2021年06月02日

人流データをもとにした「オフィス出社率指数」の開発について-オルタナティブデータの活用可能性を探る

金融研究部 准主任研究員   佐久間 誠

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3――オフィス出社率指数と他の人流データとの比較

1|オフィス出社率指数を「Google出社率」・「ドコモ出社率」と比較する
オフィス出社率指数を、主要な人流データである米Google「コミュニティ モビリティ レポート」並びにNTTドコモ「モバイル空間統計」と比較する16

米Google「コミュニティ モビリティ レポート」は、人々が訪問する場所を、「職場」、「乗換駅」、「小売・娯楽」、「食料品店・薬局」、「住宅」、「公園」の6つのカテゴリ に分類し、2020年2月15日以降の日次データを2020年1月3日~2月6日の 5週間における該当曜日の中央値を基準値として、基準値からの変化率を公表している17。また、全国及び都道府県別のデータがある。本稿では、「東京都」の「職場」の訪問者数について、基準値を100%とした指数に変換し(以下、「Google出社率」という)、オフィス出社率指数と比較する。

NTTドコモ「モバイル空間統計」の新型コロナウイルス感染症対策特設サイトは、2020年5月1日以降の全国主要エリアの15時時点の人口増減率の日次データを公表している18。東京都については、12エリアのデータを公表しており、本稿では、「東京駅」、「大手町」、「丸の内」、「東京駅南」、「霞が関」「品川駅」の6エリアをオフィスエリアとみなす19。2020年1月18日から2020年2月14日の平日または休日の平均を基準値とする「感染拡大前比」のデータについて、基準値を100%とした指数に変換し、6エリアの単純平均を(以下「ドコモ出社率」という)、オフィス出社率指数と比較する。

まず、オフィス出社率指数とGoogle出社率、ドコモ出社率の記述統計を図表12に示す。対象期間は、3指数の平仄を合わせるため、土日と祝日、休暇取得日を除いた2020年5月7日から2021年5月14日とした。
図表 12:オフィス出社率指数とGoogle出社率、ドコモ出社率の記述統計
次に、オフィス出社率指数とGoogle出社率並びにドコモ出社率の関係をみるため、横軸にオフィス出社率指数、縦軸にGoogle出社率とドコモ出社率をとった散布図を確認する(図表13)。オフィス出社率指数は、Google出社率、ドコモ出社率と高い正の相関関係にある。
図表13:オフィス出社率指数vs. Google出社率・ドコモ出社率
続いて、オフィス出社率指数、Google出社率並びにドコモ出社率の推移を比較すると、いずれもコロナ禍において同様の変化を示している(図表14)。まず、オフィス出社率指数とGoogle出社率は水準が異なるものの、Google出社率を20%下方シフトすると、オフィス出社率指数と概ね同じ推移を示すことがわかる。Google出社率の水準がオフィス出社率指数より高い理由としては、Googleが提供する「職場」のデータは、オフィスに限定しているわけではなく、エッセンシャルワーカーなどオフィス以外の施設に出勤する従業員を含むためだと推察される。

また、ドコモ出社率は、ほとんどの時期において、オフィス出社率指数と同様の水準かつ変化を示している。ただし2021年3月から4月は、ドコモ出社率がオフィス出社率指数の上方に乖離した。この時期は、新規感染者数の減少を背景に、商業施設の人出回復が鮮明であった20。NTTドコモがコロナ対策として公表するモバイル空間統計は、そもそもオフィス出社率を把握することを主眼としていない。当然、商業施設などオフィス以外の来訪者を除外する処理は行っておらず、オフィス出社率指数と比較してオフィス以外の施設への来訪者がデータに含まれているためだと推察される。
図表14:オフィス出社率指数とGoogle出社率・ドコモ出社率の推移
 
16 両社とも新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて、人流データを公表しており、他にもKDDIやソフトバンク子会社のAgoop、米Appleなどが同様に人流データを公表している。
17 米Google「COVID-19: コミュニティ モビリティ レポート」 <https://www.google.com/covid19/mobility/>
18 NTTドコモ「モバイル空間統計」新型コロナウイルス感染症対策特設サイト<https://mobaku.jp/covid-19/
19 東京都の12エリアは、「東京駅」、「大手町」、「丸の内」、「東京駅南」、「霞が関」、「銀座」、「新宿駅」、「渋谷センター街」、「品川駅」、「羽田空港 第1ターミナル」、「羽田空港 第2ターミナル」、「立川駅」。
20 佐久間誠(2021)「オルタナティブデータで見る不動産市場(2021年4月)-商業施設の来店者は減少、オフィス出社率の低下は小幅」(不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2021年4月20日)
2|オフィス出社率指数の推移を振り返る
コロナ禍における東京のオフィス出社率指数の推移を確認すると、コロナ感染動向や政府の感染症対策にあわせて、オフィスワーカーが働き方や働く場所を変化させてきたことがわかる(図表 15)。

第1波では、オフィス出社率指数は2020年4月22日に34%まで落ち込んだ。その後、新規感染者数が減少に転じても、指数は50%以下で推移したが、2020年5月25日に全国で緊急事態宣言が解除されると上昇し、6月後半には60%前後まで回復した。

第2波では、新規感染者数の増加に伴い、指数は2020年8月21日に50%まで低下した。企業やオフィスワーカーのコロナ慣れが進んだことに加え、緊急事態宣言の発令が回避されことから、指数は50%を下回らずに推移した。

第3波では、新規感染者数の増加や緊急事態宣言の再発令により、指数は2021年2月15日に48%まで低下した。ただし、新規感染者数の急増と比較して、指数の低下幅は小さかったと言える。また、新規感染者数が減少に転じた後でも、緊急事態宣言期間は指数の回復スピードが穏やかであった。一部の企業では、新規感染者数が減少しても宣言期間中はオフィス出社を抑制する方針を維持したためだと考えられる。

2021年5月14日現在の指数は52%となっている。新型コロナウイルス変異株感染拡大への警戒感から、まん延防止等重点措置に続いて、4月25日に3回目の緊急事態宣言が発令されたため、指数は5月13日に48%と、第2波以降の下限まで低下した。

このようにオフィス出社率指数は、新型コロナウイルス感染拡大の第1波で34%まで急落した。その後は、新規感染者数の増減にあわせて概ね50%~70%のレンジで上下動を繰り返しているが、新規感染者数の増減に対する指数の感応度は徐々に小さくなってきているようだ。これは、多くの企業が1年を超えるコロナ禍を経験するなかで、ウイズコロナを前提とした新たなワークスタイル(働き方)やワークプレイス(働く場所)が定着してきたためと考えられる。
図表15:オフィス出社率指数(東京)と新規感染者数(東京都)の推移

4――おわりに

4――おわりに

本稿では、クロスロケーションズが提供する人流データをもとにオフィス出社率指数を算出する手法を提示した。その中で、データの特徴やクセを確認した上で、データの集計や算出方法を工夫することでノイズやバイアスを軽減する過程を説明し、オルタナティブデータを利用する上での注意点や対処法の一例を示した。また、人流データを活用することで、従来ハードデータが存在しなかった領域について定量化できる可能性を示した。一方、テナント入退去に伴う来訪者数の変化が考慮できていないなど、本指数には改善の余地が残されている。また、本指数と企業の経済活動や不動産市場の動向を比較するなど、更なる分析も求められる。このような指数の改善や拡充、指数を用いた分析などは、今後の課題としたい。

アフターコロナにおける人々のワークスタイル・ワークプレイスの在り方は依然不透明であり、引き続き、オフィス出社率指数をモニタリングしていくことは重要であろう。次稿ではオフィス出社率指数の動向をより詳しく確認する。
【参考資料】 東京オフィス市場(都心部16エリア)のオフィス出社率指数(月中平均)
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   准主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

(2021年06月02日「基礎研レポート」)

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