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- 日銀ETFに残された課題-出口論の前に検討すべきこと
2021年05月12日
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1―ETF買入方針を変更
日本銀行は上場投資信託(ETF)の買入方針を変更した。主な変更点は年間買入額のメドである「原則6兆円」を削除したことと、今後の買入対象を東証株価指数(TOPIX)連動型ETFに限定したことだ。
かねて弊害や副作用への批判があったほか株価上昇で「まだ買う必要があるのか」等の声も増えていた。それでも日銀は買入額の「上限12兆円」を残した上、「感染症収束後も継続する」と付け加えた。黒田総裁も縮小の意図はない旨を強調した。
また、一部の銘柄への偏りを理由に、日経平均型およびJPX日経400型ETFを今後の買入対象から除外した。
かねて弊害や副作用への批判があったほか株価上昇で「まだ買う必要があるのか」等の声も増えていた。それでも日銀は買入額の「上限12兆円」を残した上、「感染症収束後も継続する」と付け加えた。黒田総裁も縮小の意図はない旨を強調した。
また、一部の銘柄への偏りを理由に、日経平均型およびJPX日経400型ETFを今後の買入対象から除外した。
2―残された課題
日銀が過去10年超にわたり累計35兆円を超えるETFを買い続けた結果、株式市場は「日銀が買い支えてくれる」という“ 依存症”に陥った。張本人の日銀は弊害や副作用を認めつつも、現実問題として買入れを続けざるを得ない。残された課題を考察する。
(1)買入額の縮小
まず、実際の買入額を縮小することが肝心だ。弊害の他にも日銀にはETF保有額の増加ペースを抑制すべき事情があるからだ。例えば株価が大きく下落して決算期末にETFが含み損の状態だと、国庫納付金(国の一般歳入)の減少という形で国民負担が生じる。当然、保有額が大きいほど国民負担も大きい。
この観点からはETFの損益分岐点(日経平均で約2万円、3月末時点)が日銀にとって防衛ラインとなる。これより高い株価水準で買えば損益分岐点が上昇し、株価下落への耐性が弱まる。仮に日経平均が2万5,000円程度まで下落したらETF買入れを正当化する声が増えるだろう。しかし、必要以上に株価が下がれば国内外の投資家が買うので、日銀の出動は不要ではないだろうか。市場とはそういうものだ。
(2) ESG・SDGsを考慮
昨年11月には日銀のETF保有額が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の日本株保有額を越えたとみられる。日銀は日本株市場の参加者として世界最大だが、ETF買入れにおいてESG等を未だ考慮していない。
「2%の物価目標とESGは関係ない」との考え方もあるようだが、「金融政策だからといってESGに配慮しなくてよいのか」との指摘に反論の余地はない。現にGPIFほか世界の大手機関投資家だけでなく欧米の主要な中央銀行も金融政策においてESG等を考慮している。日銀の行動変化が一般投資家にも波及すれば、それは社会にとって好ましいことだ。
(3)政策コストの見直し
日銀はETFの信託報酬(運用会社などの運用実務等の対価)として推定2,100億円超を負担してきた。時価に対して「年率○%」という形で各ETFの純資産から引かれるため日銀の決算書に記載されない。
ところがETFの信託報酬率はバラツキがあり、日銀が多く保有するETFは高い傾向がある。当然、日銀の負担(国民負担)も大きくなるほか、ETF業界の価格競争を阻害しているという批判もある。
ポイントは運用会社によってETFの運用成果にほとんど差が無いことだ。品質が同じならコストが安いETFを選ぶのが当然で、日銀内部にも「もっと安くできないか」という声があると聞く。
試算では現在の保有構成だと1年間の信託報酬は592億円だが、TOPIX型など各カテゴリー内で最も安いETFに乗り換えると399億円で済む。約33%のコスト削減だ。信託報酬率の引き下げ交渉も含め検討は必要だろう。
(4) 日経平均型ETF等の保有削減
買入対象から除外したETFの保有削減(TOPIX型に置き換え)も検討に値する。というのも日経平均型は保有額全体の約3割だが、個別企業では日銀が発行済株式の20%以上を間接保有する企業が4社ある(10%以上は75社)。いずれも日経平均型での保有比率が15%を超えており、確かに偏っている。
全てTOPIX型に置き換えた場合を試算すると、20%以上の企業は無くなり、10%以上は16社に減る。さらに最大の保有比率は25%から11%に下がる。技術的には可能だが、株価への影響を恐れるほど実施のハードルは高い。
(1)買入額の縮小
まず、実際の買入額を縮小することが肝心だ。弊害の他にも日銀にはETF保有額の増加ペースを抑制すべき事情があるからだ。例えば株価が大きく下落して決算期末にETFが含み損の状態だと、国庫納付金(国の一般歳入)の減少という形で国民負担が生じる。当然、保有額が大きいほど国民負担も大きい。
この観点からはETFの損益分岐点(日経平均で約2万円、3月末時点)が日銀にとって防衛ラインとなる。これより高い株価水準で買えば損益分岐点が上昇し、株価下落への耐性が弱まる。仮に日経平均が2万5,000円程度まで下落したらETF買入れを正当化する声が増えるだろう。しかし、必要以上に株価が下がれば国内外の投資家が買うので、日銀の出動は不要ではないだろうか。市場とはそういうものだ。
(2) ESG・SDGsを考慮
昨年11月には日銀のETF保有額が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の日本株保有額を越えたとみられる。日銀は日本株市場の参加者として世界最大だが、ETF買入れにおいてESG等を未だ考慮していない。
「2%の物価目標とESGは関係ない」との考え方もあるようだが、「金融政策だからといってESGに配慮しなくてよいのか」との指摘に反論の余地はない。現にGPIFほか世界の大手機関投資家だけでなく欧米の主要な中央銀行も金融政策においてESG等を考慮している。日銀の行動変化が一般投資家にも波及すれば、それは社会にとって好ましいことだ。
(3)政策コストの見直し
日銀はETFの信託報酬(運用会社などの運用実務等の対価)として推定2,100億円超を負担してきた。時価に対して「年率○%」という形で各ETFの純資産から引かれるため日銀の決算書に記載されない。
ところがETFの信託報酬率はバラツキがあり、日銀が多く保有するETFは高い傾向がある。当然、日銀の負担(国民負担)も大きくなるほか、ETF業界の価格競争を阻害しているという批判もある。
ポイントは運用会社によってETFの運用成果にほとんど差が無いことだ。品質が同じならコストが安いETFを選ぶのが当然で、日銀内部にも「もっと安くできないか」という声があると聞く。
試算では現在の保有構成だと1年間の信託報酬は592億円だが、TOPIX型など各カテゴリー内で最も安いETFに乗り換えると399億円で済む。約33%のコスト削減だ。信託報酬率の引き下げ交渉も含め検討は必要だろう。
(4) 日経平均型ETF等の保有削減
買入対象から除外したETFの保有削減(TOPIX型に置き換え)も検討に値する。というのも日経平均型は保有額全体の約3割だが、個別企業では日銀が発行済株式の20%以上を間接保有する企業が4社ある(10%以上は75社)。いずれも日経平均型での保有比率が15%を超えており、確かに偏っている。
全てTOPIX型に置き換えた場合を試算すると、20%以上の企業は無くなり、10%以上は16社に減る。さらに最大の保有比率は25%から11%に下がる。技術的には可能だが、株価への影響を恐れるほど実施のハードルは高い。
3―おわりに
各種メディアのアンケートで機関投資家や個人投資家の約半数が日銀のETF買いに「反対」とした(反対は約3割)。
「中央銀行がやって良いことといけないことがある」という神学論争的なコメントはもちろん、「もう少し株価が下がったら買おうと思っていたのに、目の前で日銀に獲物を奪われた」など、投資家ならではの切実な想い(苦情)も目立った。
日銀は今後も買入れを続けるのであれば、出口(ETF売却)の議論を積極的に進めつつ、せめて真っ当な投資家を惑わせないで欲しい。そうでなければ健全な株式市場の発展と投資家育成をも阻害しかねない。
「中央銀行がやって良いことといけないことがある」という神学論争的なコメントはもちろん、「もう少し株価が下がったら買おうと思っていたのに、目の前で日銀に獲物を奪われた」など、投資家ならではの切実な想い(苦情)も目立った。
日銀は今後も買入れを続けるのであれば、出口(ETF売却)の議論を積極的に進めつつ、せめて真っ当な投資家を惑わせないで欲しい。そうでなければ健全な株式市場の発展と投資家育成をも阻害しかねない。
(2021年05月12日「基礎研マンスリー」)

03-3512-1852
経歴
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
2023年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会認定アナリスト
井出 真吾のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2024/12/23 | 日経平均4万円回復は? | 井出 真吾 | 研究員の眼 |
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【日銀ETFに残された課題-出口論の前に検討すべきこと】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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