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2020年度生命保険会社決算の概要(速報)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――保険業績(全社)
「外資系生保」は、新契約が▲6.2%減少(前年度▲40.5%減少)し、保有契約は0.9%増加(前年度 ▲1.4%減少)した。
「損保系生保」は、新契約が▲2.7%減少(前年度 ▲33.4%減少)で、保有契約は+0.9%増加(前年度 +0.5%増加)となった。
「異業種系生保等」は新契約が▲10.0%減少(前年度 ▲9.1%減少)、保有契約は3.3%増加(前年度 4.0%増加)となった。
基礎利益は、全体では5.4%増加(前年度▲2.6%と減少)した。基礎利益が増加したのは決算発表のあった41社中23社である。
2――大手中堅9社の収支状況
なお、大手グループにおいては、複数の保険会社があって、保険販売面で医療保険・金融機関窓販などに役割の分担がなされている面があるので、収支の方もグループ連結でみるべきと考えられるが、今のところ収支面においては、グループ内の保険子会社の占める割合が小さいことや、もとからある9社単体の開示情報が比較的多いこと、から従来通り9社でみることにしている。
国内金利は、引き続きゼロに近いところで推移しているものの、2020年度末には0.090%と、前年度末からは上昇した。
為替については、対米ドルでは、円高方向に推移していたが、年度末近くになって米国金利上昇などにより円安となり、年度末には110.71円/ドルとなった。対ユーロでは欧州の景気回復期待もあって、年度末には129.80円/ユーロと円安の方向に進んだ。他の通貨では、従来から外貨建保険で比較的よく使われる豪ドルについて、大きく円安となった。
2013年度に9社合計で逆ざやから利差益に転じた後は拡大傾向にあり、ほぼゼロ金利の状況にあっても、外債利息や投資信託分配金等の増加により、2020年度も逆ざや解消後最高水準を更新し8,041億円、4.3%の増加となった。危険差益・費差益等の保険関係収支は15,582億円、▲1.5%の減少となった。
3利源とも一定程度公表している7社のみの合計金額を見た(一部推定)ものが図表-6である。これで保険関係収支のうち危険差益と費差益の内訳がわかるのだが、危険差益は、4.3%増加(前年度は▲7.9%減少)となった。保有契約の減少傾向や、2017年の死亡表の改定(保険料の値下げ)の影響は、危険差益の減少として現れるものと考えられる一方、第三分野商品(医療保険)保有の増加は、選択効果もあり、まだ給付金等支払も大きくないことから、危険差の拡大方向に寄与していると思われる。
費差益については、ほぼ枯渇した状態にあると考えられる。費差益は、簡単に言えば、収入保険料のうち事業費を賄うための付加保険料と、実際の事業費支出の差である。付加保険料については、過去予定利率の引下げ(保険料の値上げ)とセットで引き下げられた会社が多く、その影響で費差益が減少傾向にはあると考えられる。もっとも、2020年度は、多くの会社で新契約が減少し、販売手数料の負担が比較的小さかったことは、費差益にとって一時的には有利な状況ではあったのだが。
一方、「平均予定利率」は、過去に契約した高予定利率契約が減少していくことにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在の新規契約の予定利率は、1%未満であるものが主流であることから、そこに向けて、より緩やかになってはいるが、今後も低下傾向は続くだろう。
基礎利益の動向は、危険差益や費差益では大幅な好転が見込めない中、利差益の増加に依存してきたのが現状だが、経済環境に大きく左右されることもあり、将来にむけて楽観はできない。実際、2021年度以降は、「利回り、予定利率とも低下して利差益は減少ないし横ばい、危険差・費差は減少傾向で、全体として基礎利益は減少傾向」と自ら予測している会社が多い。
次に当期利益の動きである(図表-9)。基礎利益はほぼ横ばい、キャピタル損益は大幅に増加し、実質的な当期利益は大きく増加した。
基礎利益(①)はほぼ横ばい、キャピタル損益(②+③)は大きく増加し、その合計額は25,901億円と対前年度6,337億円の増加となった。また、「⑧その他」のほとんどを占めるのが、追加責任準備金(逆ざや負担に備えるため、予定利率よりも低い評価利率を用いて責任準備金を高めに評価したことによる差額分。これが平均予定利率を下げる効果を発揮し、逆ざや解消の早期化に貢献してきた。)の繰入額である。9社中7社が、個人年金や終身保険など貯蓄性の高い商品を対象として繰入を行なっており(ただしうち1社は戻し入れのほうが大きいために残高は減少)、その水準は増加し、引き続き高水準である。
さてこうした利益の使途であるが、上記の危険準備金、価格変動準備金などの合計である内部留保は増加してはいるものの、増加幅としては前年度ほどではない。(内部留保の増加(B))。これに、追加責任準備金繰入を加算した実質的な内部留保の増加額(B’)は16,903億円と、これは前年度より大きく増加している。
一方、配当であるが、6,635億円が還元(株式会社の契約者配当を含む)されることとなった。
このような見方をすれば、2020年度は「実質的な利益」の72%が内部留保に、残り28%が契約者への配当にまわっているとみることができ、引き続き内部留保の充実により重点がおかれていて、例年より内部留保の割合が少し高いとはいえ、傾向としては比較的安定している。(なお、ここで算出した「内部留保」からは、いずれ株主配当も支出されることも、剰余の使い方としては区別する必要があるが、持ち株会社形態の場合どう評価するかなどの考慮が必要なので、現時点では省略する。)
配当還元の金額は、対前年1,254億円増加している。9社中3社が、危険差益関係で引き上げる予定である。一方利差益関係では1社が引き下げる予定であり、運用環境の先行きに不安があることを反映している。一方で、内部留保の貢献度に応じた配当、あるいは団体保険の配当における健康経営配当など、会社によって独自の配当が新設される動きもみられる。
2020年度は、国内株式を中心としたその他有価証券の含み益は増加し、また当期利益の使途でふれたように、オンバランス自己資本(貸借対照表の資本、危険準備金、価格変動準備金などの合計)が引き続き増加した。また、資産運用リスクが大幅な増加に転じている(さらなる詳細は不明だが、国内株式の時価上昇によるリスク対象資産額の増加や、外貨建保険対応ではなく資産運用目的の外貨建資産の増加によるものであろうか。)。こうしてマージンとリスクがともに増加してソルベンシー・マージン比率は、ほぼ横ばいとなっている。
なお、経済価値ベースのソルベンシーについては、引き続き検討が進められており、2025年の導入と言われている。そうした中では、現行方式による比率の水準自体の意味は薄れているが、保有リスクと、それに対する準備金等の対応状況は、上記の通り一定程度窺い知ることができる。
3――かんぽ生命の状況
個人保険・個人年金保険の業績動向を見たものが図表-11である。新契約年換算保険料は、▲79.1%の減少となった。2019年7月以降の積極的な営業活動の自粛や2020年1~3月の業務停止等が影響した(前年度はかんぽ生命▲58.1%減少、9社計▲24.2%減少)。また、保有契約年換算保険料の減少率は▲10.1%と国内大手中堅9社計より大きい傾向がある。
基礎利益の状況は次のとおりである(図表-12)。
利差益については、平均予定利率、基礎利回りともに横ばいで、保有契約の減少分に対応して、763億円へと減少している。危険差と費差の合計は増加している。ただしこれは、新契約減少により、販売報酬などが減少したことが、一時的な収益増加につながっているものである。2020年度については、多くの会社でこうした事情であり、長期的には好ましい状況ではない。
かんぽ生命の資産運用は、有価証券については、国債・地方債・社債がほとんどを占めており、中でも国債の構成比が有価証券全体の68%となっている(前年度は66%)。株式への投資は、もともとほぼゼロであったものが、近年構成比を高めているが、まだ小さい。こうした点は、他の伝統的な大手中堅生保とは異なっており、安全性を重視した運用ポートフォリオとなっている(一方、9社計では、有価証券中の国債の構成比は40%程度)。
そうしたこともあり、基礎利回りが低い反面、ソルベンシー・マージン比率については、2020年度は1,118.1%と若干低下しても高水準である(前年度は1,068.9%)。こうした高水準は、リスク性資産の構成割合が従来から低いことに加え、内部留保が厚いことに起因する。例えば、民営化前の旧簡易保険契約(貯金・簡易生命保険管理機構からかんぽ生命が受再している形態)を含め1.6兆円の危険準備金を保有している。かんぽ生命を除く民間生保40社の合計額が、ここ数年増加してきてはいても5.0兆円程度であることからも、水準の厚さがうかがえる。また逆ざやに備えるための追加責任準備金が累計で5.8兆円と、引き続き厚い水準にある。
(2021年07月02日「ニッセイ基礎研所報」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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