2021年05月12日

コロナ禍における労働市場の動向-失業率の上昇が限定的にとどまる理由

基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.290]

経済研究部 経済調査部長   斎藤 太郎

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1―コロナ禍の労働市場の概観

日本の労働市場は長期にわたり改善傾向を続けてきたが、新型コロナウイルス感染症の影響で悪化した。有効求人倍率は、2019年3月の1.63倍から2020年10月には1.04倍まで低下し、失業率は2019年12月の2.2%から2020年10月には3.1%まで上昇した。失業率、有効求人倍率ともに2020年末頃から悪化に歯止めがかかりつつある。ただし、2021年2月の失業者数は203万人と直近のボトム(2019年12月の155万人)よりも50万人程度多い。

2―失業率の上昇が限定的にとどまる理由

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、雇用情勢が厳しくなったことは確かだが、経済活動の急激な落ち込みを踏まえれば、失業率の上昇は限定的にとどまっている。ここでは、その理由をいくつかの観点から考察する。
 
(非労働力化の進展)
2020年4月の緊急事態宣言下で失業率の上昇が小幅にとどまった一因は、仕事を失った人の多くが職探しを行わずに非労働力化したことである。労働力人口は女性、高齢者を中心に長期にわたって増加傾向が続いていたが、緊急事態宣言や学校の臨時休校の影響から高齢者や女性、学生アルバイトの一部が非労働力化したことで、2020年4月には前月差▲94万人の大幅減少となった。このため、就業者数が同▲108万人の大幅減少となったにもかかわらず、失業者数は同6万人の増加(失業率は0.1ポイントの上昇)にとどまった。仮に、非労働力化した人の全てが求職活動を行っていたとしたら、4月の失業率は4%程度まで上昇していた(実際の失業率は2.6%)。
 
(雇用調整助成金の拡充)
緊急事態宣言発令に伴う経済活動の停止によって仕事を失った人の多くが、雇用調整助成金の拡充を背景に、就業者の内訳である休業者にとどまったことも失業率の上昇を抑制した。
 
休業者数は、緊急事態宣言が発令された20年4月に597万人(前年差420万人増)と過去最多となった後、5月以降徐々に減少している。
 
政府は雇用調整助成金による雇用維持を雇用対策の柱とし、助成率の引き上げ、対象労働者の拡大等を行ってきた。この結果、2020年度の雇用調整助成金の支給決定件数は297万件、支給決定金額は3.2兆円となり、いずれもリーマン・ショック後の3年間(2009~2011年度)の実績を上回った[図表1]。
雇用調整助成金の支給決定状況
現時点では、雇用調整助成金の拡充が失業者の増加に歯止めをかける役割を果たしていると評価できる。
 
(労働時間の大幅削減)
雇用調整助成金の拡充を背景に、企業がなるべく雇用を維持したまま労働時間の大幅削減(休業も含む)によって需要の急減に対応したことも失業率の上昇が限定的にとどまっている一因と考えられる。実質GDPと労働投入量(就業者数×総労働時間)の関係を確認すると、労働投入量の調整が主として労働時間の削減によって行われていることは、リーマン・ショック時も今回も同様だが、今回は特に所定内労働時間を中心とした労働時間の減少幅が大きくなっている。
 
(景気の上振れ)
緊急事態宣言解除後の経済活動の持ち直しが想定を上回るペースで進んでいることも、雇用調整圧力の緩和に寄与した。
 
日本経済研究センターの「ESPフォーキャスト調査」によれば、実質GDP成長率の見通しは、緊急事態宣言の発令を受けて大きく下方修正された。2020年4-6月期の成長率は緊急事態宣後に集計された2020年5月調査からさらに下振れたが、7-9月期以降は大きく上振れている。2020年9月時点では、2020年10-12月期の実質GDPの水準はコロナ前の2019年10-12月期を▲4.4%下回るとみられていた。しかし、実際の成長率は2020年7-9月期、10-12月期と2四半期続けて前期比年率二桁の高い伸びとなり、2020年10-12月期の実質GDPは2019年10-12月期を▲1.3%下回るにとどまっている[図表2]。
予想から上振れる実質GDP
経済活動が予想を上回るペースで回復していることで、雇用調整圧力は大きく緩和されている。
 
(宿泊・飲食サービス業の高い転職率)
全体の雇用調整圧力が和らぎつつある中で、極めて厳しい状態が続いているのが、宿泊・飲食サービス業である。宿泊・飲食サービス業は需要の減少が雇用の減少に直結しやすいという特徴がある一方、他産業への転職が進みやすい側面もある。2020年の宿泊・飲食サービス業の転職率は9.4%(うち他産業への転職が6.4%)となり、2015~2019年平均の9.9%(うち他産業への転職が6.4%)に比べれば若干低下したものの、他産業との比較では高い水準となった[図表3]。

職を失った人の多くが他産業へ転職できたことが失業率の上昇を抑制する役割を果たしたと考えられる。
 
産業別の転職率

3―今後の見通しと課題

ここまで見てきたように、2020年4月の緊急事態宣言下では、非労働力化の進展、休業者の急増、労働時間の大幅削減が失業率の上昇を抑制した。そして、緊急事態宣言解除を受けた経済活動再開後は、実質GDP成長率が大きく上振れるなど、想定を上回るペースで景気が回復してきたことが雇用調整圧力の緩和に寄与した。また、極めて厳しい状況にある宿泊・飲食サービス業から他産業への転職が進んだことも失業率の上昇を抑制した。
 
(雇用調整圧力が再び高まる恐れ)
雇用情勢は最悪期を脱しつつあるが、2021年1月に再発令された緊急事態宣言の影響で、景気は個人消費を中心に弱い動きとなっている。経済活動の制限や対象地域が限定的であるため、個人消費や経済活動全般への悪影響は前回の緊急事態宣言時よりも小さいが、経済の耐久力が当時よりも大きく低下していることには注意が必要だ。緊急事態宣言そのものによるインパクトが小さかったとしても、廃業や倒産に追い込まれる企業が一気に増え、失業者数が急増するリスクは前回の緊急事態宣言時よりも高くなっている。
 
(失業抑制策から雇用創出策へ)
雇用調整助成金の拡充が失業者の増加抑制に貢献してきたことは確かだが、経済活動の水準が元に戻らない中で無理に雇用を維持し続けることは、新規雇用、特に新卒採用の抑制につながる恐れがある。実際、日銀短観2020年12月調査では、2011年度から増加が続いていた新卒採用計画が2020年度に前年比▲2.6%と10年ぶりの減少となった後、2021年度は同▲6.1%と減少幅が拡大した。
 
日本では、以前から採用が新卒に偏りすぎていることが指摘されてきた。労働市場全体の雇用者数は景気循環によって大きく変動しないが、新卒採用数は景気が良い時には急増し、景気が悪い時には急減するという特徴がある。景気が悪化した場合、厳しい解雇規制や大規模な雇用対策によって既存の労働者は守られているが、そのしわ寄せは新たに就職しようとする若者が受けやすい。いわば、新卒採用市場が雇用調整の役割を担っているともいえる。
 
雇用調整助成金の特例措置を長く続ければ、企業内の雇用保蔵はさらに拡大する。このことは将来の雇用創出を妨げ、雇用情勢の改善が遅れるリスクを高めるだろう。
 
労働需要が増えなければ失業問題の根本的な解決には至らない。これまでの失業を抑制する政策から、必要な感染拡大防止措置を講じつつも経済活動の制約をできるだけ取り除き、景気回復を着実かつ持続的なものとすることによって、新たな雇用を生み出す政策へシフトすることが求められる。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2021年05月12日「基礎研マンスリー」)

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