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欧州大手保険グループの2021年上期末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-
中村 亮一
4―SCR比率算定等に関係するその他の事項
これらの項目については、既に2020年末数値に関するレポートとして、保険年金フォーカス「欧州大手保険グループの2020年末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-」(2021.4.6)の中でも一部報告している。
さらには、2020年末の詳しい内容については、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2020年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-」(2021.7.1)で、各社の長期保証措置や移行措置の適用状況について、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2020年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(3)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その2)-」(2021.7.5)や保険年金フォーカス「欧州保険会社が2020年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(4)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その3)-」(2021.7.13)及び基礎研レポート「欧州保険会社の内部モデルの適用状況にいついて-2020年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)からのリスクカテゴリ毎の標準式との差異説明の報告-」(2021.7.27)等のレポートにおいて、各社の内部モデルの適用状況について報告しているので、これらのレポートを参照していただきたい。
なお、SCR比率の水準毎の会社の対応方針を明確にして開示している会社もある。
監督規制上のソルベンシーへの対応方針は各社各様となっている。
分散効果による控除率の水準は、Generaliを除けば、ほぼ30%から40%の範囲にある。
なお、各社の数値の水準の差異は、各社の事業構成等を反映したものともなっている。
なお、SFCRでは、標準式によるSCRの数値は開示されていないが、過去の影響度調査によれば、内部モデル適用によるSCRの引き下げ効果は2割程度と想定されている。
また、内部モデルの適用によって最も影響が大きいのが、子会社間や地域間の分散効果であると考えられているが、(標準式による分も含めた)分散効果による控除率は、以下の通りとなっている。
ソルベンシーIからソルベンシーIIへの移行における割引率や技術的準備金についての16年間にわたる経過措置、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)といった長期保証措置3の適用については、各国の保険市場の特徴(販売商品や資産運用市場等)に大きく依存している。
保険年金フォーカス「欧州保険会社が2020年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-」(2021.7.1)で報告したように、Zurich以外のソルベンシーII制度下にある5社については、全社がVAを適用し、AvivaとAegonの一部が、MAや技術的準備金に関する移行措置を適用している。
これらの措置の適用による影響(2020年末ベース)については、以下の通りであり、Avivaがこれらの措置に大きく依存していることが示されている。
3 長期保証措置(経過措置を含む)の内容及びそのEU各国における適用状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)~(6)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-」(2020.1.24~2020.2.19)を参照していただきたい。
ソルベンシーIIの資本要件に算入可能な各種自己資本は、劣後性や損失吸収性、期間といった資本適格性からTier1~Tier3 に分類4され、 それぞれについて算入制限が設定されている。具体的には、「Tier1(無制限)は無制限、Tier1(制限付)はTier1全体の20%未満、Tier3 はSCRの15%未満、Tier2とTier3の合計でSCRの50%未満」等となっている。
各社とも、着実にTier1の割合を高めてきており、自己資本のうち、Tier1の自己資本が7割から9割程度、さらに、Tier1(無制限)がそのうちの8割から9割程度を占めている。また、各社とも、既存のTier1 やTier2の劣後債務について、グランド・ファザーリング・ルール(既得権認容ルール)を適用しているが、こうした債務については、早期償還等を行い、段階的にソルベンシーII適格なものに変更してきている。
2021年上期末における適格自己資本の内訳については、例えば 、Aviva、Aegon等が開示している。Avivaの場合、主として2021年上期に19億ポンドの劣後債及びシニア債が償還されたことにより、272億ポンドに約20億ポンド減少している。その内訳は、Tier1(無制限)が▲294百万ポンド、Tier1(制限付)が▲337百万ポンド、Tier2が▲1,263百万ポンド、Tier3が▲239百万ポンド、となっている。Aegonの場合、制限なしTier1が9億ユーロ増加したことで、全体でも8億ユーロ増加している。
各社のデータが揃う2020年末ベースの数値は、以下の図表の通りとなっている。なお、各社とも、Tier1(無制限)だけで、SCRの100%水準を確保している。
4 Tier1(無制限)は払込資本や剰余金等、Tier1(制限付)はグランド・ファザーリング・ルールに基づく劣後債務、Tier2は、劣後債務、Tier3は繰延税金資産等である。
SCRのリスク別及び地域別内訳の開示については、各社の事業構成等を反映する形で、リスクの分類方式等が異なっている。
2021年上期末におけるSCRのリスク別及び地域別内訳については、例えばAXAがリスク別に、Generaliがリスク別・地域別に開示している。AXAの場合、市場リスクの割合が37%から42%に上昇し、代わりに、生命保険リスクが22%から20%に、損害保険リスクが28%から26%に、低下している。Generaliの場合、2020年末と比べて、構成比が大きく変化しているわけではない。
各社のデータが揃う2020年末ベースの数値は、以下の図表の通りとなっている。
5―まとめ
こうした報告を踏まえての今後の課題等については、昨年度までのレポートで報告してきているので、ここでは、2021年上期のSCR比率に関係するトピックのうち、COVID-19(新型コロナウイルス)と低金利の影響及びソルベンシーIIのレビューを巡る動きについて触れておく。
2021年上期においては、COVID-19の感染拡大の財務面への影響はグループ全体としては限定的な形になっており、その結果として、COVID-19の影響を受けていた2020年上期との比較においては、引受実績等が大きく改善している。具体的な影響額について、例えばZurichは営業利益に与える影響について2020年上期が6億86百万ドルであったのに対して、2021年上期は73百万ドルであったと述べている。
こうした中、前年数値との比較では、COVID-19の影響を控除したベースの数値をメインにして説明していたりする。また、引き続くCOVID-19の環境下での活動の減少に関連した費用便益や請求頻度の減少による便益について触れている会社もある。
ただし、引き続き有意な影響を受けている地域や保険種類等もあり、COVID‐19の影響を完全に無視できる状況にはないようである。
また、低利回り環境は、一般的にはバランスシート・チャネルを通じて保険会社のソルベンシーポジションに直接影響を及ぼすが、インカム・チャネルを通じてより長期的な期間にも間接的に影響を及ぼす。COVID-19のショックは、市場のボラティリティの上昇、株価の下落、債券利回りや信用スプレッドの変動、債券の格下げ等を通じて、保険会社のソルベンシー比率にさらなる圧力をかけたが、その後の株価の上昇や金利の反転等により、前年と比べると保険会社にとって好ましい状況にはなっていた。
いずれにしても、COVID-19の影響については、いまだ事態が進展中ともいえ、不透明な要素もある。また、金利が若干反転したとはいえ、引き続きグローバルには低金利環境が継続することが想定されている。従って、保険会社にとって予断を許す状況にはないといえる。
EUにおけるソルベンシーIIのレビューの状況については、これまでの保険年金フォーカスや基礎研レポートで報告してきた。特にEIOPAが2020年12月17日に欧州委員会に提出した助言内容については「EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに公表(1)~(10)」(2020.12.28~2021.3.15)等で報告してきた。この助言を受けて、欧州委員会は検討を進めてきたが、2021年9月22日に欧州委員会によるソルベンシーIIのレビューの内容が公表されている。
この内容については別途のレポートで報告する予定であるが、欧州委員会によれば、このレビューにより、短期的には900億ユーロの資本が解放されることになるとのことである。具体的には、定量的な評価に影響を与えるものとしては、例えば、リスクマージンの算出における資本コスト率の6%から5%への引き下げや、長期株式についての22%の資本費用の対象資産の増加等が提案されている。ただし、リスクマージンの設計や長期株式の適格基準、さらにはリスクフリーレートの補外、ボラティリティ調整等の詳細については、今後の委任規則で決定されることになっている。従って、保険会社にとっては引き続き不透明で懸念される事態が続く状況になっている。
一方で、EUを離脱した英国は、独自にソルベンシーIIのレビューを進めている。この動きについても、2回の基礎研レポート「英国におけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向(その1)-Brexit後の英国での検討の動き-」(2021.9.1)及び「英国におけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向(その2)-Brexit後の英国での検討の動き-」(2021.9.7)で報告したように、具体的な内容についてはまだまだこれからということになっている。
ソルベンシー規制に関しては、IAIS(保険監督者国際機構)によるICS(保険資本基準)の開発の検討が行われており、この実際の監督基準としての適用は2025年以降と予定されている。それまでは引き続き、欧州におけるソルベンシーII制度が、実際に監督基準として機能している経済価値ベースのソルベンシー制度の代表的なものということになっている。そして、そのソルベンシーII自体のレビューが現在EUと英国でそれぞれ検討されているということになる。
さらには、IFRS第17号(保険契約)については、2017年5月の基準公表後も数次の修正が行われてきており、直近では7月28日にも軽微な修正が提案されている。このIFRS第17号に対する欧州での対応については、EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)が検討を進めてきていたが、3月31日に欧州委員会に対して最終勧告を提示し、これを受けて7月16日には欧州委員会のARC(Accounting Regulation Committee:会計規制委員会)がEFRAGの助言に従った投票を行っている。この中では焦点となっていた年次コホートの取扱い等についてカーブアウトする方針が示されている。ARCの決定を受けて、欧州委員会は、7 月22 日に、3か月の精査期間のために、欧州議会と理事会に規則案を提出したが、この期間に異議がなければ、10 月末に向けて規則を採択し、11月初旬に公表するスケジュールとなっている。
EUや英国におけるソルベンシーIIやICS等のソルベンシー規制、さらにはIFRS第17号を巡る状況及びそれらへの欧州の大手保険グループの各種対応については、日本の保険会社等にとっても大変関心が高く、参考になることが多いことから、今後とも継続的にウォッチしていくこととしたい。
中村 亮一
研究・専門分野
(2021年10月01日「基礎研レポート」)
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