2021年07月09日

地方都市において存在感を高めるコールセンターのオフィス需要~需要拡大が期待される一方で、課題も~

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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4. コールセンター市場の見通し

続いて、本章ではコールセンター市場の見通しについて述べたい。具体的には、(1) 在宅勤務の増加、(2) BCP(事業継続計画)の観点から増加する拠点分散化、(3) BPO等のアウトソーサーへの業務委託の拡大、(4)AI技術等を活用した顧客対応の自動化、という4つの視点から考察する。
4-1. 在宅勤務の増加
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、大手企業を中心にテレワーク等による「在宅勤務」が普及し、「働く場所」に変化が生じている。総務省「通信利用動向調査」によれば、企業のテレワーク導入率(令和2年度)は48%となり、前年度(20%)から倍増した。

一方、一般社団法人日本コールセンター協会「2020年度コールセンター企業 実態調査」によれば、コールセンター企業における在宅テレコミュニケーターの採用割合は28%にとどまる。オペレーターの労務管理や個人情報保護の難しさ等を理由に、コールセンター業界における在宅勤務の比率は低水準となっている。

しかし、コールセンターは、労働集約型の業務であるが故に、「3密」の生じやすい職場環境であり、感染症対策が必須である。月刊コールセンタージャパン編集部「コールセンター実態調査2020」によれば、「今後の新型コロナウイルス感染症で強化すべき施策」として、「在宅コールセンターへの移行、あるいは拡大」(61%)との回答が最も多かった(図表-12)。今後、コールセンターでも在宅勤務の導入率が高まり、オフィスの利用床面積が縮小する可能性がある。
図表-12 今後の新型コロナウイルス感染症で強化すべき施策
4-2. BCPの観点から増加する拠点分散化
東日本大震災以降、BCP(事業継続計画)の観点から、生産拠点や物流拠点を分散する企業が増えている。コールセンターにおいても、拠点を分散化する企業は多い。月刊コールセンタージャパン編集部「コールセンター実態調査2020」によれば、コールセンターを2ヶ所以上展開している企業は、約6割を占める(図表-13)。また、座席数について、「30席未満」の小規模コールセンターの割合は、30%(2017年)から35%(2020年)に増加した(図表-14)。新型コロナ感染リスクを減らすため、1拠点あたりの人数を縮小し拠点を分散する企業も見られる7

コロナ禍を経てBCPの重要性が高まるなか、拠点の分散化を図る企業が増加することで大規模コールセンターのオフィス需要が減少することも想定される
図表-13 コールセンターの拠点数/図表-14  コールセンターの座席数
 
7 日本経済新聞「ファンケル、コールセンター4エリアに分散 コロナ対策「密」防ぐ」2020年4月28日
4-3. アウトソーサーへの業務委託の拡大
コールセンター業務の特徴の1つとして、BPO等の「アウトソーサー8」への業務委託が挙げられる。コールセンターの運用形態について、インフラおよび人材を全て自社で調達し運営する企業(「完全インハウス」という)は約3割で、残る7割の企業は「アウトソーサー」を活用している(図表-15)。「業務量の変動に対する柔軟な対応」や「必要量の人材確保」等を理由に、「アウトソーサー」への業務委託を拡大している。

デロイト トーマツ ミック経済研究所によれば、コールセンター業務のアウトソーシング(業務委託と派遣売上の合計)の市場規模は今後も拡大が続く見通しで、2020年度の9,310億円から2024年度には1兆1,560億円(+24%増加)に達すると予測している(図表-16)。
図表-15 コールセンターの運営状況/図表-16 コールセンターサービス(業務委託と派遣売上の合計)の市場規模
一方、主要アウトソーサーを対象にしたアンケート調査によると、約6割の企業が「業務案件は増えているが不景気」と回答している(図表-17)。コールセンター時給は、いずれの都市においても上昇が続いており、コールセンターの運営コストは増加傾向にあると推察される(図表-18)。

「アウトソーサー」の市場拡大は続いているが、一部の「アウトソーサー」は運営コストの増加やクライアントからの委託料値下げの要求等、厳しい経営環境にあるようだ。
図表-17 自社ビジネスからみた国内景気の状況/図表-18 コールセンターの平均時給
4-4. AI技術等を活用した顧客対応の自動化
コールセンターにおける顧客対応は電話やメールを中心としているが、チャット等での問い合わせに対応する企業が増加している。日本コールセンター協会によれば、「有人チャット」に対応している企業割合は2018年度の41.5%から2020年度には50.0%に増加している。一方でAI等を活用する「チャットボット9」に対応する割合も2020年度には42.0%に増加した(図表-19)。

また、月刊コールセンタージャパン編集部「コールセンター実態調査2020」によれば、「今後導入予定のITソリューション」として、「チャットボット」(30%)を挙げる回答が最も多かった(図表-20)。

新型コロナウイルス感染対策を目的に、チャットボットをはじめとするAIを活用して顧客対応の自動化を検討する企業は増えている。有人による顧客対応が主流であったコールセンターのビジネスモデルが今後大きく転換する可能性が考えられる。
図表-19 提供している顧客対応ツール/図表-20 今後導入予定のITソリューション
 
9 人工知能を活用した自動会話の仕組みのこと。顧客の問い合わせに該当するWebコンテンツ等に誘導する。

5. おわりに

5. おわりに

地方主要都市では、中心市街地の新陳代謝と機能強化を図るため、行政主導で大規模再開発プロジェクトが進行中であり10、高機能なオフィスビルが順次竣工を迎える予定である。コールセンターは、インターネット通販市場の拡大や地方自治体による支援策などに支えられて、今後の成長が見込まれる業種であり、新築オフィスビルの入居テナント候補としての期待も大きい。
一方で、コロナ禍が続く中、コールセンターにおいても、(1)「在宅勤務」の導入、(2)拠点分散化による大規模コールセンターの減少、(3)「アウトソーサー」の厳しい経営環境、(4)AI等を活用した顧客対応の自動化を背景に、ビジネスモデルが大きく転換し、オフィス利用床面積の縮小を検討する企業が増加する可能性がある。

以上を鑑みると、地方都市のオフィス市場において存在感を高めてきたコールセンターの新規需要が今後頭打ちするリスクがある。今後のオフィス市況を見通すうえで、コールセンター企業のワークプレイス戦略やデジタル戦略の動向を注視する必要がありそうだ。

10 福岡市では「天神ビックバン」プロジェクトと「博多コネティッドボーナス」、仙台市では「せんだい都心再構築プロジェクト」、札幌市では「都心における開発誘導方針」等を背景に、多くの大規模再開発が進行中である。
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

(2021年07月09日「不動産投資レポート」)

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