2021年07月20日

2020年度 生命保険会社決算の概要

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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3当期利益は実質増加~内部留保重視、配当も安定的な水準
【図表-9】当期利益とその使途(大手中堅9社計)
次に当期利益の動きである(図表-9)。

基礎利益(①)はほぼ横ばい、キャピタル損益(②+③)は大きく増加し、その合計額は25,901億円と対前年度6,337億円の増加となった。また、「⑧その他」のほとんどを占めるのが、追加責任準備金(逆ざや負担に備えるため、予定利率よりも低い評価利率を用いて責任準備金を高めに評価したことによる差額分。これが平均予定利率を下げる効果を発揮し、逆ざや解消の早期化に貢献してきた。)の繰入額である。9社中7社が、個人年金や終身保険など貯蓄性の高い商品を対象として繰入を行なっており(ただしうち1社は戻し入れのほうが大きいために残高は減少)、その水準は増加し、引き続き高水準である。
 
危険準備金や価格変動準備金の繰入・戻入は、基本的には保険業法に基づく統一の積立ルールに沿っているとはいえ、そのルールの範囲内での政策的な積み増しの判断の余地はある。それを見るため、これらを繰入・戻入する前のベースに修正した「当期利益」(表中(A))は前年度より▲1,141億円減少して11,970億円となっている。しかし、同じく政策要素の強い追加責任準備金を積み立てる前の状態に、さらに戻せば、23,538億円(A')と前年度から大幅に増加した。
 
さてこうした利益の使途であるが、上記の危険準備金、価格変動準備金などの合計である内部留保は増加してはいるものの、増加幅としては前年度ほどではない。(内部留保の増加(B))。しかし、これに追加責任準備金繰入を加算した実質的な内部留保の増加額(B’)は16,903億円と、これは前年度より大きく増加している。
 
一方、配当であるが、6,635億円が還元(株式会社の契約者配当を含む)されることとなった。

このような見方をすれば、2020年度は「実質的な利益」の72%が内部留保に、残り28%が契約者への配当にまわっているとみることができ、引き続き内部留保の充実により重点がおかれていて、例年より内部留保の割合が少し高いとはいえ、傾向としては比較的安定している。(なお、ここで算出した「内部留保」からは、いずれ株主配当も支出されることも、剰余の使い方としては区別する必要があるが、持ち株会社形態の場合どう評価するかなどの考慮が必要なので、現時点では省略する。)

配当還元の金額は、対前年1,254億円増加している。9社中3社が、危険差益関係で引き上げる予定である。一方利差益関係では1社が引き下げる予定であり、運用環境の先行きに不安があることを反映している。一方で、内部留保の貢献度に応じた配当、あるいは団体保険の配当における健康経営配当など、会社によって独自の配当が新設される動きもみられる。
4ソルベンシー・マージン比率~高水準を維持
【図表-10】ソルベンシー・マージン比率(大手中堅9社計)
健全性の指標であるソルベンシー・マージン比率(9社合計ベース)をみたものが図表-10である。ソルベンシー・マージン総額と保有リスクとの関係を見るため、形式的に9社計で算出した比率は前年度の1000.3%から998.4%とほぼ横ばいであり、引き続き高水準にある。

2020年度は、国内株式を中心としたその他有価証券の含み益は増加し、また当期利益の使途でふれたように、オンバランス自己資本(貸借対照表の資本、危険準備金、価格変動準備金などの合計)が引き続き増加した。一方、資産運用リスクが大幅な増加に転じている(さらなる詳細は不明だが、国内株式の時価上昇によるリスク対象資産額の増加や、外貨建保険対応ではなく資産運用目的の外貨建資産の増加によるものであろうか。)。こうしてマージンとリスクがともに増加してソルベンシー・マージン比率は、ほぼ横ばいとなっている。

なお、経済価値ベースのソルベンシーについては、引き続き検討が進められており、2025年の導入と言われている。そうした中では、現行方式による比率の水準自体の意味は薄れているが、保有リスクと、それに対する準備金等の対応状況は、上記の通り一定程度窺い知ることができる。
 

3――かんぽ生命の状況

3――かんぽ生命の状況

【図表-11】かんぽ生命の業績(2019年度)/【図表-12】かんぽ生命の基礎利益
かんぽ生命は他の国内大手の生命保険会社とは歴史的な経緯も異なり、規模も大きいので、別途概観しておく。

個人保険・個人年金保険の業績動向を見たものが図表-11である。新契約年換算保険料は、▲79.1%の減少となった。2019年7月以降の積極的な営業活動の自粛や2020年1~3月の業務停止等が影響した(前年度はかんぽ生命▲58.1%減少、9社計▲24.2%減少)。また、保有契約年換算保険料の減少率は▲10.1%と国内大手中堅9社計より大きい傾向がある。

基礎利益の状況は次のとおりである(図表-12)。

利差益については、平均予定利率、基礎利回りともに横ばいで、保有契約の減少分に対応して、763億円へと減少している。危険差と費差の合計は増加している。ただしこれは、新契約減少により、販売報酬などが減少したことが、一時的な収益増加につながっているものである。2020年度については、多くの会社でこうした事情であり、長期的には好ましい状況ではない。

かんぽ生命の資産運用は、有価証券については、国債・地方債・社債がほとんどを占めており、中でも国債の構成比が有価証券全体の68%となっている(前年度は66%)。株式への投資は、もともとほぼゼロであったものが、近年構成比を高めているが、まだ小さい。こうした点は、他の伝統的な大手中堅生保とは異なっており、安全性を重視した運用ポートフォリオとなっている(一方、9社計では、有価証券中の国債の構成比は40%程度)。

そうしたこともあり、基礎利回りが低い反面、ソルベンシー・マージン比率については、2020年度は1,118.1%と若干低下しても高水準である(前年度は1,068.9%)。こうした高水準は、リスク性資産の構成割合が従来から低いことに加え、内部留保が厚いことに起因する。例えば、民営化前の旧簡易保険契約(貯金・簡易生命保険管理機構からかんぽ生命が受再している形態)を含め1.6兆円の危険準備金を保有している。かんぽ生命を除く民間生保40社の合計額が、ここ数年増加してきてはいても5.0兆円程度であることからも、水準の厚さがうかがえる。また逆ざやに備えるための追加責任準備金が累計で5.8兆円と、引き続き厚い水準にある。
 

4――トピックス

4――トピックス

1新型コロナウィルス感染拡大の影響と各社の対策等
新型コロナウィルス感染症による、生命保険会社の保険金・給付金の支払いは、今のところ軽微なものにとどまりそうだが、一通り状況をみてみる。

生命保険でどのような支払いがなされるかというと、まず新型コロナウィルス感染症で亡くなったケースでは死亡保険金が支払われる。しかもこれは「災害」に該当するとされ、もし「災害割増特約」といった割増支払いの保険に加入していた場合には、上乗せの保険金が支払われる。

通常「災害」という言葉からすると、交通事故、自然災害などを思いつくが、従来から所定の感染症による場合も対象となっていたのである。例えばコレラ、腸チフス、SARSといった伝染病などが挙げられる。今般の新型コロナウィルス感染症は、当初は当然のことながら従来の災害割増特約の支払対象となっているはずもなかった(病気そのものが新型であるから)が、感染拡大にあわせて支払対象とするように各社の取扱いが拡大されてきたものである。

また、病院に入院した場合に、入院給付金が支払われるのは、従来通りの取り扱いだが、その他にも、自宅またはその他病院などと同等とみなされる施設(ホテルなど)での治療も、入院給付金支払の対象とされている。

このように、保険金・給付金の支払い対象を急遽拡大して、契約者への便宜を図っているわけだが、保険金等支払い全体の規模に比べれば軽微な影響に留まっている。国内大手社であれば、通常時でも数千億円の保険金給付金の支払いがある中での、新型コロナウィルス感染症関係全部を合わせても数億~数十億円と1%にも満たない規模であり、直接生命保険会社の収支状況をすぐに悪化させるものではない。
 
そのほかに、契約関係での取り組みとしては、
・保険料払い込みの期間延長
・保険金、給付金、契約貸付金の簡易迅速な支払い
・保険契約の更新手続きの遡及対応
・新規契約貸付の利息免除
などが各社で行われている。

また、2020年度下期からは、感染症による入院を重点的に保障する保険を販売する会社も現れ、その販売は好調であるという。感染症のリスクや医療そのものへの関心が否応なく高まる中で、その備えとして、国の制度における医療費の仕組みや、民間生保・共済の医療保険などでの備えも注目される時節柄、そうしたニーズに応える新商品の発売が、これからも多くなるのではないかと考えられる。
 
また、従来対面販売が主流だった特に国内大手の保険会社においても、各種デジタルツール(ZOOM による相談受付、WEB申込など)を利用した非対面での販売活動も積極的に推進されてきた。

ところで、こうした中では2020年度の販売業績は、いわゆる「ネット生保」が好調であったという報道などをよく耳にする。確かに明らかにネット生保と分類されるような会社の新契約業績は、業界全体がマイナスな中、プラス進展であるなど好調のように見える。とはいえ、ネット生保なるものの線引きは難しく、また国内大手でも「ネットで申し込める商品」などを取り扱っていたりすると、会社全体の業績の中の一部が好調であるという評価となり、公表資料から比較することもまた難しい。(というわけで、ここでは会社と金額を具体的に比較しないが。)

またこれまでは、あえて対面での販売を大切にする(このことは例えば東日本大震災などの際、営業職員が顧客を実際見知っていることによって、安否確認や必要書類の簡略化などにより、迅速な保険金支払の手続きが行えたなどのメリットも、確かにあった。)方針もあったはずである。しかしここにきて実際に対面では難しい局面となって、どこの会社もネット生保的な非対面の販売手法が推進されるようになったことで、会社によってあまり差がなくなるのではないか。今後の動きに注目してみたい。
2外貨建資産の動向
ここ数年、外貨建保険と外貨建資産の動きについて見てきたところである。しつこいようだが、今年もまたみてみよう。
【図表-13】外貨建資産の金額と構成比
2020年度においても、外貨建資産は金額、構成比とも伸びた。全生命保険会社合計では100兆円を超え、5年前の1.5倍。構成比は一般勘定資産の4分の1程度で5年前より7%(ポイント)近く増加している。

ところで、保険の販売業績としては、2020年度の外貨建保険販売はそれほど好調ではなかった、と前の方で述べた。また、ソルベンシー・マージン比率(図表-10)でもリスク量が大幅に増加しているのがわかる。もし外貨建保険に対応したものであれば為替リスクがないので、リスクとはみなさないことも可能、とリスク量算出の規定は読めるので、リスクの増加は、外貨建資産の為替リスクや外国債券、外国株式などの価格変動リスクの増加によるものと考えられる。

(リスクの増加については、2020年度は国内株式が大幅に上昇しているので、その要因もあるが、国内株式の構成比が高い会社は一部という事情もある。)

つまり、2020年度においては、外貨建保険の増加に対して、ALMの観点から外貨建資産を増加させたのではなく、低金利などの状況下で、より収益性の高い資産としての外貨建資産に、重点的に投資したことが想像される。

ソルベンシー・マージン比率(による評価の有効性はともかくとして)は充分に高い、つまり健全性には問題が少ない会社が多いので、よりリスクを取って高い収益性を目指す方針は、むしろ充分に意味があるものと考えられるが、その前提として、全体リスク量の高度なコントロールや、各種準備金の充実なども必要であり、実際各社とも同時に内部留保を充実させているのは先に見た通りである。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年07月20日「基礎研レポート」)

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