければならないためである。さらに、大幅かつ恒久的な資本削減により、業界は国際競争力を取り戻すことができる。この資本削減は、欧州の保険契約者に対して非常に高いレベルの保護を維持しながら達成することができる。」

「ECが比例に関して取った措置は前向きなようだ。ただし、新しい報告とグループ要件に関するECの提案には、コストと複雑さが不必要に増加する要素が含まれていることが懸念される。再建と破綻処理に関連する重要な提案もある。これらの提案が必要であり、国際的に合意された基準に沿っているかどうかを評価するために、これらを注意深く検討する。」

「私たちは、ECの広範な提案を引き続き評価する。ただし、全体的な影響は、ECがレベル2の計画を明確にしたときにのみ明らかになる。」

Insurance Europeはこれまで、高いボラティリティと高い自己資本要件についての改革を要求してきた。ただし、今回のECの提案によれば、全ての改革が実施された場合、解放される資本額は当初の900億ユーロが、長期的には300億ユーロに減少することが見込まれている。従って、短期的な資本の軽減では保険会社は行動を変更しないことから、自己資本要件の削減が長期的な事業のために永続的であるように変更する必要がある、と述べている。

5―AMICEによる意見

5―AMICEによる意見

ここでは、AMICE(欧州相互保険会社及び保険協同組合協会)による意見表明6の内容を報告する。

AMICEは、9月28日に「欧州委員会ソルベンシーIIレビュー提案:革命ではなく進化」とのタイトルで、以下の内容を公表している。

2021年9月28
European Commission Solvency II review proposals: evolution not revolution
欧州委員会ソルベンシーIIレビュー提案:革命ではなく進化
欧州委員会のソルベンシーIIのレビューと、保険及び再保険会社の再建と破綻処理のフレームワークに関する提案の公表に続いて、AMICEは提案と相互・協同組合保険会社への潜在的な影響を評価している。ソルベンシーIIのレビューは、相互及び協同組合の保険モデルをより適切に反映するために、現在の法律の特定の要素を微調整する機会を提供したと信じている。特に、AMICEは、相互保険会社及び協同組合保険会社にとって重要な比例性などの分野の進展を認識しており、その観点から推奨事項を評価している過程にある。

AMICEはまた、保険会社のソルベンシーに関する現在の立法上の取り決めは堅固であり、欧州の保険契約者を保護するのに十分であることを繰り返し述べている。

6―欧州議会議員からの意見

6―欧州議会議員からの意見

ここでは、欧州緑グループ・欧州自由連盟(The Greens/European Free Alliance (Greens/EFA))の参加政党であるドイツの同盟90/緑の党(Alliance 90/The Greens)の欧州議会議員で、金融経済政策スポークスマンであるあるSven Giegold氏による意見7の内容を報告する。

Sven Giegold氏は、今回のECの提案を受けて、「保険規制にはスイスチーズよりも多くの穴があり続けている」として、改革のいくつかの提案は歓迎したが、全体としては間違った方向に進んでいると述べた。

Sven Giegold氏は、以前の保険年金フォーカス「EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(1)-意見書の全体概要と保険業界等からの反応-」(2020.12.28)で報告したように、ソルベンシーIIについて、以下のような点を述べていた。

(1) リスクフリーの長期金利の設定が非現実的である。
(2) ソブリン債務がリスクフリーであることは幻想である。
(3) 保険負債のリスクマージンの大幅な削減の妥当性は疑問である。
(4) 長期株式投資に対する現在の特別取扱いを取り消すべきである。
(5) 危機時の保険会社による分配に関して監督権限の拡大を要求することを歓迎する。

今回も、基本的にはその考え方に基づいて、以下のような意見を述べている。

「欧州の保険規則には、スイスチーズよりも多くの穴があり続けている。今日、EU委員会は最終的にソルベンシーIIを厳密に証拠に基づいたものにする機会を逃している。代わりに、殆どのロビー主導の例外はそのままであるか、拡張されている。EU委員会は、EIOPAの推奨事項を無効にし、欧州の保険業界に900億ユーロの即時の資本救済を提供している。保険会社は、長期投資家として、欧州グリーンディールで重要な役割を果たすことができる。しかし、持続可能性とは、保険契約者の権利と金融の安定性を保護することも意味している。これは、正直なリスク測定と適切な資本化でのみ機能する。EU委員会の提案は全体的に間違った方向に進んでいる。

持続可能性のリスクに関しては、EU委員会は、持続可能な金融戦略と銀行セクターの基準に関する独自の発表には達していない。保険会社の内部リスク管理においてのみ気候リスクを考慮することは十分ではない。長期的な持続可能性のリスクも規制に影響を与える必要がある。さらに、監督当局は、銀行のSREP(監督レビュー評価プロセス)で既に一般的に行われているように、持続可能性リスクを評価し、必要に応じて資本サーチャージを課す必要がある。EIOPAに今までに何度もの専門家報告書を作成させ、問題を何年も延期させるだけでは十分ではない。欧州グリーンディールを真剣に受け止めている人は誰でも、2021年に行動しなければならない。

EIOPAの分析は、次のことを示している。新旧の措置の多くは、経験的に正当化することはできない。経済政策の観点からは長期の株式投資が望ましいが、リスクは低いわけではない。将来さらに広く適用される22%の削減されたリスクウェイトは、実際のリスクを適切に反映していない。また、技術的準備金のリスクマージンを大幅に削減することについての説得力のある正当化はない。同じことが戦略的及びインフラ投資の優遇措置にも当てはまるが、これは変更されない。また、将来的には、OECDの国債は、全ての歴史的経験に反して、リスクフリーと見なされる可能性がある。EU委員会の完全なポスト真実のアプローチは、フレームワーク全体の信頼性を損なう。

欧州資本市場連合が機能するためには、欧州保険組合も必要だ。ここで、EU委員会は主要な措置を避けている。EIOPAが推奨する国民保険保証システムの調和は、最大の保険グループの欧州共同監督と同様に、今日の提案には欠けている。これはまた、国境を越えて保険商品を購入するが、均一なレベルの保護に頼ることができない欧州の消費者の保護にも悪影響を及ぼす。」

7―まとめ

7―まとめ

以上、今回のレポートでは、ソルベンシーIIのレビューに関するECの提案の全体概要と、それに対するEIOPA、Insurance Europe及びAMICEの意見表明の内容、さらには保険業界とは異なるスタンスからの批判的な意見を有する欧州議会議員の意見を報告した。

今回のECの提案は、ソルベンシーIIの「レベル1」、即ち指令自体に関係しているもので、詳細については、「レベル2」の委任規則で規定されていくことになる。業界の関心の高い株式リスクチャージ、リスクマージン、リスクフリーレート曲線の修正等については、その詳細がわからないと提案の影響を評価することができないことになる。ところが、法的なプロセスの観点からは、基本的にはレベル1の内容が合意されないとレベル2の検討が行えないことになる。ECは今回の提案により、レベル2の検討を開始することを述べているが、今回の提案の公表時点では、詳細なスケジュール等は示されていないようだ。

なお、ECのソルベンシーIIレビュー提案には詳細が欠けているという点については、EU加盟国の財務大臣・中央銀行総裁等からも懸念が示されてきているようである。

次回のレポートでは、ECの提案内容の概要について、そのECによる影響評価の結果等を含めた内容を報告していくこととする。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2021年10月15日「保険・年金フォーカス」)

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