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2021年06月08日
1―はじめに
新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、経済に大きな影響を与えている。しかし、完全失業率(季節調整値)については、2.2%(2019年12月)から3.1%(2020年10月)まで上昇したものの、リーマン・ショック時などの過去の景気後退期に比べれば、水準や上昇の程度は限定的だ。
ところで、完全失業率は完全失業者数を労働力人口で割って算出されるが、失業者数や労働力人口は計測時点までに蓄積されたストックの数字である。他方、ストックの増減の背後には、就業状態間での移動(フロー)がある。たとえば、失業者数の増減は、新たに失業した人数(失業へのフロー)と失業状態ではなくなった人数(失業からのフロー)の差で決まる*2。ストックの変動の要因を探るためにはフローを分析することが有用だろう。
本稿では、フローを示す統計である、総務省の「労働力調査」( 基本集計)の「今月及び前月の就業状態」(第I-7表、第I-8表)のデータを加工して、失業率や労働力人口などのストックを生み出すフローに注目し、男女別や従業上の地位別の影響の違いを考慮しながら、分析を行った。
*1 本稿は、「フローから観察した労働市場の動向」(21年4月、基礎研レポート)を再構成したものであ り、詳細は、ニッセイ基礎研究所のウェブサイトに掲載された同レポートを参照されたい。
*2 失業者の増減の推移は、「翌月の失業者数=今月の失業者数+今月の就業者のうち失業した人数(就業から失業へのフロー)+今月の非労働力人口のうち失業した人数(非労働力から失業へのフロー)-今月の失業者のうち就業した人数(失業から就業へのフロー) -今月の失業者のうち非労働力人口になった人数(失 業から非労働力へのフロー)」と表される。
ところで、完全失業率は完全失業者数を労働力人口で割って算出されるが、失業者数や労働力人口は計測時点までに蓄積されたストックの数字である。他方、ストックの増減の背後には、就業状態間での移動(フロー)がある。たとえば、失業者数の増減は、新たに失業した人数(失業へのフロー)と失業状態ではなくなった人数(失業からのフロー)の差で決まる*2。ストックの変動の要因を探るためにはフローを分析することが有用だろう。
本稿では、フローを示す統計である、総務省の「労働力調査」( 基本集計)の「今月及び前月の就業状態」(第I-7表、第I-8表)のデータを加工して、失業率や労働力人口などのストックを生み出すフローに注目し、男女別や従業上の地位別の影響の違いを考慮しながら、分析を行った。
*1 本稿は、「フローから観察した労働市場の動向」(21年4月、基礎研レポート)を再構成したものであ り、詳細は、ニッセイ基礎研究所のウェブサイトに掲載された同レポートを参照されたい。
*2 失業者の増減の推移は、「翌月の失業者数=今月の失業者数+今月の就業者のうち失業した人数(就業から失業へのフロー)+今月の非労働力人口のうち失業した人数(非労働力から失業へのフロー)-今月の失業者のうち就業した人数(失業から就業へのフロー) -今月の失業者のうち非労働力人口になった人数(失 業から非労働力へのフロー)」と表される。
2―各就業状態間での労働力フロー
3―まとめ
まとめると、失業のフローからは、2020年に入ってから、感染拡大などにより、非正規労働者、特に女性の非正規雇用者の失業へのフローが顕著に増加していた。足元では、失業者が失業状態で滞留している状態が続いている。また、緊急事態宣言が発出された2020年4月に労働力人口が急減したが、労働市場からの退出増加がその要因であり、女性の非正規雇用者の退出が特に多かった。同時期には休業が急増したが、休業を多く経験したのも女性の非正規雇用者であった。
このように、感染拡大による労働市場の影響は、全体の失業率や失業者数だけをみれば、それほど大きな悪化ではなかったかもしれないが、非正規雇用者、特に女性の非正規雇用者に対して大きな影響を与えていた。
以前より、非正規雇用者は不況や企業の業績悪化時に雇用の調整弁になりやすいことが指摘されていた*3。
今回の感染拡大による労働市場への影響については、確かに感染拡大の影響を受けやすい業種に偏りがあり、そのような業種に非正規雇用者が集中していたり、小中学校の一斉休校により育児の負担が女性に集中したりしたことがその要因として挙げられるだろう。しかし、経済環境が変動した際には、非正規雇用者が雇用調整の手段とされやすい状況自体は変わっていないとみられる。属性別の違いを踏まえて、労働市場の動向をとらえていく必要が高いといえるだろうし、非正規雇用者に経済変動の負担が集中する状況を是正していく必要があるだろう。
また、フローの足元の動きからは、2か月続けて失業状態にある者の増加がみられる。従前から、失業期間が長くなればなるほど失業継続の可能性が高まること(失業の期間依存性)が指摘されてきた。失業期間の長期化は求職意欲を低下させ、労働者のスキルを陳腐化させる可能性があり、早期の再就職を可能にする環境を整備することが必要である。政府の経済対策には、離職者の早期再就職支援などが盛り込まれており、失業者への職業訓練や求職者と企業を結び付けるマッチング機能の向上が期待される。
*3 例えば、Yokoyama, Higa, and Kawaguchi (2021)
このように、感染拡大による労働市場の影響は、全体の失業率や失業者数だけをみれば、それほど大きな悪化ではなかったかもしれないが、非正規雇用者、特に女性の非正規雇用者に対して大きな影響を与えていた。
以前より、非正規雇用者は不況や企業の業績悪化時に雇用の調整弁になりやすいことが指摘されていた*3。
今回の感染拡大による労働市場への影響については、確かに感染拡大の影響を受けやすい業種に偏りがあり、そのような業種に非正規雇用者が集中していたり、小中学校の一斉休校により育児の負担が女性に集中したりしたことがその要因として挙げられるだろう。しかし、経済環境が変動した際には、非正規雇用者が雇用調整の手段とされやすい状況自体は変わっていないとみられる。属性別の違いを踏まえて、労働市場の動向をとらえていく必要が高いといえるだろうし、非正規雇用者に経済変動の負担が集中する状況を是正していく必要があるだろう。
また、フローの足元の動きからは、2か月続けて失業状態にある者の増加がみられる。従前から、失業期間が長くなればなるほど失業継続の可能性が高まること(失業の期間依存性)が指摘されてきた。失業期間の長期化は求職意欲を低下させ、労働者のスキルを陳腐化させる可能性があり、早期の再就職を可能にする環境を整備することが必要である。政府の経済対策には、離職者の早期再就職支援などが盛り込まれており、失業者への職業訓練や求職者と企業を結び付けるマッチング機能の向上が期待される。
*3 例えば、Yokoyama, Higa, and Kawaguchi (2021)
(参考文献)
労働省編(1986)『昭和60年労働経済の分析(労働白書』、日本労働協会
労働政策研究・研修機構(2020)『ユースフル労働統計2020 ―労働統計加工指標集―』
Yokoyama, Izumi, Kazuhito Higa and Daiji Kawaguchi (2021) “Adjustments of regular and non-regular workers to exogenous shocks:Evidence from exchange rate fluctuation”,Industrial and Labor Relations Review, Vol. 74,No. 2, pp 470-510,
(2021年06月08日「基礎研マンスリー」)
山下 大輔
研究・専門分野
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