2021年09月02日

ブラジルGDP(2021年4-6月期)-投資鈍化と消費低迷で前期比マイナス成長に

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:再びマイナス成長に転じる

6月1日、ブラジル地理統計院(IBGE)は国内総生産(GDP)を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【実質GDP成長率(2021年4-6月期)】
前年同期比伸び率(未季節調整値)は12.4%、市場予想1(同12.7%)を下回ったが、前期(+0.1%)から改善した(図表1・2)
前期比伸び率(季節調整値)は▲0.1%、予想(同+0.2%)を下回り、前期(同+1.2%)からマイナス成長に転じた。

(図表1)ブラジルの実質GDP成長率(需要項目別寄与度)/(図表2)ブラジルの実質GDP成長率(産業別寄与度)
 
1 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:4-6月期は投資が鈍化、消費も低迷が続く

4-6月期の実質GDP伸び率は前期比▲0.1%(季節調整値、年率換算▲0.2%)となり、昨年4-6月期以来のマイナス成長となった。コロナ禍前(19年10-12月期)との対比では、21年1-3月期にほぼコロナ禍前の水準まで回復、4-6月期はほぼ横ばいで推移したことになる(図表4・5)。

成長率(前期比)を需要項目別に見ると、個人消費が0.0%(前期:0.1%)、政府消費が0.7%(前期:▲0.8%)、投資▲3.6%(前期:4.8%)、輸出が9.4%(前期:4.9%)、輸入が▲0.6%(前期:10.0%)となった。コロナ禍前との対比では、GDPが▲0.1%、個人消費が▲3.0%、政府消費が▲4.3%、投資が14.9%、輸出が10.2%、輸入が6.0%という状況にある。

4-6月期のGDP低迷は1-3月期に成長のけん引役となった投資が4-6月期にマイナスに転じたことが要因として大きいが、コロナ禍後からの回復が滞っている要因としては消費の低迷も挙げられる(図表4)。ブラジルでは、昨年末から新型コロナの感染者数は高めの水準で推移しているが、急増は避けられており、経済への影響としてはインフレ率の急上昇と実質購買力の低下といった要因も大きいと見られる。他方、輸出は好調で、主に中国向けの大豆輸出などが成長を支えている。
(図表3)業種別のGDP伸び率
(図表4)ブラジルの実質GDPの動向(需要項目別)/(図表5)ブラジルの実質GDPの動向(供給項目別)
次に産業分類別に実質GDPの伸び率を見ると(図表3)、前期比は大分類では「第一次産業」が▲2.8%、「第二次産業」が▲0.2%、「第三次産業」が0.7%となり、第一次産業の落ち込みと第二次産業の低迷が全体のGDPを押し下げている。第一次産業では、コーヒーの不作2などの影響、第二次産業では自動車産業を中心とした部品の供給制約の影響が顕在化した形となった。一方、コロナ禍前と比較すると水準が低いのは「第三次産業」であり、特にコロナ禍の影響を受けやすい「その他(専門サービス、生活関連サービス、娯楽等)」(コロナ禍前比▲7.2%)は回復が進んでいるものの、コロナ禍前と比べると7%以上低い水準にある。

ブラジルでは足もとの新型コロナの感染者数が減少傾向にあり、感染症の懸念は後退しているものの、一方でインフレ率は7月に前年比8.99%まで上昇、中央銀行の目標(3.75±1.5%)を大きく超えている。中央銀行は金融引き締めを強化し、政策金利はコロナ禍後のボトムの2%から8月には5.25%まで引き上げられ、2019年9月(5.5%)以来の水準になっている。そのため高インフレによる消費低迷や金利上昇による投資鈍化が今後の経済への重しとなる可能性があるだろう。
 
2 ブラジルのコーヒー収穫は生産量が多い年と少ない年を交互に繰り返す特徴がある。今年は収穫が少ない年となっている上天候不順に見舞われている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年09月02日「経済・金融フラッシュ」)

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