2021年07月09日

地方都市において存在感を高めるコールセンターのオフィス需要~需要拡大が期待される一方で、課題も~

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1. はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気悪化や、テレワーク普及などを背景にオフィス需要が弱含むなか、地方都市では、コールセンター1>の拠点開設が相次いでいる。図表-1は、直近のコールセンターの拠点開設事例をピックアップしたものである。札幌市では、2020年竣工の「S-BUILDING札幌大通」に総合BPOサービス大手の「TMJ」が、仙台市では、2020年竣工の「仙台花京院テラス」に「楽天カード」がコールセンターを開設した。また、福岡市では、2021年9月竣工予定の「天神ビジネスセンター」に、「ジャパネットたかた」が本社機能の一部とコールセンター業務を行うグループ会社を移転する予定である2。このように、地方都市では、交通利便性に優れ設備の整った高機能な新築ビルに、コールセンターを開設する動きが続いている。

コロナ禍以降、全国的にオフィス需要が停滞し空室率の上昇が続くなか、地方オフィス市場においてコールセンターの存在感が一段と高まっている。そこで、本稿では、コールセンター市場の現状と今後の見通しについて概観した上で、地方都市のオフィス市場への影響について述べたい。
図表-1 コールセンターの拠点開設事例
 
1 オペレーターが、電話やメール等の情報通信技術を用いて、販売商品やサービス等に関する問い合わせの対応や注文受付、勧誘等を行う事務所。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の一環としても成長。
2 西日本新聞「ジャパネットが福岡市・天神に拠点 「ビッグバン」新設ビルに入居へ」2020年11月12日
 

2. コールセンター市場の現状

2. コールセンター市場の現状

一般社団法人日本コールセンター協会「2020年度コールセンター企業 実態調査」によれば、回答企業の総売上高は約1.2兆円となり、前年比+3.8%の増加となった。コロナ禍により業績の悪化した業種も少なくないなか、コールセンター市場が拡大した要因として、(1)「非対面型」接客へのシフト、並びに(2)自治体によるコールセンター誘致支援が挙げられる。
2-1. 「非対面型」接客へのシフト
新型コロナウイルスは、私達の暮らしに多大な影響を及ぼしている。こうしたなか、外出自粛や非接触志向の高まりからネットショッピングの利用が大きく増加している。

総務省「家計消費状況調査」によれば、ネットショッピングの利用率は増加傾向で推移しており、2021年4月には52%に達した(図表-2)。特に、感染防止の観点から高齢者による利用が拡大している。インターネット通販の利用率(2021年4月)を年代別にみると、60代では48%に(20年1月40%)、70代では30%に(20年1月20%)、それぞれ増加した(図表-3)。

こうした市場環境を背景に、eコマース事業の強化を目的としてコールセンターを新設する企業もみられる3。インターネット通販のコールセンターは、商品や配送に関する問い合わせやクレーム対応、商品の返品・交換等に対応する。

コロナ禍が続く中、商品の販売方式は、店舗などにおける「対面型」接客から「非対面型」接客へ比重がシフトしている。電話やメール、チャットなどで顧客からの問い合わせに対応するコールセンターは、企業と消費者を結ぶ接点の1つとして重要度が増しており、市場拡大が続いている。
図表-2 ネットショッピングの利用率/図表-3 ネットショッピングの利用率(年代別)
 
3 日本経済新聞「ユニクロ、東京産ニット発売 初の自社工場で変革に挑む」2021年7月1日
2-2. 自治体によるコールセンター誘致支援。雇用対策としても重視
新型コロナウイルスの感染拡大は、雇用環境にも大きな影響を及ぼしている。総務省「労働力調査」によれば、有効求人倍率は1.6倍近辺で安定推移していたが、感染拡大後は急速に悪化し、2021年4月には1.09倍まで低下した(図表-4)。

月刊コールセンタージャパン編集部の調査によれば、「コールセンター支援制度」として、調査対象自治体の約8割が「雇用促進」に関する施策を実施している(図表-5)。自動車や家電メーカー等による生産拠点の海外移転トレンドを受けて、地方自治体はこれまでも地域雇用創出の一環としてコールセンターの誘致に積極的に取り組んでいたが、コロナ禍で失われた雇用の受け皿としてもコールセンターに期待する自治体は多いようだ。

同調査によれば、調査対象自治体の約7割が「施設新設」に関する支援を、そして、約5割が「増設・移設」に関する支援を実施している。また、「新型コロナウイルス感染症対策」に関しても支援策を講じている。札幌市は、20人以上の従業員を雇用するコールセンターを対象に、感染対策として実施したオフィスレイアウト変更や、除菌装置の導入等に関わった工事費用および事務機器費用を最大100万円まで補助している4。こうした地方自治体による支援策がコールセンター市場の拡大を支えている。
図表-4 有効求人倍率 (季節調整値)/図表-5 コールセンター支援制度
 
4 札幌市「コールセンター企業向け新型コロナウイルス感染防止対策補助金」(2021年6月まで)
 

3. 集積4都市におけるコールセンター拠点の開設動向

3. 集積4都市におけるコールセンター拠点の開設動向

月刊コールセンタージャパン編集部「コールセンター実態調査2020」によれば、コールセンターの運用コストのうち人件費が7割以上を占める(図表-6)。そのため、コールセンターの経営において、低コストで効率的なオペレーターの確保が重要な課題となる。

コールセンターは、通信設備とオペレーターが揃えば成立し、オペレーター確保のための通勤利便性等を除けば、立地をあまり問わない産業形態である。そのため、1990年代後半より地方の広域中心都市やそれに準ずる都市に多くのコールセンター拠点が開設された5

月刊コールセンタージャパン編集部「コールセンター立地状況調査」 によれば、地方都市におけるコールセンターの拠点数は、札幌市(98拠点)が最も多く、次いで、那覇市(65拠点)、福岡市(48拠点)、仙台市(43拠点)となっている(図表-7)。また、福岡市は、2016年以降に開設された拠点数(19拠点)が最多で市場の拡大が続いている。
図表-6 コールセンターの運営コスト内訳/図表-7 地方都市におけるコールセンターの拠点数
図表-8は、集積4都市(札幌市・那覇市・福岡市・仙台市)におけるコールセンター採用時給と有効求人倍率を示している。コールセンター採用時給を確認すると、集積4都市は全国平均を下回っている。また、有効求人倍率は仙台市を除き全国平均を下回っている。オペレーターの時給が相対的に低く、オペレーター確保の面でも優位性の高い地方中核都市は、コールセンターの拠点開設に適した条件を備えていると言えそうだ。
図表-8 集積4都市における採用時給と有効求人倍率
各都市におけるコールセンター拠点をみると、札幌では札幌駅周辺と「札幌駅前通地下歩行空間6」の出口近辺に集積している(図表-9)。また、福岡では博多駅と天神駅周辺に(図表-10)、仙台では仙台駅周辺と東二番丁通り沿いに集積を確認できる(図表-11)。このように、コールセンター拠点の多くは、通勤利便性が高くスペックの優れた大型ビルに開設されており、地方都市のオフィス需要を牽引している。
図表-9 札幌市中心部におけるコールセンター拠点
図表-10 福岡市中心部におけるコールセンター拠点
図表-11 仙台市中心部におけるコールセンター拠点
 
5 鍬塚賢太郎「沖縄におけるコールセンター立地と知識の獲得」地理科学vol.63 no.3 pp.205~219、2008年
6 地下鉄南北線のさっぽろ駅から大通駅をつなぐ地下の歩行者専用道路。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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