2021年04月23日

中国経済の現状とリスク要因-共産党の100周年と6中全会、それに北京冬季五輪が波乱の種

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

(図表-1)中国の実質成長率の推移 中国国家統計局は4月16日、2021年1-3月期の国内総生産(GDP)を発表した。経済成長率は実質で前年同期比18.3%増と、四半期毎の実質成長率を遡れる1992年以降では最大の伸びを示し、リーマンショック後の4兆元の大型対策でV回復した2010年1-3月期の前年同期比12.2%増を大きく上回ることとなった(図表-1)。

但し、この急回復は前年同期がコロナ禍で落ち込んだ反動増という側面が強く、19年1-3月期と比べると10.3%増で、2年平均すれば5.0%増に留まっており、コロナ前の19年の実質成長率(前年比6.0%増)を1ポイント下回っている。なお、産業別に見ると、第1次産業は前年同期比8.1%増(2年平均で2.3%増)、第2次産業は同24.4%増(2年平均で6.0%増)、第3次産業は同15.6%増(2年平均で4.7%増)だった。
他方、前四半期(20年10-12月期)と比べた実質成長率は前期比0.6%増(季節調整後)で、筆者の概算では前期比年率2.4%増となった。ここもとの推移を見ると(図表-2)、コロナ禍で経済が混乱した20年1-3月期に前期比年率32.3%減に落ち込んだあと、4-6月期には同46.9%増と持ち直し、その後も7-9月が同13.0%増、10-12月期が同13.4%増と高水準を維持していた。しかし、この1-3月期は同2.4%増と勢いが鈍ることとなった。なお、需要項目別の寄与度を見ると、1-3月期は、最終消費が11.6ポイント、総資本形成が4.5ポイント、純輸出が2.2ポイントだった。

一方、消費者物価(CPI)は前年同期比で横ばいだった。アフリカ豚熱(ASF)や長江・淮河流域の洪水被害で高止まりしていた食品価格が昨年秋以降は下落に転じ、21年の抑制目標(3%前後)を下回る水準で推移している(図表-3)。他方、工業生産者出荷価格(PPI)は前年同期比2.1%上昇した。世界的な需要回復を背景に昨年末に下げ止まり、21年に入ると上昇の勢いが増してきた。
(図表-2)前期比年率に換算下成長率(季節調整後)/(図表-3)消費者物価(CPI)と工業生産者出荷価格(PPI)

2.その他の景気指標

2.その他の景気指標

(図表-4)製造業PMIと非製造業PMI 製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)の推移を見ると(図表-4)、河北省などでコロナ禍が再燃した影響で2月は50.6%に低下したが、早期に抑え込んだため3月には51.9%まで回復した。非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)も同様に、2月は51.46%に低下したが、3月には56.3%まで回復し、先行き懸念を完全に払拭する結果となった。
個人消費の代表指標である小売売上高を見ると、1-3月期は前年同期比33.9%増と極めて高い伸びを示した。内訳が公表される一定規模以上の小売統計を見ると、飲食が前年同期比77.7%増、自動車が同65.6%増、衣類が同54.2%増、家具類が同52.3%増となるなど、コロナ禍の打撃が大きかった業種ほど反動増も大きかった。他方、ほとんど落ち込まなかった電子商取引(商品とサービス)は同29.9%増と小幅な反動増に留まった。なお、前月比の伸びを見ると、コロナ禍が再燃した1月に前月比0.92%減と落ち込んだものの、早期に抑え込んだことで2月には同1.45%増、3月には同1.75%増と急回復することとなった(図表-5)。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ても、1-3月期は前年同期比25.6%増と高い伸びを示した。内訳を見ると、製造業が同29.8%増、不動産開発投資が同25.6%増、インフラ投資が同29.7%増だった。なお、前月比の伸びを見ても、1月が前月比1.15%増、2月が同1.50%増、3月が同1.51%増と、コロナ禍の影響はほとんど見られなかった。他方、輸出(ドルベース)を見ると、1-3月期は前年同期比49.0%増と大幅な伸びを示した。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)で、防疫関連品(医療機器、マスクなど)の輸入需要や巣ごもり需要(家電、デジタル製品など)が世界的に増えたことが背景にある。

なお、ここもと海外旅行は低迷したままだが、国内旅行は急増している(図表-6)。国家統計局の劉愛華報道官は記者会見で、清明節連休(4月3~5日)に「鉄道旅客輸送人数は2020年同時期より225.8%増加」し、「映画興行収入は最高記録を更新した」と述べており、4月も良さそうだ。
(図表-5)前期比(季節調整後)で見た小売売上高の推移/(図表-6)航空旅客の推移

3.コロナ禍の状況

3.コロナ禍の状況

(図表-7)中国におけるコロナ禍との闘い ここで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との闘いを簡単に振り返っておこう1(図表-7)。

COVID-19が猛威を振るい始めた19年冬、武漢市では医療崩壊が起きるなど中国は大混乱に陥った(新型コロナ混迷期)。そして1月20日に習近平国家主席が新型コロナ対策に全力を挙げるよう指示、1月23日には武漢を都市封鎖(ロックダウン)するなど防疫強化期に入った。その後2月中旬に爆発的感染が峠を越えると、中国政府は“復工復産”を旗印に経済活動再開に舵を切った。そして4月8日には武漢の都市封鎖を解除、5月下旬にはコロナ禍で遅れていた全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の開催に漕ぎ着け、財政・金融の両面で景気対策が本格稼働することとなった。
その後も全国各地でクラスター(感染者集団)が発生することとなった。しかし、COVID-19の信号票を見ると(図表-8)、レッド(百万人当たり10名以上)になった行政区は限定的でしかも早期に抑え込んだため、中国経済の回復が途切れることはなかった。そして、直近のCOVID-19現況を見ると(図表-9)、21年4月20日時点で確認された症例は累計90,541人、治癒退院したのが85,600人、死亡したのが4,636人、そして現存感染者は305人となっている。また、現存感染者のうち重症症例が6人、確認症例に含まれない現存無症状感染者が311人、疑似症例が1人となっている。なお、経過観察中の濃厚接触者は11,348人、その累計は1,004,270人に達している。
(図表-8)COVID-19の信号表/(図表-6)中国におけるCOVID-19現況
 
1 中国における新型コロナウイルス感染症の感染爆発とその対策、そして政府や社会の動きに関する詳細に関しては、「中国におけるコロナ禍との闘いを振り返って~今後の政策運営にどう影響するのか?」ニッセイ基礎研レポート、2020-10-30を参照ください
 

4.全人代と財政金融政策

4.全人代と財政金融政策

(図表-10)2021年の主要目標と財政 1|全人代で設定された成長率目標は「6%以上」
中国では今年3月(5~11日)、第13期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第4回会議が開催された。その冒頭で李克強総理は政府活動報告を行い、今年の成長率目標を「6%以上」に設定した。国際通貨基金(IMF)などほとんどの国際機関が8%前後の経済成長を予想する中で、低めに設定した理由に関して、李克強総理は閉幕後の記者会見で「一時的に速く歩むことができても、必ずしも着実な歩みであるとは限らず、着実な歩みこそ力強いものとなる」と述べており、短期的に高成長を追求することよりも、「質の高い発展」に力点を置くという決意表明という意味合いが強いと思われる。ちなみに、「6%以上というのは可能性を残したもので、実際にはもう少し高くなる可能性がある」とも述べている。なお、その他の主要目標としては、消費者物価上昇率が3%前後、都市部調査失業率が5.5%前後、都市部新規就業者数が1100万人以上、住民所得の堅調な伸び、食糧総生産量は6億5000万トン以上、国際収支の基本的均衡、GDP1単位当たりエネルギー消費量の3%前後の引き下げを挙げている。
2|財政金融政策
財政政策に関しては、2021年は「質・効率の向上を図り、より持続可能なものにする」という基本方針を掲げた。財政赤字の対GDP比は3.2%前後とし昨年の3.6%以上を0.4ポイント程度引き下げた。また、昨年は1兆元だった感染症対策特別国債の発行も今年は無くした。さらに「両新一重(新型インフラ建設、新型都市化建設、交通・水利などの大型建設)」に充てる地方特別債も昨年より0.1兆元少ない3.65兆元に留めた(図表-10)。なお、劉昆財政相は全人代開催中の取材スペースで記者に対し、「今後のリスクと試練に対応するための政策空間をあらかじめ残しておかなければならない」と述べており、財政の裁量余地を温存したい意向を示している。

金融政策に関しては、2021年は「柔軟かつ精確で、合理的かつ適度なものにする」という基本方針を掲げた。具体的には「通貨供給量(M2)・社会融資総量(企業や個人の資金調達総額)の伸び率が名目GDP成長率とほぼ一致するようにする」とした。昨年はコロナ禍で名目GDP成長率の大幅低下が避けられない状況下「前年度の水準を明らかに上回るよう促す」とし、景気を積極的に支援するスタンスを取ったが、今年は景気に対して中立に戻す意向と考えられる。また、今年の基本方針では「精確(中国語では精准)」という言葉を用い、必要な分野に十分な資金を「精確」に供給する“点滴灌漑”を実践することとなった。そして「精確」に資金供給する分野としては、科学技術イノベーション、グリーン発展、小企業・零細企業、自営業者、新しいタイプの農業経営主体、感染症による長期的な影響を受けている業種や企業を挙げている。
 

5.リスク要因

5.リスク要因

以上のように、厳格な防疫管理でコロナ禍の封じ込めに成功した中国では、社会経済活動がほぼ正常化し、財政面・金融面からの景気支援を縮小しても、自然体で経済成長できる本来の姿を取り戻しつつある。そして、コロナ禍で落ち込んだ20年の経済成長率は前年比2.3%増に留まったものの、21年はその反動増で高成長となり、コロナ前の19年と比べた経済成長率は2年平均で5.0%増と、潜在成長力並みの成長軌道に戻る見込みである。

但し、中国経済のこれからを考えると、コロナ禍で緩んだ金融政策を引き締める過程で生じる不良債権増や住宅バブル崩壊に対する懸念、それにプラットフォーム企業に対する規制強化の悪影響といったリスク要因があるのに加えて、ふたつの波乱の種がある。

ひとつの波乱の種は米中対立でサプライチェーンが分断されることだ。米中両国は3月18~19日、バイデン米政権下で初となる外交トップによる直接会談を開催した。世界が注目する中で開かれたこの会談は、民主主義や人権といった価値観や安全保障をめぐる問題で激論を交わす異例の展開となった2。中国経済への打撃が特に大きいのは、米国が同盟国・友好国を巻き込んで“経済安全保障”を旗印とした中国排除の動きを加速することだ。世界で一つだったサプライチェーンが、米国と中国の二つを軸としたサプライチェーンに分断されると、グローバリゼーションは大きく後退し生産効率の悪化は避けられない。折しも今年7月1日には中国共産党100周年祝賀式典が開催される。習近平総書記(国家主席)は重要談話を発表する予定で、そこでは「中華民族の偉大な復興」、「共産党による領導(指導)」、「祖国統一」などに触れることになるだろう3。軍事パレードこそなさそうだが4、バイデン米政権の反応は読み切れない。さらに今秋には中国共産党第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)も控える。ここで米中対立がさらに激化すれば、米国が北京冬季五輪5をボイコットするような事態に陥る恐れもあるだけに、注視する必要がある。

もうひとつの波乱の種は北京冬季五輪で海外から変異ウイルスが流入することだ。前述のように中国ではCOVID-19を早期に抑え込み、その後も散発的にクラスター(感染者集団)が発生したものの、感染のリンクを追える状態をキープしている。しかし、世界では依然として新型コロナウイルスが猛威を振るっており、新たな変異ウイルスが次から次へと発生する状況にある。今のところワクチンの有効性は維持できているようだが、耐性を持つ変異ウイルスが現れる恐れもある。また、中国では約2億回のワクチン接種を実施したが、14億人を擁する中国のワクチン接種率はまだ低く、集団免疫を獲得するのは早くても21年末になりそうだ6。そして、北京冬季五輪に向けては世界から人が集まる機会が急増するため、海外から国内に変異ウイルスが流入する恐れも高まる。中国政府は水際対策を強化するだろうが、失敗すれば市中感染に陥る恐れもあり、予断を許さない。
 
2 米中対立に関しては「バイデン政権下で激化する米中対立と日本の果たすべき役割」(研究員の眼、2021-4-9)を参照
3 2016年7月1日に開催された中国共産党95周年祝賀式典では習近平総書記がこれらの問題に言及している。なお、中国共産党新聞によれば中国共産党第1回全国代表大会が開幕したのは1921年7月23日だが、創建記念日は7月1日とされている。
4 中国共産党中央委員会が3月23日に公表した100周年を祝う行事のなかに閲兵式は無かった。
5 北京冬季五輪は、2022年2月4日から2月20日までの17日間、北京市に隣接する河北省張家口市を会場として開催される予定。
6 中国疾病予防制御センターの高福主任は3月31日、「国内の新型コロナウイルスワクチン接種率を来年初めか、できるなら今年末までに70%~80%にして、基本的に集団免疫を実現することを希望している」と語った(澎湃新聞)。
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2021年04月23日「Weekly エコノミスト・レター」)

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