2021年07月07日

コロナ禍1年の家計消費の変化-ウィズコロナの現状分析とポストコロナの考察

基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.292]

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

文字サイズ

1―コロナ禍の個人消費の推移

コロナ禍が始まり1年余りが経過した。あらためて個人消費を振り返ると、国内で緊急事態宣言が初めて発出された2020年4・5月の落ち込みは、リーマンショックや東日本大震災後を大幅に上回るものであった[図表1]。
[図表1]消費者動向指数(CTIマクロ)
その後は経済活動の再開を受けて大幅に改善したが、感染再拡大で再び下向きに、改善すれば上向きになることを繰り返しており、足元では未だコロナ前の水準には戻っていない。

なお、感染者数は格段に増えているにも関わらず、感染拡大第一波と比べて第二波や第三波による消費の落ち込みは浅い。これは緊急事態宣言発出区域や店舗施設の営業自粛要請が限定的であることに加えて、感染防止対策の習慣化や気の緩みなどから生活者の感染不安が弱まり、人流が減りにくくなっているためだ。

2―家計消費の内訳の変化

コロナ禍で外出が自粛され、非接触志向が高まることで、旅行や外食などの外出型消費や接触を伴う対面型サービスの消費が大幅に減る一方、出前やテレワーク関連製品など巣ごもり消費が活発化している。コロナ禍で大きく変化した消費領域について見ていく。
[図表2]新型コロナで大きな変化が見られる主な支出品目(二人以上世帯、対前年同月実質増減率%) 1|食~外食需要の中食・内食シフト
総務省「家計調査」によると二人以上世帯では、外食費が減少する一方、パスタや即席麺、冷凍食品などの利便性の高い食品の他、生鮮肉、チーズ、油脂・調味料、各種酒類、出前などの支出額は増加している[図表2a]。つまり、家での食事回数が増えたことで、手軽に食べられる需要とともに、食事の質を高めたい需要の両面が増しているようだ。

なお、出前やテイクアウトなどの中食市場は、コロナ前から利便性重視志向の高い単身世帯や共働き世帯が増える中で拡大傾向にあったが、コロナ禍で対応する飲食店が増えたことで、消費者にとってサービスとしての魅力が高まり、一層需要が増しているようだ。

ワクチンにより集団免疫が獲得され、行動制限が緩和されたポストコロナでは、外食需要は自ずと回復基調を示すだろう。しかし、テレワークの浸透で人の流れが変わったため、オフィス街の昼食や飲み会需要などはコロナ前の水準には戻りにくい。既に一部の外食チェーンでは駅前から郊外へ出店戦略を変える動きがあるが、今後はコンビニエンスストアなど他業態の店舗立地も変わる可能性がある。
2|旅行・レジャー~効果大のGoTo
旅行やレジャーはコロナ禍で大きな打撃を受けている。一方で、政府の「GoToトラベルキャンペーン」の効果で、昨年の夏から秋にかけて、宿泊料やパック旅行費は大幅に回復し、2020年10月の宿泊料は前年同月比+約3割を示した[図表2b]。なお、交通費を含むパック旅行費と比べて宿泊料単体の回復基調が強いのはコロナ禍においては自家用車などのセルフ手段を利用して近場へ旅行し、宿泊施設だけを利用する「マイクロツーリズム」志向が高いためだ。

レジャーでは、2020年6月頃は休業要請が早期に緩和された美術館や博物館などの文化施設が、いち早く回復基調を示した。その後、夏にかけて、映画館や遊園地の営業も再開され、追随する動きを示している。

ポストコロナでは旅行やレジャーの需要は自ずと戻り始めるだろう。また、現在停止されているGoToトラベルが再開されるのならば、キャンペーン期間では劇的な回復も期待できる。一方でコロナ前から、旅行やレジャーなどの従来産業では、デジタル化の進展で娯楽の多様化が進み、価値観も変化する中で、「若者の旅行離れ」が指摘されていたように、若い世代の相対的な興味関心の低下が課題であった。よって、中長期的に需要を獲得していくためには引き続き創意工夫が必要だ。
3|デジタル関連
(1) テレワーク需要の高まり
在宅勤務によるテレワークの浸透により、パソコンや家具の支出額は前年同月を上回る月が多い[図表2c]。夏頃のピークは、「特別定額給付金」や夏の賞与が後押したものと見られる。なお、10月のピークは前年同月に消費税率引き上げによる反動減が生じたために、2020年10月はプラスに振れやすい影響であり、比較的値の張る品目で同様の動きが確認されている。

パソコンや家具などは耐久消費財であり、購入後の数年は需要に落ち着きが見られるだろう。しかし、ポストコロナでは働き方が変わることで、今後も一定のサイクルでの需要増が期待できる。また、現在のところ、全国的には必ずしも大きな潮流ではないが、郊外居住やリフォームなどの住み替え需要に伴って家具や家電、自動車などの需要増が生まれる可能性もある。

一方、オフィスへの出勤が減ることで、背広服はおおむね前年同月を下回る。昨年4月の落ち込みは▲79.9%と大きいが、これは入学式などの各種式典が軒並み中止・延期となった影響もあるだろう。

ポストコロナではオフィス着の需要は弱い回復基調を示す可能性はあるが、依然として厳しい状況が続くと見られる。テレワークの影響に加えて、コロナ前から、クールビスなどオフィス着のカジュアル化という流れもあった。現在、アパレルメーカーではリラックス感のあるテレワーク仕様のオフィス着のラインナップを増やしたり、雑貨や食品の販売も始めるなど需要を模索する動き、ECサイトやSNSでの情報発信に積極的な動きもある。今後ともアパレル市場では製品ラインナップの工夫やリアル店舗のネット化といった流れは強まるだろう。
(2) 巣ごもりでデジタル娯楽需要増
巣ごもり生活で楽しみやすいゲームや電子書籍などのデジタル娯楽では支出額の増加が目立つ(図表略)。特にゲーム機は子どもの生活と連動しており、全国一斉休校が要請された2020年3月や感染再拡大で帰省自粛が呼びかけられた8月(夏休み)などに特に増えている。また、電子書籍や映像・音楽ソフト、アプリなどの支出額はいずれも前年同月を上回る。支出額は感染状況と必ずしも連動しないが、これは、デジタル化の進展でコロナ前からデジタル娯楽の需要は増していた上に、コロナ禍による需要増が加わったためだろう。コロナ禍は働き方だけでなく、消費行動のデジタル化も加速させている。

ポストコロナでもデジタル娯楽の需要には伸長の余地がある。今後はシニアにもスマートフォンの利用が拡大することで幅広い層の需要が期待できる。
4|その他
その他、コロナ禍の特徴的な動きとして、マスク着用や外出自粛の影響でファンデーションや口紅などのメイクアップ用品の支出額が減少している。ただし、これらはマスク着用が不要となれば直ちに回復基調を示すだろう。

また、家で過ごす時間が増えたためか、ペット関連の支出額が増えている。なお、一般社団法人ペットフード協会の調査によると、2020年の犬や猫の新規飼育者の飼育頭数は前年より増加し、増加率も以前より大きい。ポストコロナでは郊外居住に伴ってペット需要が増す可能性もある。

3―今後の消費はワクチン接種が鍵

2020年の個人消費は、食やテレワーク関連製品などの巣ごもり消費に支えられた。また、企業ではオンライン対応をはじめとした新領域への展開、業態転換の工夫など様々な創意工夫が見られた。一方でオンラインによるサービス提供は単価が下がる傾向があり、コロナ禍では対面を組み合わせた付加価値の高いサービスの提供にも制限がある。また、様々な工夫があっても、やはり従来から支出額の大きな旅行などの外出型消費の大幅な減少が個人消費全体へ与える影響は大きい。すでにイスラエルや米国などワクチン接種の進む他国では、外出型の消費がコロナ前の水準に迫る勢いで回復傾向を示している。日本においてもワクチン接種がいかに早期に進むかが、今後の個人消費回復の鍵だ。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2021年07月07日「基礎研マンスリー」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【コロナ禍1年の家計消費の変化-ウィズコロナの現状分析とポストコロナの考察】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

コロナ禍1年の家計消費の変化-ウィズコロナの現状分析とポストコロナの考察のレポート Topへ