2021年07月02日

2020年度生命保険会社決算の概要(速報)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――保険業績(全社)

2020年度の全生命保険会社の業績を概観する。

生命保険協会加盟会社は、5月14日現在42社であり、1社を除き6月中旬までに2020年度決算が発表された。その合計では、年換算保険料ベースで新契約は▲18.0%減少、保有契約は▲1.4%減少となった。これらを、伝統的生保(16社)、外資系生保(12社)、損保系生保(4社)、異業種系生保等(8社)、かんぽ生命に分類し、業績を概観した(図表-1)。
【図表-1】 主要業績(2020年度)
「伝統的生保」(16社)の新契約年換算保険料は、▲18.2%減少(前年度▲30.0%減少)となった。全般的には、新型コロナの影響による販売活動、海外金利の低下によって外貨建保険の販売が不調だったことにより、販売状況は苦しい状況となった。保有契約年換算保険料は▲0.3%と減少した(前年度▲0.9%減少)。なお、保険金額ベースでの新契約高、保有契約高は第三分野商品の増加を反映していないため、近年減少傾向である。以下同様に保険料ベースでの増減を示す。

「外資系生保」は、新契約が▲6.2%減少(前年度▲40.5%減少)し、保有契約は0.9%増加(前年度 ▲1.4%減少)した。

「損保系生保」は、新契約が▲2.7%減少(前年度 ▲33.4%減少)で、保有契約は+0.9%増加(前年度 +0.5%増加)となった。

「異業種系生保等」は新契約が▲10.0%減少(前年度 ▲9.1%減少)、保有契約は3.3%増加(前年度 4.0%増加)となった。
 
基礎利益は、全体では5.4%増加(前年度▲2.6%と減少)した。基礎利益が増加したのは決算発表のあった41社中23社である。
【図表-2】新契約年換算保険料(2020年度)
次に、新契約年換算保険料の個人保険、個人年金保険および第三分野の内訳を見たものが図表-2である。40社(かんぽ生命を除く。)合計で、個人保険は対前年▲7.0%減少した(前年度▲34.4%減少)。また個人年金は、▲33.5%減少(前年度▲21.7%減少)となった。各社が注力している分野にもよるが、外貨建保険の販売減少により、販売業績は全体として減少傾向となった。外貨建保険については、2019年度に引き続いて、海外金利の低下により国内外の金利差が縮小し、貯蓄面でのメリットが小さくなったことが響いている。
 

2――大手中堅9社の収支状況

2――大手中堅9社の収支状況

以下で、特に収支上のシェアが大きい大手中堅9社合計の収支状況をみていくことにする。

なお、大手グループにおいては、複数の保険会社があって、保険販売面で医療保険・金融機関窓販などに役割の分担がなされている面があるので、収支の方もグループ連結でみるべきと考えられるが、今のところ収支面においては、グループ内の保険子会社の占める割合が小さいことや、もとからある9社単体の開示情報が比較的多いこと、から従来通り9社でみることにしている。
1基礎利益は微増
2020年度までの資産運用環境は図表-3の通りである。
【図表-3】運用環境
国内の株価については、前年度末近くの大きな下落により、日経平均株価18,917円で始まったが、その後の経済活動の再開や政府の経済対策などにより上昇した。一時は3万円をも超えたが、年度末には結局29,179円となり、それでも前年度末に比べて大きく上昇した。

国内金利は、引き続きゼロに近いところで推移しているものの、2020年度末には0.090%と、前年度末からは上昇した。

為替については、対米ドルでは、円高方向に推移していたが、年度末近くになって米国金利上昇などにより円安となり、年度末には110.71円/ドルとなった。対ユーロでは欧州の景気回復期待もあって、年度末には129.80円/ユーロと円安の方向に進んだ。他の通貨では、従来から外貨建保険で比較的よく使われる豪ドルについて、大きく円安となった。
【図表-4】有価証券含み益(大手中堅9社計)
こうした状況を反映して、国内大手中堅9社の有価証券含み益は、図表-4に示す通りとなった。国内債券の含み益が▲2.6兆円減少、国内株式の含み益が6.0兆円増加、外国証券含み益は債券で減少、株式で増加し合計では1.0兆円増加した。その結果、有価証券合計では4.7兆円増加した。
【図表-5】基礎利益の状況(大手中堅9社計)
【図表-6】3利源の状況(開示7社計)
そうした中、2020年度の基礎利益は23,623億円、対前年度0.4%の微増となった(図表-5) 。

2013年度に9社合計で逆ざやから利差益に転じた後は拡大傾向にあり、ほぼゼロ金利の状況にあっても、外債利息や投資信託分配金等の増加により、2020年度も逆ざや解消後最高水準を更新し8,041億円、4.3%の増加となった。危険差益・費差益等の保険関係収支は15,582億円、▲1.5%の減少となった。

3利源とも一定程度公表している7社のみの合計金額を見た(一部推定)ものが図表-6である。これで保険関係収支のうち危険差益と費差益の内訳がわかるのだが、危険差益は、4.3%増加(前年度は▲7.9%減少)となった。保有契約の減少傾向や、2017年の死亡表の改定(保険料の値下げ)の影響は、危険差益の減少として現れるものと考えられる一方、第三分野商品(医療保険)保有の増加は、選択効果もあり、まだ給付金等支払も大きくないことから、危険差の拡大方向に寄与していると思われる。

費差益については、ほぼ枯渇した状態にあると考えられる。費差益は、簡単に言えば、収入保険料のうち事業費を賄うための付加保険料と、実際の事業費支出の差である。付加保険料については、過去予定利率の引下げ(保険料の値上げ)とセットで引き下げられた会社が多く、その影響で費差益が減少傾向にはあると考えられる。もっとも、2020年度は、多くの会社で新契約が減少し、販売手数料の負担が比較的小さかったことは、費差益にとって一時的には有利な状況ではあったのだが。
2利差益は、逆ざや解消以降の最高水準を、引き続き更新
利差益について、さらに詳しく見てみる(図表-7 、8)。

「基礎利回り」とは、基礎利益のうち資産運用損益にかかわる部分であり、主に利息配当金収入から成る。これが契約者に保証している利率(予定利率)を上回ると利差益、下回ると逆ざやと呼ぶ。 

2012年度まで逆ざやであったものが、2013年度から利差益に回復し、2020年度は8,041億円と2017年度から4年連続で最高水準を更新した(一部の会社はまだ逆ざやであるが、そのマイナス額は、横ばいまたは減少傾向にある。)。
【図表-7】利差益の状況(大手中堅9社計)
【図表-8】利差益(逆ざや)状況の推移(9社計)
多くの会社で利息配当金収入が減少したため、「基礎利回り」は低下した。運用資産の中核である国内債券に関しては、ゼロ近くの金利が続いているので、たとえ年限の長い(=一般には利回りの高い)ものを多く保有したとしても、利回りは低下傾向にあると思われる。このままの金利が続けば、利息収入に引き続き悪影響をもたらすことになるだろう。今回はそれに加えて、昨年来より新型コロナ感染拡大など経済環境の悪化や不安要因もあって、株式配当金もさほど増加していないと考えられる(現時点では2020年度のそうした内訳は未開示だが)。こうした中、外貨建債券の利息や投資信託の配当金の増加が、債券の利回り低下を補っているのが現状と考えられる。

一方、「平均予定利率」は、過去に契約した高予定利率契約が減少していくことにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在の新規契約の予定利率は、1%未満であるものが主流であることから、そこに向けて、より緩やかになってはいるが、今後も低下傾向は続くだろう。

基礎利益の動向は、危険差益や費差益では大幅な好転が見込めない中、利差益の増加に依存してきたのが現状だが、経済環境に大きく左右されることもあり、将来にむけて楽観はできない。実際、2021年度以降は、「利回り、予定利率とも低下して利差益は減少ないし横ばい、危険差・費差は減少傾向で、全体として基礎利益は減少傾向」と自ら予測している会社が多い。
3当期利益は実質増加~内部留保重視、配当も安定的な水準
次に当期利益の動きである(図表-9)。基礎利益はほぼ横ばい、キャピタル損益は大幅に増加し、実質的な当期利益は大きく増加した。

基礎利益(①)はほぼ横ばい、キャピタル損益(②+③)は大きく増加し、その合計額は25,901億円と対前年度6,337億円の増加となった。また、「⑧その他」のほとんどを占めるのが、追加責任準備金(逆ざや負担に備えるため、予定利率よりも低い評価利率を用いて責任準備金を高めに評価したことによる差額分。これが平均予定利率を下げる効果を発揮し、逆ざや解消の早期化に貢献してきた。)の繰入額である。9社中7社が、個人年金や終身保険など貯蓄性の高い商品を対象として繰入を行なっており(ただしうち1社は戻し入れのほうが大きいために残高は減少)、その水準は増加し、引き続き高水準である。
【図表-9】当期利益とその使途(大手中堅9社計)
危険準備金や価格変動準備金の繰入・戻入は、基本的には保険業法に基づく統一の積立ルールに沿っているとはいえ、そのルールの範囲内での政策的な積み増しの判断の余地はある。それを見るため、これらを繰入・戻入する前のベースに修正した「当期利益」(表中(A))は前年度より▲1,141億円減少して11,970億円となっている。同じく政策要素の強い追加責任準備金を積み立てる前の状態に、さらに戻せば、23,538億円(A')と前年度から大幅に増加した。

さてこうした利益の使途であるが、上記の危険準備金、価格変動準備金などの合計である内部留保は増加してはいるものの、増加幅としては前年度ほどではない。(内部留保の増加(B))。これに、追加責任準備金繰入を加算した実質的な内部留保の増加額(B’)は16,903億円と、これは前年度より大きく増加している。

一方、配当であるが、6,635億円が還元(株式会社の契約者配当を含む)されることとなった。

このような見方をすれば、2020年度は「実質的な利益」の72%が内部留保に、残り28%が契約者への配当にまわっているとみることができ、引き続き内部留保の充実により重点がおかれていて、例年より内部留保の割合が少し高いとはいえ、傾向としては比較的安定している。(なお、ここで算出した「内部留保」からは、いずれ株主配当も支出されることも、剰余の使い方としては区別する必要があるが、持ち株会社形態の場合どう評価するかなどの考慮が必要なので、現時点では省略する。)

配当還元の金額は、対前年1,254億円増加している。9社中3社が、危険差益関係で引き上げる予定である。一方利差益関係では1社が引き下げる予定であり、運用環境の先行きに不安があることを反映している。一方で、内部留保の貢献度に応じた配当、あるいは団体保険の配当における健康経営配当など、会社によって独自の配当が新設される動きもみられる。
4ソルベンシー・マージン比率~高水準を維持
【図表-10】ソルベンシー・マージン比率(大手中堅9社計)
健全性の指標であるソルベンシー・マージン比率(9社合計ベース)をみたものが図表-10である。ソルベンシー・マージン総額と保有リスクとの関係を見るため、形式的に9社計で算出した比率は前年度の1000.3%から998.4%とほぼ横ばいであり、引き続き高水準にある。

2020年度は、国内株式を中心としたその他有価証券の含み益は増加し、また当期利益の使途でふれたように、オンバランス自己資本(貸借対照表の資本、危険準備金、価格変動準備金などの合計)が引き続き増加した。また、資産運用リスクが大幅な増加に転じている(さらなる詳細は不明だが、国内株式の時価上昇によるリスク対象資産額の増加や、外貨建保険対応ではなく資産運用目的の外貨建資産の増加によるものであろうか。)。こうしてマージンとリスクがともに増加してソルベンシー・マージン比率は、ほぼ横ばいとなっている。

なお、経済価値ベースのソルベンシーについては、引き続き検討が進められており、2025年の導入と言われている。そうした中では、現行方式による比率の水準自体の意味は薄れているが、保有リスクと、それに対する準備金等の対応状況は、上記の通り一定程度窺い知ることができる。
 

3――かんぽ生命の状況

3――かんぽ生命の状況

【図表-11】かんぽ生命の業績(2019年度)/【図表-12】かんぽ生命の基礎利益
かんぽ生命は他の国内大手の生命保険会社とは歴史的な経緯も異なり、規模も大きいので、別途概観しておく。

個人保険・個人年金保険の業績動向を見たものが図表-11である。新契約年換算保険料は、▲79.1%の減少となった。2019年7月以降の積極的な営業活動の自粛や2020年1~3月の業務停止等が影響した(前年度はかんぽ生命▲58.1%減少、9社計▲24.2%減少)。また、保有契約年換算保険料の減少率は▲10.1%と国内大手中堅9社計より大きい傾向がある。

基礎利益の状況は次のとおりである(図表-12)。

利差益については、平均予定利率、基礎利回りともに横ばいで、保有契約の減少分に対応して、763億円へと減少している。危険差と費差の合計は増加している。ただしこれは、新契約減少により、販売報酬などが減少したことが、一時的な収益増加につながっているものである。2020年度については、多くの会社でこうした事情であり、長期的には好ましい状況ではない。

かんぽ生命の資産運用は、有価証券については、国債・地方債・社債がほとんどを占めており、中でも国債の構成比が有価証券全体の68%となっている(前年度は66%)。株式への投資は、もともとほぼゼロであったものが、近年構成比を高めているが、まだ小さい。こうした点は、他の伝統的な大手中堅生保とは異なっており、安全性を重視した運用ポートフォリオとなっている(一方、9社計では、有価証券中の国債の構成比は40%程度)。

そうしたこともあり、基礎利回りが低い反面、ソルベンシー・マージン比率については、2020年度は1,118.1%と若干低下しても高水準である(前年度は1,068.9%)。こうした高水準は、リスク性資産の構成割合が従来から低いことに加え、内部留保が厚いことに起因する。例えば、民営化前の旧簡易保険契約(貯金・簡易生命保険管理機構からかんぽ生命が受再している形態)を含め1.6兆円の危険準備金を保有している。かんぽ生命を除く民間生保40社の合計額が、ここ数年増加してきてはいても5.0兆円程度であることからも、水準の厚さがうかがえる。また逆ざやに備えるための追加責任準備金が累計で5.8兆円と、引き続き厚い水準にある。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年07月02日「ニッセイ基礎研所報」)

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