2021年09月10日

成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2021年上期)-「オフィス拡張移転DI」の動向

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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1――オフィス成約面積は今年に入り回復に向かう

三幸エステートの公表データ2によると、2021年上期の東京都心5区におけるオフィス成約面積は約33万坪となり、2020年同期比で+25%増加、2019年同期比で▲16%減少した。新型コロナ感染拡大によりオフィス移転が停滞した2020年との比較では増加に転じたものの、コロナ禍以前の2019年の水準を下回る結果となった。

もっとも、2021年上期の成約面積が2019年を下回った一因として、新築オフィスビルの供給減少が挙げられる。成約面積を未竣工ビルと竣工済ビルに分けて見ると、未竣工ビルが3万坪(2019年対比▲8万坪)にとどまったのに対して、竣工済ビルは30万坪(同+2万坪)に増加した(図表1)。竣工済ビルの成約面積は、コロナ前の3年(2017年~2019年)と同程度の水準となり、例年並みにまで回復している。
図表1:オフィス成約面積の推移(竣工済ビル/未竣工ビル別、東京都心5区)
また、竣工済ビルの成約面積を月別に見ると、1回目の緊急事態宣言時の2020年5月に過去平均対比▲72%の落ち込みを記録したのち、2020年中は▲10%~▲29%の範囲で減少が続いた(図表2)3。しかし2021年は、1月に+9%とプラスに転じ、その後は概ね±10%の範囲で推移している。このように企業のオフィス移転の動きは今年に入り着実に回復に向かっていると言える。
図表2:月別にみたオフィス成約面積の推移(竣工済ビル、東京都心5区)
 
2 三幸エステート「オフィスマーケット調査月報」を参照。
3 過去平均は、2017年から2019年の平均。

2――様々な変化が現れた2021年上期

2――様々な変化が現れた2021年上期のオフィス拡張移転DIの動向

東京都心部のオフィス拡張移転DIの推移を確認したのち、エリア別・業種別・ビルクラス別に分析し、企業のオフィス移転動向を確かめたい4
 
4 東京都心部は、東京都心5区主要オフィス街および周辺区オフィス集積地域(「五反田・大崎」「北品川・東品川」「湯島・本郷・後楽」「目黒区」)。詳細は、三幸エステート「オフィスレントデータ2021」 27ページを参照。
1|オフィス拡張移転DIの低下にいったん歯止め。一方で、空室率の上昇は継続
東京都心部のオフィス拡張移転DIは、オフィス市況が活況であった2019年は70%台で推移していた(図表3)。2018年以降、新築オフィスビルの大量供給が続いたにもかかわらず、こうした企業の旺盛なオフィス拡張意欲がオフィス床の大量供給を吸収し、空室率は2019年1月に初めて1%を下回り、その後もタイトな需給バランスが継続した。

しかし、2020年にコロナ危機が訪れると、オフィス拡張移転DIは2020年第1四半期の69%から2020年第4四半期の51%へと急低下した。空室率についてもその後やや遅れて上昇に転じ、2020年末には2.36%へ上昇した(ボトム対比+1.57%)。

2021年第1四半期と第2四半期のオフィス拡張移転DIは53%となり、拡張と縮小が均衡する水準で横ばいに転じた。昨年来の低下にいったん歯止めがかかる一方で、オフィス床解約の影響が大きく空室率の上昇が続いており、7月には3.96%となった(昨年末比+1.60%)。
図表3:オフィス拡張移転DIと空室率の推移(東京都心部)
2|オフィス拡張移転DIが低いエリアほどその後の空室率の上昇幅が大きい
東京都心部の16エリアを対象に、オフィス拡張移転DIをエリア別に比較する5。2021年上期に拡張移転の多かった上位5エリアを見ると、第1位が「渋谷・桜丘・恵比寿(オフィス拡張移転DI 77%)」となり、続いて「麹町・飯田橋(同69%)」、「内神田・外神田(同67%)」、「京橋・銀座・日本橋室町(同60%)」、「五反田・大崎・東品川(同57%)」の順となった(図表4)。
図表4:オフィス拡張移転DIの上位5エリア(東京都心部)
これに対して、縮小移転の多かった下位5エリアを見ると、オフィス拡張移転DIが低い順に、「新宿・四谷(オフィス拡張移転DI35%)」、「新橋・虎ノ門(同38%)」、「赤坂・青山・六本木(同44%)」、「丸の内・大手町(同45%)」、「浜松町・高輪・芝浦(同47%)」となった(図表5)。2021年上期は、上位エリアと下位エリアのオフィス拡張移転DIの格差が拡大するなか、下位5エリアは全て50%を下回った。
図表5:オフィス拡張移転DIの下位5エリア(東京都心部)
また、2020年下半期のオフィス拡張移転DIと、その後半年間の空室率の変動を比較すると、オフィス拡張移転DIが低いエリアほど、その後の空室率が大きく上昇する傾向にあった(図表6)。もちろん、空室率の変動は、オフィス拡張移転DIが示す企業の拡張意欲の他に、テナント退去やオフィスビルの新規供給など様々な要因が関係する。そのため、オフィス拡張移転DIのみで、各エリアの空室率の変化を正確に予測することは難しいと考えるが、今後のオフィス市況を見通すうえで有用なツールとなろう。
図表6:エリア別のオフィス拡張移転DIとその後半年間の空室率の変化
 
5 東京都心部の各16エリアの概要については、末尾の【参考資料2】「本稿の東京都心部16エリアと三幸エステート「オフィスレントデータ2021」記載エリアの対応表」を参照。
3|業績悪化を理由とした縮小移転は昨年で一巡か
東京圏6におけるオフィス拡張移転DIを業種別に比較する。2020年に見られた売上高の変動とオフィス拡張移転DIの相関は、2021年上期には見られなくなった。図表7は、横軸に売上高の変動(前年比)を、縦軸にオフィス拡張移転DIを示している。2020年は、両者の相関が高く、業績不振の業種を中心に縮小移転が増加し、オフィス拡張移転DIが低下した。具体的には、売上高の減少率が大きい「宿泊業・飲食サービス業」や「教育・学習支援業」のオフィス拡張移転DIが低いのに対して、売上高の減少率が小さい「不動産業・物品賃貸業」や「その他サービス業」、「情報通信業」のオフィス拡張移転DIは総じて高い傾向が見られた。
図表7:業種別のオフィス拡張移転DI vs. 売上高の変動(前年比)(東京圏)
しかし、2021年上期は、売上高の変動とオフィス拡張移転DIに相関関係は見られない。オフィス拡張移転DIが高い業種として、「不動産業・物品賃貸業」や「建設業」が挙げられる一方で、「情報通信業」や「製造業」の低下が目立つ。情報通信業や製造業の一部の企業では、オフィス戦略を見直し、移転や解約などによりオフィス床を削減する方針を発表している(図表8)。このようなオフィス拡張移転DIの変化は、業績悪化を理由とした縮小移転の動きが昨年で一巡するとともに、コロナ禍を起点とした各企業の本格的なオフィス再構築の動きが、顕在化し始めていることを示唆しているのではないだろうか。
図表8:情報通信業・製造業のオフィス戦略見直し方針・移転事例
 
6 東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県。業種別の分析を行うために十分なデータ数を確保するため、本分析は東京都心部ではなく、東京圏とした。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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