2021年07月30日

ワクチン接種意向とヘルスリテラシー~情報収集に自信がない人にも納得できる情報開示が必要

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1――はじめに

医療従事者、高齢者に続き、現役世代においても新型コロナウイルスのワクチン接種が始まっている。しかし、ワクチン接種を希望していない人も一定数いる1。特に、新型コロナウイルス感染症に罹っても重症化しにくいとされる若者のワクチン忌避が注目されがちであるが、年齢以外にも接種意向を決める要因がある。例えば、持病があること、高齢者と同居していること、高齢者と接する機会が多いこと等、ワクチン接種によって直接メリットがあると接種を希望する傾向がある。また、自分自身に直接メリットがなくても利他的な人では、接種の意向は高い傾向がある2

本稿では、「ヘルスリテラシー」に注目し、接種意向との関係を分析した。その結果、性・年齢や持病の有無、仕事の内容の影響、世帯年収等による影響を調整しても、ヘルスリテラシーが高いほど接種意向が高い傾向があることがわかった。特に、いろいろな情報源から情報を集めることができるかどうかとの関係が強いようだ。つまり、情報を集めることができている自信がない人ほど、ワクチン接種意向が低い。ワクチン接種を進めるためには、情報収集が苦手な人にも理解しやすい情報を届ける必要があると考えられる。

使用したのは、ニッセイ基礎研究所が被用者(公務員と企業に勤める人)を対象に定期的に実施している「被用者の働き方と健康に関する調査」である。  

2――ヘルスリテラシーとは

2――ヘルスリテラシーとは

WHOによると、ヘルスリテラシーとは、健康情報を獲得し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力であり、それによって、日常生活におけるヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションについて判断したり意思決定したりするなど、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるものである。ヘルスリテラシーが不足すると、病気の兆候に気づくのが遅れたり、健康維持や増進に向けた行動が継続できなかったり、予防サービスを利用しない等の弊害があるとされている。例えば、日本政策研究機構の「働く女性の健康増進調査2018」では、女性に関するヘルスリテラシーの高さが仕事のパフォーマンスの高さに関連していること、臨んだ時期に妊娠することや不妊治療の機会を失することがなかったこと、女性特有の疾病や症状に対して症状があったときに対処できること等を紹介している。
 

3――分析の概要

3――分析の概要

1|調査の概要
本稿では、ニッセイ基礎研究所が被用者(公務員と企業に勤める人)を対象として、毎年実施している「被用者の働き方と健康に関する調査」を使った。この調査は、全国の18~64歳の被用者男女個人を対象とするインターネット調査で、地域別、性別、10歳刻みの年齢階層別構成が、2015年国勢調査に近くなるように回収している3。2021年調査の調査期間は、2021年2月27日から3月26日で、5,808人から回答を得た。
 
3 勤務先の企業規模も可能な範囲で実態に近づくよう回収している
図表1 新型コロナウイルスのワクチン接種意向 2|ワクチン接種意向
本調査で、「あなたは、新型コロナウイルスに対して、どういった対策をしていますか」という問に対して、「ワクチンは今のところ打つつもりだ(すでに打った)」と回答したのは、全体の27.5%だった(図表1)。

接種意向に男女差は見られないが、34歳以下では21.8%であったのに対し、50歳以上では35.6%と、年齢が高いほど高い傾向が見られる。


 
3|ヘルスリテラシーの分布
ヘルスリテラシーの計測には、日本人の比較的健康な就労者を対象に開発されたIshikawaらによる尺度を使った4。具体的には、もし必要になったら、病気や健康に関連した情報について、「新聞、本、テレビ、インターネットなど、いろいろな情報源から情報を集められる」「たくさんある情報の中から、自分の求める情報を選びだせる」「情報がどの程度信頼できるかを判断できる」「情報を理解し、人に伝えることができる」「健康改善のための計画や行動を決めることができる」という5つの項目に対して、「強くそう思う」から「まったくそう思わない」の5段階で回答してもらい、順に5~1点を配点し、5項目の平均をヘルスリテラシー得点とした。

ヘルスリテラシー得点の分布、および、性・年齢別の平均・標準偏差を図表2に示す。全体の平均は3.34点(標準偏差0.73)で男女差はない。年齢別にみると、34歳以下では3.22点であるのに対し、50歳以上では3.46点と、年齢が高いほど得点は高い。
図表2 ヘルスリテラシー得点の分布(左:得点の分布(1~5点)、右:性・年齢別の平均、標準偏差)
続いて、ヘルスリテラシー得点を計測する5つの質問について、属性別の平均点を図表3に示す。いずれの属性においても、「新聞、本、テレビ、インターネットなど、いろいろな情報源から情報を集められる」「たくさんある情報の中から、自分の求める情報を選びだせる」「情報がどの程度信頼できるかを判断できる」「情報を理解し、人に伝えることができる」「健康改善のための計画や行動を決めることができる」の順に高い。

性別にみると、「情報がどの程度信頼できるかを判断できる」は男性で高く、「新聞、本、テレビ、インターネットなど、いろいろな情報源から情報を集められる」「健康改善のための計画や行動を決めることができる」は女性で高い。いずれの項目も、年齢が高いほど高い。年齢が高くなるほど自分や子ども、親の病気等を経験し、治療の決断を迫られたり、相談できる医療従事者に出会ったりする中で、ヘルスリテラシーが培われていくことが考えられる。
図表3 各質問における得点の分布(1~5点)
 
4 Ishikawa, H, K. Nomura, M. Sato,E. Yano (2008) Developing a measure of communicative and critical health literacy: a pilot study of Japanese office workers. Health Promot Int 23: 269-274.

4――ワクチン接種意向とヘルスリテラシーとの関係

4――ワクチン接種意向とヘルスリテラシーとの関係

ワクチン接種意向とヘルスリテラシーとの関係について理解を深めるため、ワクチン接種意向有無(意向がある場合を1,それ以外を0)を被説明変数とし、ヘルスリテラシー得点を説明変数として、線形回帰モデル、およびプロビットモデルを使って、ヘルスリテラシー得点とワクチン接種意向の関係を分析した(図表4(モデル1))。ヘルスリテラシーに関する項目以外に、性、年齢、居住地(都道府県)、仕事の内容、年収、持病の有無や健康状態、周囲の人の新型コロナウイルス感染有無を調整した(図表4注釈参照)。この結果、どちらのモデルでも、ヘルスリテラシーは接種意向とプラスの関係があり、ヘルスリテラシーが高いほどワクチン接種意向が高いことが確認された。
図表4 ワクチン接種意向を被説明変数とする分析(モデル1:ヘルスリテラシー得点を説明変数としたもの)
続いて、ヘルスリテラシーを測定する5項目のうち、どの項目が影響しているかを確認するために、各項目を説明変数として、線形回帰モデルおよびプロビットモデルを使って、分析を行った(図表5(モデル2))。調整変数はモデル1と同じとした。この結果、線形モデルでもプロビットモデルでも、「新聞、本、テレビ、インターネットなど、いろいろな情報源から情報を集められる」の変数が正で統計的に有意であった。つまり、ヘルスリテラシーを計測する5つの質問の中で、特に、病気や健康についての情報収集が得意だと感じている人でワクチンを接種する意向が高い傾向が見られた。
図表5 ワクチン接種意向を被説明変数とする分析(モデル2:ヘルスリテラシーを説明変数としたもの)

5――おわりに

5――おわりに

以上のとおり、本稿では、必要になったら、病気や健康に関連した情報について、「新聞、本、テレビ、インターネットなど、いろいろな情報源から情報を集められる」「たくさんある情報の中から、自分の求める情報を選びだせる」「情報がどの程度信頼できるかを判断できる」「情報を理解し、人に伝えることができる」「健康改善のための計画や行動を決めることができる」という5つの質問から、ヘルスリテラシー得点を算出し、ワクチン接種意向と関係があるかどうかを確認した。その結果、性、年齢、持病の有無や仕事の内容を考慮しても、ヘルスリテラシー得点が高いと、ワクチン接種意向が高いことがわかった。特に、「新聞、本、テレビ、インターネットなど、いろいろな情報源から情報を集められる」という自信がある人で、接種意向が高かった。

新型コロナウイルスのワクチンについては、接種が進んでいるものの、7月末の時点で20~69歳のおよそ4割が、すぐには接種を希望していない。ワクチンを「絶対に打ちたくない」と考えている割合は、1割に満たないことから、多くの人が、ワクチンの効果をある程度認めつつも、副反応への不安などがそれを上回っていると推測できる1。これは、新型コロナウイルスに感染した場合に、重症化リスクが高いとされる中高年でも同様である。

ヘルスリテラシーが十分でないことで、接種を躊躇しているのだとすれば、今回の新型コロナウイルスのワクチンについては、各種媒体を使って、いろいろな情報源から情報を集める自信が低い人にもわかりやすい情報を提供することが肝要だろう。さらに、相談窓口の設置などによって、個々人がワクチン接種について抱えている疑問や不安を解消することも必要かもしれない。

また、新興・再興感染症は、今後も繰り返し発生するといわれている。今後に向けては、国民のヘルスリテラシー、ワクチンに関する知識を高めていくための政策が必要だろう。
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保険研究部

村松 容子 (むらまつ ようこ)

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岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

(2021年07月30日「基礎研レポート」)

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