2021年06月02日

家族計画の変化に見る、新型コロナの少子化への影響(4)-結婚意欲の高まりについて-

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1―― はじめに

新型コロナ感染症は少子化にどういった影響を与えるのか。本稿では、ニッセイ基礎研究所が実施した独自のWEBアンケート調査1を用いた、コロナ禍での家族計画に関する3つの傾向についての分析(一時的に妊娠を控える傾向、将来的に持ちたい子の数の減少、結婚意欲の高まり)のうち、3つ目として、「結婚意欲の高まり」について、そうした変化があった人の割合と要因、及び、特徴についての分析結果を紹介する。
 
1 「被用者の働き方と健康に関する調査」、2021年2月-3月に、18歳-64歳の被用者を対象として行われたWEBアンケート調査(n=5,808、うち40歳以下の回答は2,603件。)。調査方法や対象の詳細は、岩﨑敬子, 2021年5月31日「家族計画の変化に見る、新型コロナの少子化への影響(1)-イントロダクション-」基礎研レター(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=67876?site=nli)を参照。
 

2―― 新型コロナ拡大によって結婚したいと…

2―― 新型コロナ拡大によって結婚したいと思うようになった人は約17%

出産につながる重要なライフコースである結婚について、コロナ禍で結婚したいと感じた人は、表1の通り、18歳から65歳の回答者全体の中の未婚者もしくは1年以内に結婚した人のうち、約15%だった。また、40歳以下の未婚者もしくは1年以内に結婚した人の間でみると、約17%であった。そのうち男性は約14%、女性は約21%と、女性の方が結婚したいと思うようになった人の割合が大きいことが分かる。この調査では、新型コロナ感染症の拡大によって、結婚したくないと思ったかどうかは尋ねていないので、新型コロナ拡大によって、日本全体として、結婚したいと思う人が増えたのかどうかはわからないが、一定の割合の人が新型コロナの影響を受けて結婚したいと思うようになったということが分かる。
表1. 結婚したいと思った人の割合(1年以内に結婚した人/未婚者、%)

3―― 結婚したいと思った理由は…

3―― 結婚したいと思った理由は「自分の人生について考えた」から

40歳以下の未婚者もしくは1年以内に結婚した人で、新型コロナ感染症の影響で結婚したいと思った人の間で、結婚したいと思った理由の分布を示したのが表2である2。最も多く選択されたのが、「自分の人生について考えた」で76%だった。そして、次に多く選択されたのが「感染の親子への影響の不安」で19%であった。

また、男女別に見ると、女性は男性よりも、「自分の人生について考えた」人の割合が大きかった。
表2. 結婚したいと思った理由(40歳以下、1年以内に結婚した人/未婚者、%%)
 
2 本調査では、1つ目の質問として「新型コロナ感染症の拡大によって、あなたの家族計画(結婚・離婚・出産計画や将来持ちたい子どもの数等)に変化はありましたか。」という質問で、「結婚したいと感じた」「離婚したいと感じた」「一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思った」「将来的に持ちたい子どもの数が減った」「将来的に持ちたい子どもの数が増えた」「その他」「上記のような家族計画の変化はなかった」の選択肢から複数選択形式で選択頂いた後、2つ目の質問として「上記のような家族計画の変化はなかった」以外を選択した人に対して、再度複数選択形式で、「その理由はなんですか」と質問している。そのため、理由の分布については、1つ目の質問で複数の変化を選ばれている場合は、「結婚したいと思った」こと以外の理由も含まれている可能性がある点に、ご留意頂きたい。
 

4―― 結婚したいと思った人の特徴

4―― 結婚したいと思った人の特徴

さらに、新型コロナ拡大が理由で結婚したいと思った人の特徴を捉えるため、40歳以下で、未婚もしくは1年以内に結婚した人を対象として、結婚したいと思ったと答えた場合に1、それ以外の場合に0をとるダミー変数を被説明変数とし、様々な属性を説明変数としたプロビットモデルの推計を行った。結果は表3の通りである。
表3. 結婚したいと思った人の特徴(40歳以下、未婚もしくは1年以内に結婚した人)
表3の結果に示されるように、女性、身近な人がコロナに感染した女性、収入に変化があった男性(増えた場合も減った場合も)、仕事量に変化があった女性(増えた場合も減った場合も)がコロナ拡大の影響を受けて結婚したいと思った傾向が強いことがわかる。また、2020年は在宅勤務でなかったものの、2021年には在宅勤務をするようになった人は結婚願望が高まった傾向も確認される。
 

5―― おわりに

5―― おわりに

出産につながる重要なライフコースである結婚について、コロナの影響で結婚したいと感じた人は、40歳以下の未婚者もしくは1年以内に結婚した人のうち約17%であった。コロナ禍で結婚意欲が下がった人の割合は本調査では質問項目に含まれていないため確認できていないが、別調査によると、コロナ禍では、結婚意欲が下がった人よりも高まった人の方が多いことが確認されている3。しかし、結婚意欲は高まっているものの、実際の2020年の婚姻届の件数は、前年比12.7%減少している4。このことは、コロナ禍での婚姻届の提出を延期する人が多い可能性を示すとともに、出会いから1年以内で結婚する人も一定割合いることからは5、コロナ禍での出会いの難しさが影響を与えている可能性も考えられる。

コロナ禍で自分の人生について考えるとなぜ結婚したいように思うようになるのかといった要因については、今後の課題としてさらに検証していく必要がある。考えられる可能性としては、在宅勤務によって結婚意欲が高まる傾向がみられることから、人との直接的な交流が減ることで、家庭を持ちたいと思うようになるのかもしれない。また、男性は収入に変化があると、結婚したくなり、女性は仕事量に変化があると結婚したくなるという傾向は、男女の役割意識の違いを表している可能性があることに加えて、コロナ禍での仕事の状況の変化が、結婚意欲へ影響を与えるきっかけになっている可能性があることを示唆する。そのため、どういった仕事の状況や役割意識が結婚意欲と関係しているのか、具体的に検証していくことが、より効果的な少子化対策を検討していく上で、必要と考えられる。

いずれにしても、新型コロナ拡大によって、結婚意欲が高まった人が一定割合いると考えられることから、その意欲の高まりを活かしつつ、コロナ禍での出会いの難しさを克服するような対策を考えていくことが、少子化対策として重要だろう。
 
3 株式会社ネクストベル2020年6月15日,「新型コロナウイルスの流行により結婚に対する意識にどう変化が生じたか」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000037.000032757.html, 2021年5月25日アクセス)
4 厚生労働省「人口動態統計速報(令和2年12月分)」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/s2020/dl/202012.pdf, 2021年5月25日アクセス)
5「第15回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)によると、結婚持続期間5年未満の夫婦で、交際期間が1年未満の割合は12%。
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

(2021年06月02日「基礎研レター」)

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